「何を言って…」
「だから、お前は私を、き、嫌っているのだろう」
オビ=ワンまで泣きそうな顔をしている。
(何なんだ? どうしてこうなっちゃったんだろう?)
オビ=ワンの思考は、いつの間にかアナキンの思わぬ方向へ進んでいた
ようだ。
(本気でそう思い込んだんなら、ちょっと許せないなぁ)
「アナキン? だから私は」
「マスター」
オビ=ワンの言葉を遮り、自分よりも低くなった両肩に手を置く。
「どんな勘違いをしたらそのような結論に辿り着くんですか? 僕が
貴方を嫌うだなんて」
涙も拭わず真摯な口調で話すアナキンを、オビ=ワンは戸惑ったように
見上げた。
「では、あのホログラムは何だ?」
「………」
話が最初に戻ってしまった。
「あ、あのような姿の私を見て、不満を解消していたんじゃないのか?」
確かに、色々と解消させてもらってはいたが。
「まさか! 僕は貴方を愛しています、オビ=ワン」
力強く積年の想いを告げると、オビ=ワンはにっこりと笑ってアナキンの
頬に手を添えた。
「私もだよ、マイパダワン」
(ああ、違うんだ、オビ=ワン…)
涙を拭ってくれるその指に感激しながらも、アナキンはオビ=ワンの鈍さ
を痛感した。
(今までも別に、無視してたわけじゃなかったんだね…)
空振りばかりだったラブコールフォースを思い、アナキンは安堵とも空しさ
ともいえる感情を噛み締めた。
「ではあれは何だ? 悪戯にしてはタチが悪すぎる」
にっこりしたまま、頬を包む手に力を込めるオビ=ワンに、アナキンは腹を
括った。というか、逃げられないと悟った。
(うやむやにして、誤解されたままになるのも嫌だしな。予定より早いけど、
ちゃんと伝えとくか)
「マスター、あれは貴方を愛しているからです」
「理由になっていない。何故そうなるんだ」
眉間に皺を寄せるオビ=ワン。
彼にとってアナキンは、クワイ=ガンから託された「子供」であり、
十数年を共に過ごした「友人」であり、何より大切な
「パダワン」である。
そんなアナキンが、愛ゆえに「父」で「友人」で「マスター」である自分の
裸体を見るとはどういうことだ?
(私はクワイ=ガンの裸体を見たいと思ったことなんてないぞ。いや、少しは、
あの逞しい身体に羨望はしたが)
オビ=ワンの思考回路は、どこまでも健全にズレていた。
「マスター、つまり、僕は…」
どう言えば、この、堅物無菌培養のオビ=ワンにわかってもらえるのだろう?
何か、オビ=ワンの心をグッと掴むような口説き文句を…。
しかし悲しいことに、アナキンも所詮、二十歳にもならない若造である。
ジェダイという身分上、そういった経験も豊富で
はない(皆無ではない点に
問題有)。
「つまり、僕は、貴方を抱きたいんです!!」
率直過ぎる言葉に、アナキンは即座に赤面した。
羞恥と緊張に身体が強張る。
(他に言いようはなかったのか、僕〜…)
しかし、さらに混乱しているのはオビ=ワンであった。
オビ=ワンの心は、かつてないほど開放されている。
しかしそれは言葉になっておらず、「?」マークをアナキンに向けて
大放出していた。
(……………ハグ?)
「いえ、マスター、ハグではなく、その、恋人同士の…」
さすがに言葉を続けることができず、黙り込む。
頬を染め、今までにない熱を込めて見つめてくるアナキンに、オビ=ワン
はやっと「理解」した。
と同時に、ズザッとパダワンから飛びのく。
「あ、アナキン! お前は、一体何を考えて…!」
(嘘だ、あり得ない。頼む冗談だと言ってくれ)
栓が抜けたのか、駄々漏れなマスターの心を読み、アナキンはムッと口を
尖らす。
「ありえないだなんて、事実、僕はマスターを好きだと言ってるじゃないですか!
嘘なんかじゃありません!」
「わ―――――!!」
許容範囲外の現実に耐え切れずに、オビ=ワンは叫び声をあげてアナキンの
部屋から逃げ出していった。その際、問題
のホログラムをフォースで破壊して
いくことを忘れなかったのは、さすがジェダイナイトと言えよう。
「ああ! ちょっ、マスター!」
すぐに追いかけたが、オビ=ワンの部屋の扉は厳重にフォースシールドが
張られた後だった。アナキンのフォースならば
無理にこじ開けることも可能
だが、後が怖い。
(僕がシールド張るとすごく怒るくせに!)
だから、細々とフォース網で警戒していたのだ。
自室に篭城したオビ=ワンは、「うー」だとか「むー」などと唸っていたが、
しばらくするとそれも聞こえなくなった。おそらく、
心を落ち着かせるために
瞑想でも始めたのだろう。
(こんな時ぐらい、僕のことだけ考えてよ…)
少しでも自分を感じてもらおうと、オビ=ワンの部屋の前に座り込んで
フォースを伸ばす。
(まぁでも…これは意識されてるってことだよね。僕に嫌われるのが、泣きそう
になるくらい悲しいみたいだし。オビ=ワンっ
たらホント可愛い!)
先ほど、奇怪な生物を見るような眼差しを向けられたことなど気にも留めず、
アナキンはにんまりと笑った。
(恋愛事に免疫なさそうだなぁ。あんなに狼狽したオビ=ワンってはじめて
見た。こ、れ、は、押して押して押しまくるのが
必勝法だね!)
免疫以前に、ジェダイで同性なのだが、恋する青年にそんな些細なことは
通用しない。
(クワイ=ガン、応援しててね! 僕が彼に、人間としての悦びを教えて
あげます!)
アナキンは、今までオビ=ワンの貞操を守ってきたクワイ=ガンに感謝した。
クワイ=ガンがこの場にいたなら、自分のパダ
ワンに不埒な想いを寄せる、
ませたエロガキを滅殺していたであろう。
一方、オビ=ワンは。
ベッドの上にあぐらを組み、必死に落ち着きを求めていた。瞑想に入ろう
としては、アナキンのフォースに心が乱される。
人を値踏みするような、あるいは物欲しそうな視線。
ピンク色をした、生暖かいフォース。
(あれは、私に対して求愛して…いや、よ、欲情していたというのか?)
ヒイィィッと心の中で悲鳴を上げる。
ジェダイの戒律に守られ、クワイ=ガンとの任務に追われて、ついに思春期
を経験することはなかった。免疫がないどころか、
突然自分に性的な問題が
降りかかってきて、オビ=ワンは拒絶反応さえ示していた。
(私はマスターだぞ。男だし、あいつより15も年をくっている。あいつの頭
はおかしい! 狂ってる!)
考えがダークサイドに向いてきたことに気付き、深呼吸をするとオビ=ワン
は自分に言い聞かせた。
(私は、あの子を愛している。あの子も私を愛している。それで十分じゃない
か、オビ=ワン? そう、私が流されないかぎり、
今までと何も変わらない
はずだ)
しかし、オビ=ワンは知ってしまった。
あの視線が、フォースが、自分を求めていることを。
素知らぬ顔をしたら、アナキンは傷つくだろう。それよりも、自分は平常の
態度を貫き通せるのだろうか。
(クワイ=ガン…。あなたの置き土産は、私の理解の範疇を超えています。そ
れとも、私の育て方が間違っていたのでしょうか?
どうか、あの子を正しく
導けるよう、見守っていてください…)
瞳を潤ませ、本気で祈るオビ=ワン。
クワイ=ガンがこの場にいたなら(以下略)。
こうして、2人の新しい試練の日々が始まったのだった。