『謎』
始めはいつもの様に気晴らしだった。
いつもの様に、両手にありとあらゆる食べ物を抱え、事務所に入ってきたヤコを、いつもの様にからかっていたら、いつもの様にヤコが失言をもらした。いつもの事だ。
「ヤコ。我輩は何度も説明するのは面倒くさいのだが?」
そう言いながら、耳の下に両の手を差し入れると、ヤコの身体が強張り、目に怯えの色が混じった。
「や・・・ネウロ・・・手」
声にも震えが混じる。
いつもされている折檻とも取れる過剰なスキンシップが、その大きな原因だとは簡単に推測出来る。
ならば、その期待にさらに応えてやろうと言うのも、飼い主として当然の義務だろう。
だから、いつもの通りの約束事のように、両の手に力を込め、相手の逃れるなどと言う浅ましい思考を奪い去る。
ゴキャッ!!
そのまま首を人間では少しだけありえない、斜め後ろに思いっ切り持って行った。
「うぎゃっ!あ・・・あがっ・・・ネ・・・ネウロ!首!首、ありえないから!!」
首が、ぎゃぁぎゃぁと不満の声を上げる。
「ほう、結構曲がるものだな?ヤコ」
そう言いながらも、ヤコのその声を聞き、口の端がゆっくりと上がるのを感じた。
『どうやら、我輩は今の謎が在る訳でも無い状況を楽しんでいるらしい。・・・・フム。中々興味深い。』
そう、自分の行動と思考を第三者的視点から観察した。
こう言ったモノの思考の組み立て方は、『謎』を食す自分としては常なる行動なのだが、ヤコに言わせると「何を考えているのか分からない」なのだそうだ。分からないから、あらゆる角度から視点を変え思考を廻らしているというのに。
言ってみた所で理解出来るとは到底思えないが・・・。
つっ。
と、目線を下げると、細く、長く、そして白い首が露わになっていた。
ドクン。
心臓が一つ大きく跳ねた。
『どうした?』
自分に問いかける。
『これは謎でも何でも無い。タダのモノではないか?』
別の自分がそれに答える。
『咬み付け!』
『これは食物ではない。』
『だが美味そうだ。』
『咬み付け!』
目は白に。
口はそれに吸い寄せられるように、近づいてゆく。
そしてそのまま、
ガブッ!
その白に牙を立てる。
「かはぁっ!」
白が震え、短い微かな叫びを上げた。
ゾクッ!
その音に全身が粟立つ。
耳の後ろにピリピリと電気がたまる。
嬉しさで全身が震え出す。
『ほう。謎以外でも我輩にこのような感情をもたらせるとは・・・』
「実に興味深い。」
最後の音となったその言葉は、ヤコに届いたかは謎だ。 |
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