クリスタルシティへ初めて立ち寄った時の事、人の多さにうんざりしていたクローディアは比較的人の少ないカフェテラスを見つけて、一人でぼんやりしていた。 目の前を様々な人種の人間が通り過ぎる。肌の黒い者、白い物、目の青い者、緑の者。人が多いのは好きではないが、人を見るのは嫌いではなかった。 それから一刻が過ぎ、人間観察にもそろそろ飽きた頃、グレイがある男を伴ってやって来た。男は布に包まれた大きな武器を背負っており、無骨な鎧とは対照的に表情は穏やかで人の良さそうな印象を受ける。 男は自分の名を名乗り、手を彼女の前に差し出す。彼女は一つ瞬きした後に手を差し出すと、男は彼女の華奢な手を握り返した。男の手は彼女の物よりも、ひと回り以上大きく華奢な手は男の手にすっぽりと隠れてしまった。握手という行為に未だ慣れていないというのと、手から伝わってくる体温に驚き、思わず手を引っ込めてしまった。それを見てグレイが短くため息をつく。男は曖昧な微笑みを浮かべていた。 何て不躾な態度なのだろう、と後悔する反面、彼女は男の大きな体格にもいくらか驚いた。今まで出会った男は皆、どちらかと言うと細身だったので、その所為もあるもかもしれない。 その容姿は森で一緒に過ごした熊のブラウを彷彿をさせた。背はいくらか足りないが、大きな体躯と逞しい腕はブラウのそれを思い出す。 ブラウ、元気にしているかしら。 鍛冶屋へ向かう男の後姿を見送りながらそんな事を思う。そして、男の名前をきちんと聞いていない事を思い出し、後でちゃんと聞き直そう、でも、上手く言えるかしら、と多少、不安にもなった。 貴方、私の知っている熊に似ている、等と言ったら男はどんな表情を見せるだろう。人間に対して興味を抱く事は殆ど無かった彼女は、自分が変わりつつある事に気付く。 変われない性分だと思っていたけれど、案外、簡単に変われるものね。 それが良いのか悪いのかまでは判らない。オウルは今の自分を見て嘆くか、それとも喜ぶか。しかしそれを叶える術はもう無い。 傍らに立っていたグレイの姿は既に無く、彼女は1人、道を行き交う人々を眺めていた。 … |