言えない想い

 その日、中庭は異様な熱気に包まれていた。
 それもそのはず、ここ、縹(はなだ)男子工業高校の春の恒例行事である、新入生最強の男を決める新入生デスマッチが開催されるからだ。
 ルールは簡単、新入生全員でケンカし合い、最後まで残ったやつが学年最強の栄誉を手にする。
「うおぉぉーー!」
 男たちの雄叫びが怒号となって辺りにこだまする中、中庭のあちこちでは、新入生たちのバトルが所狭しと繰り広げられていた。

「口ほどにもないやつばっかだな。もっと強いやつはいねえのかよ?」
 向かってくる野郎どもを次々と地面に沈めながら、俺は悪態をついた。
 面白くない。勝てるか勝てないかギリギリのヤツとやるからこそ、ケンカは面白れーんだ。ここにいるやつらは俺の心の琴線には全く触れようのない、カスばかりだ。
 ほとんどのヤツラを倒し終え、俺が最後の一人かと思ったその時。
「ここにいるぜ」
「あぁ?」
 声に振り向くと、視界の中には一人の男が立っていた。
「お前、松田(まつだ)だっけ? 俺と勝負しろよ」
「ふん……」
 それが、俺と高階(たかしな)の出会いだった。

 高階はあいさつ代わりとばかりに、パンチを叩きこんでくる。
 とっさのことだったので、俺はよけつつも、少し食らってしまった。
「お前、やるじゃねえか。そうこなくっちゃよ!」
 全身の血が沸き立つような、この感覚……面白い。これこそがケンカの醍醐味ってやつだ。
 何度目かの攻撃で俺は連続でパンチを打ち込む。そして、崩れ落ちる高階を掴み、投げ飛ばした。
 俺が一年最強の栄誉を手にした瞬間だった。
 勝利の雄叫びを上げる中、俺の足元には、血と汗と泥でグチャグチャになった高階が転がっていた。
「松田……お前、いいパンチしてるじゃねえか……さすがは一年最強なだけはあるな」
 その表情は吹っ切れたように笑っていた。
「お前こそ、なかなか骨のあるやつだな。気に入ったぜ」
 倒れたままの高階に、俺は手を差し出した。
 高階はその手を取り、起き上がる。

 それから、偶然にもクラスが一緒だった俺たちは、普段からよく顔を合わせるようになった。
 話してみると、高階は学年ナンバー1、2とか関係なく、一緒につるみたいと思えるやつだった。
 それは高階も同じだったようで、俺たちは自然と一緒にいることが多くなった。
 派閥での相棒、気の合うダチ。俺にとっての高階はそういうやつだった。
 そう、ただそれだけのはずだった。

+++

 高校に上がってしばらくした頃、俺は女の部分から出血していることに気づいた。
 ちょうど、高階と出会った後ぐらいの頃だ。
 両性科の医者曰く、俺は初めての生理を迎えたらしい。
 俺は自分の身体がまた女に近づいてしまったのかと複雑な気持ちになった。

 俺の身体は普通の男とは少し違う。
 男だが女でもある、いわゆる『半陰陽』というやつだ。
 俺の場合、見た目は完全に男だが、身体には男女両方の性器が備わっている。
 とは言うものの、女の部分があることは、今まではそれほど不都合もなかったので、俺は見て見ぬふりを決め込んでいた。
 だが、生理を迎えてからというもの、俺の心には変化が訪れていた。
 高階に、相棒やダチ以上の感情を抱いていることに気づいてしまったのだ。
 思えば、それが恋というやつだったのかも知れない。

 自室のベッドで俺は高階のことを考えながら、オナニーに耽っていた。
『好きだぜ、松田』
「高階……」
 妄想の中の高階は、俺を抱きしめ、キスしてくる。
 俺は右手で、硬くなった自分の男の部分を握り、扱く。
 そして左手で、濡れ潤った女の部分の入り口に触れた。
『お前、女なんだろ。女みたいに抱いてやろうか?』
「ちっ、違っ……!」
 高階の大きなモノを挿れられることを想像しながら、俺は女の部分に指を突き挿れ、ピストンする。グチョグチョと濡れた音が響き、溢れ出した汁は尻を伝って、シーツを濡らした。
『チ○ポ入れられるのが好きなんだろ。奥までいっぱい入れてやるよ』
 奥の突当り……子宮口を指で押し上げるように突くと、腹の奥がきゅうっとなって、思わずイキそうになる。
「あぁっ……!」
『松田、お前、今日危険日なんだってな。ザー○ン中出しして孕ませてやろうか? 妊娠しろよ、俺の子ども』
 危険日……妊娠しやすい日だからなのか、俺の女の部分はいつも以上に濡れ溢れて感じやすくなっていた。
 もし、妄想じゃなくて現実で高階に生で中出しされたら、俺はマジで高階の子どもを孕んでしまうかも知れない。
 男なのに女みたいに孕まされるなんて、屈辱的なことのはずなのに、相手が高階なら、それすらも望んでしまう自分がいる。
「あ、いっ、いくっ……高階ぁ……!」
 妄想の中で高階に抱かれながらその名前を呼び、俺は女の部分で絶頂に達していた。

 今までずっと普通の男でありたいと願っていた俺は、自分の女の部分なんて触りたいとも思っていなかった。
 だけど、高階への想いに気づいてから、俺は変わった。

 高階に抱かれたい。女の部分であいつの雄を受け入れたい。
 そんな、普通の男にあるまじき感情が、俺の中で急激に膨らみ、暴れだしていた。
「クソッ……なんで……」
 俺が普通の男だったら、こんな気持ちにもならなかったんだろうか。

「高階、好きだ……」
 呟くように発した声は、静かな空間に溶けて消えていく。
 俺の気持ちと、身体を知っても……あいつは俺の側にいてくれるだろうか。

【END】2014/07/23UP

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