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LAST 2007-03-01 14:51
短編作品を募集してます。遠慮なくどしどし投稿下さい

NO.50  Four×Death −Blue・Act−
月白、浪々・・・・・・。
風、隆々・・・・・・。
事の始まりは真紅。


「・・・・・・ごめん。・・・・・・ごめん」


下弦の月が綺麗な夜。
空に響く乾いた笑いをBGMにしてそんな悲しすぎる言葉をはなむけに、俺は最愛の人に殺された。



† 手の中で「死」が満ちていく †



満月に見入られちゃダメだ・・・・・・、と誰かに言われた気がする。



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



Four × Death   −Blue・Act−



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



彼女、七瀬四音と付き合い始めたのは2カ月前。
良く言う、やけぼっくいに火がついたと言った感じで俺たちは恋に落ちた。
まあ、漫画みたいに苦難、困難はそれほどなく、俺達は付き合うこととなる。
俺達は普通で平凡なカップルで、普通に平凡に幸福だったはず。
たった一つ、不可思議な「約束」を除いては。


「月が満ちきった時、私に会っても追わないでね」


四音に告白した時に言われた言葉。
その時は疑いもしなかった。



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



×―F―O―U―R―×―D―E―A―T―H―×



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―‡―‡―‡―



話は変わるが、最近怪奇殺人事件が多発している。
最近というより、昔からあったが明らかにされてなかったと言うのが本当の話らしい。
その死因は殺された被害者すべてに共通していた。
凶器による心臓破壊、そしてその被害者の肢体を解体。
残酷なるバラバラ殺人事件ってヤツだ。
それが自分が住んでいる県下で……起きている。
犯人像も未だ浮かんでこない状態が続いていて、人数さえ特定されていないらしい。
これほど多くの被害者が出ているという事と解体作業の必要から、組織による犯行とも考えられている。
が、まあ真相は闇の中だ。
指紋も凶器も証拠は何一つなく、手掛かりがまったく無いということもある。
そして被害者達の繋がりはまったくないと言ってよく、よく言われる無差別殺人事件だ。
ただ一つの共通点といえば・・・・・・。



犯行が必ず満月の夜であること。



いくら殺人事件と言ったって、自分は関係ないなんて思っていた。
同じ県下と言っても、気にすることないなんて思ってた。



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―




満月に・・・・・・
は・・・・・・
「見」・・・・・・
追・・・・・・
「入」・・・・・・
わ・・・・・・
「っ」・・・・・・
な・・・・・・
「ち」・・・・・・
い・・・・・・
「ゃ」・・・・・・
で・・・・・・
「ダ」・・・・・・
ね・・・・・・
「メ」・・・・・・



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―




あの月の綺麗な夜になるまでは。



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



×―F―O―U―R―×―D―E―A―T―H―×



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



空は暗く、星は輝く。
そして漆黒のキャンバスに花を添える白き半円。
白くはかなく淡く光る、下弦の月が夜空を彩る。
そんな、美しい弓月の夜。



気晴らしに散歩に出た俺は・・・・・・、殺人犯に出会った。



出会ったというよりは、俺が発見したと言った方が正しい。
月光に照らされた頭部が白く映える。
後ろ姿で性別は分かりにくいが、姿形から女性だろうか。
肩で切り揃えられた髪。
長く伸びた足。
華奢な体つき。
そして、見た感じ同年代。

しかし、それだけでは殺人犯とは言えない。
そんなことはもちろん分かっていて、なぜすぐに俺が殺人犯と分かったのか・・・・・・。
それは彼女を異常に見せていた二つのモノのせいだった。
右手には月光を弾く尖った鋼。
そして、左手には・・・・・・。



ダラリとのけぞる「何か」を掴んでいた。



驚愕に目を見開き、ゴクリと息を飲む。
まず、その「何か」がヒトであるのに気づくのに時間がかかった。
あまりにも不自然すぎるその体勢と、身動き一つしない体がまるで人形のようだ。
そして、その掴まれた誰かからは絶えず深紅の液体が流れ続けている。
その光景があまりにも信じられなくて、それが血であることに気づくのにまた数秒の時間を要した。
そりゃそうだろう。
ついさっきまで、血や殺人やらとはまったく無縁の日常だったのだ。
すぐに流血を見て、それを、あぁなるほどと納得できるほど俺は異常事態には慣れていない。
持つのに疲れたのか、それともほかの理由か、殺害者が一息吐き出して左手を離す。
濁音が弾け、地面に叩きつけられる誰か。


異常・・・・・・だ。


全感覚がそう告げていて、俺もそれには納得だ。
そして、本能のまま音を立てないように後ずさろうとして・・・・・・、俺は声を聞いた。



「貴方が・・・・・・、私を縛る足枷か・・・・・・」



その声は凛としていて、夜の霞のようなけだるさはふっとんだ。
しかし、それととも
by 瓜畑 明 2006.08.28 17:49

NO.49  Four×Death −White・Act−
† 死を受け入れた私に、神はこれ以上何をお望みなのですか・・・・・・ †



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―‡―‡―‡―



かつて「アルヴァーン(誇りの地)」そう呼ばれた聖域があると言われた。

多くの時を経て希望を捨てた者達は、楽園と呼ばれたその地を目指した。
その地を目指したが為、多くの者が血を流した。
その地を目指したが為、多くの者が涙を流した。

そんな場所が。
そんな場所が、本当に楽園などと呼べるのだろうか・・・・・・。



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



「あ、カモメ」
日が西にゆっくりと下っていき、カモメが夕方の漁から帰って来る頃。
シャティーナ・アルドランスは石造りの波止場に寝転んで空を指さした。
指が指した先には連れ添って空を漂う二匹のカモメ。
「・・・・・・ふあ」
少し遅れて、アエナ・ウェラギスがポヘッとため込んだ空気を吐き出す。
その返事があまりにも気が抜けていて、シャティーナは笑えてしまう。


――時が止まって欲しいと望んでしまうほど美しい夕日が薄暗い空をオレンジに染めていた。


「・・・・・・アエナ」
「ん?」
呼び声に答えてアエナがこちらへ向くのが衣擦れの音で分かる。
「信じられないくらい、穏やかだよね・・・・・・」
そんな事は分かりきっているのに、何故かそんな言葉が口から出てしまっていた。


――生暖かい潮風の匂いが鼻をこそばゆくさせる。


返事をもらおうと顔を横に倒す。
アエナはこちらの目を見ると「そうね」と言って、優しい笑顔で頷いた。
その笑顔にまた一ついい事あったなんて思う。


――波の音が何度も引いては折り返し、絶え間のないエコーをかける。


手を空に突き出して、何かを掴もうと指を動かしてみる。
それ自体意味はまったく無い行為なんだけど、何となくやってしまうこの感じ。
なんと言うか、肩の力が抜けてしまうような雰囲気。
そんな魅力がこの街にはあるのだと、この石造りの波止場に寝転ぶたびにシャティーナはいつも思うのだ。



―‡―‡―‡―
―‡―‡―‡―



「シャティー、そろそろ行こっか」
夕日が海に沈み空が星と暗闇に包まれ始めた頃、私達は体を起こした。
「うん」
頷いて、先に立ち上がったアエナに続く。


――石畳を歩く音はカスタネットのように軽快な音をだして街へ音を手向ける。


「アエナ」
「ん?」
先へと歩く同輩を呼びかける。
「この街は魔法がかかってるみたいだよね」
自分でも馬鹿げた事を言ったなあと思うけど、その心は本心だった。
アエナは立ち止まると、息を吐いて肩の力を抜いた。
そして、私が追いつくのを待つと。
「シャティー、ロマンティック感じすぎ」
そう言ってこちらを見て、また暖かく微笑んでくれた。

変えるべき家(修道院)へはそう時間はかからないだろう。
家がある丘を登るときに、背を向ける。


――昼を彩った太陽の代わりに、月が徐々に天へと昇っていく。


「シャティー、また夜景?」
そうだ、と小さく首を縦に振る。
そう、家の方向に背を向ければアレイダラムの街が一望できる。
赤や黄、橙とさまざまな大小の灯りがアレイダラムの街を彩っていた。
「宝石みたい」
「うん」
キラキラと煌く街の灯りと、草葉の陰から静かに音を出す虫達。
「シャティー、お祈りの時間だよ」
そう言ってせかす友の声が少し辛い。
少しでいいからここに寝そべりたいと思うのだが。
「しかたないっ!」
そう言って景色に背を向け、家へと走り出す。


海洋都市アレイダラムの街は今日も穏やかだった。
by 瓜畑 明 2006.08.28 17:33

NO.48  回廊の霊(第二回三題話「巨大な絵」「格闘モノ」「透明人間」)
「へえ、これがこの館の主か」
 義文はそう言って懐中電灯を向けた。光は巨大な絵の半分より上、ちょうど顔の部分を射している。やや痩せた精悍な顔つき、硬く伸びた顎鬚、光の輪にわずか映る衣服はタキシードと大時代的なものだった。
「こいつがこの中を彷徨ってるって? なんだかあんまり怖くないな」
 彼が言っているのは霊が出るという事実よりも、主自身の風貌の事を指しているのだろう。しかしよく考えれば生前から死後のいでたちについてまで考える者は居らず、批評は的を外れているとしか思えない。だが私はそれを指摘することなく、自分の懐中電灯を天井へと向けた。豪華な照明が、灯ることなくその輝きだけを湛えている。
「せめて照明がつけばいいのだがな」
「無理言うなよ、もう数十年も廃墟になっているって言うぜ。ほら」
 義文が差し向けた先には、心無い落書きが残されていた。
『瀬田清二参上』または『早く帰れ、ここは本物だ』のように恐怖心を煽る物、果ては『隆志・優子』と書かれた相合傘まである。彼らは一体何を考えてこの場所へと赴いたのだろう。私が落書きに目を奪われ、心を痛めている間に義文は先へと進んでいた。
「なあ、それにしても、この屋敷って変だよな」
 階段を下りながらあちこちを見回す。
「どこが変なのだ」
「見ろよ」
 手摺から離した手の平を見せる。
「何十年も廃墟になっているというのに、埃が少ない」
 彼の手は薄い砂埃にまみれてはいた。
「普通はもっと真っ白になるものだろう」
 言われてみると、汚れ方が軽いようにも見える。私はそれに反論を試みた。
「それは、人の出入りが激しいからじゃないのか」
「どういう意味だ?」
「霊場としては有名だということだよ」
 なるほど、と義文が肯く。人のいない屋敷ならば本当に廃墟となるだろうが、人がいる屋敷なのだ。
「その割には、盗掘にあってないよな」
 彼は階段下の脇に安置されているアンティークの鎧に手をかけた。
「まるで誰かが守っているような……」
 そう言った瞬間、義文の体が微かに震えた。それを振り払うように、彼は格闘モノよろしく鎧に飛び蹴りする。
「おいっ」
 私は思わず叫んでいた。
 だが、その声は間に合わず、鎧は屋敷中に金属音を響かせ、倒れる。
 しばらく、二人とも動けなかった。事に義文は明らかに動揺して、幾度と無く周囲を見回している。
 二度、三度、四度……何も起こらない。
 ようやく落ち着いた彼は額に汗をかきながら笑ってみせる。
「はは、何か起こるんじゃないかと思ったんだけどな」
 それは彼の精一杯の強がりだった。おそらく、こんなに大きな音が鳴るとは思わなかったのではないだろうか。
「あんまり勝手なことをしてくれては困るな」
「そう言うなよ。悪かったよ」
 義文が私の肩を叩く。仕方なく私も笑ってみせた。さて、どうしたものか。この鎧を元に戻すか、そのままにしておくか。結局、私はそのままにしておいた。下手な行動は慎むべきだ。それに、考えている間に義文がまた動こうとしていた。
「どこに行くんだ?」
 声をかけると、彼は振り向きもせずにこう言った。
「帰るのさ。ここには何もなさそうだ」
 一度そうと決めた彼の行動は早かった。
引きとめようとした私の声が届かないところへとすでに進んでしまっている。
玄関の扉が開く。
外界の音が漏れ聞こえる。
私は義文の後を追うべく、駆けていった。





そして二人は帰っていった。
 まじまじと自分の体を見る。まるで透明人間だ。
 扉を閉め、絨毯の乱れを直しながら鎧に近づく。
 一人ではやや難しい作業だった。重くて持ち上がらない。
 私は顎鬚を撫でつけながら考える。また次の機会にしようか。
 何しろ、ここでは乗り移る相手に事欠かないのだから。
by 木村 勇雄 2006.07.30 12:46

NO.47  ファントム・ペインY〜二人だけのデュエルゲーム〜(第二回三題話)
 振り下ろされる巨大な刃を横へ跳んでかわし、着地と同時に槍をリューナへ突き込んだ。女剣士は半身にして避けると大剣を跳ね上げて槍を弾く。空へ持っていかれそうになる勢いのままに後方へ跳ぶと俺は槍を構え直した。同時にリューナも体勢を整え、己の得物を正眼へと構えた。
 3rdD.E.G.“中空画廊”。額縁に入った巨大な絵がいくつも宙に浮かぶ草原のフィールドだ。
 俺達は今、決闘をしている。もっとも、感覚的には格闘もののゲームと同じノリだがな。
 “ファントム・ペイン”はプレイヤー同士で戦う事が出来ない。だが、決闘コマンドという例外がある。
 アドレスを交換した者が合意の元にこいつを実行すると、自分と相手以外を攻撃出来なくなる上に第三者からの呪文支援等の外的干渉を受けなくなる。完全な一対一の戦闘状態になり、勝利条件は相手の体力を一にすること。過度なダメージを受けても最低一は体力が残るから通常戦闘時の死亡にもならないし課されるペナルティも無い。レベルに応じた経験値も入ってくるので親切なシステムでもある。
 俺はモンスターを倒すのが好きなのであまり行使しないが、挑まれれば応じるくらいの男気はあるので基本的には誰の挑戦でも受けて立つ。
 このリューナとは週一くらいで決闘をしていたのだが……ここ二週間はずっと決闘漬けだ。彼女から決闘メールが届く度に辟易してしまうが、きっちり付き合ってる俺は相当に人が良いんだろうな。
 お互いが対峙したのはほんの数秒だ。
 不意にリューナの姿が消えた。《透過》の呪文だ。俺は咄嗟に耳をすます。こいつの効果は姿のみ。透明人間にだって足音くらいはあるからな。
 ざっ、と右後方で音がする。コンパクトな円を描きながら槍を横へと薙いだ。
 手応えは無い。なら今の足音は――
「舞雷爪撃!」
 声は空から降ってきた。やはりジャンプしていたか!
空中で大きく剣を振り上げる女剣士に槍を向け、俺は叫びを叩きつけた。
「ギルティ・サンダー!」
 リューナが雷撃を、俺が蒼い稲妻を放ったのはほとんど同時だった。


 正座して足が痺れて立てなくなったり、触られると剣山で刺されたような痛みが走るだろう? 今の俺がそれだ。但し部位は全身で程度は五倍くらいだが。
 勝負はドロー。放った攻撃はお互いを貫き、体力は共に一。それに加え特殊効果の麻痺状態。
 針のむしろに包まれる? 熱い風呂をじっと耐えるが正確か? と痺れを紛らわす事を考えていた時間がようやく終った。
 ステータス異常が消えたのを確認するや決闘コマンドを解除。引いていく痺れを感じながらアイテムでステータスを最大値に戻した。
「……引き分けね」
 俺より早く復帰したリューナは草むらにあぐらをかき、どこかバツの悪そうな顔をして呟いた。
「初めて引き分けたな。二〇三戦一〇一勝一〇一敗一分か」
 リューナの横に立つ。と、メールの着信音が響いた。……ユリからだ。
「メール? 例のユリって子から?」
 俺の動きが止まったことで察したのだろう。リューナは片眉を上げるような表情をし、
「カワイイ彼女だわよね。二人でソフトクリームを舐めるくらい仲も良いようだし」
 な!? なんでその事を知ってるんだ……? お前はいつからテレパスのエスパーになったんだ。
 驚愕する俺にタネの知れた手品を見るような顔を向け、
「二週間前に検査を受けたでしょ。病院にママの忘れ物を届けに行ったの。そしたらどう? 中庭に鼻の下を伸ばした誰かさんがいるじゃない」
 みっともないったらありゃしない、と付け加えるとリューナはそっぽを向いた。ママとは須摩子さんの事で俺とリューナは従妹になるのだがまあそれはいい。
 それにしても何だ? 憮然として不機嫌そうな表情はいつものことだが……何をこいつは怒ってるんだ……?
「早く行きなさいよ。女の子を待たせるなんて最低な男のすることなんだから!」
 急き立てるリューナに困惑を覚えつつゲートオーブを発動させる。転送される間際に見た従妹の顔はやっぱり不機嫌そうだったが……俺にはなぜか泣いているような気がしてならなかった。


 月曜はただでさえ憂鬱なのに、昨日のリューナの顔がちらついてその度合いは三割増だ。
 様子が気になったのであの後携帯にメールしてみたが返信はない。もう一回くらい送ろうかと思案していると担任の三岩先生が教室に入ってきた。委員長の号令を手で制し、女性教諭はニンマリした笑顔でクラスを見渡した。
「喜べよ男子ぃー! カワイイ女子の転校生だぞぉ!」
 おぉー!? と生徒の半数がざわついた。転校生? 一週間もしたら夏休みだと言うのに?
「……はぁ!?」
 入ってきた女生徒を見る否や思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。……何だこの展開は……?
 転校生は名前を黒板に書くとくるりと振り向き、
「遠藤流菜です。これからよろしくお願いします」
 従妹の少女は大輪のひまわりのような笑顔で自己紹介した。
by 日原武仁 2006.07.25 00:28

NO.46  ファントム・ペインX 〜二人だけのソフトクリーム〜(第三回企画テーマ小説)
「はい。お疲れ様。これで今回の定期検診は終了よ」
 須摩子さんは聴診器を耳から外し、くるりと椅子を回転させると俺に背中を向けた。
「いつもの通り悪化もしていなければ回復している兆しも無し。現状維持ね」
 デスクに向かい、カルテに書き込みながらさばさばと言う。曲りなりにも俺は病気で患者な訳だから、もう少し気を遣った言い方をしても罰は当たらないんじゃないか? とか思いながらパジャマの上着を直している俺だけれど、今さら言っても仕方ないので結局口に出さないのもいつものことだった。
 俺達“ファントム”は月に一回検査を受けることが義務付けられている。前日の夕方から病院に泊り込み、丸一日かけて検査を行う様はちょっとした人間ドッグだ。しかも検査の間はほとんど絶食状態なので育ち盛りの俺としては結構辛い。栄養価は満点だが、味気ない水みたいな流動食だけじゃ食べた気にもならないしな。
 で、その検診を一手に担っているのが目の前にいる白衣の女性――遠藤須摩子さんだ。俺の叔母さん――親父の妹だ――であり、俺の主治医であり、俺の病気の世界的権威でもある。普段は学会だか研究発表だかで世界を飛び回っている須摩子さんだが、検診の時だけは戻ってきて俺や他の“ファントム”の調子を診てくれる。心無い人達は自分の手でデータを収集をしたいからだ、とか言ってるみたいだけど、そんなことはないということを俺は知っている。本人も気にしてないからそれで十分だ。
 須摩子さんは一通りカルテを書き終えたのか、椅子から立つと奥の流し台に行き、お盆に二人分の湯飲みを載せて戻ってきた。
 俺にひとつを手渡し、俺と向き合うように椅子に座るとお茶を一口飲み、何気なく口を開いた。
「そう言えば、修ちゃん。最近好きな子でも出来た?」
 湯飲みに口を付けていた俺は思わず吹き出してしまう。その上気管にお茶が入ったらしく派手に咳き込んでしまった。この状態でお茶を床にこぼさなかったのは奇跡だろうさ。
「ご、ごほ……。ううん……。な、何さ。急に……」
 平静を取り繕うとするが、吹き出した後のそんな演技が通用するわけも無く、どこかしら目元をにやけさせながら須摩子さんは言葉を継いだ。
「いえね。修ちゃんのキャラデータやログを見たんだけど、ここ一月半くらい特定の人達と潜ってるでしょ? 今までずっとソロでやってたのに変だなぁー、と思って」
 それでカマをかけてみたということか。で、分かり易いほど簡単に俺は引っ掛かったと言う訳だ……
「………………」
 俺は何も言わず、そしてどんな顔をしていいのかも分からず、ただお茶をすすってやり過ごすしか思い浮かばなかった。
「イベントや人数のいるクエストの時くらいでしょ? 組んでたのって? しかもその後はその人達と連絡を取らないのが常だったもの。いい傾向よ。今の修ちゃんは」
 目を細め、須摩子さんは優しい笑顔を向けてくる。と、ふとその愁眉を曇らせ、
「でも、修ちゃん。男同士の恋愛はおばさん、どうかと思うわよ?」
 本日二度目の霧吹きだ。お茶を飲む度に爆弾発言するってことは絶対狙って楽しんでるよ! その証拠にほら、目元が面白そうに弓形になってるし。
 再び咳き込み、赤い顔で涙を浮かべる俺を見て須摩子さんは上品に笑った。
「ほほほほほ。良かったわ。修ちゃんがノーマルで。下手したらうちの直系が途絶えちゃうところだものね」
 かなり飛躍した話をしながら須摩子さんは椅子を立ち、奥の冷蔵庫から箱を取り出すと俺の顔の前に持ってきた。
「ソフトクリームよ。帰ってからゆかりちゃんと食べなさいな」


 須摩子さんの診察室を辞し、泊まっていた病室に戻ると下着と洗面用具と暇つぶしの携帯ゲーム機を一緒くたにカバンに放り込んで荷物をまとめる。ナースセンターで世話になった看護師さん達に挨拶を済ませてエレベーターでロビーに降りる。その時、検査終了の手続きをしようと受付に向かう俺の目がある一点で固定された。
 それは砂漠に突如として現れた緑豊かなオアシス。
 それは焼け野原にひっそりと咲く小さな白い花。
 それは闇夜を切り裂くような鋭くも柔らかい星の瞬き。
 こんな病院のロビーには全然似つかわしくないのに、文庫本に目を落とす姿の何もかもが一枚の絵のように素晴らしい。
 待合室の椅子に大沢さんが座っていた。白いワンピースと上から羽織った薄紫のカーデガンが本当によく似合っている。
 俺は何気なさを装って大沢さんに近付き、努めて気軽さを演じながら声をかけた。
「こんにちは。大沢さん」
 子ウサギのような動作で大沢さんは首をこちらに向けると花のように微笑んだ。
「こんにちは。今日は修司君も検査だったの?」
「そうだよ。今ようやく終ってこれから帰るところ。大沢さんももう終ったんだろ? 誰か待ってるとか?」
 言いながら大沢さんの隣りに腰を下ろす。ロビーの――特に若い男の視線が注がれるのが分かるね。羨望と嫉妬、てやつかな? うん。なかなかに気持ちがいい。
「うん、そう。桂さんを待ってるの」
「桂さん?」
 出てきた名前に眉をひそめる。はて、聞いた事の無い名前だな。
「ああ、桂さん、ていうのは……んー、何て言ったらいいのかな? 私の世話係と言うか守ってくれる人と言うか……」
 形の良い眉をハの字にしながら大沢さんは言葉を紡ぐ。
 いやはや。流石と言うか何と言うか。大沢さんくらいのお嬢様となるとお付きの人みたいな人がいるらしい。正直、そういうことを仕事にしてる人を見てみたい気もするが……やっぱりあれかな? 執事を絵に描いたような筋肉質の初老の男性なんだろうか……?
 その辺りのことを聞こうか聞くまいか考えていると、大沢さんは左腕にはめた時計を見た。
「でも良かった。修司君が来てくれて。迎えに来てくれるまであと四十分もあるんだもの。持ってきた文庫本も読み終わっちゃたところだったし。本当、良かった」
 そう言って大沢さんはどこか照れたように笑った。
「そう? なら……これからちょっといいかな?」
 埃をかぶっていた勇気を叩き起こし、俺は中庭へと視線を向けた。


「あ、鈴宮洋菓子店のソフトクリームだ……」
 夕方とはいえ、まだまだ明るい中庭のベンチに俺たちは並んで腰を降ろした。
「有名な店のなんだ」
 やたらに詰め込まれた氷冷剤の中からソフトクリームを取り出し、ひとつを大沢さんに手渡す。
「うん。知る人ぞ知る名店。しかもこのお店のソフトクリームは数量限定でなかなか食べられないの」
 瞳を大きくさせ、頬をわずかばかり上気させて興奮気味の大沢さん。どうやらかなりレアなものらしい。須摩子さんからはゆかりと食べろと言われていたが……許せ、妹よ。
 でもあれだな。こういう姿を見ると大沢さんもユリと同じようにレアアイテムに弱いのかもしれない。……まあ、考えてみればそうなのだろうけれど。
 大沢さんが「いただきます」と律儀に小さく言ってから食べ始めるのを見、俺もソフトクリームに口をつける。
 美味い。
 味なんてものは分からないし頓着しない俺だけど……本当のソフトクリームはきっとこんな味なのだろう。
 俺たちは無言でソフトクリームを舐める。本体を食し、コーンに噛り付こうか思案していると、不意に大沢さんが口を開いた。
「“ファントム・ペイン”は楽しいね」
 独り言のような口調のまま、大沢さんは前を向いたまま言葉を続ける。
「シュージ君もいるし、コーヘイ君やカナデちゃんにマイちゃんにヤマト君や数え切れないみんな。部活も楽しいよね。部長はいい人だし、木月先輩や優希先輩に優美先輩、神杉先輩も優しいし……」
 大沢さんはため息のように大きく息を吐いた。
「きっとこの世界にはもっともっと楽しいことがたくさんあるんだよね。それを全部楽しめたらいいのになぁ……」
 声にはどこか不安めいた響きが混ざっていた。
 俺たちは治療法も延命法も原因すら分からない未知の病気に侵されている。症状にこそ慣れてはいるが、現状を忘れている訳じゃない。今日の検診だってあてになるのかどうか分かったもんじゃないんだしな。
 だからって悲観的になるつもりもさらさらない。最後の一枚の葉を自分で描いてやろうくらいの気構えはあるつもりだ。
「楽しめばいいさ」
 隣りで大沢さんがはっと息を飲んで俺を見るのが気配で分かる。
 俺は視線はそのままで気軽な口調で言葉を続けた。
「違うな。楽しまないといけない。現実感が乏しい俺たちだからこそ楽しまないといけない。幻と現実が織り交ざり、逆転してさえいるのが“ファントム”の認識だろ? 洒落て言えば幻の現実――『幻実』とで言うのが俺たちの世界さ。一般人とは似て非なる世界にいるんだぜ? 楽しまないと損だと思うね」
 心の底からそう思う。どんな状況であれ、俺は生きていくと決めている。なら良い方に考え、楽しくしたいと思ったほうがいいだろう?
「………………」
 大沢さんは無言だった。本心とは言え、ちょっとカッコつけ過ぎたかな……? とか思いながら横目で彼女を見る。
 ……驚いたね。なんと、大沢さんは――泣いていた。
「え、え……? あれ……?」
 目を見開く俺の表情で気付いたのだろう。困惑するような声をあげながら白い指先で目元を拭う。けれど涙は溢れるばかりだ。
「あれ、変だな……。あれ…………」
 瞳からこぼれる真珠のような雫は止まらない。突然の出来事に俺は思考停止してしまい、情けないことに何をしてどうすればいいのか判らなかった。
 と、音も無く大沢さんの前に真っ白なハンカチが差し出された。その先に目を向けると、赤いスーツに身を包んだ美人な女性がいた。
「あ、桂さん」
 受け取ったハンカチで目元を押さえる大沢さんの声音は迷子が母親を見つけたような、そんな安堵を含んだものだった。
「お嬢様。お迎えに上がりました」
 スーツの女性は丁寧に頭を下げた。この綺麗な人が桂さんか。有能な秘書を絵に描いたような女性だ。
「それじゃ、また学校でね」
 大沢さんは涙の止まらない笑顔を俺に向け、桂さんと一緒に歩いて行った。
「……楽しい思い出を作ろうぜ。大沢さん」
 いつか目の前で言えたら良いなと柄にも無く考えながら、彼女の背中が門の向こうに消えると俺はぽつりと呟いた。
by 日原武仁 2006.07.23 23:45

NO.45  僕は透明人間である(第二回三題話『透明人間』『格闘もの』『巨大な絵』)
 僕は透明人間である。
 そして当然付けてくれる人もいないので、名前はない。
 ……これは別に旧千円札の中に入っていた某文豪の著作の冒頭をパクっているわけではない。これは紛れもない事実なのだ。

 普通の人間の中には、僕みたいな透明人間になりたいという人もいるだろう。
 もちろん着替えだって覗けるし、ぶつからないように気をつければ混浴だってできる。
 でも、僕は決して人に触れはしない。触ってみても、見当違いの方向に顔を向けられ、気味の悪そうな顔をされるだけだった。
 僕はいつも一人だった。

 よく、格闘もののアニメやマンガの中に透明人間が出て来て、そいつらはとても強かったり、ホントは優しくて仲間になったり、とにかく透明人間が出てくることがあるだろう。
 でも、実際にそんなことが起こることはなく、僕は人を殴ったことも殴られたこともなかった。さらに僕は、話したことすら一度もないのである。

 僕にとってこの現実の世界は、言ってみれば巨大な絵みたいなものだった。もちろん触ることもできるし感触もあるのだが、一人ぼっちの僕にとっては、この世界は絵の中の世界みたいなものだった。

 そして僕にとっての現実の世界とは、インターネットの世界だった。
 僕は毎日のように留守中の家に侵入し、インターネットの世界へ入っていった。その中ではいつも僕の言葉に反応をしてくれて、僕はこの瞬間に、いつも生を実感することができた。

 さて、僕は最近小説を書くことに凝っていて、インターネットの中のとある小説サークルに所属している。
 そして今日は三題話のお題決めの日で、0時から早い者勝ちで書き込むのである。
 僕は何分も前から書き込む準備をして、そして何とか一番に書き込むことができた。
 書き込んだお題は、自分のことである『透明人間』。
 みんながどんな話を書いてくれるのか、今から楽しみでしょうがない。
by 2006.07.30 17:41
RE:僕は透明人間である(第二回三題話『透明人間』『格闘もの』『巨大な絵』)
感想なんですが。
まず、直さんが書かれていたように短いと思います。
なので、イマイチ何を伝えようとしているのか分からないなーと。

あと、物語というより独白みたいな感じで何とも言えません。

by 瓜畑 明 2006.07.16 00:41 [1]
RE:僕は透明人間である(第二回三題話『透明人間』『格闘もの』『巨大な絵』)
 拝読しました。こんにちは。日原武仁です。
 面白い視点な話です。また実際にありそうでいい感じです。
 んー、やはり短すぎますね。調べてみたら約800字でした。これだけなので「だから何?」みたいな印象が正直、ありました。
 もったいないと思います。
by 日原武仁 2006.07.28 13:39 [2]
RE:僕は透明人間である(第二回三題話『透明人間』『格闘もの』『巨大な絵』)
ども、西向くです。
読みました!

やはり最後の「インターネットが……」あたりからが短すぎる気がします。
ここからが本番!だと思ったのに、なんだか肩すかしをくらった気分です(^^;
by 西向く侍 2006.07.30 17:41 [3]

NO.44  【長】柔らかな木漏れ日の下で <第三回企画テーマ>兼<「禁断恋愛」番外編(恋愛奮闘編)>
「どうにかなんないのかねー」
ある晴れた日の午後。
リューナ・マルクトスは紅茶を片手に、大きなため息を一つついていた。
別に黄昏ていたワケではなく、疲れていたワケでもない。
彼女は友人の事で考えこんでいたのだ。
「やっぱり…」
一拍ほどの思案の静寂。
「やるしかないよねー」
結局、どう考えてもリューナの頭には答えが一つしか思い浮かばなかった。


☆――柔らかな木漏れ日の下で――☆ 


「フェリス、あんたってホントやる気あるの?」
授業と授業の合間の小休止。
フェリス・ソプシーは突然、リューナに声をかけられた。
「何?やる気?」
その真意が分からず、オウム返しに聞きかえす。
「ホント、なんでなのかなー?」
返事を聞いたのか聞いていないのか。
勝手に一人で話を進めていってしまう友人をいつもの事だと傍観しつつ、次の授業の用意をとカバンを探る。
「って!フェリス、聞いてる?」
リューナが我に戻ったらしい。
「まって、まって。今、取り込み中」
手を動かしガサガサと教科書を探す。
しばらくして、手を顎に添え考え込む。
おかしい。
今朝入れたはずの神学の教科書がないのだ。
「あれー?おっかしいなー」
そう呟いて、再び探そうとする。
「って、そんな場合じゃないでしょ!」
しかし、リューナはそれを許してはくれなかった。
バシンと音をさせてリューナが背中に平手打ちを食らわせる。
その衝撃にビクリと背をのけぞらせる。
「リューナ!痛い!」
体を起こし、振り返って抗議。
しかし、それも空しく。
「フェリス!私がこんなにあんたのことを心配してやってるのにー!」
そんなヒステリックな発言に打ち消されてしまった。
「リューナ、とにかく…」
落ち着いてと言おうとして、それすら許されなかった。
「今日の放課後。ここに残ってること!」
リューナは断固として宣言したとともに、ちょうど授業の始まりを告げる鐘がなった。

   ―†―†―†―

「で、ここに残ってもらったワケなんだけど」
時間は全ての授業が終わり、皆が寮へと引き返す放課後。
皆が寮へと帰った後でほとんど誰もいない教室で、フェリスは坐っていた。
何故か、友人であるラズノ・ホルクリンも一緒に。
「ここに残ってもらったワケは、あんたらに痺れをきらしたからです!」
リューナが二人を無視して話をしていく。
「アンタ達はね、トロイのよ!」
バシンとリューナが机を叩く。
「何が?」
困惑気味にこちらを見るラズノ。
それに力なく笑いかえす。
意味不明なはずだ。
そりゃそうだろう。
自分でさえもリューナの意図がまるで理解不能なのだ。
「そこ!」
ビシッ!と音がつきそうな勢いでリューナがラズノを指す。
「な、何?」
「うるさい」
「す、すいません」
ぺこぺこと謝るラズノ。
気を取り直し、リューナが椅子に片足をかける。
「もう、決めました。私が後押しします!」
「で、だから…」
今度は私がリューナに問いかける。
さっきから、話があやふやすぎて良く分からないのだ。
で、聞いたわけだが。
リューナの回答は、ニコリと意味深な笑いをするだけだった。
「で…」
ラズノと顔を見合わせ…、リューナに視線を戻す。
「結局…」
「とにかく言うことを聞けってことなんだろ」
ラズノが後を続ける形で私の言おうとしていた事を紡ぐ。
「そういうことー」
リューナは満足そうにうなずくと、椅子に乗せた片足を下した。
「で…、結局何がしたいワケ?」
坐り直したリューナ。
そこで再び、ラズノを指す。
「明日、放課後。世界樹の前に集合。はい、解散」
「へ?」
「だから、ラズノは明日の放課後に世界樹の前に集合ってこと。分かった?分かれば解散!」
リューナが立ち上がり、ラズノを追い立てる。
「ちょ、ちょっと!?待てって」
ラズノの抗議は空しくリューナの「ここからは女同士の話なのよ!」という発言により、彼は教室を追い出されてしまった。

「で、私だけ残らせた理由は?」
ラズノが帰り二人しかいない教室で、リューナはフェリスと向き合っていた。
「アンタに大事なこと言うからよ」
フェリスの問いかけに応え、一枚の封筒を机の上におく。
「何、これ?」
フェリスが疑問符を増やしつつ、封筒を手に取る。
表紙には『デート計画』の文字が。
「ん?」
まだ、分からんのかなと頭を抱える。
「リューナ、意味分からないんだけど…?」
マジで困ってますって顔でフェリスがこちらを見る。
その声と表情から、おそらくフェリスの理解度0のようだと判断。
ホントに、恋愛を知らないヤツなんだからと自分を棚に上げて。
「フェリス。アンタはね、押しが弱い!それと、タイミングが悪い!」
ズバ、ビシっとフェリスを指す。
「お、押し?」
「あのね。明日、ラズノとデートだから」
指をそのままに、決定事項を告げる。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?意味が…」
案の定、フェリスは拒否しようと躍起のようだが、こんな事は日常茶飯事も同然だ。
「な、なんで急にデートなの…」
「うるさい、うるさい、うるさい!フェリスはアタシの言うこと聞いてりゃ良いのよ」
相手に最後まで言わせず、すばやく真っ向からの否定。
こうして、相手の切っ先を折る。
それに、このリューナ様に任せれば…。
と言おうとして、フェリスが何か呟いた。
「リューナに任して良いことなんか無いじゃんかー…」
その呟きに、ピクリと体が反応する。
予想外の状況により、直ちに作戦変更。
次に行動を移そうとしていた「理詰めによる屈服」をあきらめる。
そして。
「フ・ェ・リ・ス」
にっこりと微笑み、見つめ、睨んでやる。
10秒後、それが効いたのだろうか。
いや、効いたらしい。
「わ、わ、分かってるから。あ、明日でしょ、放課後だよね」
フェリスは冷や汗を数的たらして、バタバタと慌てふためいて教室を出ていってしまった。
時々、激しく壁にぶつかるような音が聞こえてきた。

   ―†―†―†―

「で…、来たわけなんだけど」
あの日から一日経った、今日の放課後。
「うん。で、なにをするんだ?」
私とラズノは世界樹の前にいた。
「それよりも…、リューナは来るんだよな?」
「さ、さあ?」
その返事に困惑顔のラズノに申し訳ない限りだ。
昨日の感じでは、リューナが勝手なお世話をしているようにしか見えなかったし。
「昨日、なんか話してたんじゃないの?」
「それが…」
あたりを見回す。
やっぱり、まだリューナの姿は見当たらない。
「昨日、リューナからこれを渡されて…」
「ん?」
ラズノが持っていた封筒をとる。
そして、見て…、沈黙。
「…」
ラズノが恐る恐るこちらを見て、封筒を指さす。
「…」
口を動かさず、目だけで(困っちゃうよねー、アハハハ)と伝える。
ラズノにも伝わったのか「ア、ハハ…、ハァー」とため息をついた。
そして、しばらく沈黙。
「どうする?」
2・3分経ち、怖る怖るラズノに声をかける。
「そうだなー」
ラズノは少し思案したのち。
「その中身見た?」
そう言って、封筒を指した。
そこで、ハッと気づいた。
「見てなかったー!」
「おいおい…」
封筒をちぎり、中身を確認する。
中身を確認。
そっと手を入れて取り出そうとする。
「なにかあるか?」
「う、うん。紙が二枚ぐらいあるよ」
取り出して広げる。
「うわー…」
「…」
お互いに顔を見合わせる。
中に入っていたのは。
ソフトクリーム半額の券と、デート計画が書かれた紙だった。
「リューナってば…」
「確かに…、それは…」
お互い絶句。
何故か?
そのワケはデート計画にあった。
「いくらなんでも、雑すぎるだろ…」
「それに、最後に公園で告白するって書いてあるよ…」
そう、あまりにもムチャクチャすぎたのだ。
なんせ、その内容が。


世界樹で待ち合わせ。
  ↓
公園へまで散歩。
  ↓
ソフトクリームを買い、一緒に食べる。
  ↓
公園内散歩。
  ↓
日が暮れてきたら告白。
  ↓
GOOD END!


なのだ。
「リューナって時々ワケ分からないところあるよな」
「うん、日が暮れたら告白ってのは、展開早いよねー」
ハハハと笑いあう。
久々に楽しい雰囲気だった。
「良く考えたら、俺たちの事なのにな」
「そううだったね。そういや、これからどうする?わ、私は今暇だから、別に良いよ」
なんだか、最後の一文が恥ずかしいモノを言うようで、ラズノの顔が見られなかった。
数秒沈黙。
自分にはとても長く感じられる。
「そうだな、リューノにばれたらうるさいし、仮デートにでも繰り出すか」
笑ってラズノがうなずいた。
何故か、ラズノの言葉に少しがっかりしたけれど。
何故か、ラズノの言葉がとても嬉しかった。

   ―†―†―†―

「んでもって、ソフトクリーム屋だな」
「うん」
うなずいてラズノの横を歩く。
なんだか不思議な気持ちだった。
ラズノと教会で話すことはあっても、一緒に歩くことはなかったのだ。
マジマジとラズノを眺める。
「フェリスってソフトクリーム好きだったっけ?」
「え?なんで?」
突然の質問に混乱。
「ほら、だってリューノがわざわざソフトクリーム屋なんかに行かせるからさ」
「そういうことー、嫌いじゃないよ」
「そっか、大好きってワケでもないんだな」
「どうして?」
それに何がひっかかるんだろうかと首をひねる。
もしかして、何か変なことでも言ったのだろうかと不安になる。
しかし、それは案ずることはなかったようだ。
「だってさ、デートって言ったらレストランとか喫茶店だろ?」
何故かラズノの言葉がズキンときた。
「そ、そっかー。そうだよね…」
何故か落ち込んでいた。
なぜだろう、さっきまでウキウキしていた気分がラズノの言葉で一瞬にして取り払われていた。
「ん?どうした?」
ラズノが覗きこむ。
「う、ううん。な、なんでもな…」
「あるだろ、だって急に態度が変わるんだから」
ラズノが心配そうにこちらを見る。
「なんか、悪いこと言ったかな?」
「う、ううん。うん」
「それ…、どっちなんだろ?」
さらに困惑といった顔で、ラズノがこちらを見てくる。
「あのね、一つ聞いて良い?」
「あ、ああ。聞けよ、なんでも」
活路を見いだしたとでも思ったのか、大げさにノッてくるラズノにプッと笑ってしまう。
まったく、せっかく今さっきまで落ち込んでた気分が一瞬だけどっかに行ってしまった。
気を取り直して。
「さっき言った、デートって言えば…って行ったことがあるってこと?」
「ちょ、直球だな」
ラズノが笑う。
「あくまで一般論を言ったのみだよ、フェリス君」
その言葉に何故かホッとしていた。
「そういう事ですか、ラズノ先生」
「もしかして、そんな事で落ち込んでたとか?」
その言葉にカッと顔が赤くなる。
「ち、違うよ!なんか一般常識ないみたいな言い方だったから…。って、ホントだから!」
必至に言い訳する。
しかし、図星なだけに説得力は薄いようだ。
「ふーーん」と含んだ笑いをしたラズノの顔がとても憎らしかった。

   ―†―†―†―

ようやく、アイスクリーム屋に到着。
結構人気のアイスクリーム屋らしく、露店なのに行列ができていた。
「意外だなー、こんなに並ぶなんて」
「うん、そんなにソフトクリームおいしいのかな?」
「だったら、楽しみだよなー」
「そうだねー」
と話しつつ。行列の最後尾に並ぶ。
ふと時計を見ると、リューナの計画より3時間も過ぎていた。
全然気づかなかったなと改めて驚く。
「うわー、時間ロスったなー」
「ホント。仮デートはまだまだ序章なのにね」
「まあ、楽しいから良いんだけどな」
ラズノが笑ってこちらを見る。
「ま、まあね。楽しいよね」
「なんだそりゃ?」
そうこうするうちに、自分達の番が来た。
「お嬢さん達、何味がよろしい?」
優しそうななおばさんに微笑んで、迷わずバニラと注文した。
「ふーん、フェリスってバニラ派なんだー」
「あれ?ラズノは違うの?」
「おうよ。俺はもう」
そこで言葉を止めて、ラズノがおばさんにチョコを注文する。
「チョコ派だったんだねー」
「おいおい、先に言うなよ」
「人生に甘いラズノにはぴったりだねー」
「ここまで来て説教かよ」
うんざりだよと肩をすくめて、ラズノ告げる。
それが面白かったのだろうか、プッと噴き出す音が聞こえた。
ハッとして見上げると、ソフトクリームを作りつつおばさんが笑っていた。
「あなたたち、ホント面白いわねー」
「いえいえ・・・」
「面白くないですよー」
恥ずかしがる私に、憤懣といった感じのラズノ。
それを見て、またおばさんは笑っていた。

それから、私たちはソフトクリームを受け取ると公園を歩き出した。
「ソフトクリームってさ、ぜったいバニラが一番おいしいんだと思うんだよねー」
夏が近いだけに気温が高い。
「そうか?俺はやっぱりチョコ味がサイコーだと思うけどなー」
そう言って、ラズノが茶色のうにうにを舐める。
「ラズノ、暑くないかな?」
「暑いなー」
あたりをキョロキョロと見まわす。
視界を90度曲げたところ、ちょうど日よけに良い大木を発見した。
「ラズノ、あそこの木まで行こうよ。でも、チョコってソフトクリームの本来の味じゃないじゃん」
「いいよ。まてよ、それじゃあまるでバニラが本来の味みたいじゃないか!」
「そっかー、じゃあソフトクリームの本来の味ってなんだろう?」
「さあ?このコーンの味だったりしてな」
ラズノが笑ってコーンをかじる。
つられて笑ってしまう。
とてもくだらないことを話しているはずなのに、とても楽しかった。
少しだけ、おせっかいなリューナに感謝、なんてことを思ってしまっていた。

   ―†―†―†―

「あー、すずしー」
私たちはさっきの大木の下にいた。
大きく手を広げた枝葉が日光の直射をさえぎってくれる。
ソフトクリームを食べ終わり、私とラズノは寝そべっていた。
日は徐々に西に傾き始めている。
「こ、これ…」
「これから、告白なんだよなー」
寝転んだまま、アハハと笑ってラズノが計画書を眺める。
「そうなんだよねー、まったくだわ」
「何が?」
「最後の告白。なんか嘘の告白って嫌だなー」
ラズノが無言でうなずく。
風がサーっと通り過ぎていく。
「なんか、ほんと。気持ち良すぎてどうでも良くなるよなー」
「うん」
同じく風を受け、目を閉じる。
「じゃあさ、一応。告白しておくか」
「するの?」
「一応ね。リューナ見てるかもしれないし」
少し目線を落とす。
もう、楽しい時間が終わってしまうのだ。
今の生活に不満はない。
過去を思い出せば、100倍マシなものだ。
それでも、今日一日は楽しかった。
「じゃあ、告白しまーす」
「はーい」
まだ遊びの続きのようでおかしかった。


「ラズノ、好きだよ。付き合って」


告げた言葉は短かった。
さっきまでの、ちゃらけた雰囲気とは別次元の言葉。
ぎゅっと目をつぶる。
そして、彼の返事を待つ。
これで何を言われても大丈夫だと自分に言い聞かせる。
といっても、ラズノはなんて返してくれるのだろうか?
これは嘘告白なのだと分かっていても、なんだかとても緊張していた。
時間にして数秒。
とても長い時間に感じる。
そして。
ラズノが口を開いた。

「俺も好き」

「え!?」
風が吹き抜けていく。
木漏れ日がラズノの顔を眩しくさせている。
「どうした?」
ラズノが「ん?」と首を傾ける。
「え、あ…、あれ?」
ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!
なんか、顔が、顔が暑いのだ。
「フェリス、熱でもあるのか?」
そう言って、ラズノが手を額に当てようとする。
なんで、こんな時だけお決まりの行為をと心で抗議する。
「わー、わー!」
なんだか、もうハチャメチャだ。
「ら、ラズノ!」
「お、お?フェリス?」
駄目です。
なんか、もう!
「ご、ゴメンねーー!」
私は急いでそう告げると、一心不乱に走り出した。

  ―†―†―†―

その日の午後。
私はリューナの寮部屋に座り込んでいた。
あれから、走って逃げて…。
ラズノの姿をまったく見ていない…。
「あーー、失敗したな…」
ガクリと肩を落とす。
「何があったのよ?失敗?」
リューナがノートから顔を上げて怪訝そうに問いかける。
クソー、人が困ってるってのに!
「リューナ、なんで今日来なかったのよー」
「はあ?なんで他人のデートに私がついていくのよ?」
恨み辛みを…と思っていたが、リューナの返事に敢え無く打ち砕かれてしまった。
その返答が当たってるんだけど、間違いないんだけど。
「ああ、何でーー!!」
「はあ?」
リューナが横で肩をすくめる。


私は一人悲しく、悲鳴をあげるしかなかった。
by 瓜畑 明 2006.07.29 14:15
RE:【長】柔らかな木漏れ日の下で <第三回企画テーマ>兼<「禁断恋愛」番外編(恋愛奮闘編)>
 拝読しました。こんにちは。日原武仁です。
 恋愛恋愛しててなかなかに楽しかったです。
 内容は良かったんですが気になることがいくつか。まずは体言止め。これは余韻や情緒を残すには有効ですが、多用すると白けてしまいます。
 それから人称。三人称と一人称が混ざっているのはよくないです。この場合はフェルス視点の一人称で通すのがベターだと思います。あと、これは好みの問題になるのでしょうが、なんとなくストーリーを追ってるだけという印象がします。フェリスの内面をもう少し描いたほうが良かったと思います。
 自分のことを棚に上げての感想で大変失礼しました。
by 日原武仁 2006.07.28 13:26 [1]
RE:【長】柔らかな木漏れ日の下で <第三回企画テーマ>兼<「禁断恋愛」番外編(恋愛奮闘編)>
 はい。急いで読みましたゆえ。
 全体的な感想はうーんてなもの。
 友人同士が恋愛でいじくりあってるのは微笑ましく楽しくもあったのですが、日原さんも言っているけども物語をただ追っている感はありましたね。
 ただ順を追っていくのでなく、瓜さん独自開発のハプニングを起こしてくれたりすればより面白くなったのではないかと思います。

 あとは。内面かな。恋愛話って内面がキモだと思うからここに厚みを持たせたほうがよろしいと思います。

 あとは文化祭原稿でも言ったけど場所の描写が足りないと思う。序盤の教室にいるであろうところは
>>授業と授業の合間の小休止
 だけで「ああ、教室かな?」と思えるからいいんだけど
>>手を動かしてガサガサと教科書を探す。
 のところで一体どこを探しているのかがわからなかったよ。
 
 教室と同様に世界樹の描写。教室の方はいらないにしても世界樹のほうはもうちょい必要だと思う。
 それと外見描写。まるでなかったように思える。髪型だけでもいいから教えてほしかったな。

 こんなところです。
 ではではw
by 真崎 2006.07.29 14:15 [2]

NO.43  瞬きの間の永遠
靴箱が異様に高く見える。
手紙をしっかりと掴み相手を待つ。
太陽がゆっくり沈みかけ、校舎にいる生徒の数も少ない。
相手を待つ時間がとても長く感じられる。

カツン・・・ カツン・・・

しばらくして階段を降りる音がした。
ごくりと唾を飲み込み、心を決める。
三年間の間培った思いを今、手紙という私の分身で渡す。

「あ、早川さん」

こっちへ来た彼が気づいた。
とっさに手紙を背中に回す。

勇気を振り絞れ!私!

喝を入れ口を開く。
「さ、さえ、さ」
「どうしたの?」
緊張して噛んでしまう私に彼がやさしく声をかけてくれる。
このさりげない行為にどれだけ悩まされた事だろう。
「ごめん」
そう言って深呼吸する。
じっと待ってくれる彼に申し訳ないがちゃんと言葉にしたい。
落ち着けてもう一度口を開く。

「私ね、引っ越すの」

一瞬、空白が世界を支配した。
葉のこすれる音が鮮明に聞こえた。
風の吹く音が寂しげだった。
「・・・そっか」
「うん・・・」
彼が寂しくなるねと呟く。
今日しかなかった。
もう、いつ会えるか解らない。
「私ね、今日。持ってきたの」
「え?」
彼が顔を上げて聞きかえす。
「だ、だから・・・、持ってきたの」
「何を?」
「て、手紙」
それだけ言って黙る。
しょうもない事だろうけど、その単語一つ言うのにとても力がいった。

「そっか。ありがと」
彼が照れくさそうに笑う。
背中に回した手紙を前に出す。

昨夜一晩考えて書いた私のラブレター。
小学校、最初で最後になるであろうこの手紙を彼に渡す。

「ありがとう」
彼が愛しいモノのように手紙をそっとなでる。
彼は読むねと言うと封筒から便せんを出した。

彼が黙読している間、再び静寂が支配する。
今まで聞こえなかった風の音が聞こえた。
やる事はやった。
悔いはない。
数分して彼が便せんから顔を上げる。
最後まで読んだのだろう。

「ありがとう」
彼がもう一度礼を言った。
「気にしないで、じゃあね」
相手の返事を聞かないように、足早で靴箱から離れる。

「待って」
彼が腕をつかんだ。
吹く風が落ち葉と一緒に髪を舞い上げる。
「なに?」
「僕から言いたい事があるんだ」
彼が真剣な目で言った。
彼の目を見る。

「君にあげたいモノがあるんだ・・・」

「いいよ、気にしないで」
とっさに拒否するが、彼は首を横に振った。
「うれしかった」
「そ、そう」
「もっと早ければ良かったのに・・・」
彼がつらそうに下を向く。
「私も・・・」
そう言って、ぐっと上を向く。
涙がこぼれそうになるのを防ぐ。

「目をつぶって」

彼がいった。
言われた通り、マブタをキュッと閉じる。

「僕も大好きだよ」

彼の唇が私の唇にそっと触れた。
それは僅か2・3秒の事だった。

堪えていた涙がこぼれ落ちる。
泣くまい、泣くまいと必死で思っても、決壊したダムのように涙があふれ続ける。
「泣かないで」
彼が制服の袖で涙を拭ってくれる。
「ありがとう」
ゆっくりとマブタをあける。
「私、行くね」
「・・・」
彼の瞳が揺れていた。

せっかく・・・

せっかく・・・

心が通じ合ったのに・・・

じゃあねと言って、彼に背を向ける。
風がもう泣くなと涙を吹き飛ばしてくれる。
「早川!」
彼が呼んだ。
振り返らず、歩き続ける。

「行ってらっしゃい」

「・・・うん」
彼の最後の言葉に応えて、私は走り出した。


全てを忘れたいと。
全てを忘れたくないと。
矛盾を抱えて。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ええっと、昔あるところで投稿していた作品を、上げてきました。
なんと、書いたのが中2の時。
今から4年前なワケです。
駄文ですが、何故か瓜的に気に入っている作品でした。
でわー
by 瓜畑 明 2006.07.26 23:09
RE:瞬きの間の永遠
ども、西向くです。
読みました!

おぢさん、こういうやつは赤面してしまふので、コメントはパスです(^^;
申\し訳ない。

日原さん、真崎さん、任せた!(なぜか)
by 西向く侍 2006.07.22 16:48 [1]
RE:瞬きの間の永遠
 拝読しました。こんばんは。日原武仁です。
 なぜか、任されてしまいました。
 初恋ですか? 初恋ですね? いいですね。こういう詩的で情緒的な文章はさすがです。
 難を言うなら、彼女が彼を好きな理由や好きなところが書いてあったならなお良かったかな、と。制服のある小学校ということはかなりハイソなところだなぁ、と思ったのは余談です。
by 日原武仁 2006.07.26 23:09 [2]

NO.42  ジャンクワールド
「ありがとうございましたぁー」
 弾むように軽やかなクラシックが流れる中、手を振りながら出て行く客の背中に頭を下げて見送ると若槻美亜(わかつき みあ)は軽く息をついた。
 シュートカットで目鼻立ちのくっきりした顔は愛らしく、小柄なこともあってよく高校生に間違われることもある彼女は“カフェ・ガルガンチュア”の看板ウェイトレスな二十六歳である。
「お疲れ様でした、美亜さん」
 テーブルから食器を運びながら秋菜冬司(あきな とうじ)は美亜に声をかけた。
 長身に締まった体躯、銀縁の眼鏡に怜悧な容貌という、どこか悪の秘密結社の美形幹部でもやっているんじゃないか、と思わせる二十歳のウェイターに美亜は微笑んだ。
「秋菜くんもお疲れ様。これでとりあえずは一休みだね。今のうちにお昼食べちゃってよ」
「はい。ではそうさせてもらいます」
 言って冬司は厨房へと消えていった。
 時刻は昼を少し過ぎた頃合だ。二十人も入れば一杯という店内に客は一人もいない。若葉台学院という学園都市にあり、客層のほとんどを学生が占めるため、授業中にあたる今のような時間ではさして珍しい光景でもない。かと言って、朝方や夕方に客でごった返すという事態も稀であるのだが。
「美亜? お前も昼飯食っちまえよ」
 カウンターからの声に美亜は振り返る。
 どこか眠そうな、けれど妙に鋭い目付きをした青年が手にパスタを持ち、唇の端に煙草を咥えて立っていた。名前は高地栄樹(たかち えいき)。美亜と同い年の幼馴染みであり、この喫茶店の店長である。
「あー、栄くんまた煙草吸ってるー。料理人に煙草を吸う人はいない、て美食倶楽部の人も言ってたよー」
 腰に手を当て、頬を膨らませて美亜は言う。注意された栄樹は苦笑を浮かべ、
「悪ぃ。こいつがないとどうも口が寂しくてよ」
「煙草を吸う方はよくそうおっしゃいます」
 冬司がサンドイッチの皿を片手に厨房から出てきた。
「ですから禁煙方法のひとつに煙草が吸いたくなったらキスをすると言うのがありますので……ささ、どうぞ」
「……どうぞって何がだよ」
 半眼で栄樹は冬司を見やる。どこか凄みのある視線にさらされても冬司は動じることなく、
「僕のことでしたらお構いなく。ささ、どうぞ」
「だからどうぞってなぁ……」
「あ、でもそれは良いアイディアだよ!」
 何か言おうとした栄樹を遮ったのは美亜だ。
「ボクはいつでもオッケーだよ。ほら、んー……」
 いつの間にかカウンターまで来ていた美亜は目を閉じ、顎を上げるように栄樹に向かって唇を突き出す。
「アホ」
 栄樹は短く言うと近くのトレイで美亜の額を叩いた。そして棚から灰皿を出すと煙草をもみ消す。
「バカ言ってねぇで二人ともさっさと食っちまえよ」
 呆れたように言うと栄樹は厨房へと戻っていった。
「……痛ててて。怒られちゃった……」
 額をさすりながら美亜は小さく笑う。
「店長は意外にノリが悪いですね」
 サンドイッチの最後のひとつを口に運びながら悪びれずに冬司は言う。
「栄くんはああ見えても照れ屋さんだからね。どうしても周りの人を意識しちゃうんだよ」
「なるほど。だとすれば二人だけのときはものすごいと?」
 人差し指を立てながら冬司は眼鏡を光らせる。
「うん、そう。ものすっごく甘えん坊さんになるんだよー。この前お買い物に行った時にねぇ……」
 目をキラキラさせながら話し出す美亜の顔が不意に固まった。
 怪訝な顔をする冬司に美亜はぎこちない笑みを顔に張り付かせ、
「……あー、うん。この話はまた後日ということで……」
 それだけ言うと油の切れたロボットのようにして厨房へと入っていった。
「…………?」
 彼女の突然の奇行に首を軽く捻る冬司。と、その時だ。
「冬司、ちょっといいか?」
 声に振り向けば白く清潔な調理用の服装に身を包んだ伊藤静一(いとう せいいち)の姿があった。
 柔和に整った、人の良さが滲み出るような笑顔をいつも浮かべている彼なのだが、今は少しばかり緊張したような面持ちだった。
「構わないが。どうした、静一?」
 静一は手にした皿を冬司の前に置き、
「ちょっと試しにスイカでプティングを作ってみてさ。試食してもらえないか?」
 見やれば、そこには淡い赤色をしたプティングがある。添えられたスプーンを取り、おもむろに口へと運ぶ。
「……どうだ?」
 息を詰めた顔で静一が訊いてくる。冬司は味わうように咀嚼し、飲み込んでから口を開いた。
「悪くはない。だが……少しばかりひねりというか。もうひとつ足りない気がするな」
「そうなんだよなぁ。どうも味がぼやけると言うかピンとこないんだよな……」
 欠点には気付いていたらしく、将来のパテシエは腕を組んで原因を探るように唸り出す。
「焦ることはないだろう。急いで新作を作る必要もないのだからな」
「そうなんだけど……ん?」
 静一は不意に言葉を切ると耳を澄ました。さっきまで流れていたシューベルトの大二重奏曲が消え入るように終わり、別の曲が流れ出す。どこかもの哀しい出だしで始まるそれは、ワーグナー作曲のニュルンベルグのマイスタージンガーだ。
「お呼びのようだ」
「だな」
 冬司は嘆息するように言い、静一が頷く。
「店長。ちょっと出かけてきます」
 厨房に向けて静一は叫ぶ。そこから栄樹と美亜が顔を出し、
「おう。行ってこい」
「がんばってね」
 二人に軽く頭を下げ、冬司と静一はスタッフルームに入っていった。


 スタッフルームの更衣室を抜け、その奥の扉を指紋と網膜認証でロックを解除して中に滑り込む。地下へと通じるエレベーターは音も無く下降し、ほどなくして目的地に二人を運んだ。
 自動ドアを抜けたそこは近未来的な空間だった。巨大なモニターや様々な機械があるそこは、特撮ヒーロー番組に出てくるような秘密基地そのものだ。
「やっと来たわね」
 巨大モニターの前で仁王立ちしていた少女が軽い憤慨を滲ませながら二人を睥睨した。
「やっと、て……一分くらいしか経ってないと思うが」
「甘いわよ! その一分が命取りになるかもしれないのよ!」
 腕時計を見ながら言う冬司に少女は指を突きつける。
 彼女の名前は茅原千早(かやはら ちはや)。二年前にマサチューセッツ工科大学を卒業し、今年から若葉台学院全ての大学で講義を持つことになった十九歳の助教授である。
「で、今回の敵はこれよ」
 叫んだことによって気分がすっきりしたのか、千早は手元のコンソールを操作し、映像を背後のモニターに映し出す。
 現れたのはどこかの公園で行われている野外ライブの模様だった。百人ほどの観客は全員立ち上がり、ギターの演奏に合わせて手を振り上げながら歓声を送っていた。
「どこもおかしな風には見えないけど……?」
 モニターを眺めながら静一は呟く。それに千早は軽く頷き、
「確かにここからではおかしなところはないわ。じゃ、これはどうかしら?」
 声と同時に映像が切り替わる。ステージを映していた画面が観客を正面から捉えたものに変わった。
「これは……!」
 冬司の顔が驚愕で強張った。
 観客全員が苦悶を浮かべているのだ。どうやら彼らは自分の意思とは関係なく、ギターの演奏に合わせて無理矢理に踊らされているようだった。
「ある種の催眠音波による群集操作。有効範囲は半径百メートル。擬似装甲装置は演奏者のギターよ」
 千早は静かに伝えた。
 “装甲(マテリアル)”という能力がある。意志の力で自分の周りの粒子を固定し、望む形に具現する力のことだ。彼らは“装甲者(マテリアリスト)”と呼ばれ、最低ランクでも戦車並みの戦闘力を持つ。
 この能力を誰にでも付加し、行使することが出来るようにしたのが擬似装甲装置である。これは警備員のために開発されたものであるため、誰もが簡単に手に入れられる代物ではない。だがここ最近、違法なコピー品を販売している組織があるらしく、異常なほどのスピードで学院内に広まりつつあった。
 当然、取り締まるための組織も編成されたのだが、ここである問題が生じた。擬似装甲装置に関する犯罪に“装甲者”を使うことは出来ない、ということだ。装置を使う人間はあくまでも一般人であり、それに装甲者を使うのは行き過ぎであるという判断が下されたのだ。
 そのため、同じ装置を使う一般人が犯罪の鎮圧にあたることになったのは自然な流れではあっただろう。
「了解した。では行ってきます。先生」
 冬司は会釈すると千早に背を向けた。
「音楽を悪用するなんて許せないな」 
 静かな怒りを燃やし、静一も後に続く。
「いってらっさい。それとここでは司令と呼べ!」
 叫びながら千早は二人を見送った。

 
 対擬似装甲犯罪私設処理部隊・ジャンク。
 通称――機甲特警メタルジャンク。
 それが、彼らである。
by 日原武仁 2006.07.23 16:08
RE:ジャンクワールド
 こんばんは。日原武仁です。
 某所で「音楽」をテーマに書いた作品です。最も大きな欠点は音楽がテーマになっていないという作品ですが、どうかご容赦を。
by 日原武仁 2006.07.11 21:34 [1]
RE:ジャンクワールド
ども、西向くです。
読みました!

日原ワールド全快ですね(^^)
「ファントムペイン」や「僕の騎士〜」もそうですが、日原さんは世界観をつくるのが巧いですねぇ。うらやましいです(><)
だいたい作品にとりかかる前に、どれくらい世界観決めてらっしゃいますか?
自分なんかホトンドなにも決めずに書いてて、行き当たりばったりなんですけど……

店長とウェイトレスさんが後半出てこなくなっちゃったのが残念無念。
あとは、構\成上しかたのないことだとは思いますが、最後の部分が説明的になりすぎてる気がしました。
by 西向く侍 2006.07.22 13:39 [2]
RE:ジャンクワールド
ずっと気になってて、ふと思い出しました。

彼らはやはり「ジャックオン!」のかけ声で変身するんですか?w

意味が分からなかったり、違ってたら気にしないでくださいw
by 西向く侍 2006.07.23 13:20 [3]
RE:ジャンクワールド
 こんにちは。日原武仁です。

>西向く侍さん
 日原ワールド……なんて素敵な言葉でしょう。どうもありがとうございます。
 作品の世界観に関しては正直、そんなに考えている訳ではありません。ただ、日原の作品は全て同じ世界の別の時間軸の物語のため(例えば、お気付きだと思いますが“ジャンクワールド”は“オレの騎士様 ボクの王様”の約十年後くらいが舞台です)必然的に自分の中で積み重なっていくもの+思い付きです。

>ジャック・オン
 くっ! ここを突っ込まれるとは想定外にして予想外です。確かにイメージ的なモチーフではあります。最初の設定では「ジャンク・オン!」が変身のキーワードでした。さすがにそこまで露骨なのは……と思い直しましたが。
 余談ですけれど日原はこれのおもちゃをまだ四体とも持っています。そして目下の所DVD-BOXを買おうかどうか思案中……
by 日原武仁 2006.07.23 16:08 [4]

NO.41  瓜畑が行く! Vol.2 〜激しい出会いは唐突に〜 (第三回企画テーマ小説)
「ソフトクリーム!」
そんな出雲のアホな叫びから、その出会いは始まった。

―瓜畑が行く! Vol.2 (続くのか!?)―

今日、気温は34度。
「瓜畑…。死ぬで」
「さ、西大寺…。溶ける…」
現在、世界史の授業中。
「カール大帝は…、って暑いなー。で、ランゴバルトを…、授業やりたないなー」
「センセー、カール大帝は授業やりたないんですか?」
そんな口を聞くのは出雲。
「出雲、立て」
そして、運動場を走らされるのも出雲。
世界は相も変わらずグルグルと回り続けている。
たまにはクルンと公転周方向変えたまえと言ってやりたい。
自転でもかまわないがね。
ただ今、大阪夏色まっ盛り。
暑くて暑くてたまらない。


「う…り、さいだ…」
「走り終わったんやね」
「し…し、ぬ」
ただ今、放課後。
未だ変わらず、日光は照りつける。
「あー、あっつー」
「こんなに暑いと、マジで溶けそうや」
「み、みず…」
「ほんまに。問題はまったくとけへんのにな」
ハーとため息をつく俺と西大寺の前にはプリントが。
「あ…、の…どが」
当たり前(?)だが、自主的に勉強なんてそんなイイもんじゃない。
もちろん、今日の宿題をすっぽかした罰である。
「昨日は仕方なかったんだよな」
そう言って、西大寺が鉛筆を放り投げる。
「宿題する暇なんかなー」
そう言って俺もプリントを折りたたんだ。
「ない。ない」
「そうだよな、だって…」
一息入れて。
「ゲームで!」
「サッカー観戦で!」
そう言って顔を見合わせる。
同時にうなずく。
「忙しかったんだもんな」
「ちょ、む…し?」
「うんうん、ゲームはしなきゃなー」
そう言って頷くは西大寺。
「み…」
バタリと音をさせて何かが力尽きる。
「暇なんかないのに、どう宿題をしろと!?」
「ホントだ!ホントだ!」
激しく同意する。
そこでハッと気づく。
出雲が死にかけていた。


「お前らなー」
場所は校内の水のみ場。
仮死状態だったらしい出雲が生還し、文句をたれている。
「らしいじゃねーよ!マジで死にかけだったんだぜ!?」
こんにゃろー、心のナレーションを読むな!
「ゴメン、ゴメン。出雲の事見えてへんかってんて」
「嘘だー!あえて無視しとったやろー」
激高する出雲を西大寺がどうどうと落ち着かせる。
「ほんまやて」
俺も西大寺を援護だ。
こんな暑い日に騒がれるのはうっとうしい事ありゃしないからね。
「それにしても暑いねー」
さっきからそればっか言っている気もする西大寺、だが事実だ。
「ああ…」
「うん…」
双方同意。
「なんか冷たいモノが欲しいよなー」
と、俺も願望を口ずさんでみる。
「ソフトクリーム!!」
出雲が叫んだ!
「ソフトクリーム!」
そして、西大寺もつられて叫んだ。
「瓜!西!ソフトクリーム食べにいこーよー」
出雲が駄々をこねはじめる。
「いいねー、ソフトクリーム」
西大寺も乗り気のようだ。
「うーん」
自分で言ってなんだが、俺は迷い気味だった。
金無くなるしなー。
ソフトクリームなんてすぐ無くなるしなー。
「瓜、そういやさ」
うなる俺に西大寺が口を入れる。
「ん?」
「今回のテーマ小説のお題『ソフトクリーム』って言ってなかった?」
「ああ。でも、ソフトクリームがテーマならやっぱり溶けるような甘甘の恋を・・・」
「止めとけって」
横から出雲までが口を挟んできた。
てめえら、挟撃か?
浅井・朝倉連合軍か?
ってことは俺は挟みうちで壊走なのか!?
「なんでだよ?」
少し向きになって言葉を返す。
「文字上だけの恋なんて悲しすぎるぜ」
「そうそう」
「・・・む」
そうなのか!?
やっぱり恋愛小説書くヤツは痛いのか・・・。
「う、うむー」
悩む。
悩むぞ。
俺の・・・恋愛小説道が・・・今、崩れかけだ!
「ホラホラ、アイスクリーム」
「絶好のネタじゃないか」
横でやかましく喚く二人。
そして、馬鹿さMAXな二人。
「ほら、野郎三人でアイスクリーム」
「もちろん、ちゃんとポロリもあるよ」
「へー・・・ってあるワケねーだろ!!」
頷きかけて爆発した。
出雲と西大寺にジャンピングキック!…と見せかけてそんなカッコ良いことは出来ないのでパーンチ。
ポロリって・・・どこがポロリなんだよ!
あそこか!?そこか!?あれか!?(以下自主規制)
「いてーなー、とにかく食いに行く!」
「ソフトクリーム!!」
頭や腹をさすりながら喚く二人。
回復はえーな、お前ら。
本当にくそ元気なヤツらだ。
「わーったよ。食いに行けばいいんだろ」
投げやり気分はMAX超過。
「そゆことー」
「観念したかー」
ニヒヒと笑う二人に根負けすると俺たちは近くのアイスクリーム屋に向かった。


ただ今、俺たちはアイスクリーム屋の前にいた。
「西大寺、ここで旨いのか・・・?」
少し引き気味に問いかける。
「おいしいんだって。有名じゃん」
「そうだぜ、瓜が知らないだけだろー」
とりあえず出雲は無視して。
「確かにアイスの旨い店があるって聞いてたけど…、名前はこんなのなのか?」
茫然と看板を見つめる。
看板には、アイスクリーム屋と書かれた看板。
いや、それは別にいのだ。
それよりもその隣に書かれた文字が問題なのだ。
おそるおそる、そこへと視線を動かす。
そこには・・・『ドロドロ』の文字が。
えーっと、だから総合すると「ソフトクリーム『ドロドロ』」って事かー。
って・・・めっちゃ、まずそうなんですけど。
ソフトクリームがドロドロって事なのか?
止めちまえ!そんなソフトクリーム屋!
この店名を考えた店主に言ってやりたい。
商売やる気あんのかと。
時々、信じられないモノがこの町には多々存在する。
これは十分その中の一つに入るなと確信する。
「とにかく入れって」
「はいろ!はいろ!」
「うううう」
そして、俺は泣く泣くその店へと足を踏み入れるのであった。


「いらっしゃーーーーーーい!」
店へ入るやいなや、出迎えてきたのは馬鹿デカイ声のあいさつ。
「ちわーーー」
「ういーーーーーーー」
何故か西大寺と出雲も馬鹿でかく返事を返す。
店の中には……人っ子一人いない。
うるせーなと思いつつ、店を観察。
古木の床と壁。
部屋に2.3台設置された机。
そして真っ白なテーブルクロス。
ふむ、普通だなと安心する。
「瓜、あいさつ!」
ボーっとしている俺に西大寺が注意しようと……するが遅かった。

「こっの、ボケナス!」

そんな掛け声が聞こえて、俺はバタリと転倒した。
「んんな!?」
顔を上げる。
何が起きたのか把握不能。
ただ、急激な頭痛が脳天への一撃教える。
「う、瓜!」
駈けよろうとする西大寺を抑え、声の主が近づいてくる。
「てやんでい、べらぼうめ!人の挨拶を無視するトウヘンボクがどこにいるんだ!?」
視線の先には、片足を椅子にかけ前かけをした少女が。
漆黒の瞳が鋭くこちらを睨む。
「んあ……」
何か声を出そうとするが、急なことなので驚いて肺に空気が行かない。
「ああん?まだ、何もいわねっーてか?」
ガン飛ばすのヤメロよと言いたいが。
「ガ、……めろ」
しか出ない。
やべえ!これはビビったとか思われちまう!
「ガメロ?ガメラの進化系かなんかか?」
少女の返答に西大寺と出雲爆笑。
てめーら、後でコロスからなと強く決意する。
「て、テメーなー、客に対して暴力ってのはありなのか?」
「なんだってー?客?」
ああんとガンを飛ばす女約一名。
うわー、印象最悪だな。
と、店内乱闘開始かと思われた時。
「アキちゃん、ソフトクリーム3つ頼むわー」
出雲が口を挟んだ。
「はいはい、ちょっと待ってねー」
今さっきまでの迫力はどこへやら、いそいそとその女は店の奥へと引っ込んでいった。


数分後、俺たちの前には2つ綺麗なソフトクリームと、1つコーンがやって来た。
いやな予感。
すかさず、綺麗なモノを取ろうと手を伸ばす。
「お客さーん、あんたはこっちやでー」
まんまと空かされた。
そして目の前に置かれたのは、ソフトクリームのないコーン。
「聞いて良いか?」
頬をひきつらせる。
「お前の店ではソフトクリームはコーンなのか?」
「お前ちゃうわ。明菜や」
半眼。
そこは突っ込むところなんだろうか?
気を取り直しもう一度。
「明菜さんの店ではよー、客にコーンを出すのかって聞いたんだよ」
ノーマル瓜畑+ヤクザ風味だ。
ほれほれ、謝りんしゃい。
「あたぼーや、あいさつが出来ひんヤツに用はないっちゅーねん」
返答は期待から180度違ったモノだった。
…何、こいつ?
さっきから…。
フツフツと怒りの沸点が上昇中。
クワッと口を開こうとした時、横から声が入った。
「アキちゃん、そう言うなって。ほら、こいつが言ってたアマアマの作家気取りやねんで」
「へ?この人なん?」
疑わしそうにこちらをジロジロと見つめる。
出雲……、作家気取りってな。
「あんた!」
ピシッと突き出された人差し指。
「な、なんやねん?」
その勢いに押される。
「アンタがうわさの作家気取り瓜畑 明なんか?」
…ムカつくヤツだ。
「作家気取りじゃねえ!?俺が本書いてて悪いか?」
「悪ないわ!」
「じゃあ、しゃべんな!」
「じゃかましい!アンタにお願いがあるや!」
次の暴言を口から発射しようとして止める。
お願い・・・だとう?
どう言うことだと西大寺に目くばせする。
それに気づいてくれたのか。
「ああ、アキちゃんな。一度で良いから本の中に出てみたいんやってー」
「は?」
理解不能。
「ああ、だからな。俺が前来た時アキちゃんに『瓜畑が行く!』見せたんや」
隣でうんうんと頷く明菜。
「で?」
「感動したんやがな!」
意気込む明菜。
「で、お前はその感動した作家にコーンだけを出すんだ・・・と?」
今度は逆に明菜が半眼。
「あんた、しつこいなー。分かった。分かった」
そう言うと、明菜は俺のコーンを持って奥へと引っ込んだ。


2分後、俺の前にはアホみたいに高いソフトクリームが存在していた。
どこかの宣伝の「ながーーーーーーーーーーいお付き合い」みたいなヤツだ。
「おい、お前。限度を知らんのか!?」
「感動とお願いの気持ちを表してるんやろうが!」
「こんなでかいもん食えるか!」
「あたしの努力と気持ちを無駄にする気か!?アンタは!」
はあ、なんでだ。
俺の周りは凡人がいないらしい。
「無駄じゃ!こんな努力!」
静寂。
言い返してくる声はない。
勝ったと心でガッツポーズをしようとして、すすり泣く声が聞こえる。
「う、うう。せっかく・・・」
・・・え?
「瓜!お前なーさっきから明菜ちゃんのことイジメすぎや!」
「瓜のバカー、アキちゃんを泣かすなよ!」
WHY?俺、悪者?
「ま、待て。俺が!」
「ううう、気持ち込めて・・・」
「瓜」
西大寺がジトーと見下ろす。
「な、なんやねん」
と言おうとして。

「アホんだらー」

と言う叫び声とともに、エベレストソフトクリーム(仮名)が俺めがけて倒れてきた。
否、倒された。
「ヤメローーーーーーーー」
俺の絶叫むなしく、エベクリ(略)は俺と衝突した。
「あ、ポロリやん」
「ほんまや、ほんまや」
自分は関係ないと大笑いする二人。
はい。
後で斬刑な、お前ら。
「あ、あんたな・・・」
ユラーっと明菜がこちらへ近づいてくる。
隊長!未確認生命体発見。
了解、退避せよ。
脳内命令により俺は急いで後ずさり。
「あんたな・・・」
コエーよ。
「お前なぁ、もう許さん。お前なんか出したるかい!」
「だほー。出せー」
その言葉にスイッチが入ったのか、明菜は飛びかかってきた。
床に倒れこむ二人。
漫画なら恋に落ちるシチュエーションで俺たちは乱闘していた。
乱闘20分後。
俺は明菜に馬乗りにされたいた。
屈辱だ。
「出すな?」
「何をや?」
必死の抵抗もむなしい。
西大寺と出雲が援護すればそりゃあ女でも勝つわなっと言い訳しつつ、実は明菜が一番最強だったかも知れんと思い直す。
「まだ、言うか?」
腕が絞られる。
「いてーーよ。出せばいいんだろ!」
「それでいいのだ」
そう言って、明菜が上から降りる。
ベタベタでグチャグチャで、ホントにドロドロだ。


結局、俺はソフトクリームを1口も口にせず店を出ることになった。
帰り際に、明菜にしつこく約束されてしまったため、小説に出してやるしかない。
そのかわり、俺はありのままに書いてやることにしたのだ。
カチン。

「瓜畑が行く! Vol.2」

俺の仕返しがブラウン管に映し出されていった。
by 瓜畑 明 2006.07.26 22:44
RE:瓜畑が行く! Vol.2 〜激しい出会いは唐突に〜 (第三回企画テーマ小説)
ずばり、後半は迷作です。
なんか、力入んなかったんだよなー。
by 瓜畑 明 2006.07.12 23:28 [1]
RE:瓜畑が行く! Vol.2 〜激しい出会いは唐突に〜 (第三回企画テーマ小説)
ども、西向くです。
読みました!

まず最初に、vol.1はいずこ?(^^;
1を読んでから2を読もうと思ったら、どこにもないようなので……
で、やはり関西ノリはいいっすねぇ。自分は大学時代の4年間を関西で過ごしたので、こういうのは非常に好きです。
会話文ばかりで逆に読みづらい感じが少ししましたが、ほかは問題なくおもしろいと思いました(^^)
できれば、1も見せてください。
by 西向く侍 2006.07.22 12:24 [2]
RE:瓜畑が行く! Vol.2 〜激しい出会いは唐突に〜 (第三回企画テーマ小説)
すんません。
よく見たら、Vol.1ありました(^^;
by 西向く侍 2006.07.22 17:52 [3]
RE:瓜畑が行く! Vol.2 〜激しい出会いは唐突に〜 (第三回企画テーマ小説)
 拝読しました。こんばんは。日原武仁です。
 勢いがあっていいと思いますしなかなかに楽しい話です。ただやはり会話文が多いのが気になります。あと淡白に見えるのは改行のしすぎに原因があるのかもと思いました。
by 日原武仁 2006.07.26 22:44 [4]

NO.40  ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
 お母さんに連れられて、僕は近所のマルケーに来ていた。
 ピーマンと大根の値段を見て目を丸くしているお母さんを残して、僕はショッピングセンター内の探索に乗り出したんだ。
 僕だってもう小学生になったんだし、お母さんと一緒じゃ恥ずかしいもんね。
 大根、タマネギ、ピーマンのコーナーから、ケチャップ、マヨネーズ、もんじゃ焼きの粉の売り場に移る。蜂蜜の瓶が美味しそうに並んでいたけど、これをカートの中に入れるには職人の業が必要だ。それよりも無難に十円チョコを一つだけ堂々と放り込んだ方が後々のことも考えて正解に近いと思う。
 そう考えた僕はもう居ても立ってもいられずにお菓子コーナーへと向かった。その前にカップラーメンの列が僕を迎え入れてくれたけど、これはお父さんが一緒のときじゃないと不可能に近い。
 たかだか普段九十円の大根が百五十円に値上がりしただけで財布を落としたみたいな顔をするお母さんが、一つ百二十円のカップラーメンなんて無理だよ。
 そんなことを考えながらお菓子売り場に到着、するとアナウンスが聞こえた。
「ただいまより、五時のタイムサービスを開始します」
 やばい、急いで逃げないと。
 だけどもう遅かった。おばちゃんのうねりはカートの軋みと一緒にトドの群れのように襲い掛かってくる。目指すはカップラーメン売り場の先にある鮮魚売り場だ。お母さんが今日はサンマが安いって言ってたもの。今が旬だからって言ってたけど僕は骨とあの苦い内臓が嫌いだから別に買えなくてもいいんだけど。
「いたた、いたいっ」
 僕に当たってるって、当たってるって言ってるのに!
 四つんばいになりながらお菓子売り場の奥に退避する。このままシェルターに閉じこもっていないと、今度はタイムサービス終了の群れにつぶされてしまう。
「まったく、おばちゃんってなんであんなに周りが見えてないんだろうね」
 別に誰に言ったわけでもなかった。ただ見えない誰かでも良い、僕の愚痴を聞いて欲しかったんだ。
「ホントにね。たぶん脂肪で目が潰れてるんだよ」
 誰かが僕よりもひどいことを言った。容赦がない。
「君、だぁれ?」
「わたし? アヤ。あなたは?」
「僕、トモ」
「あはは」
「えへへ」
 なんだか分からないけど笑ってしまった。アヤちゃんも親から離れて、お菓子売り場に探索に来ていたそうだ。
「うまか棒の納豆味は?」
「ちょっと納得できない」
「じゃあ、ねるねるねってのサイダー味は?」
「あれ自体お菓子じゃないと思う」
「じゃあどんな味なら美味しいと思うのよ」
「味じゃないんだよ、やっぱり歯ごたえ、これに限るね」
「例えば?」
「ガチンコせんべい、これなんかハンマーで割らないと食べられないくらい硬いんだよ。それに岩石ボーロ。唾じゃ溶けない頑固さがいいね」
「馬鹿じゃない?」
 彼女はそう言って笑った。僕も笑った。
「実はボタボタ焼きが好きなんだ」
 正直に僕は告白した。彼女は細くしていた目を、口を大きく開いて歓声を上げた。
「本当? わたしもだよ」
 両の手を取って飛び跳ねる。その笑顔はなんだかとってもまん丸で、僕は嬉しくなってしまった。
「しょうゆ味、最高だよね」
「あの歯応えもたまらないのよね」
 そう言って、転げまわった。頭の中がアヤちゃんで一杯になった。
 ぎゅっと抱きしめたい気持ち。これって何て言うんだろう。くすぐられて笑って、相手もくすぐりたくなるような気持ちだ。
「アヤちゃん」
 僕がその気持ちを伝えようとしたときだった。
「綾香、もうそろそろ行くよ」
 知らない男の人が声をかけてきた。
「あ、うん。これ買っていい?」
「良いよ、カゴに入れて」
 アヤちゃんが入れたのはボタボタ焼きだった。
「お父さん?」
「うん」
 アヤちゃんはお父さんと顔を見合わせてもう一度笑った。
「お母さんは?」
「あ、お母さんはいないの」
「そ、そう……」
 なんだか、それ以上は聞いちゃいけないような気がした。
 僕はアヤちゃんたちがレジを通り、マルケーを出るまで付き添った。いつの間にか太陽が沈んできていて、アヤちゃんたちの顔を真っ赤にする。
「また、会えるかな?」
「また、会えるよ」
 僕の顔も、真っ赤になっていたんだと思う。
 お父さんと二人、夕暮れ時の長い坂を上っていく。二人が太陽に飲み込まれていくみたいで胸がぎゅっとなった。さっきの気持ちとは違う、寂しい気持ち。
「こんなところにいたの。お母さん探し回ったんだからね」
 後ろからゴツンと殴られた。振り向くとお母さんが口をへの字にして怒っている。
 でも僕は、痛くないのに泣きたくなって、それがばれるのが恥ずかしくて、もっと他の、寂しい気持ちもあって、お母さんに抱きついてしまった。
「なんなの? そんなに痛かった?」
 精一杯首を横に振った。お母さんは何も聞かずに頭を撫でてくれた。
 買い物袋からはボタボタ焼きが見えていた。
 だから、僕は笑ったんだ。
by 木村勇雄 2006.07.26 22:25
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
これは良いですね。
木村さんらしさが出てます。
キム兄の作品は終わりがいつも良いと思うのですよ。

なんだか、とても暖かくて。
幸せな気持ちになるお話でした。
by 瓜畑 明 2006.07.03 19:58 [1]
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
 感想どうもありがとうです。

 私も瓜さんの感想に励まされています!

 私らしさ、ですか。
 確かにこういった作品を書くのは好きですね。
 ちょっと急いで書いたので、もうちょっと工夫が凝らせたのかな、とも思うし、これでいいのかもな、とも思うし。
 ちょっと複雑ですww
by 木村 勇雄 2006.07.04 00:04 [2]
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
ゆったりとしてノスタルジィな作品ですね。フフ、こんなに甘酸っぱくして……。

子供達の語彙が豊富過ぎるのがちと気になりますが、こまっしゃくれ感を出すにはこれくらい必要かしら?
木村さんの文体なら、三人称にした方が良かったかも?
いや、そうしたらノスタル爺が死んじゃうか。むぅ。
by 路傍の 2006.07.04 00:17 [3]
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
 拝読しました。こんばんは。日原武仁です。
 初恋、いいですね。
 日原が言うのも僭越ではありますが、非常に木村さんらしい話だと思いました。
 ただ、面白くはあるんですが……ちょっとお子様達が大人すぎると言うか、こまっしゃくれてて子供らしいんですけれど、らしくないと言うか。物語的には良いんですけれど、大人から見た子供とでも言うか……。そういう面でなんとなく違和感を感じてしまいました。
by 日原武仁 2006.07.26 22:25 [4]

NO.39  逢魔が刻(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 男は3階建ての巨大なショッピングセンターの駐車場に立ちつくしていた。とくに何をするわけでもない。ただ飄然と空を見つめ、立ちつくしていた。
 ふと風がひるがえり、男の横顔を荒々しく撫でていった。はげしく波打つ黒髪の合間に、つめたく冴えた黒瞳が見え隠れする。
 風がひとしきりそのダンスを踊り終えても、男はやはり微動だにせず立ちつくしていた。空を見つめて。
「ついに見つけた」
 声は横合いから、鋭いナイフのように。
 それをどう受け止めたのか、男がゆっくりとその視線をずらす。視界のすみに少年の姿をとらえたとき、唇の端が喜びにつりあがった。
「たしか名前は……拓弥、だったか」
 少年は自分の名を呼ばれたことに少なからず驚いたようで、すぐに訊き返してきた。
「僕の名前を憶えていたのか?」
「ああ、憶えているとも。君の家族のこともね」
 男の台詞を聞いた次の瞬間、少年の全身から怒りの感情が吹き出した。少年はすばやく半身の体勢になり、拳をかまえた。
 対して、男は立ちつくすだけ。
「復讐のつもりだろうが、傷ついた身体で私に勝てると思っているのか?」
 たしかに男の言うとおり、少年は満身創痍だった。特殊繊維で織り込まれた着衣は、いたるところが裂けており、そこからのぞく地肌は血の赤に染まっている。ここに来るまでに<COPY>たちから受けた傷だろう。しかし、少年は生き残っていた。滅ぼされてしまったのは<COPY>たちの方。
 だからと言って男の態度が変わることはない。男はつづける。
「それに……」
 そこでようやく、少年の方へと身体ごと向きなおる。斜陽にさらされ、白皙の頬があわく色づく。
「……もうじき陽が暮れる。夜の私たちを滅ぼしたことはあるのか?」
 さっと少年の顔面から血の気がひいた。敵を前にして隙を見せるのはタブーだったが、男から目を離しあわてて太陽を見ている。
 少年の拳がわずかに下がった。恐怖が怒りを凍りつかせていく。
 少年を含め、<視た者たち>の感覚器官は常人の数倍の能\力を発揮する。視覚だけでなく、嗅覚や触覚によって落日を感じることができるはずだった。男に対する怒りの念がそれを鈍らせてしまったのだろう。
「残念だ。初歩的なミスだよ。もはや君に勝機はない。さぁ、選びたまえ。人として死ぬか、私たちの仲間となり生きるか?」
 男はもう800年も前から幾度となくくりかえしてきたその台詞を、いつもと変わらぬ美しい笑みで口にした。そして、相手の返答に対するその後の行動も、800年前から決まっている。
「死ぬか仲間になるか、だって?」
 少年が男をにらみつけた。恐怖や怯えは、いつの間にかその瞳から消え去っていた。
「おまえは、父さんや母さん、妹を殺した。そのときに、仇を討つと決めた」
 あらためて拳を構\えなおす。
「<ORIGINAL>を……おまえを滅ぼすことで仲間たちへの手向けにもなる!」
 言うが早いか、男に向かって走り出す。走るスピードと全体重と、右腕の筋力のすべてを乗せた一撃。狙っているのは真っすぐ心臓だ。
 男は楽しそうに「ふっ」とだけ笑うと、軽く地面を蹴った。
 少年の右腕が空を切る。空を見上げたときには、すでに男の姿はショッピングセンターの屋上まで飛んでいた。
「逃げるのか!」
 激高して叫ぶ少年を見ながら、男は、当たり前のことながら、自分が空を見上げていないことに気づいた。建物の屋上から地上を見下ろしている。全身の肌が総毛立ち、気分がさらに高揚するのがわかった。
 眩しい空を見上げながら、夜を待ちつづける生き方。たとえ夜がおとずれたとしても、また朝がやってくる。かならず月は昇ってくる。しかし、それと同じように太陽もまたかならず昇ってくるのだ。
 幸せが約束され、不幸せもまた約束されている。そしてその割合は半々。
「……たまには見上げるのではなく見下ろすのもいい、か」
 ちいさくつぶやいて、男は少年を見つけたときのよろこびを思い出していた。
「拓弥! おまえの跳躍力ではここまで来れない。おまえの言葉を借りれば、私はもう逃げることに成功している」
 拓弥の顔が苦渋にゆがむのが見えた。
「だが、チャンスをやろう」
 男がふたたび跳躍する。今度はほんの1メートルほどの高さであったが、驚愕すべき変化はその足下で起こっていた。いつの間に切れ目を入れたのだろう。轟音を立てて、3階建てのショッピングセンターが真後ろに倒れていく。
 垂直に立っていた建物がだんだんと角度を落とし、ふたたび屋上に着地した男の位置もそれにしたがって低くなっていった。
「さぁ、来い。拓弥」
 もはや少年は、次第に地面と平行になりつつある長い上り坂の、その起点に立っていた。少年は迷うことなく建物の壁面に足をかけた。眼光は鋭く、男を射抜いている。
 男はその様子を見てとると、ゆっくりと夜の空気で肺を満たした。
「私に過分な幸せを、もしくは……過分なる不幸せを」
 唇の端はやはり喜びにつりあがっていた。

−−−−−
すんません。締め切り過ぎました(><)
仕事が忙しくて推敲の暇がなかったですよ。
とにもかくにも、第2作目です。よかったら感想をお願いします。
by 西向く侍 2006.07.26 22:03
RE:逢魔が刻(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 うん、初回よりもすんなり読めました。
 侍さんにはこういった文体の方が似合っているような気がします。
 まあ文体についてはまた後日話すとして。

 文章に違和感はなかったです。
 ただ少し、肩に力が入っている感じはしますね。
 もう少し楽に書いてもいいと思います。

 話の流れはスムーズですね。
 制限がある中でこれだけ書ければ十分だと思います。
 主人公の男は吸血鬼ですか?
 とすると視た者たちとはセコンドサイトの持ち主か、半獣人なのかなぁ、と考えたりしました。

 適度に背景も隠してあって読みがいもあります。
 かといって辻褄が合わないほどに隠されているわけではない。
 過不足のない判断だと思います。

 ずいぶんと苦労された跡が見える作品でした。
by 木村勇雄 2006.07.03 19:19 [1]
RE:逢魔が刻(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
普通に面白かったですよ。
格闘の一場面を切り取ったような書き方。
綺麗です。

一つ気になったのは『「ふっ」とだけ笑うと』って処。
「ふっ」の「」は必要ないと思いますよ。

全体的に面白い作品です。
これをバネに上達されるであろう次の作品が楽しみです。
by 瓜畑 明 2006.07.03 19:33 [2]
RE:逢魔が刻(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
主人公である“男”の、人ならぬ身の醸し出す嫌みったらしさがよく出てて良いですね。
これぞ悪役というか。
展開も無理なく、ショッピングセンターを崩して『長い坂道』を演出したところは見事です。

気になった点ですが。
「長編のワンシーンを切り抜いた」風の作品ですが、2000文字制限はあったのかな?
もしあるなら、掌編用にシェイプできそうなところがちらほらと。
固有名詞とか具体的な数字とか、顔を出してる設定が気になるのですよー。
この設定で長編書いてすっきりさせてくれませんか?w
by 路傍の 2006.07.03 23:51 [3]
RE:逢魔が刻(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
みなさん、感想ありがとうございます。

>木村さん
ずいぶんと苦労しました……(^^;
文字数制限がある作品を初めて書いたので、削りまくりの修正しまくりで、めちゃくちゃ時間かかりましたよ。
文字数制限があると想像以上に大変ですね。

>瓜さん
「ふっ」ですね、了解!
言われてみれば、たしかにそうだ。

>路傍さん
まだシェイプアップできるところがありますか?!
最初に書き上げたとき、大幅に字数オーバーをしていて戦闘シーンをまるごと削ったのですよ(^^;
ちなみに、あまり深く考えずに書いたのできっと長編は書けませんw
by 西向く侍 2006.07.06 21:44 [4]
RE:逢魔が刻(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 拝読しました。こんばんは。日原武仁です。
 長編の中のワンシーン、という感じです。「ショッピングセンター」が「長い坂道」になるのはさすがです。
 バトルシーンを丸々削ってしまったとのこと。その辺を今度は読んでみたいです。散りばめられた設定がやっぱり気になりますです。
by 日原武仁 2006.07.26 22:03 [5]

NO.36  ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
 ほんの悪戯のつもりだった。
 誠が家のガレージに入るのに気づいて、こっそり追いかけた。彼は洋子に気づくことなく、奥に消えていった。
 しばらく様子を見る。誠は五分経っても出てこなかった。中で工具をいじる音がする。おかしい。彼に工具を扱う趣味などあっただろうか。
「何を作ってるんだろう?」
 ガレージに近づく。シャッターは半分以上が下ろされていて、這うようにしないと中を見ることはできなかった。
 音を立てないように、ゆっくりと膝をつく。中を窺うが、裸電球では姿を探すのも一苦労だ。
「いた」
 小さく呟く。盗み見る彼の顔はいつになく鋭かった。何をやっているんだろう、と洋子は見る角度を変えた。
 と、今度は洋子の顔が強張る。
 誠の手には赤い液体がついていた。加えて、彼の視線の先、その暗がりには切り離された腕が一本、真っ赤に染まって転がっている。
「いやっ」
 小さく声がでた。急いで口を塞ぎ、その場から立ち去ろうとする。だが、足がすくんで動けなかった。
「誰かいるのかっ」
 温厚な彼の大声に、洋子は二度驚き、そのおかげで足が動き出す。何度もつまずき、倒れるようになりながらも、洋子は家の角を曲がった。
 聞き耳を立てると、ガラガラと音がする。誠が出てきたのだろうか。そこまでは確認できなかった。角から顔を出そうとするが、その度に腰の辺りが浮いたように感じる。目は血走り、歯は上手く噛み合わない。吐きそうになるのをやっとで抑えて、決意を込めてガレージの方を見た。
「洋子、見たのか」
 角に誠が立っていた。
 今にもつかみかかりそうに手を伸ばしている。
「ぎゃあああ」
 目を綴じ合わせ、声の限りに叫んだ。
「おい、ちょ……」
 誠が何かを言う前に、つかまる前に。洋子は背を向けて走り出す。どこをどう曲がったのか、どこまで走ったのか。とにかく一刻も早く逃げたかった。
 誠が、誠が……。洋子はその言葉ばかりを考えている。
 そうあれは三日前のことだ。洋子は彼に呼び出され、校舎裏にいた。


 洋子は壁を背にし、体を揺すっていた。デートの約束かな、それとも何か大事な告白があるのかな、呼び出しの内容を推理していた。
「お待たせ」
 気がつくと、誠が正面にいた。
「あ、うん。いや、待ってないよ。えへへ」
 心の中を覗かれたような気がして、恥ずかしかった。
「それで、用事ってなに?」
 誠を促す。彼は真っ赤になって俯き、小さな箱を差し出した。
「これ?」
「開けてみて」
 中にはビーズ細工の指輪が入っていた。赤い花を模した、小さなかわいい指輪だった。
「くれるの?」
 何度も首を縦に振る。
「本物の指輪は買えなかったけど」
 誠は俯いたままで話を続ける。
「絶対に洋子のこと守って、いつか本物をあげるからっ」
 しばらく、洋子は言葉の意味が良く分からず、呆然としていた。誠があまりの恥ずかしさに走って行った後、ようやくその意味に気づいた。
 本物=婚約指輪。誠はそのつもりで言ったのだろう。嬉しくて、洋子は何度も指輪を眺めた。
 その、誠が。ガレージで血塗れになっていた。何があったのだろう。洋子はもう訳も分からずに、ただ走るためだけに走り、思考が費えてしまうまで、走りぬいた。


 気がつくと、誠の家の前にいた。先ほどの光景を思い出し、貧血で倒れそうだった。
 が、思い直して洋子はガレージに向かう。
「誠が殺人なんて、ありえない」
 今、洋子の目には彼を信じるという信念が溢れていた。限界まで体力を使ったので、頭が冷えたのだ。
「絶対に、ありえない」
 決意が固くなるにつれ、足運びが速くなる。
 ガレージには、誰もいなかった。だが、シャッターは開いていた。
 そして、洋子は見たのだ。
「洋子、見たね」
 いつの間にか誠が後ろにいた。
「うん」
 洋子は淡々と応える。
「仕方なかったんだ」
「言い訳は聞きたくない」
「衝動が抑え切れなかったんだ」
「嘘よ、計画的に決まってる」
「だけど、いつでも洋子の側にいたかったから」
「……」
 洋子は指輪に触れた。ビーズの固い感触が洋子に冷静さを取り戻してくれた。
 誠が洋子に触れる。手の平が冷や汗で濡れていた。意を決して彼が問いかける。
「僕のこと、どう思ってるの」
 相反する二つの答えが浮かんだ。だが、最終的に洋子の心に残ったのは、優しい誠の笑顔だった。指輪が、そう気づかせてくれた。
「アキバ系……」
 視線の先には、フルスケールで作成された洋子のフィギュアが安置されていた。服を塗る段階で失敗したのだろう、はめ込まれた腕の部分にはまだ赤いペンキが残っていた。
 誠が心配そうに見ている。だが洋子に別れるつもりはなかった。まだ約束は生きているのだ。
 とりあえずフィギュアは壊しておくが。
by 木村 勇雄 2006.07.06 00:14
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
あのお題からサイコスリラーな出だしが来るとは思わず、シャッポを脱がせていただきました。
ただ、誠がモデラーだという伏線をもっとあからさまに張っておいた方が良かったかも?

ところで、このオチはお笑いオチになるんでしょうけど、わりとホラーオチな気がしてなりません。
by 路傍の 2006.07.03 01:13 [1]
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
感想ありがとうございます。

伏線まで張る余裕がなかったです(泣
確かに、張らないとアンフェアですよねぇ。

シャッポを脱いでいただいて嬉しかったです。
ありがとうございますww

もうちょっと工夫が必要ですね。
お題難しすぎ。
by 木村勇雄 2006.07.03 02:23 [2]
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
ども、瓜です。
先に言います。
気を悪うせんでくだされ。

ちょっと思ったんですが。
木村さんの文体はライトノベルに向いてない気がしました。
なんと言うんでしょうかね、堅苦しい感があるワケです。
内容の感想というより、文体の方に気になりました。

内容は路傍さんがおっしゃった事を自分も思いました。
木村さんが久々に明るい話をとの事だったので見てみたのですが、これはホラーっぽいなってのが感想でした。

文章としてはまとまっていて綺麗なんですが、いま一つ何とも言えないーと思う瓜でした。
by 瓜畑 明 2006.07.03 19:44 [3]
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
>瓜さん
大丈夫ですよ。
気を悪くなんてしませんからww
確かにですね、ライトノベルの文体はちょっと忘れています。
しばらく続けて書けば思い出すんでしょうけど。
今はどちらかというとノンジャンルか純文学の方に向かいたいと思っているので、硬い文体になるんですね。
というか、文体くらい操作しろ、俺!

ホラーな点。
ホラーですか。
嫁も隣でやっぱり怖いって言ってるジャン、って言ってます(笑
やっぱり設定がサイコですし、彼氏はサイコですし、洋子もやっぱりサイコなんで、サイコスリラーなんだろうなぁ。

ひょっとして私、明るい話しが書けなくなってますか?
by 木村 勇雄 2006.07.04 00:12 [4]
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
 こんばんわ。 
 前半のホラーなタッチがうまく興味を引き続けて良かったと思います。
 正直、怖さが大きかったですが^^; 最後にホラーが崩れていく感じがして怖さを緩和してくれました。
 最後の、
>>とりあえずフィギュアは壊しておくが。
 これがイイっすね。面白かったです。

 ではでは。
by 真崎 2006.07.05 00:08 [5]
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
 拝読しました。
 こんばんは。日原武仁です。
 サイコでスリラーで面白いです。ただ、これなら洋子の一人称のほうが良かったのでは? と思いました。構成はしっかりしていますし、引き付ける文体は変わらず健在で、見習うべきところです。ただ、やはり事前にブログを読んだせいだと思うんですけれど、オチがよめてしまいました。ただ、それだけで終らない最後の一言はさすがです。
by 日原武仁 2006.07.05 23:38 [6]
RE:ガレージ(第四回電撃掌編王応募作)
 感想どうもです。
 みんなから感想をもらって気がつきました。

 そうですね、これってぜんぜん明るい話しじゃないですね。
 なんで私、明るい話だと思っていたんだろう。
 まあその勘違いのおかげで最後のオチが生まれたんですが。

 そして一人称。
 悩んだんです。三人称にするか一人称にするか。
 最終的に選んだのは三人称でした。
 理由は一人称だと感情的になりすぎるきらいがありますし、枚数的に感情を上手く消化できない可能性が高い。
 説明的な文章を一人称でやろうとすると意外に枚数がかかるんですよ。
 本来ならこの話しってもっと枚数かけてやるものだと思います。
 ぜひ一人称でも書いてみたい。
by 木村 勇雄 2006.07.06 00:14 [7]

NO.35  オレの騎士様 ボクの王様(第四回電撃掌編王応募作)
 ……これは何のアキバ系だ?
 高地栄樹が最初に抱いた素直な感想がこれだった。
 アイスを買いにコンビニへ出かけようと玄関を出た矢先――彼の足元に全身鎧が倒れていた。身体中を隙間無く覆うそれは世界史の教科書、もしくは博物館でしか見られないような見事なまでの鎧っぷりだった。
 思考停止に陥りそうになった頭を心の中で叩きつけ、無理矢理回転させると栄樹はしばし考える。真夏日の今日、このまま放っておいたらどうなるだろう。まず確実に脱水症状を引き起こすのは火を見るよりも明らかだ。かと言って、人道的精神を発揮して助けでもしたら絶対に厄介な事に巻き込まれるぞと、悪い予感だけは抜群に的中する第六感が警鐘を鳴らしているのも事実だった。
 強い陽射しが照りつける中、暑さに負けたかのように心の天秤が見捨てる方へと傾きかけた時だ。何の前触れも予備動作も無く、全身鎧がむくりと上半身を起こすと真っ直ぐに栄樹を見つめてきた。思わずたじろぎ、一歩後退する栄樹に鎧は右手を上げ、
「栄くん、ほら見て。ボク、騎士になったんだよ! 栄くんはもう王様になった?」


 大きくなったら何になりたいかという、他愛のないありふれた話題だった。
 男の子は王様になりたいと話し、忠実な騎士を募集しているんだと語った。
女の子は騎士になりたいと笑い、誠実な王様に奉公したいんだよと微笑む。
 近所の小さな公園の砂場。二人はトンネルを作りながら真剣に話す。
 男の子は少女が仕えるに相応しい王様になることを約束した。
 女の子は少年が恥じない毅然たる騎士になることを約束した。
 幼い故に純粋に、何よりも強く二人は願った。


「で。それはただのコスプレだろ?」
 小学校に上がる前に離れ離れになった幼馴染みから一通りの話を聞き、栄樹は机に片肘を着きながら呆れたように言葉を放った。
「もー、栄くんボクの話ちゃんと聞いてたの? ボクは正真正銘の騎士になったの! はい。これが証拠」
 栄樹の向かいに座る全身鎧少女――今はヘルムを脱いでいるが――は頬を膨らませながら懐から紙を取り出し栄樹の前に置く。
「若槻美亜殿。貴女は騎士検定に合格し、ここに正式な騎士として認定されたことを証します。全世界共通騎士協会……」
 上質紙に印字された文面を声に出して読み、思わずそれをクシャクシャに丸めたくなる衝動を寸でのところで何とか堪えた。なんだ? 全世界共通騎士協会なんていう胡散臭い団体は? これが英国女王陛下の名の元に発行されたナイトの称号ならまだしも、得体の知れない組織に認められて何の意味があるというのだろう?
「ほんと、大変だったんだよー!? 間違いなく一生分勉強したね」
 うれしそうに自慢げに、大げさな身振り手振りで武勇伝を語る美亜。
 これは何の冗談だ? 目の前で瞳をきらきらさせて竜がどうの指輪がどうのとのたまう少女。これが大好きだったみーちゃんと同一人物なのか? 面影もあるし、話し方も共通している所が多い。だが、夢物語を楽しそうに話す彼女と思い出の中の少女とは全く持って重ならない。
「あー、そっかそっか。王様検定には最低でも一名の騎士が必要なんだ。じゃあ、ボクがいるから安心して王様検定を受けられるね」
 騙されているんじゃないだろうか、と彼が真剣に思い始めた時だ。栄樹の様子に構わず話していた美亜が不意に彼の右手を取った。
「……え? 今なんて……?」
 気付いた時には遅かった。いつの間にかに広げられ、見慣れぬ文字で埋まっている紙に栄樹の右手はすでに置かれていた。
「ちょ……!」
 素早く栄樹は右腕を引っ込める。が、どうやら全ては遅かったらしく、
――登録を受付けました。検定を開始します――
 紙は淡く発光し、柔らかな女性の声を部屋に響き渡らせた。
「さあ、今から検定開始だよ!」
 輝く太陽のような笑顔の美亜と対照的に、栄樹の顔には冷たい北風が吹いていた。
「検定……試験……?」
「そうだよ。栄くんは王様になるんだよ! 大丈夫。ボクが付いてるし……それに何より栄くんにはボクの王様になって欲しいんだ……」
 ダメかな? と付け加え、美亜は上目遣いで栄樹を見た。
 その視線から逃げるように栄樹は横を向くと頭を掻く。そして「あー……」と半ばうめくような声を出し、
「ずるいよなぁ……。その顔で頼まれると嫌だと言えないって知ってるクセに……」
 彼の目に、思い出の少女と鎧の少女が重なって映った。あの顔はどうしても聞いてもらいたい真剣なお願いをする時の表情だ。そしていつも栄樹はその願い事を聞き届け、叶えてきたのだ。
「みーちゃんは約束を守った。なら……俺も守らなきゃいけないよな」
 照れ臭そうに言い、栄樹は苦笑した。
「栄くんはやっぱりボクの王様だよ!」
 感極まったのか美亜は机を飛び越え、勢いそのままに栄樹に抱きついた。思っていたよりも全然軽い幼馴染みを受け止めながら栄樹は思う。今年の夏は熱くなりそうだ、と。
by 日原武仁 2006.07.26 22:59
感想ー
なるほどーって感じでした。
面白い。
まだまだ勉強が足りないなーと思う瓜でした。

いきなり騎士が倒れていたのはびっくりでしたけどww
by 瓜畑 明 2006.07.01 16:20 [1]
RE:オレの騎士様 ボクの王様(第四回電撃掌編王応募作)
 う〜ん。
 ちょっと設定に振り回された感がありますね。

 短い中できちんと書かれているんですが、背景の説明部分が足りない気がします。

 削るんであれば脱水症状云々のところで、過去の話か騎士になった少女と栄樹の関係に文字を割いたほうが良かったのではないかと。
 それと鎧を着た騎士は抱えられません。たぶんww。

 話自体が面白いだけに惜しい気がします。
 唐突で物語りに引き込まれる主人公というタイプで、いくらでも発想が膨らみます。
 たぶんこれは続き物として使うタイプの話なんだと思いますよ。
 掌編で使うにはもったいない。
 そう思いました。
by 木村勇雄 2006.07.02 22:06 [2]
RE:オレの騎士様 ボクの王様(第四回電撃掌編王応募作)
 感想ありがとうございます。

>瓜さん
 いきなりびっくりがこの話の狙いでもありました。楽しんで頂いて何よりです。

>木村さん
 文字数的には難なくクリアーしたんですが、やっぱりこうインパクトというか、設定を消化しきれてないことは日原の思うところでもありました。二人の過去を少なく、あえて言葉遊び的な対比にしたんですが、逆にこここそ文章を割くべきだったのかもしれません。
 長編を視野に入れて書いたことは確かです。というか、どうも日原は「テーマだけの作品を作る」ということが苦手みたいで、なんだかんだでこういう形になってしまうようです。ですから全体の大まかな設定や話しは出来ていたりします(その一部が“ジャンクワールド”で垣間見れます)。ちなみに鎧はファンタジーっぽい魔法的な不思議金属なので軽いとういことでひとつ。
by 日原武仁 2006.07.26 22:59 [3]

NO.33  【掌】太白、湖中に月を掴むか<第二回企画テーマ小説>
夜の闇が水面を染める。
暗き湖面に一筋の光。
それは月光。
青山に囲まれたこの湖を静寂が満たす。
時折、吹き抜ける風が木々を揺らす。
ユラユラと揺れる水面。
湖面を揺らすのは一艘の小舟。
その小舟には一人の老翁と一本の竹筒。

「あぁ…」

老翁の吐息。
それはこの湖への感嘆か、それとも乱世への嘆きか。
白髪白髭の老翁はひっそりと水面を漂う。
どこか富貴を思わせる顔を草臥れさせ、老翁は竹筒を手に取る。
月光に弾かれる闇。
風によって奏でられる緑木の音。
深く、そして蒼い。

「我、詩は千丈、歌は百篇詠う者なれど…」

竹筒から盃に酒を注ぎ、一杯また一杯と盃を呷る。

「我が生…、幸は非ず」

老翁が盃を運ぶ手を止め、水面に浮かぶ月に眼を移す。
湖面に映る月は何も与えず何も奪わず其処にただヒッソリとある。

「天子に召され廷にいくども、奸臣に疎まれ野に下る」

老翁の独白は続く。
一陣の風が老翁の髭を巻き上げて去って行く。

「乱世起こり、逃げ惑い、我、山中に潜む」

何を急くのか?
老翁は盃を湖に投げると、竹筒に口を添える。

「人、我を嗤う。あぁ、愚かしき…」

筒中の酒も無くなったようだ。
老翁はそっと手を膝に添える。

「酒と月」

竹筒を湖に放り投げ、ユラリと櫂を動かす。
小舟はゆっくりと湖面に浮かぶ月へとその身を近づける。

「我が親友にて、我が愛すべきモノ」

月まではそうかからなかった。
手を止め、月を望む。

「あぁ…」

再び吐息。
静寂と、木音の繰り返し。
短く、長く、高く、低く。

「あぁ…」

老翁が嬉しそうに微笑む。
ただ、瞳に浮かぶ表情は、悲しみ。

「月よ…」

老翁が手を伸ばす。

「月よ…」

身を乗り出し、触れようともがく。
水面の月はユラユラと。

「月…」

老翁は舟上から身を投げた。
ドブリと言う音が一つ。
そして静寂。
静かに…。
そして、静かに…。



何事も無かったように月は其処に佇む。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
唐の太白。
それは李白のこと。
酒好きで自由奔放な彼を敬愛して書いた話。
これは彼が溺死したという逸話から書きました。
言葉は結構選んで書いてみました。
雰囲気を感じてさえもらえれば一興かなと。
by 瓜畑 明 2006.07.08 14:48
RE:【掌】太白、湖中に月を掴むか<第二回企画テーマ小説>
ども、西向くです。
読みました!

瓜さんも自分で書いてますけど、「読む」のではなく雰囲気を「感じる」作品だと思いました。詩的なんですよね。
良い雰囲気です。自分もこんな感じで「皓々たる〜」を書きたかった(><)
瓜さんの作品は、前回のヴァンパイアの作品もそうでしたが、雰囲気が素敵です。そんな言葉遣いができるようになりたい……
by 西向く侍 2006.06.19 23:07 [1]
RE:【掌】太白、湖中に月を掴むか<第二回企画テーマ小説>
キム兄です。

良いです。確かに良いです。
風情もあるし、言葉も選ばれている。雰囲気を持った作品というのはなかなか書けるもんじゃありませんからね。
はっきり言って、この作品は良いものを持っています。
作品に独自の雰囲気を醸し出せる作家ってのはそういません。
そりゃ、プロはそうでなければいけないんでしょうけど、アマチュアでそういった作品を書く人はなかなかいない。
その点、この作品は選ばれた言葉の一つ一つに雰囲気が閉じ込められている。作品内で世界が動いている。
余計な説明は省いているが、それがまたひっそりとしていて良い。

多少の誤字脱字はお愛想の範囲です。
もっともっと文章選びを洗練させていけば、作品は完全に近づきますよ。
瓜さん、良い作品を書かれました。
拍手です!

=======================
あちらからの転記です。
by 木村 勇雄 2006.06.20 02:33 [2]
RE:【掌】太白、湖中に月を掴むか<第二回企画テーマ小説>
 ラノベ好きの僕としては少し物足りない感じもしますが、書いておられる通りに雰囲気を感じることができましたよ。
 また言葉をよく選ばれていると思います。その中に、読めない漢字がちらほらと(汗)。でも、感じることはできました。
 また、最後の言葉が素敵です。僕も一度、何処とか此処、とか使ってみたいんですけどね。
by 2006.07.08 14:48 [3]

NO.31  ファントム・ペインW〜デッド・エンド・グラウンド〜(第一回三題話)
 様々な要因が重なって偶発的にエリアが生成されることがある。それらは不安定であるために数日で消滅、もしくはシステム管理者に消去される。だが稀に不完全ながらも安定し、消去出来ない――あらゆる干渉を受け付けないエリアが誕生してしまう。それがD.E.G(デッド・エンド・グラウンド)だ。確認されたものは八箇所あり、俺達は二週間前に発生したというD.E.Gに来ていた。
 ルートタウンとエリアを繋ぐゲートオーブからやたらに長い坂道を登りつめ、到着したのが二階建てのショッピングセンターだった。
「ファンタジーな世界に生活感溢れる建物ってのはシュールだな」
「D.E.Gでの建築物は五つ確認されている。いずれも神殿やダンジョンだが……これは何の冗談なのだろうな」
「この世界と現実はどこかで繋がっているんだー、とか考えれば楽しいと思うよ」
 真剣なコーヘイに対し、ユリはどこまでも気楽だった。
「早く入ろうよ。原因探しは運営会社の仕事だよ」
 中が見たくて仕方ないらしいユリに引っ張られ、俺達は探検を開始した。


 自動ドアを潜り、無人のレジを抜けたそこは商品棚が整然と並ぶ、特に代わり映えのないものだった。外見も一般的なら内装も普通。違いと言えば陳列されている品物がアイテムだというくらいか。価格は通常の三分の二前後。ここで買えたら大繁盛間違い無しだ。
 一階を見て回ったがモンスターは一匹も出ず、棚が続くだけで全く持って味気ないので二階へ移ろうとした時だ。階段脇の商品棚の裏側に扉があるのを見つけた。
 扉の事を告げると、俺とユリが見守る中、コーヘイは商品棚に手を伸ばす。と、棚は静かにスライドしたのだ。
「うわー! BBSに無い情報だ〜。レアアイテムが隠れてたりしてぇ〜?」
 誰も見つけていない隠し扉……ユリならずともドキドキものの展開だぜ。
 現れたのは非常口のような鉄扉だ。コーヘイはノブを慎重に回していく。鍵は掛かってないらしく、ゆっくりと扉は開いていき……
「……夕陽?」
 いきなりの光景に呆然となる。眼前で海岸線に沈もうとしている真っ赤な太陽が輝いていたからだ。
 俺は慌てて振り返った。砂浜の向こうは壁のような断崖。やってきた扉はどこにも無く、それがあったと思しき場所にゲートオーブが置かれていた。
「閉じ込められたという訳ではないようだ」
いつの間にか振り向いていたコーヘイは安堵するような息をついた。
「ん? 何か光ってない?」
 ユリの指差す絶壁の隙間から光がもれて――違う。岩壁に突き刺さった何かが光を反射しているのだ。夕陽に照らされた世界の中、それはなお紅い光を放っていた。
俺達は頷き合い、光へと歩を進めた。
 

 それは灼熱の炎を思わせる、妙に尖った形の弓だった。ルビーを溶かして作ったような紅玉の弓が夕陽を浴び、濃く紅い影を落としていた。
「……どこかで見たことあるんだけど……?」
 しげしげと眺めていたユリが難しい声を出し、腕を組んで考え込む。レアハンターと称し、あらゆるアイテムに精通している彼女がすぐに思い出せないものか……すっげぇ興味あるね。
「“逢魔の弓”……」
 コーヘイが緊張と驚愕で顔を染め上げ、硬いものを飲み込むような声を出した。
「それだよそれ! ふわー、実在してたんだぁ……」
 ぽん、と手を打つユリ。
 プレイヤーの職業は六種類あり、世界を救った“六大頂”に由来する。盗賊の元になったのは《罠遣い》、《夕闇鬼光(ダブルマインド)》グラガルクで、彼が愛用した弓が“逢魔の弓”だったはず。設定グラフィックだけでゲームには無いという話だけど……どうやら存在していたようだ。
「こいつはまた最高クラスのレアアイテムが見つかったもんだ。日頃の行いが良いせい……コーヘイ? なんか顔色が悪いぜ」
 呪文使いの顔は酷く青ざめていた。まるで歴史に存在してはいけない遺跡を見つけてしまった考古学者のように。
「……すまない。……あまりに珍し過ぎるものを見たのでな。柄にも無くびっくりしてしまったようだ」
 そう言ってコーヘイは無理矢理笑ってみせた。
「そいつ取りなよ。盗賊しか使えないんだろ?」
 弓の周りを子犬のように行ったり来たりしていたユリは、俺に「分かったー」と答えると弓に手を伸ばした。
 弓はあっさりと岩壁から抜けた。そしてすぐに装備したのだろう。彼女の左腕に弓のグラフィックが固定された。
「ふわー! 全部のステータスが20%もアップしてるー!」
 それからユリは「すごい!」を十回くらい繰り返してはぶんぶんと弓を振り回していた。
「さて。そろそろ帰るか」
「……そ、そうだな」
 俺の言葉にコーヘイはじっとユリを――“逢魔の弓”を見つめながらどこか上の空で答える。……もしかしてコーヘイ、あれが欲しかったのかな……? 無理も無い話だがそれは諦めてもらうしかないからな。
  はしゃぐユリを呼び寄せ、俺達は夕陽の沈む海岸を後にした。
by 日原武仁 2006.07.08 14:33
RE:ファントム・ペインW〜デッド・エンド・グラウンド〜(第一回三題話)
ども、西向くです。
読みました!

今回はゲーム内ってことで、コーヘイくんが再登場ですね(^^)
ブログに書いてあったとおり、今回は字数を合わせるためにかなり省いてある印象が強かったです。キャラ同士の掛け合いがやはりもっと欲しいですね。日原さんがおっしゃっていたように「ストーリーを追っただけ」になってしまっていると思います。
なんだかラストも味気ない感じでしたし……

三題話、字数制限……自分は、おそろしくて手を出せないでいるんですけどね(^^;
by 西向く侍 2006.06.19 22:48 [1]
RE:ファントム・ペインW〜デッド・エンド・グラウンド〜(第一回三題話)
 私はこの作品を一つのエピソードとして見ました。
 作品として独立するにはちょっと足りないかな、というのが正直な印象です。

 ただ、三題話という制限の中、上手く物語りに溶け込ませ、かつ、今後に対する伏線もふんだんに含んでいる点で、ファントム・ペイン全体の評価は高くなりました。
 うん、面白いですよ、この作品。

 さりげなく「逢魔が刻」まで忍ばせているとこは感心します。

 今回の話で、作品全体の先行きが読めなくなってきました。
 いったいどれくらい話が膨らんでいくのだろうか。
 終着点が予測できません。

 さらに現実とRPGという二点を持っているので、今後、この二つが絡んでいくのかな。
 病気の性格から、RPGが現実世界に侵食していくような気がします。

 という私の妄想はおいておいて。

 私は楽しく読ませていただきましたよ。
by 木村勇雄 2006.07.02 21:46 [2]
RE:ファントム・ペインW〜デッド・エンド・グラウンド〜(第一回三題話)
 まさか三題話でも続けるとは……恐れ入ります。すごいです、二千文字でここまで書けるとは。
 しかし、本当に作り込まれていると思います。デッド・エンド・グラウンドなんて、本当にありそうです。
 でも、やっぱり文字数が少なすぎますよね。楽しみにしていたユリとのやり取りがなく、残念です。
 それにしても、やっぱりコーヘイは怪しいですね。何かありそうな予感がします……!

 次は現実なんですかね? 優希先輩が楽しみです。
by 2006.07.08 14:33 [3]

NO.30  スタートまで(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 このショッピングセンターでは毎月五日(ゴーの日)、カートレースが行われている。
 重いものなどを買うときなどに使う、あのカートである。
 このレースは今年の一月から始まったもので、今日、四月五日で四回目になる。
 毎回百人以上の参加者が集まるのだが、それを聞いていつも僕は首を捻ってしまう。
 まず、危ない。レースのルールは、ただカートを使って十キロのコースを走るというシンプルなものだが、カーブのところにさえ、クッションすら何も置いてない。さらに、責任は自分で取ってください、ときている。第二回の時にガラスを割ってしまった人がいたらしいのだが、その修理代を何と自分で払ったらしい。さらに第三回の時には骨折をした人がいたのだが、その人も治療費は全額自分で負担したらしい。……これは確実にぼったくりだ。でも、その二人は今回も当然のように参加している。骨折をした人はまだギプスが取れたばかりと言っていたのに、大丈夫なんだろうか。
 さらに、景品がしょぼい。優勝した人には、トロフィーと千五百円分の買い物券と賞品。二位の人には賞状と千円分の買い物券と賞品。三位の人には五百円分の図書券と賞品。五百円分の図書券って……小学生かっ! ちなみに、景品は毎回違う。第一回は、いち、わん、犬、ということで犬のぬいぐるみ。第二回は、に、ツー、つう、痛、ということで痛み止め。第三回は、さん、スリー、スリ、ということで防犯ブザー。で、第四回目の今回は、よん、フォー、ということで、今大人気の某腰振り芸人バージョンの黒ひげ危機一髪。ちなみに余談だが、この芸人はすぐに消えると思っていたので、それが少し悔しかったりする。で、次回の第五回には、僕は、ご、碁、ということで囲碁セットだろう、と思っていたのだが、その日は五月五日で、ゴーゴーの日らしく、何だか景品がすごくなるらしい。まぁ、それでも大したことはないだろうと思うのだが。

『スタートまで、あと、三分です。スタートまで、あと、三分です』
 と、僕はそのアナウンスで我に返った。いつもこうなのだ。スタート直前になると、どうしても走ることから逃げようといろんなことを考えてしまう。
 ふぅー、と息を吐く。汗ばんでいた手をズボンで拭い、カートを握り直す。
「あれ? やっぱり今回も緊張してるみたいじゃん。弱虫策士?」
 隣から聞こえたその声に、僕は苦笑して言葉を返す。
「だから、その呼び方は止めよーよ。いつも言ってるでしょ? 暴走特急」
「お互い様だろーが」
 暴走特急も、僕に苦笑を返す。ちなみに僕たちが呼び合っている名前は、表彰された人だけに与えられるあだ名みたいなもので、このレースを主催している社長が、レースの様子を見て勝手に決めているようだ。暴走特急は、いつもスタートと同時にカートを蹴り飛ばし、あとは自分で走って、ゴール寸前になってカートを掴んでゴールするため、そう名付けられたのだろう。それを聞いたとき、僕は思わず何度も頷いてしまったほどだ。ちなみに僕の弱虫策士とは、僕がまったくスピードを出さず、脱落者待ちをしているためだろう。でも、それだけでは三位にはなれないのだ。一応、安全なところではスピードを出すようにしている。……まぁ、弱虫策士がピッタリだということは否定できないのだが。ちなみに暴走特急は二位で、それよりも更に早い奴がいるのだ。そいつの名前は――
「そろそろお喋りはお止めください。もうじきスタートです」
 ウルトラマンカート。こいつのことだ。こいつはいつもカートの下の荷台にうつ伏せになり、手を伸ばして床を掻いているので、こういう名前になったのだろう。僕も暴走特急も、一位のこいつにだけは頭が上がらないのだ。こいつは第一回の時からずっと一位をキープし続けている。暴走特急も僕も、ずっと二位と三位にいるのだが、いつまで経ってもこの順位が変わることはない。
『スタートまで、あと、三十秒。……スタートまで、あと、二十五秒』
 ふぅー、と僕が緊張を解すようにゆっくりと息を吐いていると、いつも思い浮かぶ光景がある。それはこのレースが終わって表彰式の時、一位になって表彰台に上っている自分の姿だ。いつもは後ろからそれを見るだけなのだが、その時、ちょうど夕日が出ていて、ウルトラマンカートがシルエットみたいに見えるのだ。その瞬間が僕は好きだった。それでいつも、僕はそこに上ろうとレースに出ているのだ。おそらく参加しているほとんどの奴が、そうなんだろうと思う。
 と、そこでまた僕の思考は中断された。
 スタートまで、あと、十秒。僕はもう一度ふぅー、と息を吐く。どこまでも続く、長い坂道のコースを見つめる。

 僕たちは今日も走る。
 怪我をするかもしれない。もしかしたら、死ぬことがあるかもしれない。
 でも、それでも良いのだ。

 走り出したら、もう止まれない。


――――――――――――――――――――
……正直、これはどうなんでしょうかね。
けっこう前から書き終わっていましたが、もう何日も公開するか迷ったりしていました。
結局、感想を貰えなきゃ何も変わらないということで、公開します。
どんどん批判してやってください、お願いします。
by 2006.07.08 14:22
RE:スタートまで(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
ども、西向くです。
読みました!

これ、自分はかなり好きです。
馬鹿馬鹿しい内容なんですが、根っからのコメディじゃないところが良いです。むしろ自分はかっこよさを感じました。
「走り出したら、もう止まれない」
ラストがこのフレーズで、ぐっと来ました(^^)

惜しむらくは、自分としてはショッピングセンター内でのレースという設定がほしかったんですが、長い坂道を登場させるためか、屋外レースだった点にちょっとがっくりw

作品公開場にある作品の中で、現時点で西向くランキング・1位です。
by 西向く侍 2006.06.19 22:38 [1]
RE:スタートまで(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 ありですね。
 いいですよ、この作品。

 むしろそう来たか、と発想の豊かさに羨望を覚えました。
 ショッピングセンターのカートでレース。
 まさに幼い頃に夢見た物語です。

 結局5月の賞品がなんだったのか分からずじまいです。気になります。

 技法的には改行を少なくしてスピード感を出し、なおかつテンポの良い会話文と決め台詞がきちんと決まっているところが素晴らしいです。

 一つだけ気になったのは。
 カートで十キロはちょっと辛いです。
by 木村勇雄 2006.07.02 23:32 [2]
RE:スタートまで(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 拝読しました。
 こんばんは。日原武仁です。
 なるほど、そう来たか。て、感じですね。このある意味無意味なことに命をかける、みたいな熱さが実は日原は好きです。あと、参加人数と言うか、規模みたいなことが書いてあったら良かったな、と思いました。
by 日原武仁 2006.07.05 23:16 [3]
RE:スタートまで(第一回三題話『長い坂道』『夕暮れ時』『ショッピングセンター』)
 感想、ありがとうございます。

>侍殿
 気に入ってくださり、嬉しいです! ラストの言葉は、自分でも書きながら惚れ惚れしておりました(恥)
 西向くランキング、一位!? ありがとうございます!! そんな栄誉ある賞(?)を頂けるとは……。その名前に恥じない作品を、書いていきたいです。

>キム兄
 そ、そんな眼差しを向けないでください!(髪をかき上げながら)
 そうなんですよねー。僕もガキの頃はカートを押しながらウィリーとかやってました。今思うとものすごく恥ずかしいのですが。
 そうですそうです。スピード感を出し、テンポの良い会話文ですよねー、うんうん(意識無し)
 ちなみに、初めは42.195キロにしようと思っていたことはナイショです(何)

>日原さん
 そうですよねー、この熱さ! 情熱! 伝わったのなら、嬉しく思います。
 一応百人以上と書いてたのですが……、ごちゃごちゃして分かりませんね(汗)。次は気をつけますです。

 本当に、自分ではどうなんだろうなー、と思っていたので、嬉しいです! この言葉を励みに、精進していきます。
by 2006.07.08 14:22 [4]

NO.29  【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編(回顧編)>
「フェリスってさ、よくラズノと居るよねー」
ちょうど昼のランチ時。
学園の中庭で一緒に弁当を広げていたリューナ・マトルクスが唐突にそう言った。
「そうかな?」
なぜか、その返答は誤解を生んだらしい。
「またまたー、照れちゃって」
なんて返事をキラキラと好奇心に輝く碧眼と共に返された。
その瞳が綺麗で、少しうらやましいなと思いつつ。
「でも……、あんまり会ってないけど?」
と、自分的にもっともなことを言う。
「でもねー。ほら、教会で……」
リューナはそう言うと手を口にあてて、ウフフフフといやらしく笑いだした。
なるほど。
それで納得。
「あぁーー、教会か」
そう言って、記憶を手繰り寄せる。
そうか。
確かによく教会でラズノとは会うなと思い出す。
「やっぱり、密会なんだ。ウヒャーー」
と、隣で悲鳴をあげるリューナをおいといて回想に耽る。
そうだったのだ。
あそこは思い出の場所だった。
だからこそ、ラズノと良く会うのだ。
一年という年月は危機感を薄めさせ、大切なモノを増やしていく。
そう。
あの教会は自分にとっての『喜び』と『謝罪』シンボル。
そして。
ラズノにとって、『哀しみ』の記憶。
そうだ。
昔を…と言っても一年前ほどだが、振り返るのは久しぶりな気がした。
故意に思い出さないようにしていた気もするが。
哀しい始まりの記憶が脳裏に映し出される。


   ―†―†―†―


――彼女と会ったのは月の綺麗な夜だった


彼と出会ったのは月の綺麗な夜でした――





☆――清き聖夜に哀しみの歌を――☆





「はっ、はっ、はっ」
激しい息遣いとガサリガサリという音。
フェリス・ソプシーは逃げていた。
茶色の長髪を乱れさせ、息を荒くさせながら森の中を一心に走っていた。
ガザリガザリ…
自分のとは違う足音。
自分を追って来る者の足音。
「クソッ…、クソッ…」
悪態を付き付き、足を早める。
「お嬢様、いい加減に諦めなされ」
後方から聞こえてくる声。
自分を追いかけに来た声。
後ろを振り返り、追っ手を確認する。
映るは木々。
そして闇。
後方には誰もいない。
「お嬢様、『闇隠れ』をお忘れで?」
嘲弄する声。
バカめと言い返せず、歯がみする。
『闇隠れ』
それは吸血鬼種に伝わる闇を操る術。
闇に紛れ、姿を隠す術。
「クソッ」
正体の見えない追跡者に悪態を付く。
『闇隠れ』が出来るならとうにやっている。
悲しいかな。
逃げるのに精いっぱいで術を唱えるほどの余裕も体力もないのだ。
「帰れ!」
「お嬢様が付いて来てくださるなら」
闇から聞こえる声は丁寧に、不可承諾な要求を返してくる。
「うるさい!あんな処に帰ってたまるか!」
「あんな処など」
注意するような声音。
イライラする。
「クソ親父の処なんて」
憎しみを込めてギリリと歯を鳴らす。
父親との思い出を思い出し、歯を食い縛る。
一つも。
一つも良いことがなかった。
父の目は子供を、私を見ていなかった。
私の持つ才能を、力だけをずっと見ていた。
そう。
父親は私を『道具』としてしか見ていなかったのだ。
「クソ親父め、私の事なんかこれっぽっちも思っていないくせに…」
「勘違いですよ、お嬢様」
声がフフフと笑ってそう告げる。
「何が!どこが勘違い!?」
激昂。
血が燃えるように体内を駆けめぐる。
ザッと立ちどまる。
「クソ親父が私の事を思っていた?」
後方を向き、「思っていた」に力を入れて問う。
足を止めたことは後悔に値するが、結局は一緒だろうと気持ちを切り替える。
結局捕まるかもしれないなら、一か八か抵抗して勝機を得ようということだ。
「ええ、それはもう大切に」
「姿を現しなさい」
視線の先の闇に向かって凛とした声で告げる。
クダラナイ。
クソ親父を含めその周りは「大切」の意味が分かっていないらしい。
「納得していただけまして?」
声音から判断して追っ手は少なそうだ。
ゆっくり息を吸い吐きして呼吸を落ち着ける。
「そんなワケないでしょ」
あっさりと告げる。
そう、これは宣戦布告。
「と言うことは抵抗でもするおつもりで?」
相手は理解したらしい。
帰ってきたのは丁寧だが挑戦的な声音。
未だ姿を現さない追っ手に身構える。
「早く姿を現しなさい」
もう一度凛と告げる。
正体の見えない敵と戦うなんて犬死にするだけだ。
「ほう、でわ」
その声音は短くそう言うと、その姿を現した。
風にはためく黒いマント。
全身を覆う黒装束。
血の気のない真っ白な顔。
そして。
チロチロと邪悪に光る紅の瞳。
「お嬢様、ごきげんよう」
闇から姿を現したその男は優雅に一礼をした。
「……『真紅の影』自ら、お出まし?」
「ええ、ご主人様のご命令ですから」
現れたその男。
最悪だった。
冷や汗が一滴、いやな感じで頬を伝っていく。
できれば関わりたくないヤツが自ら出向いてきたのだ。
ナドゥール・カルタシス。
『真紅の影』の異名を持つ、父の側近だ。
「そう、ごきげんよう。ナドゥール」
感情を抑えて返答。
高ぶる感情は戦闘に不向きだ。
それに「恐れ」を相手に悟られるも腹が立つ。
「で、抵抗を?」
「あなた一人かしら?」
白い顔がグニャリと歪む。
ナドゥールは笑っていた。
おかしそうに、さも嬉しいと言ったように。
「さあ、どうでしょう?」
バカにしている。
腐れ親父の子供と言うだけで敬い、道具としての能力だけしか見ていない瞳。
そして今は弱者を見下した冷たい瞳。
ギリッと相手を睨みつける。
「答えないのね」
「お嬢様こそ、私の『で、抵抗を?』に答えていませんが」
「くだらない」
嫌悪感を込めて吐き捨てる。
ナドゥールはピクリとも顔を変えない。
「もし、お帰りになさるならお教えしますよ」
グニャリと曲げたままの顔で告げる。
「却下」
キッパリと告げる。
その途端にナドゥールの顔が変わった。
グニャリとしていた表情が釣り上がっていく。
そして圧倒的な鬼気。
首元に突き付けられる殺気。
予想していたが、恐ろしい。
「そうですか、それは…」
「何かしら?」
ゴクリと唾を飲み込み、何でも良いから声を出す。
何もしなかったらナドゥールの発する殺気に負けそうなのだ。
止めどなく流れる冷や汗が絶対的な恐怖を体現する。
「少し眠って頂く必要があるようですね」
その言葉とともにナドゥールは手を突き出した。


   ―†―†―†―


清潔感漂う白い色に包まれた室内。
艶のある茶色の、間隔ごとに置かれた長いす。
石膏でつくられた人型。
様々な色のステンドグラスで彩られた窓。
神聖な雰囲気のこの場所は、カトリック系の学校内に設立された小さいながらも立派な教会。
その教会の長いすに坐り、本を読む少年が一人。
その少年、ラズノ・ホルクリンはこの教会が好きだった。
ただ今時刻は夜の9時。
ちょうど月光がステンドグラスを通り抜け、色とりどりの荘厳な光を教会内に降り注ぐ時刻。
この時刻がラズノは一番だと思っている。
ペラリ……、ペラリ……
本を捲る音が教会に響く。
それから何ページほど読んだ時だろうか。
「ラズノ、今日も来ていたか」
ガチャリと音をさせて、一人の老翁が懺悔室から出てきた。
「こんばんわ、オートさん」
本を閉じ、顔を上げる。
その老翁、オート・モールはこの教会の牧師である。
そして、ラズノが教会が好きな理由の一つでもある。
「まったく、変わった子だよ」
そう言ってオートは微笑み、ラズノに近づくとクシャリと頭を撫でた。
それが嬉しくて、恥ずかしくって。
「お、オートさん!子供じゃないんだから!」
そう言って手を払いのける。
「そうだったな。悪い悪い」
オートさんは大げさに驚いたふりをしてから、笑ってもう一度クシャリと撫でた。
「オートさん、今日も歌うんだよな?」
オートさんの撫でが終わってから聞いてみる。
この教会の好きな理由の最後の一つ。
それはオートさんの讃美歌である。
「あぁ、待ってなさい」
オートはうれしい返事を返すと、歌本を探し始めた。
オートの讃美歌は9時半に始まる。
低く、重厚で、そして荘厳で。
明るくて、幸せな気持ちになれる讃美歌。
「よし、そろそろだね」
オートが時計を見た。
時刻はもちろん、9時30分。
「うん」
オートは小さく頷くと、教台に上がった。
二人だけの教会に聖歌が響く。


   ―†―†―†―


「お嬢様、もう終わりで?」
フェリスは倒れていた。
「ックソ…」
圧倒的だった。
地面の冷たさを感じながら戦いを顧みる。
一瞬の呟き。
そして闇の牙。
ナドゥール・カルタシスはやはり強かった。
あたりを見回すとそこにあったモノがない。
木々がない、地面がない。
彼が放った闇がそれらをえぐりとって行った。
否。
飲み込んだのだ。
「ナドゥール…、やってくれるじゃない」
冷たく見下ろす父の側近。
その言葉に反応してか彼が口を開く。
「お嬢様も良く頑張られたようですが…」
ナドゥールがいったん言葉をきる。
確かに善戦はした。
わが身を貫こうとする闇の牙を弾き返した。
飲み込もうとする闇から逃れた。
時には反撃した。
しかし負けた。
「弱い。果てしなく弱い」
ナドゥールの声が闇に響く。
圧倒的。
ナドゥールの言葉に歯がみする。
「フム、興ざめだ」
ナドゥールの呟き。
お嬢様と呼んでいた時とは正反対の見放した声音。
吸血鬼としての、暗殺者としての呟き。
悔しさに身を震わせる。
「では、お嬢様」
スイッチが変わったようにナドゥールがこちらを見た。
ガサリと音を立てて、ナドゥールがこちらへと歩を進める。
「そろそろ一緒にお帰りいただ…」
「嫌だ!!」
叫んだ。
体は戦いで痛めつけられ、すぐには動きそうにない。
でも、叫んだ。
それは抵抗。
どんなになっても抵抗するという気持ち。
当たり前だがナドゥールの歩みは止まらない。
後、20歩、19歩、18歩と終わりが近づいてくる。
「いい加減にいたしましょう」
それは勧告。
私にとっての『逃亡』、ナドゥールにとっての『児戯』の終わりを告げる言葉。
「い、嫌だ!」
足をバタバタさせ遠ざかろうとする。
終わりたくない。
あんな処に戻りたくなくて逃げ出したのだ。
ナドゥールは何も言わない。
代わりに歩音が回答を告げる。
諦めろと。
終わりだと。
「嫌だぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」
叫び。
そして祈り。

後、6歩。

終わる。
ガムシャラだった。
逃げたい。
それだけ。
もがいていた。

後、5歩。

【・・・・・・・・・】
知らず知らずに唱えていた。
祈っていた。
「遠くへ逃げたい」と。
人語ではない、我らの言葉。
逃れるための祈り。
闇を渡る術。
『闇逃れ』
出来るワケなくて、でも、すがっていた。
つらい時、いつも自分の部屋で唱えていて、一度も成功しなかった術。
いつも落ちこませるだけだった術。
【・・・・・・・・・】
でも、唱えていた。
どんな事でも。
何でも良いからすがっていた。
逃げたくて、逃げたくて。

後、4歩。

「受け入れろ。下らん抵抗は見苦しい」
黙っていたナドゥールが口を開いた。
さっきよりも冷えきった目でこちらを見つめる。
【・・・・・・・・・】
無視し、唱える。
「逃げれるとでも思っているのか」
ナドゥールは笑っていた。
「この絶対的状態でもまだあがくか」
笑い声は大きくなる。
割れるような呵呵大笑。

後、3歩。

もう足を動かすことなく唱えていた。
正確に言えば、足を動かすのももどかしかったのだ。
ただ、唱えていた。
『光のある処へ』と。
『安心できる処へ』と。
【・・・・・・・・・】
ナドゥールは無言。
ただ、笑っていた。

後、2歩。

オワル。
その一言が頭が支配していた。
【・・・・・・・・・】
声が枯れてきた。
知らず知らず涙を流していた。
【・・・・・・・・・】
イヤダ。
オワリタクナイ。
モドリタクナイ。
【・・・・・・・・・】

後、一歩。

もう限界だった。
声が出ない。
【・・・】
「クハハハハハハハ!」
耳をつんざく笑い声が聞こえていた。
祈りは届かない。
そして終わる。
もう。
いや、また繰り返す。
悪循環の日常。
嫌悪の日々。
「ゆっくり眠りたまえ」
そうナドゥールが言った。
もう終わりだと目をつぶった。


……終わって良いのか?

暗闇の中、不意に誰かが問うた。
その問いに諦めたんだと返す。

……それは本当か?

その問いに答えられなかった。
悔いはあるからだ。

……では何故、諦める?

悔いを見抜いたのか。
声はさっきより厳しかった。
もう、終わってるからだと答える。

……逃げたくないのか?

逃げたい。
本音だった。
いや、それが悔い。
逃げられないんだという諦め。

……逃げたいか?

もう一度、声が問いかける。
正直な気持ち。
逃げたい!
そうハッキリと告げた。
諦め切れなかった。
逃げたい。
それが願い。

……じゃあ、諦めるな。

そう声が言った。


目を開けていた。
【・・・・・・・・・】
そして唱えていた。
目の前には闇の牙。
ども、それを怖れてはいなかった。
ただ、心から言葉を紡いでいた。

グワリ

突然だった。
世界が揺れた。
揺れたと言うべきだろうか。
歪んでいた。
「む!?」
驚きの声が聞こえた…気がした。
【・・・・・・・・・】

グワリ

唱え続ける。
次に感じるのは体が溶けていく感触。
いや、飲み込まれていくと言うべきか。
「何!?馬鹿な!」
牙が迫っていた。
【・・・・・・・・・】

グワリ

三度目の衝撃と共に私は気を失った。
最後に聞こえたのは「バカな!」と言う驚きの声。
吸い込まれていく。
闇の中へ。


―†―†―†―


――the more valuable one .
尊い御方よ。

――Good luck to self etc.
我等は祈る。


屋根へと響く賛美歌にラズノは聞き入っていた。
静かでいて、ジンワリと心に染み渡る歌声。
思わず口ずさんでしまう。
オートさんは微笑みながら一文字一文字言葉を紡いでいく。
歌っていく。


――it saves -- have .
救われんとして。

――be saved .
助からんとして。


「あ……ぁ」
感嘆の声を上げるのももどかしくて、でも声を上げてしまう。


――The more valuable one.
尊い御方。

――Before [ dear ].
愛したまえ。

――Good luck to self etc.
我等は祈る。

――And I will render.
そして尽くそう。


最後の一説。
そして歌が終る。
そう、思った時だった。



グワシャリ!



音がした。
破壊音。
砕け散る音。
音がした方を振り向く。
大きな塊が落下していた。
そして、キラキラと光る小さな何かも降ってきた。
その何かに気付く。
それが恐ろしくて、眼を見開いて走り出す。
「オートさん、危ない!!!!」
キラキラと光るものはガラスの破片。
ステンドグラスが割れていた。
そして、ガラスの藻屑が教台に立つオートさんを襲おうとしていた。
教台まで後、五、六歩の時。
オートさんが歌を止め、上を向いた。
「逃げて!!!!」
叫ぶ。
数秒。
それでガラスが突き刺さる。
嫌だ。
「逃げて!!!!」
オートさんが眼を見開いた。
そして。
その塊を受けようと手を伸ばす。
「オートさん!!!」
「ラズノ!!来るなあああああああああ!!」
そしてオートは叫んだ。
その叫びに一瞬の躊躇。
そして。
……遅かった。


グシャリ……


ガラスの大群がオートを飲み込んだ。
「お、オートさん!!!!!!!!!!!」
ガラスの藻屑に駆け寄る。
色とりどりの破片がオートを、ラズノの好きなオートを襲っていた。
ガラスを掻きだす。
掻きだす。
どがったガラスが身を切っていく。
「ラ…ズノ…」
微かに声が聞こえた。
「オートさん!」
呼びかける。
「ラズノ…、手を貸しなさい」
掠れ掠れの声に応えて、手を差し出す。
差し出した手をネトリとした何かが掴んだ。
「ウッ!!」
それがオートの手だと気付いてゾッとする。
すると、その手が小さな腕を掴ませた。
「ラ、ズノ…。女の…子だ、引っ…張ってお…やり」
「でも!」
「いいから」
その声は断固足るものだった。
「……っ、解りました」
頷いて、オートが突き出した手を引っ張る。
ガシャリガシャリと音をさせて現れたのは灰衣の少女。
ちょうど同じ年頃だろうか。
引っ張り上げ、長いすに寝かせる。
すぐに戻りオートを何もない場所へと動かす。
「オートさん!」
その体は血まみれ。
ガラスがあちこちを突き刺していた。
「ラ…ズノ」
「オートさん!だ、誰かを呼んでくる!!」
立ち上がって、走り出そうとする。
「ま、待ち…なさ…」
それをオートは止めた。
「な、何で!?」
「私は、もう…、無理…だ」
思わずこぶしを握る。
「違うよ!」
「違わない」
ハッキリとした拒絶。
それに愕然として、ペタリと足を床につける。
「ラズノ…、歌っておくれ。神への賛歌を。そして哀歌を」
最後にと言ったようにオートはハッキリと告げた。
しばし、沈黙。
駆けだして助けを呼びたかった。
オートさんが死ぬなんて信じたくなかった。
「は、はや……」
息も絶え絶えの懇願にしぶしぶ折れる。
「………解……った…よ」
オートは微笑むと、血まみれの歌本を手渡した。
いつの間にか涙が頬を伝っていた。
息を吸い込む。
歌うのに、涙はいらない。
落ち着け。
落ち着け。
二度、深呼吸をして本を開いた。
凄惨なる血の海。
荘厳なるガラスの破片による月光反射。
さっきまでとは雰囲気がガラリと変わった教会に哀しみの歌が響く。


――the more valuable one .
尊い御方よ。

――Good luck to self etc.
我等は祈る。

――it saves -- have .
救われんとして。

――be saved .
助からんとして。


それは祈り。
助けてほしい。
嘘であってほしい。


――The more valuable one.
尊い御方。

――Before [ dear ].
愛したまえ。


「……!、ナドゥールは!?」
キラキラと輝くこの場で少女が目をさました。
その声に複雑な思いを抱く。
助かって嬉しいという気持ち。
助けなければオートさんは死なないのにという気持ち。
渦巻いていた。


――Good luck to self etc.
我等は祈る。


「君、無事…だったか」
黙っていたオートが口を開いた。
しゃべってはダメだと言いたくて、言えなかった。
「お、おじさん!大丈夫!?」
少女が駆けよる。
「あ、あぁ」
オートが頷いた。


――And I will render.
そして尽くそう。


「そ、そんな……」
少女は愕然と眼を見開いた。
「私が…」
「気に…止まんで良い」
少女は泣いていた。
ひたすら泣いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
そう何度も連呼して泣いていた。
それにハッとさせられる。
本当に泣いていた。
心から泣いていた。
その涙を見て、ラズノは悔い改めた。
もう彼女を憎んではいなかった。
「い…いんだよ」
オートがラズノの気持ちを代弁するように呟いた。
もう喋るのもしんどそうだ。
「それよりも歌ってお呉れ」
最後にオートはそう言った。
少女がこちらを見る。
頷いた。
オートさんが言えなかった最後のフレーズ。
歌おう。
一緒に。
今なら君を許せるだろう。


――Then, wrong will also be allowed.
そうすれば悪も許されるだろう。


二つの声。
そして小さなかすれた声が一つ、割れた窓から差し込む月光が降り注ぐ教会に響いた。
終わった。
そしてラズノは泣いていた。
「あ…りがとう、ラズ…ノ」
小さなか細い声が聞こえた。


―†―†―†―


「フェリス!フェリス!聞いてる!?」
大きな呼びかけにハッと顔を上げる。
回想に耽りすぎたらしい。
「リューナ?」
「もうすぐ、授業始まるじゃない!」
その言葉通り、昼休みの終わりを告げる鐘がなっていた。
「ホントだ」
そう言って、弁当をいそいでしまう。
「早く、早く」
「ま、待って」
立ち上がり走り出す。
「っとに、もう」
怒った顔をするリューナを追いかける。
「そういえばさ」
追いかけながら、先を行くリューノに声をかける。
「ん?」
「私が教会に行くのは『忘れない』為だから。ラズノは関係ないよ」
リューノは半眼でこっちを見た。
「いまさら……。でも、それだけじゃないでしょ」
「それだけって?」
はて、と首を傾げる。
「忘れない為だけに教会に行ってるワケじゃないでしょ?」
「そりゃあ、ラズノがいるから喋ったりはする…けど?」
「でしょう」
「まあ、喋ったりするよ」
「ほら」
リューノは金色の髪をクルリとさせてこっちを向く。
「それはラズノの事を気に入ってるのよ」
その答えに笑って返す。
「でも、別に意味深な話なんてしないしされてないよ?」
リューノがハーっとため息を付く。
「フェリスは鈍いなー」
「な、なにが?」
「フェリス。フェリスはラズノと話してて楽しい?」
「へ?」
リューノの問いかけに聞き返す。
「だから、楽しいか?って聞いたの」
「う、うん。楽しいよ。ラズノといると」
その返事を聞いてリューナが笑った。
いやらしそうに。
そして、うらやましそうに。
「それって……。それがラズノのこと好きってことじゃないの?」
ポツリと。
と言っても、しっかりと耳に聞こえる声でリューナが呟いた。
その返事に顔が真っ赤になる。
「ち、ち、ちがーーう!って言ってるでしょ!!」
「フェリスがラズノに恋し……」
「うるさーーーーーーーーーい!」
リューノの声を遮ろうと大声を上げる。


授業の開始を告げるチャイムと共に、楽しげなハシャギ声が中庭に広がっていった。
by 瓜畑 明 2006.07.15 16:45
RE:清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
英語の歌詞は本当に合っているのか、と訳してみようかと思いましたが、無理でした(苦手教科英語)。
どうも、直です。

いきなり最初のところで「そうかな?」を二回打っちゃってますね。たぶん前の方がいらないんじゃないかと思います。
あと、最後のところ、
>「私が教会に行くのは『忘れない』の為だから。ラズノは関係ないよ」
ですが、ここも、何だか変な感じになっちゃってます。『忘れない』のあとの、「の」はいらないと思いますよ。

というか、ガラスの破片を被ったくらいで人は死ぬんでしょうかね。よくわかりませんが、どうなんでしょう。

とはいえ、面白く読めました。壱さんの時には読めなかった、闘いみたいなものが読めて、良かったです。
では。
by 2006.06.16 21:57 [1]
RE:清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
ども、瓜です。
直さん、注釈ありがとうございました。

現在は改善版第一次です。

>ガラスに関してですが。
破片と言っても、その大きさもマチマチですし。
落下速度と、その破片の大きさ、打ち所 etc。
そういった物により死に至ると曲解していただければいいかなと。
by 瓜畑 明 2006.06.16 23:43 [2]
RE:【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
 こういうのってコラボレーションって言うんでしょうか。

 リレー小説とも違う、私にとっては新しい試みで、一見すると二次小説にも見えますが、それともまた違う。
 良い企画だと思います。

 さて、元の小説である壱さんの作品が一本しかないため、作品の背景というのはずいぶん限定されています。
 それなのにこの膨らませ方はさすがです。
 瓜さんはシナリオライターにも向いているのかもしれません。

 アクション部分が多く、その割りにキャラクターの補完も忘れないところがにくいです。
 やや持って回った言葉遣いが多いかな、とも感じました。
 現在と過去の対比は面白いですね。
 綺麗な形になっています。

 話自体は……設定が追加されているような気がしますが、ここら辺は壱さん大丈夫なんでしょうか?
 親父殿がフェリスの才能に期待をかけているとか、ラズノとの出会いとか……。
by 木村勇雄 2006.07.02 21:41 [3]
オレー
フランス勝ちました。
マジで嬉しいです、はい。
ども、瓜です。

木村さん、感想ありがとうございます。
木村さんの感想はいつも瓜の励みになるとですよ。
ところどころに散りばめられた賛辞が瓜を舞い上がらせるわけです。

言葉の使い回しが多すぎたらしいようで。
改善する点ですね。
どうもです。
by 瓜畑 明 2006.07.03 00:33 [4]
RE:【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
励みにしていただいて嬉しいです。

まあ、そんな大したことは私も言えないんですけどねww

by 木村勇雄 2006.07.03 02:25 [5]
RE:【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
 拝読しました。
 こんばんは。日原武仁です。二次創作と言うよりはシェアードワールド、て感じでしょうか?
 雰囲気もよく、元の作品のイメージを壊すこともなく、面白いと思いました。ただ、少しばかり単調な感じがしつつ、修飾が多いというか。フィルスが内面を語りすぎると言うか。詩的に書きすぎているような気がします。それ自体はいいことなんでしょうが……うぅむ、上手く言えずにすいません。
by 日原武仁 2006.07.05 23:10 [6]

NO.28  ファントム・ペインV 〜見上げる月のある空で〜(第二回企画テーマ小説)
「と言う訳で。お月見を決行します!」
 凛々しく高らかに宣言する副部長である木月先輩に向け、俺は挙手して意見する。
「その前に『と言う訳で』の説明をして下さい」
 黒板前の教卓に奮然と立ち、部員を睥睨していた副部長は轟然と言い放った。
「わたくしがしたいからですわ」
 臆面も無く、堂々きっぱり断言された。
 想像していた答えと一語も違わない回答に、この部に入って何度目か……それも数えたくないほど重ねたため息をついた。
 時は放課後。場所は天文部の部室。俺の所属する部活動はまたもやこのお嬢様副部長――木月恭子(きづき きょうこ)の一言で決まったしまったのだった。
「部長。よろしいですわよね?」
 言いながら先輩は窓へと目を向ける。彼女の視線の先では窓辺に座り、静かにお茶を飲んでいた部長がどこかぼんやりとした眠そうな目で遠くを見つめ、
「うん。いいねぇ……。お月様の下でお茶を飲んだらきっとおいしいだろうねぇ……」
「当然ですとも。僭越ながらこのわたくし、木月恭子が最高級のお茶を用意致しますわ。どうかご期待下さいまし!」
「うん。楽しみだねぇ……」
「はい! おまかせ下さいませ!」
 太陽のような笑顔で嬉しそうに木月先輩は言う。今日も部長に対する先輩の愛情は熱い。もっとも、いつもあんな感じの部長に彼女の気持ちが伝わっているのかは怪しいけれど。
「今日の木月ちゃんも部長にラブラブだね」
「ラブラブだよ」
「……まあ、いつものことだからな」
 甲高い女子の声に気だるそうな男子の声が続く。
 二年の麻生優希(あそう ゆき)、麻生優美(あそう ゆみ)の双子の先輩。そして同じく二年の神杉雅弥(かみすぎ まさや)先輩だ。ちなみに、木月先輩も二年生で部長が三年。部長は名前を榊原貴志(さかきばら たかし)と言う。
 そして一年の俺――川上修司とあと一人が加われば天文部の全員が揃うんだが……
 と、その時だ。部室の扉を開け、女生徒が姿を現した。
「お、遅れてすいませんでした……」
 頭を下げる彼女に木月先輩は微笑みかけ、
「待っていたわ、由梨さん。早く席に着いて」
 と、席に着くよう促がした。大沢さんは素直に頷くと俺の横の席に座る。
 ふふふふ……。何を隠そう実は俺――大沢さんと同じ部活だったりします。おっと、始めに断っておくけど、大沢さんが目当てで入った訳じゃないぜ? なにせ俺が先に入ってて後から彼女が入部してきたんだからさ。
 しかも、しかもだぜ? 俺がファントムだと知り、一緒に“ファントム・ペイン”を冒険した翌週に大沢さんが天文部に入部届を出しにきたってことは……ちょっと期待してもいいかな、とか思わないか? 
 なんてね。実際、大沢さんにそんな気持ちはありはしないのだろう。俺達“ファントム”は仲間を作りたがる傾向……一緒にいたいと思う気持ちが強いからな。ある意味本能的なところからくる行動の結果でしかないんだろうけど。
 でもさ。大沢さんと一緒にいられる時間が増えるのを手放しで喜ぶくらいは構わないだろう?
「これで全員揃いましたわね? 確認の意味も込めて繰り返しますわ。今週の土曜日、午後の七時にお月見会を行います。詳しい準備等は追って連絡しますから今日はこれで解散とします。部長、よろしいですわよね?」
 弾んだ声で聞く木月先輩に部長は舟でも漕いでいるような動きで頷いた。
「はーい。部活しゅーりょー。優希ちゃん。これから何しようか?」
「うーん……。パフェでも食べて帰らない? あ、そだ。神杉くんも一緒に来る?」
「……おれは甘いものはあまり……」
「だーいじょうぶ。そのお店には激辛パフェもあるんだよぉ? 甘い物が苦手の人もばっちりフォロー!」
「……じゃ、行くか……」
 行くんですか!? と思わずつっこみを入れたくなる会話をしながら麻生・ツインズ・先輩と神杉先輩は部室を出て行った。
「戸締り、お願いしますわね」
 声の方に振り向けば、木月先輩と部長が並んで部室を出るところだった。
「ごきげんよう〜」
 本当に機嫌よさそうにして木月先輩は部長と共に帰って行った。ああして一緒にいる所を見ると、部長は何も言わないがきっとまんざらでもない気分なのだろう。……あの緩んだ顔からは全然判らないので完全な俺の推測だけど。
「……お月見かぁ……」
 ぽつりともれた呟きに目を戻せば、大沢さんが夢見る少女な表情を浮かべていた。
「楽しみだね、修司君」
「……そうだね。楽しみだ」
「うん!」
 強引に副部長が決めた行事だけど、大沢さんの笑顔が見られたからこれはこれでいいことだ。



 あっと言う間に月日は過ぎて。今日はお月見会の当日だ。
 天気は晴れ。初夏の夜は涼しくて月見には絶好の日和。学校の屋上に設けられたお月見会場――コンクリートの床の上に運動会なんかで使う青いシートを三重に敷き、その上の折りたたみ式の机と座布団を置いただけのものだが――には天文部が揃い、各自のコップには色取り取りのジュースで満たされていた。
「細かい挨拶は抜きで参りましょう。お月様と皆さん全員に……乾杯ですわ!」
「かんぱーい!」
 木月先輩に続き、部員全員が唱和する。唇を軽く湿らす程度に口を付けると、各自コップから箸に持ち替えた。
 机の上には和洋折衷に中華を含め、様々な料理で埋められていた。これらの大半は部長と神杉先輩の二人が作ったものらしい。神杉先輩は自宅が中華飯店だから分かるとしても、部長はどういう経緯でこれだけのものを作るスキルを身に付けたのだろう?
「さすが部長ですわ。このおでんの絶妙な味加減! 天才的ですわ」
「いやぁ……。木月君が手伝ってくれたからねぇ……」
 何かを口にする度に感嘆の声を上げる先輩に、部長がマイ湯のみでお茶をすすりながらふらふら身体を揺らしながら答えていた。
 料理を作るとき、女性陣も手伝った。が、あまりの二人の手並みの良さに何も出来ず、ご飯を炊いておにぎりを作ることしか出来なかったらしい。大沢さんの手料理が食べられるかも! と少なからず期待していたんだが……非常に残念。なので目下のところ俺は大沢さんが握ったおにぎりはどれだろうと探索中だ。ああ、ちなみに俺は会場の設営と飲み物の調達係担当だった。結構なハードワークだったことをここに記しておく。



 ……変化が現れたのはお月見開始から一時間くらいたった頃だろうか? きっかけは優美先輩だった。
「いやー! 楽しいねぇ! 北上くん?」
 そう言っていきなり背中から抱きつかれた。その急激な勢いを殺しきれず、俺は手にしたウーロン茶をこぼしてしまい――その飛沫が前に居た優希先輩にかかってしまった。
「あ、すいません。先輩。すぐに拭きますから」
 言って俺はポケットからハンカチを取り出し……一瞬迷ったが先輩のスカートに手を伸ばした。
 いきなりだ。何の前触れも無く優希先輩が泣き出したのだ。
「あーん! 汚されちゃった……汚されちゃったよぉ! もうお嫁にいけないぃー!!」
 はい? ちょ、ちょっと待って下さいよ? 俺がこぼしたのはウーロン茶ですよ。しかもほんの二、三滴くらいですよ? どうしてそんな話になるんですか!?
「あーあ……。やっちゃったね、北上くん……。専門用語で言うところの若気の至り、てやつ? これはもう責任を取るしかないねぇ……」
 さっきよりも身体を密着させて背中から顔を出し、ニヤニヤニタニタ笑いながら優美先輩が言ってくる。
 ……先輩ってあれですね。小柄ながらにけっこうあって背中が微妙に気持ち良――じゃなくて! あー、でも先輩の熱い吐息が頬に当たって何というか――酒くさい……
 誰だよ!? 酒なんか持ち込んだ奴は! てことは優希先輩が泣いているのも酒が入っているからなのか……? 飲んだのか飲まされたのか分からないけど……味で気付いて欲しかった……。と嘆いても後の祭り。俺の立ち位置はかなりまずい。
 眼前には赤ちゃんのようにひたすらにエンエン泣く優希先輩。
 背中にはチェシャ猫のようにひたすらニヤニヤ笑う優美先輩。
 両極端な双子――しかも酔っ払い――に挟まれ、どうしたものか困り果てる俺に、横合いから力強い声が響いた。
「……どうした。何かあったのか……」
 声の正体は神杉先輩だった。これ幸いとばかりに助けを求める。
「あのね。北上くんが優希ちゃんをお嫁に行けなくしちゃったから責任を取らなきゃー、て話をしてたんだよ」
「ち、違いますよ! ただ俺は優希先輩にウーロン茶をこぼしてしまっただけですってば!!」
 人聞きの悪いことをさらりと言われ、俺は必死になって真実を伝えた。
「……そうか。分かった……」
 重々しく頷くと神杉先輩は持っていたコップの中身を一気に飲み干し、
「……それならば男らしく責任を取るしかないな……」
 だめだー! この人も全然分かってないぃー! しかもよく見れば左手に『大吟醸・天空』とか書かれた一升瓶を持ってるし。そんでもって今も手酌でもって勝手に飲んでるただの酔っ払いだぁ……。ねぇ、ここ学校の屋上だよね? バレたら相当マズくない?
「もう。さっきからうるさいですわよ。静かにお月見を楽しみなさいな」
 今度こそ天の助け。この時ばかりは木月先輩の不機嫌な声が女神の歌声に聞こえます。
「まったく。静かになさいませんと……わたくし、脱ぎますわよ?」
 は? ええ……と、ですよ? それはあれですか。服には鉛か何かが縫い込んであってそれを脱ぐことによってパワーアップした拳での鉄拳制裁をお見舞いするわよ、という婉曲的な意思表示ですよね?
 かなり前向きに好意的に解釈した――であろう俺は夜の静寂を壊している元凶に目を向けた。
 ……依然として泣き止む気配なし――
 俺は再び木月先輩を見た。先輩はふう、とため息をついた。
「仕方ありませんわね……」
 呟き、セーラー服に手をかけた。そのセーラー服はどこからどう見ても普通の布地にしか見えないものだったので、事ここに到って木月先輩も酔っていると気付く俺。
「ちょ……先輩。止めて下さいって!」
 少し見てみたいような気持ちを振り切って俺は腰を浮かす。が、 
「ダーメだよ。北上くんは私とい・る・の」
 甘い声で耳に囁く優美先輩。それと裏腹な強靭な締め付けで俺は身動き出来なくなっていた。
「止めたまえよ、木月君」
 リボンを外し、セーラー服を今まさに脱ごうとした先輩を制止するどこか芝居掛かった声が響いた。
 木月先輩の肩に手を乗せていたのは……部長だった。
「君が今ここでそんなことを行うのはもったいない。君にはもっと相応しい舞台がある。そう! それは世界だ」
 ……あー、部長も酔っていらっしゃる。なんだろうね。あの妙に熱血な部長と言うのは。そんなノリだからだろうか。木月先輩も瞳にめいっぱいの――洒落じゃないけど――星を浮かべて「がんばります、コーチ!」とかやってるわけですけれど――まあ、80年代熱血スポ根なら放っておいてもいい……よな?
 という訳で再び問題は振り出しに戻る。
「優希先輩。俺が悪かったですから泣くのを止めて下さい。ほら、先輩はどこも汚れてませんし、ちゃんとお嫁に行けますよ。それは俺が保証しますから」
 なだめるように言う俺の言葉に、ぴたりと優希先輩が泣き止んだ。ほ、とりあえずは一安心だ。散々泣きじゃくったせいでアルコールが抜けたとか? いづれにしても正常な思考力が残っていたことは喜ばしい限りだ。
 なんて俺が安堵したのも束の間、次の瞬間には大きな間違いだと気付いた。
「じゃあ……北上くんがお嫁にもらってくれる……?」
 ……何とおっしゃいました? いや、そんな泣きはらした潤んだ瞳と上気した頬なんかと一緒に切なそうに言われるともう、なんと言うか……
「あー、ズルーイ、優希ちゃんだけぇ。じゃあ優美も北上くんのお嫁さんになるぅ」
 そんなことをのたまうと優美先輩はより強く俺を抱きしめてきた。
 二人の美少女に挟まれ、天国な感触と地獄のシチュエーション……俺、もう泣いていいかな……?
 そんな弱気なことを考えていた時だ。今度こそ本当の救世主が現れた。
「二人とも止めてください。修司君が困ってるじゃないですか」
 そう言って割り込んでくれたのは誰あろう大沢さんだった。どういう風にやったのかは分からないが、いつの間にか俺は優美先輩から引き剥がされ、頭を大沢さんの胸元に押し付けるような格好で抱きかかえられていた。
 ……何かいい匂いと柔らかい感触が相まってここはもう天国だね。……まあ、なんとなく酒臭い天国なのはご愛嬌というか知らないフリをするとして……。ああ、畜生!“ファントム”でなかったらもっとこのふわふわ感を実感出来たんだろうに……! この時ばかりは我が身の病気を呪うね。
 俺を抱えた姿勢のまま、大沢さんは二人を睨み、口を開いた。
「それにこれは有史以来から私のものだって決まっているんです! お二人には渡せません!」
 声高に宣言する大沢さん。はて。彼女の言う『これ』とは俺のことであろうか? そんなことは一言も聞いたことのないのだが……? と言うか。大沢さんにとって俺はもの扱いなんでしょうか……?
 そんな大沢さんの主張を優美先輩は鼻で笑う。
「へへ〜んだ。それが私達のものなのは生物の発生時から決まってるんだも〜ん」
 残念でしたぁー、と付け加えて優美先輩は舌を出すと俺を取り返そうと手を伸ばす。
 大沢さんはそれをかわすように身を捻る。
「ならこっちは神話の時代からです!」
「ビックバン以来だも〜ん」
「天地開闢からです!」
 ……お気に入りのオモチャを取り合う子供のケンカみたいになってきたわけだけど。しかしなんだね。二人――正確には三人かな?――に取り合われるのは悪い気分じゃないけれど……俺の意思はどこにいってるんだろうね? あ、あと俺のことを『これ』とか『あれ』とか『それ』と言うのは止めてほしいなぁ……
 喜んでいいのか悲しんでいいのか考えていた俺は、ふと二人が静かになったのでちらりと覗き見る。二人は言う事が無くなったのか、ものすごい顔をしながら睨み合っていた。 
 さぁて、どうしたもんだろうね。問題の事の発端は間違いなく俺なのだけれど、だからと言って俺が何か言ったところで治まる雰囲気でもなさそうだ。このまま取っ組み合いにでもなったらどうしようか……。などと他人事のように本格的に危惧し始めていた時だった。不意に頭を拘束する力が弱まり、その代わりに重圧が加わってきた。 
 何だと思って俺が頭を起こすと――正直、少しばかり呆れたね。双子先輩は折り重なるように横たわり、大沢さんは俺にもたれるような恰好で気持ち良さそうに眠っていたからだ。きっと怒ったせいで一気にアルコールが回ったせいだからだろうけど……
「……はぁあ」
 俺は小さくため息をついた。ぐるりと周りを見回せば起きているのは俺だけで。部長は木月先輩と並んで眠り。神杉先輩は屋上のフェンスに背中を預け、三本の一升瓶に囲まれて寝息をたてている。
 食べて騒いで飲んで寝て……やれやれ、みんないい気なもんだ。どうやら俺だけ貧乏くじを引いたらしい。
 とさ、と何かが倒れる小さな音ともに下半身に重みが掛かる。見やると大沢さんが倒れ、俺の膝を枕にして静かに眠っていた。
 たまにはこんなのもいいかもしれない。彼女の頭が触れている感覚は薄いけれど、その心地好い重みと息遣い、染み込んでくるような温かさは悪く無い。
 初夏とはいえ夜風は身体に悪いだろう。全員を起こして回り、起きなかったら部室から毛布を持ってこなきゃいけない。ま、大沢さんを膝枕して――本当は逆を希望したかったが――間近でかわいい寝顔を見られたんだから、これからの手間は良しとしようじゃないか。カメラを持ってないのが悔やまれるぜ、本当にさ。
「見上げる月のある空で……なんてね」
 どこかで聞いた詩の一文を口ずさみ、俺は綺麗な満月を眺めていた。
by 日原武仁 2006.06.17 20:32
RE:ファントム・ペインV 〜見上げる月のある空で〜(第二回企画テーマ小説)
木村です。

う〜ん、相変わらず安定してますね。
複数人のキャラクターを見事に書き分けています。
ファントム・ペインと現実世界と交互に書いていっているんですかね。
今回は現実世界ということで、主人公たちの日常が良く見えるテーマでした。

というか、主人公うらやましすぎ。
私もこんなうらやましい環境にありたいですが、主人公、現実感がないんですよね(泣
そう考えると可哀想でもあります。

日原さんの作品の良い所は、余計な説明をしないところですね。
作品に集中できる。
総じて連載ものや特殊環境ものは説明に大きな枚数を割きがちなんですが、それをしないで今ある物語を楽しませてくれる。
その上で背後の設定や主人公たちの感情を表現されているのでとても読みやすいです。

次回はファントム・ペイン内の話しと予想し、楽しみに待っています。
by 木村勇雄 2006.06.15 21:18 [1]
RE:ファントム・ペインV 〜見上げる月のある空で〜(第二回企画テーマ小説)
これは王道ですねー。もう大沢さんはアウトオブガンチュウになってしまいました。優希先輩が好みです。……まぁ、とりあえずこれは置いときまして。
どうも、直です。

新キャラが何人も出てきましたが、わかり難いということはありませんでした。それぞれのキャラがハッキリしているからでしょうかね。

というか、大沢さんもけっこう大胆だったりしますねぇ。同じ部活に入るなんて。これはもう両思い決定じゃないか、と一人で盛り上がっております。

キャラ的に言えば、もう少し神杉くんに何かあってほしかったな、と思います。もしかしたら、これからなのかもしれませんが。例えば、双子で神杉くんを取り合ったり。

そういえば、今度はゲーム内での話でしたね。優希先輩は出ないのか、と少し残念です。
とはいえ、一読者として続きが気になります。何だか急にラブコメっぽくなりましたけど、ラブコメは大好きですから。
では。
by 2006.06.16 21:01 [2]
RE:ファントム・ペインV 〜見上げる月のある空で〜(第二回企画テーマ小説)
ども、西向くです。
読みました!というか、関連モノってことでファントム・ペインの1〜3を読みましたよ。

1を読んだときは、まさかこんな展開になるとは思ってもみませんでした。しかし、こういったラブコメ路線の方が好きなので、ぜひこの流れでつづきをお願いしますw
木村さんや直さんも書いてますが、贅沢を言えば、次はゲーム内の話を希望です(^^)

そういえば、気になったのでひとつ質問なんですが、ファントム・ペインってMMORPGなんですよね?プレイヤーは実際にヴァーチャルな世界を疑似体験(たとえばマ○リックスや.ha○kやナツ○クモのように)してるんでしょうか?それともパソコンの画面でプレイしながら、ファントムという病気の症状としてのめり込み過ぎて(?)画面の中のキャラクターを自分と一体化してるのでしょうか?

お許しが出れば、同一世界観で小説書いてみたいなぁなどと思っているので、聞いてみました(^^)
by 西向く侍 2006.06.17 16:52 [3]
ありがとうございます。
 みなさん、感想ありがとうございます。

>木村さん
 いつもいいことばかり書かれているので日原としては照れ照れです。

>直さん
 ええ、王道ですとも。そしてお酒の力は偉大なのです。優希を気に入ってくれてありがとうございます。

>西向くさん
 一気読み、お疲れさまでした。彼らはあくまで画面前でプレイし、病気の影響で痛みだけを感じます。全体のイメージは.ha○kです。同一世界観の小説は構いませんとも。どんどん書いちゃって下さい。

 ここで言うのもおこがましいのですが、次の話しはみなさんの予想通りゲーム内の話になります。ご期待に添えるよう頑張ります。
 それでは。
by 日原武仁 2006.06.17 20:32 [4]

NO.27  深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
 愛とは何かを問い掛けたい気分だ。私の中に込み上げてくるものがそう訴えかけている。
 二歩、三歩と前に進み、そこで立ち止まる。家から三歩、だから散歩なんてくだらないことは言わない。ただそこで、込み上げてきたものが止まらなくなったのだ。
 声が漏れないように手で口を塞ぐ。しゃくり上げる喉を空いた方の手でつかむ。物理的な苦しみが嬉しい。
 その場にいられずにさらに足を進める。後ろを振り返る。灯りは消えていた。安心と不安が綯い交ぜになる。これはどちらの兆候?
 膝の震えが先に進めと命じている。とりあえず腰を下ろせる場所まで行こう。思いついたのは公園だった。暗闇に紛れて、思い切り高笑いしてやるんだ。私の決意は固かった。目標を定めることが、今一番の薬なのだと信じていた。
 側溝を一枚一枚、丁寧に踏みながら歩く。シシオドシのような空っぽの音が、夜空に鳴り響く。レーダーはいつでも精細だ。十年間のロックオンで逃げ場がないことは承知している。逃げる必要はない。逃げられない。逃げたくない。私は何を望んでいるというのだろう。
 街灯は定期的に私を照らしていた。その度に裸にされた気がして、胸元を両腕で抱える。そんなとっさの行動に、自問自答する。
「他に隠すところがあるんじゃない?」
「それはこの真っ赤なほっぺたのこと?」
 自答するつもりが自問自問になってしまう。問いかけはいつまでも続く。
「どうして隠さなくちゃいけないの?」
「恥ずかしいとは思わないの?」
「誰も見ている人なんていないのに?」
 誰も見ている人なんていなかった。私は一人だった。
 ブランコに座るのは遠慮した。あれに乗ると子供は喜ぶが大人は死にたくなる。それにスカートではいかにも具合が悪い。誰も見ていないのだが。
 代わりに滑り台の上に登った。私の視界を遮るものはなかった。全てが見通せると知ったとき、私の全身はレーダーになった。策敵、発見後は直ちに離脱せよ。内なる声はそう言っていたが、あの男の姿を見た瞬間、体の全てが機能停止することは分かりきっていた。
 夜風が頬に沁みる。熱さを感じていた分、気持ち良くはある。だけど、その分、痛みも増していた。
 自問自問している間に、涙は枯れていた。こちとら年季が入ってんだ、泣いてばかりもいられねえんだよ。また自分の中の誰かに説教している。私は一体誰なんだ?
 考えるのが嫌で、滑り台を滑り降りる。わざわざ滑り降りるってしとかないと、近頃の子供は走って降りたりするから困る。
 靴が滑り台の足元の砂場に埋まった。裸の足裏に小さな石の感触がこそばゆい。視線は頭上を向いていた。できるだけ視界を狭くしたかった。天上は闇だ。闇は天井と同じだ。何も見ずに済む。
 が、そこには豆電球が灯っていた。
 違う、月だ。ぼんやりと、天上に溶け込むように広がっている。折りしも流れ星が月の辺りから地上へ向かって流れていった。あの紐を引っ張ると、電球は消えてしまうのだろうか。
 流星は願いを叶える前に消えてしまった。月を消し去る方法は永遠に失われてしまった。しまった、ぜひとも頼みたいことがあったのに。
 月だ。
 私の頭の中が、その言葉で埋め尽くされてしまった。
 月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。月だ。
 コピーアンドペースト。世の中楽になったものだ。だからこそ傲慢な考えを持つ人間が増えて困る。そう、例えば滑り台を走って降りるような。
 今の私を、どこかの誰かにコピーアンドペーストできないだろうか。
 傲慢な考えを持つ誰かに捕まらないように。
 月が私の頭を埋め尽くす。おどけていられなくなる。妖精のように消えてしまうことも、少年漫画の主人公みたいに強くなることもできない私はどうすればいい?
 消えてしまえ月よ。そうすれば私は逃げていられる。永遠に隠れていられる。
 できないのならば。
 できないのならば……。
 靴を脱いで砂を落とす。丁寧に、一粒も残らないように。背中は上手く叩けなかった。飛び跳ねて、落とせないかと試してみる。跳ねる度に頬が痛んだ。ちょっとやそっとじゃ、消えない痛みだった。
 公園を出る。また私は側溝を一枚一枚踏みながら歩いていく。家の灯りは消えたままだった。だけど、玄関だけは明るかった。
 私には、それが月のように思えた。

======================
 何て言いますか、意味が分からなかったらごめんなさい。
 ダブルミーニングが多数入っています。
 背景説明もあえて乏しくしています。
 そして、救いがない(いや、ほんの少しは……)作品です。
by 木村 勇雄 2006.06.20 02:19
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
ども、西向くです。

読みました!


ドメスティックバイオレンスがテーマですかね?
最初の方はなぜか主人公が男だと思いこんでました(^^;
スカートうんぬんのくだりで、やっと女性だと気づき……まぁ、これは自分だけかもしれません。

「レーダー」や「ロックオン」や「赤いほほ」がさっぱりわからなくて、単純な自分は本気でSFなのかと思ったりもしました。そして、最後に納得。もう一度読み返しましたよ。
何度も読み返すとまた味が出てくる良い作品だと思います。
by 西向く侍 2006.06.15 19:17 [1]
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
木村です。
どうも、ありがとうございます。

>最初の方は男
 うん、間違えても仕方ない書き方ですね。
 一人称の盲点でもあります。
 なぜなら、自分のことを「自分は女で」なんて言わないし、今回の場合は対人会話もないからです。
 ちょっと工夫が必要でしたね。

>SF
 直接的に表現しなかったのは、主人公の夫(?)に対する恐怖を表現したかったからです。
 あえて夫(?)も登場させず。
 できるだけ間接的に、おどけた言い方をしながら、彼女が自分の怯えを決意に変えていく様子が表現できてれば良いんですが……難しいですね、こういうのって。

 ありがとうございます。
 今回はけっこう五里霧中なので助かります。
by 木村勇雄 2006.06.15 21:10 [2]
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
これはおそらく、苦しみから立ち直っていくような、そんな話なんだろうな、と思います。ですからそうだと勝手に結論付けて、感想を書いてみます。
どうも、直です。

確かに性別は、わかり難いかもですね。十代とかだったなら、俺とかあたしとかできるんですが、もう大人になってしまったなら、男の人も私と言いますからねぇ……。
でも、僕は初めから女の人だとわかってましたよ? ブログでテーマは「DV」だと書いておられましたから(裏技)。

例えば、三歩だから散歩のところや、なぜか突然出てきたシシオドシや、私はレーダーになった、索敵、や、コピーアンドペースト、世の中楽になったものだ、と言うところあたりで、雰囲気を和ませることに成功していると思います。それで何となく、立ち直っているな、とか思ったんでしょう。

で、ダブルミーニングが何なのかよくわからなかったりするのですが、スカートではいかにも具合が悪い、の後の、誰も見ていないのだが、はいらないような気がします。

でも、これは良かったです。素晴らしいです。それに、短かったですし(笑)
では。
by 2006.06.16 20:29 [3]
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
ども、西向くです。

性別のわかりにくさの問題です。
直さんの書き込みを見て思ったのですが、たしかに「わたし」とひらがなで表記すると女性っぽくなりますね。自分は、大人の女性でも「わたし」をあまりおかしく感じないので、そりゃあいいなぁと思いました。使おうw
by 西向く侍 2006.06.17 16:07 [4]
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
感想、どうもありがとうございます。

>侍さん
ひらがな表記の「わたし」は確かに女性的な柔らかさを持っていますが、作品の内容と登場人物の性格に合わせて使わないと、やや軽い印象を持たれてしまいます。
この部分で女性と分かりにくかったのは、やはり私の描写不足ですね。

>直さん
改めて感想ありがとうございます。
裏技使われてしまったww
昨今は男性がDVの標的にされることもあるらしいですが、まだまだこの問題は女性特有のものですからね。
レーダーやシシオドシ・・・シニカルな表現って難しいです。もうちょっとここら辺上手く書きたいです。でも、直さんの感想を見るとおおむね成功のような気も。ありがとうございます。

ダブルミーニングはシュールレアリスムの発想です。
同じものに二重の意味を持たせて表現することですが、この作品では電球と月がその役割を担っています。
月には古来から女性の意味がありますし、家の外灯も同じく女性(主婦)の位置づけになりますから、その部分で結びつきます。
さらにそれが「消えてしまえ」と思うことは自分が消えてしまえと思うことにつながります。
だが消えない。コピーアンドペーストのところで自分が増幅され、存在を増し、逃げることができなくなってしまう。
結果、女性は家に戻り外灯を見る。
迎え入れるために点された外灯。
ですがそこには逃げられない存在としての自分も厳然としてあるのです。

と、自分の作品について語ってしまうのは悪い癖ですねww
直さんの感想、嬉しかったです。
by 木村 勇雄 2006.06.18 00:10 [5]
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
 拝読しました。
 こんばんは。日原武仁です。
 少し難しいな、と思いました。分かりにくいというのがより正確かもしれません。
 DVを主題に置いているのならば、それに対する何らかのアピールを織り交ぜても良かったのではないでしょうか? これは日原の感覚的なものなのかもしれませんが、ツールとして使うにはDVは少々重過ぎるように思いましたので。
 それから技術的な要素を詰め込みすぎてしまったように感じます。おそらくは試験的な試みの産物なのだと思いますが……。
 学ぶところの多い作品でした。
by 日原武仁 2006.06.19 21:05 [6]
RE:深夜(第二回テーマ小説・お題「月」)
日原さん、感想ありがとうございます。
確かにこの小説はかなり実験的で、分かりにくく作ってあります。
 分かりにくさは意図したものですが、やはり少々やりすぎたかな、と反省も感じますね。
アピールに関しては、盛り込んでません。
説教臭くなるのが嫌だったからです。
生活と暴力が諦観によって結び付いていることを表現したかったのですが・・・
テーマとしては、やはり重すぎですかね。
もうちょっと明るい話が書きたいです。
技術とはそれと感じさせないところに上手さの神髄があるのだと思います。
その点ではまだまだ勉強の必要ありですね。
by 木村 勇雄 2006.06.20 02:19 [7]

NO.26  皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
 皓々たる月の晩に、ボクは独りだった。
 まわりに人はいない。ノラ犬もノラ猫もいない。
 もちろん、植物はあった。だけどそれは"ある"だけで"いる"のではなかった。
 ボクは独りだった。
 空を見上げると、月は夜空の真ん中へまっすぐに落ち込んでいた。
 満月だ。いや、少し欠けているかな。
 だけど、近眼のボクにとっては限りなく満月に近い満月だった。
 ふと疑問がよぎる。
 そういえば、ボクは眼鏡をかけてないのか?
 視覚が月の姿をはっきりととらえきれていない。その事実が眼鏡がないことを示している。そうわかってはいても、右手は眼鏡の冷たく硬いフレームの感触をもとめて顔へとのびた。
 やっぱり、ない。
 ボクは顔に手をやったついでに目頭をつよく押さえた。
 なんで眼鏡をかけてないのだろう?
 つづいて、そんな疑問が頭に浮かぶ。
 眠るとき以外は眼鏡をかけっぱなしにしているボクにとって、眼鏡をかけていないというのは異例の事態だった。
 どこかで落としたのかな?

 ダレカがボクに言った。ありえない、と。

 ボクは相槌をうった。
 そうだ、そんなことはありえない。かけている眼鏡を落として、それに気づかない奴がいるわけない。
 それじゃあ、どこかに忘れてきたのかもしれない。
 眼鏡をはずして置き忘れるような場所。
 家。
 そして、塾。
 塾。そうだ。
 ボクはその単語を今のいままで思いつかなかった自分を殴りたい衝動に駆られた。
 なんでこんな大事なことを忘れていたんだ。
 ボクには眠るとき以外に、もうひとつだけ眼鏡をかけないときがあった。
 カノジョと逢うときだ。
 カノジョは眼鏡をかけたボクを嫌っている。眼鏡をかけたボクとは逢ってくれないのだ。だから、塾を出るときは必ず眼鏡をはずした。塾帰りにカノジョに逢うために。
 ボクはすべての謎が解けたような気がして踊りだしたくなった。

 そんなボクに向かって、釘を刺すようにダレカが言う。まだ、終わっていない。

 なにが終わっていないのか、さっぱりわからなかったが、たぶんソイツの言うことは正しいのだろう。
 まだ謎は解けていない。ちょっと考えればいろいろと思い当たる。
 ボクが本当に塾帰りならば自転車に乗っているはずだ。それに眼鏡をはずすといっても、はずした眼鏡はきちんと学生服の胸ポケットにしまっておく。
 ボクは歩いていたし、ポケットに眼鏡はなかった。
 いったいボクは何をしているんだろう。
 おかしな晩だった。
 ボクは結局ひとつの疑問も解けないまま、目頭から指をどけて歩きだした。
 目的地は、わからない。
 ただただ前に進んだ。
 ゆっくりと歩くボクの頬を、肩を、からだ全体を、夜気がくすぐり抜けてゆく。無音の空間を、アスファルトを叩くボクの靴音だけが震わせる。
 ボクは月の光を浴びるにふさわしい姿で"いる"自分を感じた。月光がボクだけを照らし出している。まるでスポットライトだ。今までの人生で、ボクがスポットライトを浴びることなんか一度もなかった。
 幼稚園での遊戯会。
 小学校でのスポーツ大会。
 中学校での模試。
 そして、高校での生活。
 なにをするにも脇役ばかり。
 今の自分を見ればカノジョも惚れなおすに違いない。
 この場にカノジョがいないのが残念だった。

 オマエに有頂天になっている暇などない。ダレカがボクに言う。

 ボクはソイツに言う。そう、その通りだ。ボクは……ボクにはするべきことが……あったような、いや、あるような気がする。
 なにかを思い出せそうになったが、駄目だった。
 こうして歩いていればすべてを思い出せそうな気がして、ボクは歩きつづけた。
 その甲斐あってか、闇に沈む黒いゴム工場の形を見て、自分がどこへ向かっているのかにようやく気づいた。
 家だ。
 父が、母が、妹が、祖母が、ボクの家族が待っているボクの家。
 あまりの当たり前さになんとなく拍子抜けしてしまった。
 コンクリートの壁に前方を阻まれ、左に曲がる。勝手知りたる道だ。右手三軒目がボクの家だった。
 声に出して数えていく。
 一軒。
 二軒。
 そこでボクは数えるのをやめ、ふと立ち止まった。
 二軒目の家を囲うブロック塀のうえ、そこに白くわだかまるものが気になった。
 近づいてよく見てみる。近眼だからそうとう近づかなければそれが何かわからない。
 白い猫。冬場にコタツの中にでもいるかのように身動きひとつせずに丸まっている。
 ボク以外にも生き物がいるじゃないか。
 意外な存在にでくわしたショックが、良い方向へはたらいたのだろう。ボクは旅の目的を思い出した。
 ふと思ったのだ。
 ボクの探しているのは、この白猫じゃないのか? そう、ボクはこれを探すために旅をしていたんだ、と。
 ひとつ突破口が見つかるとトントン拍子に物事は進んでいく。
 ボクは震える手でその白猫をそっと撫でてみた。
 硬い。無機物の硬さだ。
 白猫は陶器でできた置物だった。身動きしないのではなく、できなかったのだ。
 ボクの探しているものはこれじゃないのか……
 猫の頭から背中にかけて、手のひらを二、三度往復させる。

 ダレカが言った。それではない。

 ボクはその言葉を信じた。
 なにかを探さねばならないという旅の目的だけが残った。
 ボクは最後に猫の鼻面を指で弾くと、その場を立ち去った。
 ふたたび家の件数を数えはじめる。
 二軒。
 三軒。
 茶色い屋根が月光を照りかえしていた。
 ボクは砂利を蹴りとばしながら、おおきな向日葵が揺れている庭へ踏み入った。ゆらゆらと身体を揺する向日葵は2本あるように見えた。
 このときボクは、月光を一身に浴びている向日葵を美しく思った。
 宵待草よりも何よりも、ほんとうに心の底から夜を待ち遠しく思っているのは向日葵じゃないのか。
 ボクは月の光と向日葵の美しさに心を打ち震わせながら、ふと思った。
 ボクの探しているものはこの向日葵じゃないのか?

 またダレカが言う。それでもない。

 ボクはふたたびその言葉を信じた。
 ふたたび?! 違う。もう何度目かわからない。旅をつづけてきた間ずっと、これの、この問答の繰り返しだった。
 それではない。それでもない。
 聞き飽きた言葉。
 この旅についてなにかを思い出すにつれて、なぜか気が滅入っていく。いいかげん旅にも疲れてきたのかもしれない。
 もう戻ろうか……

 どこへ?

 とつぜん視界全体が赤黒く染まった。
 こめかみを押さえて頭を振る。周囲はすぐに夜の闇にもどった。
 ほんとうに疲れているみたいだ。
 ボクは向日葵との別れを惜しみつつ玄関へと足を進めた。
 ドアノブに手をかけて、いちおう引いてみる。
 意外にも、ドアは一瞬の停滞もなくすんなり開いた。
 不用心だな。カギもかけてないのか。
 ドアをくぐると、家の中は真っ暗だった。家族はもう眠っている時間だ。
 ただいま。
 靴を脱ぎ、手探りと記憶を頼りにキッチンへ。
 触れるものすべてが得たいの知れないものに感じられる闇の中、窓から差し込む月の光だけがボクの友だった。
 前方の暗闇に、銀色に光る丸いものが浮かびあがる。月光をその身に反射させるキッチンのドアノブ。ボクはまさしく月に導かれてキッチンにたどり着いた。
 そこにはボクの夕食が用意されているはずだ。塾などで帰りが遅くなる日は母がボクの分をとっておいてくれる。
 ボクはノブをつかんで勢いよく引いた。
 隙間から光があふれ出る。
 反射的に身をひいた。
 その光に触れたら身体が溶け崩れそうな気がした。
 月光にくらべてなんて汚らわしい光なんだ。電灯の光だ。
 しばらくその場に立ち尽くしていたけど、いつまでもそうしているわけにはいかない。
 しかたなく両目をきつく閉じてキッチンへ入った。目を閉じたのは、瞳が爛れてしまいそうだったからだ。
 おかえりなさい。
 ボクは驚いて、電灯の光が差し込むのにもかまわず目を大きく見開いてしまった。
 それは女性の声だったのだ。
 電灯の光をうけて椅子に座っているのは、だけど、母ではなかった。妹でもなかった。ましてや祖母でもなかった。
 カノジョだ。
 ボクの恋人。
 夕食の用意できてるわよ。
 やさしい声に誘われ、カノジョの向かいがわの席に腰をおろす。テーブルのうえではボクの好物である甘い香りのカレーライスが温かな湯気をたてていた。
 カノジョと初めて出会った日の夕飯と同じだ。
 どうしてカノジョが? という疑問は生じない。幸福がボクを包み込んでいた。
 スプーンを手に取りカレーライスをすくう。それを口にもっていきながらカノジョを見る。口の数センチ手前でスプーンは移動するのをやめた。
 どうしたの? 食べたくないの?
 ボクは大きく首を横に振った。
 食べたくないのではない。食べることを忘れていた。ボクはカノジョに見とれていたのだ。
 ふと思った。きっとボクが探しているものはこれに違いない。

 ダレカが言う。違う。

 いや、きっとそうだ。

 違う。

 そうだ。

 違う。

 それじゃあ何なんだ、ボクの探しているものは。
 ボクは声に出して叫び、手にしていたスプーンをテーブルのうえに叩きつけた。
 弾かれたスプーンは弧を描いてゆっくり飛んだ。消えゆく先はカノジョの足元だ。甲高い音がキッチンに木霊する。
 ボクは突如わきあがってきた怒りに激しく身を震わせた。怒りの根底にあるものは焦りだった。
 ボクの探しているものはいつ見つかる? ボクにはもう時間が……
 そんなボクを見てカノジョはなにも言わずにそっと身をかがめた。上半身がテーブルの陰に隠れる。
 次にカノジョが姿を現したとき、その手にはスプーンではなくまったく別のものが握られていた。
 黒に銀糸の刺繍が入ったハンカチ。
 あぁ……
 カノジョがボクにそれを差し出す。
 これか?!
 なぜか心が熱くなる。ボクは必要以上にゆっくりとそれを受け取った。
 違う。ハンカチじゃない。
 ダレカに言われなくても自分でわかった。
 激しく高鳴り出した鼓動を抑えつつ、ハンカチからカノジョへと視線をうつす。
 これだ。

 ダレカが言った。そうだ、と。

 いつの間にか電灯の光は真清なる月の光へと変わり、その光の中でカノジョは微笑っていた。




 カノジョが心配そうな顔でボクをのぞき込んでいる。
 ボクは大丈夫だと言おうとして、喉を駆けあがってきた血にむせ返った。
 血は暖かかった。冷たいのはアスファルトとボクの身体だ。
 おもいきり力を込めて身体を動かそうとしてみる。つま先から頭のてっぺんまで、どこも自分の身体ではなくなってしまったかのように動かない。不安を顔いっぱいに表しているカノジョに微笑いかけてやりたかったが、それも無理だった。
 唯一動く眼球をつかって、視線を横にずらす。
 数人のやじ馬の他にみっつのものがぼんやりと見えた。
 自分に近い順に……
 黒い血溜まり。
 毒々しいネオンを映す壊れた眼鏡。
 乗り捨てた自転車。
 けたたましいサイレンの音をつれて、カノジョの隣に白づくめの男たちがやってきた。テレビなどで見ることはあったが、実際に彼らを見るのは初めてのことだった。
 なにが起こったのですか?
 カレがワタシを助けようとして車にはねられたんです。
 カノジョの口調は切羽詰まっているように聞こえた。
 桜貝にも似たかわいらしいカノジョの耳。その下で向日葵を象ったイヤリングが揺れている。
 白づくめの男たちはボクのすぐ脇に担架を置くと、なにやらボクの身体を触りはじめた。
 危険な状態だ。
 ゆっくり運ぶぞ。
 なんとかしてボクを助けようとしているらしい。
 無駄だろう。ボクはきっと死ぬ。
 カノジョの姿を網膜の奥底に焼きつけようと必死に目を凝らす。胸の前で組み合わされた細い腕の向こうに見え隠れするものがあった。カノジョの胸を飾る陶器製の白いブローチ。それは猫の形をしていた。
 そして、薄れゆく意識の中で、ボクを見つめるカノジョの表情はやはり不安げだった。
 そうじゃない。その顔じゃないんだ。ボクが好きになったのは……ボクの探していたものは、あのときの微笑みなんだ。
 そんなボクの気持ちも知らず、カノジョは白づくめの男たちのひとりと話をしている。
 カレの名前は? 住所は?
 わかりません。
 は?
 わからないんです。
 カレはあなたの……
 知りません。見ず知らずの人なんです。
 ボクが聞き取ることのできたカノジョの言葉はそれが最後だった。
 あぁ、キミは覚えていないかもしれない。ボクは目立った存在ではないから。だけどボクははっきりと覚えている。
 塾からの帰り道、ボクの落としたハンカチを拾ってくれた、あの皓々たる月の晩のキミを……。その日フレームを壊してしまったがために眼鏡をかけていなかったボクの、薄ぼんやりとした視界の中で、月光を浴びて美しく冴えるキミの微笑を……
 キミと出会ってからのボクは、塾からの帰り道にキミの微笑を探しつづけた。何日も。何週間も。そのうちに眼鏡をかけているから逢えないのだと気づき、帰りは必ず眼鏡をはずすようにした。それでも逢えなかったキミ……
 まったくの偶然だった。今晩、人混みの中にあのときと変わらないキミを見つけれたのは……
 だけどやっと出逢えたキミは今、あのときの微笑をかけらを見せず、ひきつった顔を青ざめさせている。
 たった一度でいい。ボクが二度とは戻れない新たな旅に出発してしまう前に。もう一度だけ微笑ってほしい……
 最後の力をふりしぼって閉じかけた目を開いたボクの前に、カノジョはもういなかった。
 そのかわりに、限りなく満月に近い満月が夜空の真ん中へまっすぐに落ち込んでいる。スポットライトのようにボクを照らし出す皓々たる月。
 ボクは、それでもいいと思った。

 ダレカも、それでいいと言った。


−−−−−−−−−−
初投稿です。
年は食ってても執筆量はほとんどゼロに近いので、みなさんにくらべたらスーパーど素人です(^^;
思わず詩的な文章になってしまって、やたら改行してしまいました。読みにくい部分はもっと1行空けたりしたほうがいいですかね?
アドバイスお願いします。 
by 西向く侍 2006.06.19 22:29
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
先輩に感想つけるってのも何だか気が引けますが。
とはいえ、小説の世界に遠慮はタブーなので、思い切って行きます。


さて、以前にどれくらい書かれていたのかは分かりませんが、書きなれている、という印象は受けませんでした。
文章面にもぎこちない所が見られましたし、ストーリーの使い方も惜しい面がありました。

しかし、全体的に見ればパーツは揃っているんですね。
起承転結の持って行き方、人称の選択も間違っておりません。
文章というのはやはり練習の賜物でして、どちらにしろずいぶんと小説から離れているからには仕方のないものだと思えます。
今後は文章面の充実を図ってみてはいかがでしょう。

ストーリーとしては、

起・・・不可思議な状態で一人存在する
承・・・自分の探し物を見つけるために歩く
転・・・探し物が見つかると同時に現実へと戻る
結・・・死が待っている

これら内包的な物語を著すのに一人称は最適です。
いい選択だと思います。

しかし、それを彩る承の部分がぎこちない。
導入部のメガネの件も含め、果たして自分が同様の状態に置かれたときに本当にこういった行動をとるのか、が欠けているように思われます。
なんと言いますか、少し芝居がかっている感じがするのです。

後はダレカの存在です。
確かにこれがサイコスリラーとしての役割の一端を担ってはいますが、本当にこれが必要なのか。
不明確な存在を引っ張ってきてスリルとするよりは、明確な存在であるボクを不明確に著すことでスリルとする方が、作品として締りがでてきます。
実際に全ての文章からダレカの部分を抜き取っても、大勢に影響はないのではないかと思います。

気に触る部分がありましたら、申し訳ないです。
しかし、全体としてセンスのある作品だったため、言わずにはいられませんでした。
次の作品を楽しみにしています。
by 木村 勇雄 2006.06.11 22:13 [1]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
どもも、木村さん。
さっそくのアドヴァイスありがとうございます(^^)

ちなみに、書き慣れているはずもなく……
学生時代(もはや7年以上前か?!)に2〜3編書いたきりで、もうド素人ですよ。

「承」の部分ですかぁ。なるほど。
たしかに、あのあたりは手探りで書いてて、先があまり見えてなかったです(無計画)。
ぶ、文章力は、これから、ということで。精進します!

ダレカ……
はっ!ホントやん!別にいらんやん(;´Д`)
なんつーか、何か役目を持たせるつもりで、何にもなってないっすね……反省。そして精進。

先輩といっても、ひとつしか違わないので、あんま気にしないでくださいな♪

次はすこーしレベルアップしてるはずです、たぶん。これかもよろしくお願いします。
by 西向く侍 2006.06.12 23:19 [2]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
どもー、ようやく二つ目の「月」を書き上げた瓜です。
ええっと感想ですが。
総合的に言うと良かったですよ。
最初ら辺を読んでいた時は読みにくいと思ったんですが、ラストを読んでああ、いいなと思いました。
文章ですが、まあ、良いと思いますよ。
7年ぶりに書いてこれだけ書けるなら問題なしかと。
ただ、前にも言いましたが。
途中がとても読みにくいです。
もっと波があれば良いなとか思った瓜でした。
by 瓜畑 明 2006.06.14 22:15 [3]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
瓜さん、感想ありがとうございます。

基本的に他人に見せたことがほとんどなかったので、感想をもらえるだけでうれしいです。

文章は練習不足を自分でも感じてます(−−)
これからもいろいろご指摘お願いします。
by 西向く侍 2006.06.15 16:36 [4]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
木村です。

作品は見せてナンボですよ。
練習不足は練習すればOK!

とにかく今は、作品を書きまくることです。
ガンバッ!
by 木村勇雄 2006.06.15 22:16 [5]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
くぅっ……面白かったです。僕が初めて書いた小説とは全く比べものになりませんです。あー、何だか僕より面白いかもなー、と自分に問い掛けちゃったことはナイショです。
…・・・何だか前置きが長くなってしまいました。どうも、直です。

えと、面白かったです。起承転結などややこしいことはよくわかりませんが(自分もあまり考えてません……)、面白いと思いますよ。

読みにくいといえば、カレーライスのところですかね。ボクがカレーライスを食べることを忘れて、カノジョに見とれていたのならば、探していたもので合っていると思うのですが、なぜダレカは違うと言っているんですかね……?(おそるおそる)

もう改行はしなくて良いと思います。読みにくいところも、個人的にはほとんどありませんでしたから、もうこのくらいでちょうど良いかと。

では。
by 2006.06.16 20:06 [6]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
直さん、感想ありがとうございます。
我が身には過ぎたお褒めの言葉!激しく動揺してしまいました(^^;

カレーの場面は、探していたのはカノジョ自身というよりカノジョの微笑だったってことで否定してるんですが、あきらかに説明不足ですね(−−;

次もがんばりますので、よろしくお願いします。
by 西向く侍 2006.06.17 16:02 [7]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
 拝読しました。
 こんばんは。日原武仁です。
 良い話だと思います。ただ、演出に凝り過ぎるあまりに間延びしたような印象がありました。もう少し区切りよく歯切れよくすればもっと良くなると思います。面白い内容だけに少し残念です。
by 日原武仁 2006.06.19 20:42 [8]
RE:皓々たる月の晩に(第2回テーマ小説『月』)
日原さん、どうもです。

間延びですかー、たしかに。
思うがままに、あまり先を考えないで書いてるのがバレバレです。
苦手なんですよ、プロットとか前もって立てるの(^^;
いや、それじゃ、ダメなんですが。

これからもよろしくお願いします。
by 西向く侍 2006.06.19 22:29 [9]

NO.25  隻翼の指輪(第一回裏テーマ企画)
「アンジェラ、知っているか。
俺達天使は、人間に恋をすると
羽根が片一方無くなるんだ」
「え、本当に?」
「ああ、だから気をつけなお前も」
「大丈夫!私は、お兄ちゃんと
結婚するんだから」
「トホホ・・・・・。」


――――――――――――――――――――

「あっつー」
大学からの帰り道、葛霧 翼はそう唸った。
「ちっ、もう秋なのに。なんて暑さだ・・・。
ん?」
そう言っていた時、目に女の姿が
はいってきた。
「・・・・・・・・・。あの女、背中から羽根が
生えている。天使?」
目を擦ってみたが、その女の羽根は消えない。
周りを見たが、その天使に誰も
気づいていない様だった。
「何で俺だけに見える?・・・・・!」
翼は気づいた。幼い頃、自分の目に映った
色々な、幻想生物に・・・・。
(そうか、俺の目にはそういうのが
見えていたな。)
思い出していた。そして、その天使に
声をかけた。
「大丈夫ですか?」
天使が、吃驚して後ろをむいた。
「わわわ、私が見えるの?」
「あ、はい。ちょっとした事情がありまして。
大丈夫ですか?羽根から血が出ているみたいですけど」
見ると、彼女の目から涙が出ていることに
気づいた。
「はい。怪我したんです。帰ろうと思ったけど帰れなくて」
「だったら、私の家に行きましょう」
「えっ・・・・・・」
「別に、何もしませんよ。
手当てするだけですよ。さ、行きましょう」
「は、はい」
そう言って、翼の家に帰った。



――――――――――――――――――――
アンジェラは翼に手当てをしてもらい、
治るまで住まわせてもらう事にした。

――――――――――――――――――――
翼とアンジェラが一緒に住みはじめて6ヶ月が経ったある日、
翼は、アンジェラに言った。
「なあ、お前の翼小さくなっていないか?」
「・・・・・・!」
アンジェラは驚いて、鏡を見た。
(この間まで、肩まであった翼が見えなくなっている!
まさか、私・・・・・。翼さんに恋をしてしまったの?
この間から感じていたドキドキ感は、恋だったの?)
アンジェラはそう思った。
(人間と恋しては、私は、天使でいれなくなってしまう。
でも翼さんと居るとお兄ちゃんといるみたいであたたかい。いや
それ以上の感じが心の中にある。恋は、素敵だけどこの人を
愛したら一生飛べ無くなる。でも・・・・・。)
悩んでいると、後ろから声がした。
「なあ、アンジェラ。ちょっと話がある」
と翼がそう言ってきた。
(なんだろう?)
そんなことを考えながら話を聞いた。
「あのさ、俺達一緒に住み始めてもう六ヶ月たつ。
 そこでお前にプレゼントがあるんだ。はいこれ」
それは、小さな箱だった。
「開けてみて」
そう言われたアンジェラは箱を開けてみた。
中には、桃色の羽根の形をして真ん中に赤の宝石が付いている
指輪があった。
「わあ。綺麗です。これを私に?」
「ああ、この前宝石店を通りかかった時、これが目に留まったんだ。
 ほら見て!」
そう言って翼は、手を見せた。そこには、同じ形をしているが、
アンジェラのとは羽根の形が逆になって、色も水色の指輪がはまっていた。
「あっ、もしかしてこれ、ペアルックって言うやつですか?」
「ああ。この二つにはな、名前があるんだ。
 そっちの方には、『希望の翼』、こっちは『の翼』。そして、総称で
『片翼の指輪』と言われているそれとお前にもう一つ言うことがあるんだ。
あのな、俺・・・お前のことが・・・好きなんだ。付き合ってくれないか!」
「えっ・・・・」
アンジェラは驚いた。まさか、そんな事を言われるとは思わなかった。
「でも・・・」
悩んだ。自分はどうすればいいのか、確かに心の中では私も好いている。
でも、天使でいれなくなるのはいや、なんだけど・・・・。こんな恋は
初めてした。胸がこうキュンとなるような感じ。ときめくと言う感じ。
もし私がここに残れば、天使でいれなくなるのは確かだ。でも今は、
それ以上の幸せを感じられると思った。故に、彼女は決心をした。
「はい。喜んで、お付き合いします!」
と。そうして二人は、付き合うことになったが、数日経った日、
事件が起こった。
 ドンドンドンドン。
早朝、五月蝿くドアが叩かれた。
「は、はい」
とアンジェラが出るとそこには
「アンジェラ、久し振り!何しているんだ、探したぞ」
と兄のソレムがいた。
「お、お兄ちゃん・・・・」
そう言ったとき、運悪く翼が来てしまった。
「誰だ、そいつは」
そう、ソレムは言った。
「お前こそ」
翼が言った。
「む。翼が片方無い。お前まさか!」
「ええ、私は、この人を愛しています。だから」
「さあ、帰るぞ。その翼を治す為に」
「いやよ、私は」
「だめだ、帰るぞ。さあ」
ソレムが連れて帰ろうとした。
「待てよ、お前。嫌がっているじゃないか」
そう翼が言った。
「ふん、黙れ。私は、妹の幸せのために連れて帰るんだ」
そう言って、飛ぼうとした。
「待てくれ、アンジェラァァァァァ!」
「翼さん!」
しかし、ソレムは無視をして連れて帰っていった。

―三年後―

「ハァ」
アンジェラが帰っていってから三年が経った。
この三年、ずっと溜息ばかり吐いていた。
ドンドンドンドンドン。
「はい」
そう言って、扉へと向かって行った。
「どちら様ですか・・・・あっ!」
「ただいまです」
そう、そこにはアンジェラがいた。
「どうしたの?何で此処に?」
「あの・・・。実はですね、戻ったとき始めに喧嘩したんです。
 その後、喧嘩をやめて話し合ったんです。翼さんの事が好きなのかとか。
 私は、はっきり言ったんです。そうよって、そして話し合った後
 兄はこの指輪を見て、わかったと言ってくれたんです」
「そうか、じゃあこの先ずっと・・・」
「はい。あなたと一緒にいますこの家で」
こうして、二人は末永く暮らした。

by 夕凪 帷 2006.06.10 00:31
RE:隻翼の指輪(第一回裏テーマ企画)
最初の、「私は、お兄ちゃんと結婚するんだから」というところと、翼、と言う名前で、もしかしてネタ被ったか!? とビックリした直です、どうも。
ちなみに、僕の方が早かった! やーい、とか考えたのはナイショです。

まず、そんなに改行をしなくても良いのではないでしょうか。読みやすさもそんなに変わりませんし、大丈夫ですよ。

あと、喧嘩して止めて話し合っただけなのに、三年も経つでしょうかね。もしかしたら二年くらいずっと喧嘩していたのかもしれませんが、一年とかでも、問題はないと思いますよ。

あと、最後の文章は、こうして、二人は末永く暮らしました、とした方が良いのではないかと。でも、それだと最後だけ敬語になって、矛盾してしまいますね……。どうなんでしょう。

とはいえ、良い話でした。所々を少し直したら、もっと良い話に仕上がると思いますよ。
では。
by 2006.06.03 01:53 [1]
RE:隻翼の指輪(第一回裏テーマ企画)
はい。
どもー、長時間のバス乗車で疲れた瓜です。

まず、テーマが面白いです。
テーマかな?
天使は恋をすると羽が片方になるという設定。
面白いと思います。

キム兄が厳しいことを言ってるので瓜はユルーク。
えっと、思ったことが二つ。

一つはナレーションみたいなのは止めた方が良いかと。
自然な感じでそこまで持っていけたら良いと思われます。

もう一つは、展開が早すぎること。
途中まで言い感じに進んでいた話が最後の方でいきなり3年後ってのはあれ?って感じでした。

まあ、瓜は帷を知っているので言いますが。
筆力はあるので、溜め引きを良くすれば良いと思われますよ。
腐らず、書きましょう!
by 瓜畑 明 2006.06.05 21:21 [3]
RE:隻翼の指輪(第一回裏テーマ企画)
 瓜さんのコメントを読んで思ったのですが、もし私の感想で気分を害されたのなら申し訳ありません。
 自身では良かれと思い書いたことですが、それが余計なお節介であったならば謝罪します。

 お目汚しの文章は削除します。
 出過ぎた真似をお許しください。
by 木村勇雄 2006.06.10 00:31 [4]

NO.24  禁断恋愛 (第一テーマ小説)
わたしは籠の鳥みたいなもの。
見えないかごに阻まれて、外の世界と自由に夢を見る。
だから逃げ出したんだ。
自由を掴みたくて、わたしを殺したくなくて。
そして、最初で最後の恋をした―――...。

                             禁断恋愛 〜籠の鳥の夢見た自由

(神様、あなたに願うのはお門違いですけど、どうかお願いします…)

清潔感漂う白い色に包まれた室内。艶のある茶色の、間隔ごとに置かれた長いす。
石膏でつくられた人型。様々な色のステンドグラスで彩られた窓。神聖な雰囲気のこの場所は、カトリック系の学校内に設立された小さいながらも立派な教会。
十字架に向かって一直線に引かれた道に、この学校の制服に身を包んだ女子生徒が跪き、胸の前で両の手を組み、一心になにかを祈っていた。

「誰かいるのか…?」

きぃぃと細かな細工が施された扉を開く音が、祈っている少女の耳に届く。
きゅきゅっとシューズの床に擦れる音がして、この場に似つかない少年が入ってきた。

「誰…って、なんだ。フェリスか」
「…ラズノ?」

少女――フェリス・ソプシー ――は、名前を呼ばれた気がして振り返った。
そこには、よくこの場所で会う少年――ラズノ・ホルクリン――がいた。
彼もまた、この学校の制服を着ている。が、少々服装に乱れがある。
見た目は優秀なフェリスと並ぶとそれは一目瞭然で、少々どころではないだろうともいえてしまう。

「なんか、一生懸命に祈ってたな」

よいしょと、横長のイスに腰掛けるラズノ。彼は見た目にはかなりの問題があるが、中身は正反対でとても純粋だ。
人は見かけによらない、というのは彼のためにある言葉だろうか…?

「ちょっとね、願い事があったから。あたしが神様に頼むのは、お門違いかもしれないけどね」
「お門違い…?そんなこと無いだろ。フェリスの家、カトリックじゃないのか?」
「いろいろとね、複雑なのよ」

向かいがわのイスに、フェリスも腰掛けた。苦笑いを浮かべつつ、ラズノの問いに答える。
なぜだか続きを問うことができず、二人の間にしんみりとした空気が流れる。
それを打ち消したのは、以外にも原因を作ったフェリスのほう。

「ラズノはさ、忘れるのと、忘れられる、どっちが辛い?」

打ち消したというにはあまりに覇気のない声で、呟くようにぽつりと吐いた。
伏せ気味で前髪がかかり、フェリスの表\情は窺えない。
ラズノは少しだけ考えて、「そうだな」と声高に切り出した。

「俺は、忘れるのほうが辛いかな。忘れられるってのは、人間いつかは忘れることもあるだろうけどさ。だったら、なおのこと自分が覚えてなくちゃ、寂しいしな」

きりっとした顔で、ラズノは真正面を見ながら言った。まるで、フェリスに対して言うように。

「でも、なんでだよ?どっかに転校でもするのか」
「さて、どうでしょうね。なぁに、ラズノ、あたしがいなくなると寂しいの?」

さっきまでとは打って変わって、不敵な笑みを浮かべている。
例えるならば悪魔のような、いじめっ子モードだろうか。

「寂しい、かもな。ここで雑談するだけだけど、この時間、すごい楽しいし。なくなられると、いやかもしれねぇ」

「…俺、フェリスのこと好きかも」


さらりとなんの前触れもなく、ラズノはさくっと言い切った。
そういうふうに振ったとはいえ、まさかこんな答えが返ってくるなど予想していなかったフェリスは、水銀の体温計のように顔をかぁぁと赤くしていった。

「で、お返事いただけませんか?」

にんまりと笑うラズノを見て、フェリスの中でのラズノの人柄が変更されていた。
『純粋』から、『策士・キツネ』と。書き換えられた。

                           ―†―†―†―

「……っっ」

どくりと心臓の高鳴りを、フェリスは感じた。ぴたりと歩みを止めて、あたりを見渡す。
誰もいない。それを確認すると、すぅと軽く深呼吸して、常人にはわからぬ言葉を呟いた。

【………】

「…フェリスさま」
「姿を現せ。きちんとした、人型でだ」

くすんだ闇から、黒衣を纏った青年らしき人物がふっと現れた。
目元は黒の仮面で隠し、顔に表\情はなく、見事なポーカーフェイスだというべきだろうか。

「お戻りください。お父上様が…」
「知らん、あんな親父。わたしを道具にしか思っていないようなやつ」

ぎんと睨みつけて、フェリスはそこを後にした。
残ったのは黒衣の青年だけで、あとを追おうとはしなかった。

「……そういうことですか」



「お、フェリスー」
「…ラズノ?!どうしたの、そんなに怪我して」

いつもの教会でラズノを待っていたフェリスは、現れた人物がぼろぼろなのを見て我が目を疑った。
ゾクリという寒気が、背筋をつぅっと撫でた。
教会の隅に闇に、青年の姿が映った。それを見て、すぐに絡んだ糸がぴんと張った。
ラズノを適当にあしらうと、フェリスは人気の無い所に駆けていった。一分一秒さえも惜しむほど、必死に。


「どういうつもり、無関係な常人に手を出すなんて!!」
「ご命令ですから。フェリスさまを連れ戻すためらなば、人間の命など惜しむなとの」
「くそ親父がっ」

だんっとそばに植えてあった太めの木を、拳で殴りつけた。
フェリスの手に怪我はなく、むしろ木のほうがかわいそうなほど、くっきりと拳の跡がついてしまっている。

「フェリスさま、あの人間が大切ですか」
「…大切に決まっている。わたしは、どうでもいい者などそばには置かない」

青年のポーカーフェイスが崩れた。にやりと、口元をゆがめたのだ。
まるで、その言葉を待っていたかのように。一つの取引を持ちかけてきた。

                          ―†―†―†―

灯りのついていない夜の教会は、月の光だけが差し込んでいた。
真ん中の一直線の道に、同じ直線の光。
掲げられた十字架を見つめ、じっと祈っている。

「引き込むか、諦めるか…」

呟いて、くしゃりと顔をゆがめた。
できるわけがないと、心の中で叫び、泣いていた。

「フェリス…、?」

控えめに開かれた扉から、なにも知らない被害者のラズノが顔を出した。
光が当たり、まぶしそうに目を細めながら、フェリスのもとへと足を進める。
一方フェリスは、月光が逆光となり、顔は照らされずにいる。むしろ、暗くて見えない。

「どうかしたのか、こんな遅くに」

「…ラズノ、前に言ってたよね。忘れる方が辛い。自分が覚えてなくちゃって…」
「言った。けど、それがどうかしたのか」

はっきりとその事実を肯定し、疑問をぶつける。

「なら、あたしのこと、覚えていてくれる…?」

声が震える。それを自身も感じていた。
泣きそうだ。こみ上げてくるものをせきとめようとして、喉の奥が熱く痛んだ。

「覚えてって、一体どういう。―――フェリスっ?」
「さよなら、ラズノ。あなたのこと、大好きだった。誰よりも、好きだった」

耳元で囁きかけるように伝えて、風の如く姿が消えた。
ラズノは身体から力が抜けていき、その場に倒れてしまった。
―――彼の記憶の中に、フェリス・ソ\プシーという名の少女は、存在しなかった。
残ったのは、意味のわからぬ胸の痛みだけ…。


そして私は、外という名の自由を夢見る。
鳥篭の中で孤独の恐怖に怯えて。
―――彼が幸せであればいいと、ひっそりと祈り願いながら……。


       ―†―†―
時間間に合わず、でも投稿しておきます
またも意味のわからぬものが出来上がりました
もう笑うしかできませんね(ははは)
作中で入れようと思っていたのですが、入れ忘れていたので…(たぶん)
フェリスは、ヴァンパイアという設定になってます(しかもお嬢様)
父親の道具にされるのがいやで、常人の住む世界へと逃げた彼女は、そこでラズノと出会って…
一応悲恋にしたので、そう見えたらいいなと思います
最後の最後で駄文…
申し訳ないです(ぺこ)
by 村上 壱 2006.06.10 16:53
RE:禁断恋愛 (第一テーマ小説)
 こんばんは。日原武仁です。
 拝読しました。
 心優しいヴァンパイアほど生きるのが辛いんだろうなぁ……、と、こういう話を読むと思ってしまいます。
 ただフェリスが強気なのか弱気なのかいまいち掴みきれない部分があり、なんというか消化不良なイメージです。お話としてはきれいなので少しもったいないかな、と思いました。
by 日原武仁 2006.06.01 21:49 [1]
RE:禁断恋愛 (第一テーマ小説)
僕は忘れられる方が辛いです、とどうでも良いことを先に述べておきます。どうも、直です。

切ないですねー。まさしく「幻」だと思います。
きれいな文章で、よかったです。

最後に一つ。吸血鬼って十字架苦手じゃなかったですかね? ……僕もよくはわからないのですが。
では。
by 2006.06.03 01:34 [2]
RE:禁断恋愛 (第一テーマ小説)
キム兄です。

興味深いですね。
吸血鬼の主人公の恋愛。
人外のものとしてはあまりに人間に近く、人間臭いものとして、吸血鬼はよく対比の対象となります。
インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイアとかはその辺りの傑作ですが、「禁断恋愛」の主人公の痛みも、重く伝わってきます。

それが一番感じられるのは意外にも冒頭の神に祈る場面ですね。

直さんの疑問にもありました。
「吸血鬼はなぜ十字架が怖いのか」
実は、吸血鬼はキリスト教徒なんですね。

正確に言うと、世界最初のドラキュラを創作したブラム・ストーカーが、吸血鬼のモデルとしたヴラド・ツェペシュ公爵がカトリックの教徒だったんです。
そのため、ドラキュラは神を裏切った自分を恐れるあまり、信仰の対象たる十字架を見ることを恐れてしまうという。

ちなみに信仰のないドラキュラは十字架を恐れません。
以上のことはうろ覚えですから、違っていたらごめんなさい。

神を恐れ、しかし神にすがる。
その心境は簡素ながら真に迫っています。
村上さんの文章は比喩表現が味噌なんですね。
実に流麗な文章を書かれる。
切ない物語にぴったりの文章なので、ここではそれが引き立たれています。

問題点もいくつかあります。
会話分でラズノとフェリスが「転校する」のどうのと話している箇所ですが、同一人物が連続して喋っているのに、カギカッコが分かれているため、分かりにくい部分があります。
もう一つは細かい点ですが、「…」は二つつなげて「……」で使うのが普通です。

それくらいですね。
全体としては楽しく読ませていただきました。
by 木村勇雄 2006.06.03 23:14 [3]
RE:禁断恋愛 (第一テーマ小説)
先に言います。
この作品消さないでー。

はい。
どうも、瓜です。
ええっとー、村上さん。
すごいです。
ハマリマシタ。
最初の10・11行。
綺麗な始まり方。
そして『(神様、あなたに願うのはお門違いですけど、どうかお願いします…)』のセリフに参りました。
良いです。
好きですよ。
悲しいし。
カギカッコのところもあえてやってる様で良かったです。
なんと言うかラズノの一瞬の息遣いが感じれました。

続編か番外編か書きたいと思った今日この頃です。
拍手です。
by 瓜畑 明 2006.06.05 21:12 [4]
RE:禁断恋愛 (第一テーマ小説)
ども、西(短縮形)です。

読みました!

吸血鬼ものは好きなので、その時点でマイハートをがっちりキャッチですw
吸血鬼と人間の恋は、小説にしろ漫画にしろ映画にしろ悲恋に終わることが多いので、フェリスとラズノには幸せになってもらいたいです(^^)

さてさて、肝心の内容に関してですが、「忘れるのと忘れられるのはどっちが辛いか?」という複線から、それを使ったラストまで巧くまとまっていると思います。

瓜さんが外伝(?)を書くみたいなことをおっしゃってたので、村上さんも是非つづきをお願いします。
by 西向く侍 2006.06.10 16:53 [5]

NO.22  願い(裏テーマ企画「片方だけの翼」)
 小太郎が巣から落とされたのは、昨日のことだった。
 母鳥は彼の将来を悲観し、眠っている間に投げ落としたのだ。
 浮遊感、衝撃、朦朧とした意識の中で幾分かは覚えている。しかし、はっきりと思い出せないのは、彼自身がそのことを嫌がっているからだった。
「どうして……」
 独白し、小太郎は遥か頭上の巣を見上げた。彼が半日かかってようやく一周できるほどの幹、視界いっぱいに広がる枝、サワサワと太陽の光を透き通らせて輝く葉、以前は素晴らしく思えた景色が、今は彼の全てを拒絶しているように見える。
 事実、巣に戻る手段はなかった。
「ママ、どうして……」
 もう一度つぶやいた彼の声を、突風が掻き消していった。
 思わず羽を広げ、全身を翼で包み、風から守ろうとする。しかし、それは完全には成功しなかった。
 突風をまともに受けた右側の翼、小太郎のものはひどく矮小で、羽ばたくことすらできなかった。
「うぅ」
 目を瞬かせる。ミニチュアのような羽では埃を叩くことすらできない。彼は飛ぶことのできる月齢には達していたが、その奇形のために空を泳ぐことができなかった。
 小太郎が丸一日、巣のある木から離れなかったのもそのせいだ。飛べない体では旅立つことも容易ではない。小さな彼の足では餌にたどり着く前に死んでしまうだろう。
 しかし――埃の入った目の痛みをこらえて、彼は思った。
「もう一度、巣に帰りたい」
 自分は駄目な鳥ではないのだと、きちんと一人で生きていけるのだと、母親を安心させたかった。母親が自分を捨てた理由も、そうして会いに行けばすべて氷解するし、事態も解決するのだと自分に言い聞かせた。
「絶対に、死なない」
 あの時のことを思い出して、小太郎は決意した。



 それは、小太郎がようやく咀嚼したものでない餌を食べられるようになってからのことだった。
「かわいい赤ちゃん、早く大きくなってね」
 そういって彼の口に虫を押し込む。母親は自分のために毎日餌を捕り、運んでくるのだということくらい知っていた。しかし彼はそれがどれだけ大変なことかは知らなかった。
「いいよ、僕、いらない」
「どうして?」
「僕の翼はこんなに小さいんだもの。どうせすぐに死んでしまうよ」
 その頃の彼は自分を必要のない生物だと思っていた。将来を諦め、死を願っていた。そんな彼をしっかりと見据え、母親は叱った。
「そんなことを言ってはいけないよ」
 くちばしで彼の頬を突付く。痛みをこらえながら小太郎は反論した。
「だって、どんなことをしても……例えどんなにたくさん食べても、僕は一人じゃ餌を取れない。いつか飢え死にしてしまうに決まっているよ」
 そう悲観する小太郎を、母親はもう一度突付いた。
 今度は、何も言われなかった。何も、言えなかった。
 その代わり、彼女は小太郎をその背に乗せた。彼も最初は嫌がったが、母親の顔があまりに真剣だったので言われるままになっていた。
「落ちないように、しっかりつかまっているんだよ」
「うん」
 母親の足が巣から離れる。網の目に広がる枝、覆いかぶさる葉を避けながら、しかし普段よりも重量のかかる飛び方に慣れていないのか、やや落下感が感じられる。いつもは隙間からしか覗けない陽光が、次第に幾筋もの柱となって親子に降り注いでいた。
 雲は頭上から圧し掛かって来るように層を増し、風がその階段を上り下りして遊んでいた。小太郎は初めて泳ぐ空気の層を感じ、心地よさに目を閉じていた。たった今まで悩んでいたことが一遍に吹き飛んでしまったかのようだった。だが、裏を返すとこの心地よさこそが小太郎の悩みの元でもあるのだ。そのことに、彼が気づくことはなかったが。
 純粋に風の音を感じている小太郎に、母親が話しかける。
「今から餌をとりに行くよ」
「え? でも僕がいるのに」
「いずれ知っておかなければならないことだよ」
 そう言って母親は急降下した。その向かう先には小さな羽虫が飛んでいた。風下からそっと近づく。太陽を背にし、羽虫から見ると逆光になる。明るい光に照らされ、親子の姿は見えないはずだった。
 しかし、勘がいいのか羽虫はすっと地上に逃げていった。母親は慌てて追いかけたが、小太郎が乗っている分、スピードが乗らない。それどころか、母親は荒い息を吐き始めた。
「ママ、だいじょうぶ?」
「ええ、大丈夫。今のはちょっと失敗」
 短く返答して、再び親子は虫へと挑みかかる。
 ――結局、一匹も餌が取れず、彼らは帰途に着いた。
 巣に着いた途端、母親は寝込んでしまう。
「ママ……」
「気にしないで、明日になれば治っているから」
 それでも小太郎は気が気でなかった。一睡もせずに看病する。まだ幼く、飛ぶことさえできない彼には傍についている事しかできなかった。
 疲れた顔をして、身じろぎもせずに眠り続ける母親を見て、彼は思った。こんな思いをしてまで僕を生かそうとしている母親、彼女が僕を生かそうと思っている間は生き抜こう、と。



 その母親が彼を巣から落とした。それが小太郎にとって死と同様であることは彼女が一番良く知っているのに。彼はその理由が知りたかった。毎日小さな翼を見ていることに疲れたのだろうか。それとも小太郎が憎くなったのだろうか。
 どちらでも良かった。小太郎は決心したのだ。生き抜くと。そして、これまで育ててくれた母親に礼を言いたかった。
 生かされている間は生きていこう、そう考えていた小太郎はそこにはなかった。いざ一人立ちさせられ、生死に直面したとき、彼の心に最も強く浮かび上がってきたのは『生きたい』という願いだった。
 まず、近くに餌がないかを探す。それは行動範囲を探索することと同じだった。よく見ると近くに低い木が生い茂っている林があり、その茂みには蜘蛛や小さな昆虫が潜んでいた。それらは彼にとって食指を動かされるものではなかったが、この際、贅沢は言っていられなかった。
 葉の裏や枝と枝が交差している部分、それらの見つかりにくい場所に昆虫たちは隠れている。片翼を丁寧に動かしながら、彼は食事を見つけていく。
「やった、ごちそうだ」
 丸一日、何も食べていなかった彼だ。今ならなんでも美味しそうに見える。捕まえた蜘蛛を恐る恐る飲み込んで、その苦味に舌鼓を打った。独特の文様が毒をイメージさせたが、幸い彼にとって害になるようなものは含んでいなかった。
「でも、もう少し獲物は選ぼう。死ぬわけにはいかないんだから」
 自分の軽率さを反省しながらも、次の餌に手をつける。アブラムシだった。
「ぺぺっ、なんだこれ」
 思わず吐き出してしまう。とても食べられた味ではなかった。先ほどの蜘蛛がビターな味だとしたら、こちらは泥を食べているようだった。ザラザラして舌触りも悪い。気がつくと、お腹の辺りが唸るように音を出している。
「うう、いたたた」
 どうやら食中りのようだ。下痢と痛みで立ってはいられない。



 そんなことを何度も繰り返しながら、小太郎は少しずつ行動範囲を広げて行った。半年が経つ頃には、もう巣のある木が見えない所まで来ていた。
 小太郎自身も、飛べないながらも生きていくことに自信をつけていた。危ない場面もあったが、もう一人で生きていける。しかし、空を飛べないことには母親に会うことは叶わない。強くなるにしたがって、彼は片方しかない自分の翼が憎らしくなってきた。
「こんな体じゃなければ」
 生きている方の翼をもう片方に叩きつける。何度痛めつけても、その状態が変化することはない。
「もう、ママには会えないのかな」
 そんな風に悲観することも多くなった。生きることに明るくなっても、気持ちは沈んでいる。そんな日々がさらに続いた。



 ある日、小太郎は初めての土地に足を踏み入れた。勇気を持って踏み込んだのではない。台風によって体が流され、仕方なく避難してきたのだった。
 風の猛威は、歩くどころかまともに前を見ることさえ許してくれなかった。飛ばされないように必死で枝にしがみつきながら、風雨が納まるのを待つ。
「手を離したら死ぬな」
 独白しながら、半ば死を覚悟した。しかし、死ぬわけにはいかない。彼の生への執着は、この場から離れることを求めていた。ここでは駄目だ。もっと遠くまで逃げないと。彼はそう感じて枝を伝いながら他所に移ろうとしていた。
 遠くから、叫び声が聞こえる。小さな小さな叫び声だった。風雨に掻き消され、微かにしか聞こえないが、確かに誰かが助けを求めていた。
「誰だ、こんな時に」
 小太郎には、助ける余裕などなかった。一瞬でも気を緩めれば、自らの死を招いてしまう。気にしないように努めながら、小太郎は先へと進んだ。
「ああぁぁぁぁ」
 よりはっきりと、声が聞こえる。こちらに近づいてきているのだ。そのために心が疼くのを彼は感じた。他人の死と引き換えに自分が生きることは、正当だろうか。そうした考えが一瞬だけ頭をよぎったのだ。
 そうなると彼には見捨てることができなくなっていた。
 声のする方を見ると、確かに何かが飛んでくる。数秒の内によりはっきりとしてきたものを見ると、それは小太郎と同じ鳥であった。
「同種……飛ばされている」
 ぼんやりとつぶやいた彼は動いていた。地面に這いつくばるようにして目標に向かう。風が螺旋を巻いて彼に襲い掛かってくる。小さな枝の破片、葉の屑、土埃などが狙ったように小太郎の体を削いでいく。それに負けじと、さらに姿勢を低くする。
わずかずつだが、小太郎は前に進んでいた。相手はすでに地面に伏し落ち、全く動かない。
「うわっ」
 一直線に、枝が牙をむいた。とっさに転がり、避ける。転がった方向は左側、枝はまっすぐに右の羽へ突き刺さった。
「ぎゃあ」
 痛みに耐えかねて、小太郎は叫んだ。しかしその声もすぐに風でかき消される。突き刺さった枝も、風雨の勢いで飛ばされていった。地面をつかむ足の力が抜けていく。誰かを助けるどころか、小太郎自身も危うい状況だった。
「あっちも、もう動かないし……」
 きれぎれに思う。張り詰めていた気持ちが解け、彼自身の未来をも諦めようとしていた。ふ、と目を瞑れば、そのまま空に飛ばされて行くはずだ。人生の最後に空を飛ぶのも悪くない、彼はそう考えた。
 だが、それは許されなかった。
 死んでいると思っていた小太郎の同種が、かすかに動くのだ。顔を上げ、小太郎を見、助けを求めるように体を起こす。
 その瞬間、小太郎は跳ね上がるように顔を上げた。
 その鳥の羽が、削がれていたからだ。
「僕と同じ――いや、違う」
 小太郎は首を振った。その鳥のこれからを思って。
 その鳥の羽はたった今、千切れてしまったのだ。先刻、小太郎が飛んできた枝によってそうなったように。その証拠に、傷口からの鮮血が風に流され、赤い幕を引いていた。
 死をも覚悟で歩みを進めていく。近づいて行くに連れ、その鳥が雌であることが分かった。青く、濃い色の羽を持つ小太郎と違い、薄く黄色い羽をまとっていた。それだけに血の赤が痛々しい。
 あと少し、その時点で小太郎は彼女に声をかけた。
「頑張れ、あと少しで助けるから」
 実際は、小太郎の歩みは遅く、その距離はほとんど稼がれていなかった。近づいていたのは彼女の方だったのだ。風雨に流され、体が転がる度に傷みを訴えているようだった。
「ううん」
 返事なのか呻きなのか判然とはしなかったが、小太郎はそれを良い傾向だと見て取った。まだ痛みを感じ、声を出す力があるからだ。
 一歩、彼が歩を進める。一転がりする彼女が右翼を彼に伸ばす。それに応えるように、彼も羽を伸ばした。あと一歩、あと一歩とつぶやきながら、小太郎は目の前の彼女だけを見ていた。
「届いた」
 両の羽がつながった。二人とも心を緩め、しっかりと瞳を通じ合った。お互いに傷みは激しいが、これ以上ない安心に包まれていた。小太郎の先導で転がるように木の洞に身を隠した。
 彼女は憔悴しきっていて、肩で息をしている。だがここには彼女の疲れを癒すだけの食糧も寝床もなかった。激しく降り込む雨は羽毛で覆われた体を冷やしたし、洞に共鳴する風の音は心の余裕を失わせていった。
挫けないように、諦めてしまわないように、二人は体を寄せ合い目を閉じた。


 小太郎が目を覚ますと同時に、彼女も目を覚ました。
 昨日の嵐が嘘のように、陽気な風が洞に流れ込み、鳥たちの声が反響した。歓喜の鳴き声を聞き、二人は同じ瞬間に息をついた。それがおかしくて、どちらからともなく笑い出す。
「初めまして、私は洋子です。昨日は助けてくれてありがとう」
「僕は小太郎だよ。必死だったからよく覚えてないけど、助かって良かった」
 お互い、初めて言葉を交わした。洋子と名乗った鳥は小太郎と同じくらいの年齢で、親元を離れて一人暮らしを始めたばかりだった。小太郎も自分の境遇を話そうとして、ふと思い当たった。
 洋子はまだ、自分に起こった出来事を知らないのではないか。片翼を無くし、もう二度と飛べない体になった。そんな、鳥類として致命的な欠陥を彼女は受け入れることができるだろうか。自分のことを棚に上げて、小太郎はそう思った。
「僕は――親に捨てられたんだ」
 だが、それでも小太郎は正直に自分の境遇を話した。今隠しても、彼女が羽を無くした事実はすぐに分かることだ。ならば、自分のことを話して少しでも彼女の恐怖を和らげ、これからの糧にしてもらいたい。
 小太郎の話を、洋子は真剣に聞いてくれた。奇異の目で見たり、蔑んだりはしなかった。逆に彼に対して尊敬の眼差しさえ向けてくれたのだ。
「僕のこと、馬鹿にしないの?」
 むしろ彼の方が疑問に思ってしまった。彼が出会った鳥たちは、決まって「飛べない鳥」と馬鹿にしたからだ。そんな彼の質問に、洋子は寂しそうに笑って答えた。
「私にとっても、他人事じゃなさそうだしね」
 その言葉を聞いて、小太郎は言葉に詰まった。あえて逸らしていた部分に視線が向かう。洋子の左翼は出血こそ止まっていたものの、完全に消失していた。そして、小太郎の右翼も、今までのように矮小ではなく、完全に削り取られていたのだ。
「あれ?」
 そのことに最初に気づいたのは洋子だった。彼女自身、昨夜の痛みをはっきりと覚えていたので、おかしいと思ったのだ。
「そういえば、傷口が痛まないんだけど」
「え?」
 言われて弾けるように体を起こした小太郎は、その仕草がいつものようにいかないことに気づいた。体が重いというか、引っ張られるような感覚を覚える。
「あれ?」
「あれれ?」
 気づくと、小太郎が起き上がると同時に洋子も起き上がっていた。二人とも顔を見合わせて原因を探る。そうするまでもなく、答えは見つかった。
 小太郎と洋子の傷口は縫い合わせたように合致していたのだ。



「私が飛ぶ練習をしていたとき、お母さんはこう言ったの。洋子、飛ぼうと思うんじゃなく、空に身を任せてごらん。風はいつでもお前を受け止めてくれるよ、って」
 バタバタと翼を羽ばたかせるばかりの小太郎に、洋子はそう諭した。いったん翼を休めて、小太郎は洋子を見つめた。
「洋子のお母さんは優しいんだね」
「そんなことないよ。いつかなんて私がちょっと掃除の手伝いをサボっただけで、三日間も餌捕りを任されたんだからね」
 元気になってみれば、洋子はよくしゃべる鳥だった。小太郎は生来の奇形が由来して、塞ぎ込みがちなのだが、それを補って余りある黄色いくちばしだった。
「でもそれは、君に餌捕りの練習をさせるためなんでしょう?」
「そうかなあ……」
 口籠もる。このように、どちらが思慮深いかと言われれば、誰もが小太郎を挙げるだろう。そういった点でお似合いの二人だった。
 あの日、小太郎の失った右翼と洋子の失った左翼を補うように、二人の体は癒着してしまっていた。特に感染症や腐敗を起こすこともなく、数日後には行動が可能になっていた。
二人は、お互いの体を合わせて、完全な翼を持つ一匹の鳥となっていたのだ。
だが、だからと言っていきなり飛べるわけがない。小太郎は飛ぶ訓練自体をしたことがなかったし、洋子にしても体のバランスが崩れていて上手く羽ばたけなかった。つまり二人は一匹の鳥となってはいたが、一人前の鳥とは言えなかった。幼い頃、誰もがそうするように、飛ぶ訓練が必要だったのだ。
「絶対にそうだよ」小太郎は声を荒げて言った。
「母親ってのはね、子供を自分の奴隷のように使ったりなんてしないんだよ。むしろ、自分の危険を顧みず、子供のためを思っていつも行動しているものなんだから」
 珍しく、小太郎が饒舌に語る。その様子を見て、洋子も驚いたようだ。
「小太郎はどうしてそんなにお母さんのことを信じているの?」
 捨てられた、と彼は言っていた。洋子には想像のつかない辛い思いがあったに違いない。体は共有しても、心は別だ。彼女には小太郎の矛盾した言動が分からなかった。母親を凶弾するのならば理解できるのだが、彼はいつも母親という存在をかばっていた。
「それは、僕がママに生かされていたからだよ」
 小太郎は思い出を語った。自らの体を酷使してまで小太郎に生への執着を教えた母親。洋子には厳しすぎるようにも思えたが、今の彼があるのはその厳しさのお陰なのだと思うと、否定はできなかった。
「小太郎は、お母さんを恨んでないの?」
「恨む? どうして?」
「だって、捨てられて……」
「それは違うよ。きっと理由があったんだよ」
 洋子には、小太郎がそう信じ込もうとしているようにも思えた。だが、小太郎の瞳には一瞬の迷いも、幽かな憂いも見当たらない。
「でも……」
 なおも問い詰めようとする洋子に、小太郎は言った。
「飛べるようになったら、一番に自分の巣に戻りたいんだ」
 希望に満ちた目で小太郎は宣言した。
「ママに、僕の成長した姿を見てもらいたいんだ」
 それ以上、洋子には何も言えなかった。



 ついにその時は来た。
 自らの力で初めて飛べた日、小太郎の喜びようは異常にも見えた。傍らに洋子がいなければ、死ぬまで地面に下りようとしなかったに違いない。
「小太郎、小太郎ってば」
「なんだよ、君はこの幸福感が味わえないの?」
「嬉しいのは分かるけど、私もう疲れたよ」
 どこまでも高く飛ぼうとしたり、どこまで早く飛べるか確かめたり。洋子も初めて飛べたときはずいぶんと嬉しかったが、それに比べても小太郎は喜びすぎた。普段が普段なだけに、より奇異に見える。
「まあ、嬉しいのは本当に分かるんだけどね」
 飛べたくても飛べなかった鳥。種族として存在を否定されたかのような事実に、彼は今勝ったのだ。そういった意味では、小太郎はたった今、生まれたのだ。
 それからさらにしばらくが経って。
彼らは小太郎の巣へと向かうことにした。重量が倍になっているため、長時間の飛行は難しいが、一人前の鳥として遜色ないほどには飛べるようになったのだ。小太郎が長い旅をしてきたとはいえ、鳥類の足で歩いてのこと。空を飛んでみて、小太郎は自分の旅がいかに小さいものかを思い知らされた。同時に、翼の偉大さ、素晴らしさに感心もしたのだ。もう彼は後ろを振り向いたりしなかった。どこから見ても一人前の鳥だ。誰にも文句は言わせなかった。
「ありがとう、洋子」
 巣へと向かう途中、小太郎は改まって洋子に礼を言った。
「なんなの、今さら御礼なんて」
「洋子のお陰で、僕の願いが叶った」
 目にはうっすらと涙すら浮かべていた。そんな小太郎の言葉を、彼女は否定する。
「それは違うよ。小太郎が飛べるようになったのは小太郎の努力の賜物だよ。私こそ、小太郎に助けてもらわなければ、今頃死んでたよ。お礼を言うなら私の方だよ」
 しばらく、礼のなすり合いが続いた。それがおかしくて、二人して笑った。一人ではない世界がこんなに素晴らしいものだとは、小太郎は夢にも思わなかった。思えば、母親も一人が怖くて僕を必死に生かそうとしていたのかもしれないな、そんなことを小太郎は思った。
 小高い丘を越えて、針葉樹の森を低空飛行で抜ける。その度に小太郎は旅での出来事を洋子に語った。いまや洋子は、小太郎にとって精神も肉体も共にしたより良き半身だった。
 小太郎の思い出を聞く度、洋子は胸を痛めた。彼の辛さ、苦しさを自分も味わっているような気持ちになった。しかし小太郎はそんなことにお構いなしで話してくる。彼の口元には笑みすら認められた。そうやって共有していく作業を小太郎は喜んでいるようだった。
「まったく、迷惑なのよね」
 洋子はつぶやいた。じわじわと味わってきた小太郎に比べ、洋子は話に聞くだけとはいえわずかの間に体験するのだ。心が張り裂けそうだった。
「何か言った?」
 小太郎が独り言を聞き留めて問いかけた。慌てて洋子は首を振る。誤解はして欲しくなかった。迷惑とは言ったが、小太郎が嫌いなわけではない。彼女はこう思ったのだ。どうせ共有するなら、一緒に体験したい、と。
 針葉樹の森を抜けると、すぐに一本の高い樹木が見えた。天に向かってまっすぐと伸びていくような、気高い木だった。
 枝はあくまでも広く、その上に住むものを優しく包んでいるように、洋子には見えた。
「あれが、小太郎の巣のある木なの?」
「そうだよ。あの中腹に僕の巣はあったんだ」
 巣から落とされたあの日、見上げることしかできなかった樹木を、今は俯瞰している。そうして空から見ると、あれほど壮大に見えた木が、どこにでもある樹木と同じようにも見えた。それが錯覚だということは、近づけばすぐに分かったのだが。彼は気が大きくなっていたのだ。成長し、一人前として母親の前に出ることができるため、自分がどこまでも大きくなっていくような気がしていた。
 巣のある場所が近づいて来る。
 網の目のような葉を潜り、太い細い枝をかわしていく。
 巣が見えた。
 もう手に取れるほど近くに、それはあった。
「待って」
 その瞬間、洋子が小太郎を留める。
「なんでだよ」
 小太郎は強引に進もうとした。それを無理に洋子が押し留める。
「行くのはやめましょう」
 その場に留まった小太郎が、訝しげに洋子を見る。
 洋子は泣いていた。声も上げずに、静かに泣いていた。
「洋子? ……そうか」
 ようやく、小太郎は悟った。それでも、ゆっくりと巣に近づいていく。今度は洋子も遮ることはしなかった。葉と葉の間に隠れた巣を、斜め上から見下ろす。
「さっきね、一瞬だけ見えたの。葉が風で揺れて……その間から……」
 弁明するように洋子が語っていた。だが、小太郎に声は聞こえていない。目に映った物体を、静かに凝視していた。
 優しかった、強かった母親。その干からびた屍骸が、目の前にある。
 小太郎には、その情景が見えるような気がした。小太郎を巣から落としたあの時の。



「ごめんね、小太郎」
 母親は、彼の顔をもう長い時間見つめていた。話せば別れが辛いことは分かっていた。だが、何も伝えずに分かれて、果たして彼は生きていけるだろうか。自暴自棄にならないだろうか。
 それでも、彼女には信じるしかできなかった。彼女には残された命がないのだ。
 小太郎が負担になっていなかった、と言えば嘘になる。元来病弱な彼女にとって、いつまでも飛び立てない小太郎は次第に重荷になっていた。
 体力が落ち、このところ餌も取れていない。このままでは双方とも飢え死にすることは間違いなかった。
 だが、小太郎だけなら。
 小太郎だけなら地面の上で生きていけるかもしれない。可能性は少ないだろうが、全くないとも言えない。この巣にいれば、飛べない小太郎は間違いなく死ぬ。
「ごめんね、小太郎」
 もう一度話しかけて、彼女は小太郎を巣の縁に押し上げた。最後にもう一度だけ顔を見て、突き飛ばす。彼女は小太郎の将来を悲観し、投げ落としたのだ。
 落ちていく小太郎をいつまでも見続け、彼女は泣いた。地面までは豊富な葉が運んでくれるだろう。後は、彼に生きる意志と力があるか……。
 所作を終えた母親はがっくりと項垂れた。体中の力が抜けたかのように仰向けに寝転ぶ。
 頭上には視界を遮る枝葉と、その隙間から覗く一筋の光が見えた。
 それは、天への道のように感じられた。
 彼女は自らの安寧ではなく、息子の平穏を願った。




========================
キム兄です。
ごめんなさい。
短くするとか言っておきながら無茶苦茶長くなりました。
その分、少々文章を柔らかくしてみましたがいかがでしょう?

皆さんの正直な感想をお待ちしています。
by 木村 勇雄 2006.06.10 17:17
RE:願い(裏テーマ企画「片方だけの翼」)
 こんばんは。日原武仁です。
 拝読しました。
 良い話です。ただ少しばかり擬人化が過ぎたかなぁ……、という気がします。鳥らしいというか、もう少し別の見方が出てきてたらよかったかな、と思いました。
by 日原武仁 2006.06.01 21:23 [1]
RE:願い(裏テーマ企画「片方だけの翼」)
どうも、直です。

良かったです。それ以外に言う言葉が見つかりません。
ただ、確かに人間っぽすぎますね、表現とか、描写とか。あと、小太郎は許せますけど、洋子は……。だからと言っても、鳥らしい名前って言うのも分からないんですけど。

とはいえ、秀作だと思います。
では。
by 2006.06.03 00:19 [2]
RE:願い(裏テーマ企画「片方だけの翼」)
かつて、ミツバチはハッチだったんですが。

キム兄です。
どうも、直さん、日原さん、感想ありがとうございます。

直さん。
うん、確かに名前は難しいですね(泣
実は洋子が登場するまで、洋子って名前は決まっていませんでした。
いわゆる適当ってやつです。
でも、ピッピとか付けたくなかったしなぁ(笑
突っ込みどころがあったら、どんどん突っ込んでくださいね。

日原さん。
擬人化が過ぎてますか。
確かに書いているときは鳥とは意識していませんでしたね。
鳥らしく書くのはそう難しいことではないんですが、そうすると作品として成り立たないんですよね。
加減が難しいところです。

全体的に、まだまだ勘が取り戻せていないなあ、という感じがします。
次の「月」では多少マシになっているかな。
期待していてください。
by 木村勇雄 2006.06.03 20:06 [3]
RE:願い(裏テーマ企画「片方だけの翼」)
瓜です。
そーですなー。
まあ、面白かったですよ。

擬人化に関してはそんなに気にならなかったです。
ただ、コジロウとヨウコがくっつくところがちょっとって感じでした。

最後の段が良い感じに余韻を残して良かったです。
by 瓜畑 明 2006.06.05 20:49 [4]
RE:願い(裏テーマ企画「片方だけの翼」)
ども、西(短縮形)です。

読みました!

こういった動物擬人化ものを読むと、頭の中にみ○しごハ○チのテーマが流れますw

レベル高すぎて他に言うことありません(^^;
次回作にも期待です。
by 西向く侍 2006.06.10 17:17 [5]

NO.20  籠の鳥(第一回裏企画テーマ小説)
 昔、伊佐部は一時期付き合っていた恋人に、プレゼントを貰った事がある。
 鳥篭の中の小鳥。片羽を切り落とされた小さな小鳥だった。

 その恋人とは、その一件がきっかけで分かれた。

 伊佐部は、自分に与えられた私室で、何も捕らえていない小さな格子を無言で見つけていた。
 部屋の中は怖いぐらいに殺風景。インテリアといえば、鈍い輝きを放ついくつかの勲章と、そして壁に穴を開けて、鳥篭をつるすために設置してあるフックだけ。
 空気の動きのない部屋の中、鳥篭はあるだけ。住人はいない。だいぶ昔に天寿を向かえて死に、土に還した。

 
 鳥は片方翼をもがれれば空を飛べなくなる。
 片翼では空を飛ぶことはできない。そういうようにできている。最先端の有機系工学でも、人工筋肉の生成には成功しても、飛行を可能とする小さくパワーのある筋繊維製作には至っていない。人類の歴史よりも鳥は早く空を我が物としていた。
 伊佐部は、机の上の模型を見た。
 隕鉄。我が鋼鉄の翼。
 あの翼の片翼がへし折れる姿など出来れば一生見たくない。
 
 翼が片方無いという事はそれは飛べないということに直結するのだ。
 片翼を失ってももう片翼があるから大丈夫というわけではない。両方がそろわなければ残された翼には意味が無いのだ。

 伊佐部は、片羽を切り落とされた小鳥を結局飼っていた時期がある。
 そして問いかけてみた。お前は幸せなのかと。
 小鳥からしたらふざけた問いだったろう。選択の余地無く愛玩動物として籠に押し込められて、空を飛ぶための機能を永久に奪われたのだから。

 外界で天敵に襲われてでも自由に空を飛びたかったのか。
 籠の中で安穏と餌を貰って生きていくほうが幸せなのか。
 
 小鳥は語る舌を持たない。
 それはまるで無言で己の翼を断ち切り、選択の一切を許さずに地に縛る宿命を背負わせた人間に対する無言の威圧のように思えた。
 伊佐部は小鳥の身を己に置き換えて考えたことがある。

 他者の誰かの勝手な意思で空に舞い上がることを奪われることはどんなにつらいだろうと考えて、少し死にたくなった。
 昔の恋人は、空を知らない女だった。知っているのは旅客機から除く漆黒の空だけ。己の意思で自在に空を飛ぶ事を知らない人だった。

 彼女のような人の方が遥かに多いに決まっている。
 自分とて自分の意思で空を飛ぶのではなく、軍属として空を飛ぶ身だ。

 夢想する。
 一切合財の戦闘用武装を装備せず、ありとあらゆる負荷から解放された隕鉄と共に思うが侭空を飛べたらどれほど気持ちが晴れやかになるだろうか。
 鋼鉄の巨鳥。制空の機塊鳥。数百億、少なくとも個人の資産では絶対に得ることの出来ない鳥を駆って自在に飛ぶことはどれほど晴れやかか。

『……総員、第二種戦闘態勢。金星軍艦隊接近、各員、戦闘態勢に移れ』

 楽しい夢想の時は、現実のアラームひとつでかき消される。反射的に伊佐部は部屋から駆け出していた。
 フライトスーツに袖を通しながら走る。片翼では空は飛べない。両翼を揃えてこそ、鳥は鳥なのだ。空を飛べるからこそ、自分は鳥の眷属になるのだ。
 鋼鉄で出来た偽翼でもいい。恋人に貰った片羽の小鳥にはなりたくない。
 
 やはり、俺は死ぬなら空が良いのだ。
by ハリセンボン 2006.06.05 19:54
RE:籠の鳥(第一回裏企画テーマ小説)
キム兄です。

今回はサイドストーリーとも言うべき展開になっていますね。
文章も組み立ても申し分ないです。
主人公の心理に迫る一作でした。
軍隊として空を飛ぶ、という心理に適切な説明が与えられていて、次回の作品に弾みがつくように思えます。

一点気になったのは、小鳥の片羽を切り落とすというのはかなり残酷な行為です。
一般の女性であれば、それは嫌悪することなのだと思います。
そんな鳥をプレゼントにするなんてこと、あるでしょうか?
人物背景がないので良く分かりませんが、私はかなり違和感を覚えました。
by 木村 勇雄 2006.05.27 12:12 [1]
RE:籠の鳥(第一回裏企画テーマ小説)
 こんばんは。日原武仁です。拝読しました。
 出だしのインパクトとしては良いのですが、伊佐部の彼女が何を思って片羽のない小鳥を送ったのかがやはり気になります。
 伊佐部の心理を追っていく展開はきれいにまとまっていて見習いたいです。そして決意めいた意志を新たにする締めが良かったです。
by 日原武仁 2006.06.01 21:09 [2]
RE:籠の鳥(第一回裏企画テーマ小説)
どうも、直です

番外編みたいな感じなのでしょうかね。

きれいに纏まっていると思います。
心理の流れもきれいです。

気になったのはやはり皆さんと同じく、何で恋人から片羽を切り落とされた小鳥を貰ったのか。
その恋人さんは、初めから別れようと思ってプレゼントしたのでしょうかね。

では。
by 2006.06.03 00:04 [3]
RE:籠の鳥(第一回裏企画テーマ小説)
ども、往復特攻隊隊員の瓜です。

ええーーーーっと。
まず、好きです。
確かに、なぜ恋人が片翼の小鳥を上げたのか等疑問はあるものの。瓜的には好きな話でした。

『楽しい夢想の時は、現実のアラームひとつでかき消される。反射的に伊佐部は部屋から駆け出していた。』
ここの文章など、綺麗な文章が多く楽しめました。

でわ
by 瓜畑 明 2006.06.05 19:54 [4]

NO.19  片翼な気持ち、両翼な気分〈第一回企画裏テーマ小説 テーマ『片方だけの翼』〉
 健太郎は机にひじをつき、窓の外を眺めていた。ああ、今日もいい青空だ、浮かんでいる雲なんて綿菓子みたいで食べちゃいたいや、なんて気をまぎらわせながら。
 それというのも教室内のひと隅で展開されているものを気にしないようにするためだった。極力なにげなさを装って、ぎしぎしと首を教室中央に向けると、楽しそうに笑っている春日井萌美さんとええかっこしいの斉藤駿介、その他数名の姿が見れた。昼食後、春日井さんが数人の友達とひっそりと会話を楽しんでいたところ彼が大げさな身振りでもって割り込み、話し込んでいるのだ。
 この高校に入学してから見ている、いつもの景色、いつものことだった。
 でも、そのいつものことに健太郎は納得がいっていなかった。本当なら自分が斉藤の位置にいるはずだ、いま彼がしているように気軽に春日井さんの肩をぽんと叩いたり、笑顔を共有していたはずだ、と。
 そうは思うのだが、健太郎の体は彼女に向けて動かそうとすると全身強化マシーンでも着込んだように、思うように動かせなくなってしまうのだ。ちょっと目が合っただけでも顔がかたまり目は見開いたまま、数秒はマネキンになっている。健太郎は自分が情けなくてしょうがなかった。
 春日井さんは決して目立つ部類ではなく、むしろ地味に属するひっそりとした女の子である。肩まである黒髪をそのまま流しているか、ちょっと後ろでひとつかふたつに縛っている。顔にもまるで化粧はしていなく、柔和な彼女の顔を隠すものはない。ただひとつ、赤色の縁の眼鏡のみが顔に色を添えている。それだけで十\分だった。
 彼女は人当たりもよく、クラス内外に友達が結構\いるみたいだった。
 それゆえに春日井さんに言い寄る男は数多く、斉藤駿介はその中で抜きん出ているのだ。彼にはかなわないとみた男子生徒がすごすごといなくなるのも何度も見ている。
 それに春日井さん自身が、まんざらでもなさそうな雰囲気だから。
 今日も話しかけられなかったな、と重い気持ちをため息と一緒に出そうとする。出るわけないけど。
 下校路にいる生徒はまばらで、少数と言っていい。その中をとぼとぼとローファーの足裏で小石をじゃりじゃり鳴らしながら歩いていく。見上げれば昨日よりは晴れた空。濃い水色と言っていいその中に、白い絵の具をたらしたような雲がうにゃりくねっている。視線を降ろせば、毎日行き帰りで見ている同じ風景。塀に囲まれた家家家。
 そして、いつもの不満の溜まった気持ちを抱えた自分、と結び、ため息をもう一度つこうとしたところで足を止めた。
 足下に小さな鳥がいた。そこは人通りの少ない道の隅っこだったので誰も気づかなかったのかもしれない。その青い小鳥は体半分をアスファルトにあずけるように横たわっている。座って様子を見ていると時折羽をばたつかせ、かん高い声を発する。そして横たわる。それを繰り返していた。
 体のどこかを傷めたのかもしれないと思った健太郎は小鳥に手を伸ばす。自分を攻撃する敵だと思ったのか小鳥は必死に声をだし暴\れる。健太郎は苦笑しながらそっと両手で抱え上げた。そして持った感じが変だと思った。小鳥の裏側を見ると、赤色に染まった反面が見えた。思わず顔をそむけそうになる。誰がこんなことをしたのか。どこかにひっかかってこうなったのか。原因はわからないが、傷を負って弱っている小鳥を放ってはおけないので家に運ぶことにした。
 発見が早く、健太郎のした応急処置の効果もあり、小鳥は早くも元気を取り戻した。けれど獣医の話ではもう飛ぶことなできないという話だった。
 空を自由に飛べなくなった気持ちってどんなだろうと健太郎は考えた。きっとつらいに違いない。つらいに決まってる。仲間たちは元気に楽しげに空を駆け回っているのに自分はずっと下の方で、ばたばたと跳ね回っているだけなのだから。
 何日たっても片方の翼を失った小鳥は飽きることなく、鳴き、元気に飛び回っている。たまにぱたりと倒れこみ足をばたつかせている。そんな姿を見ていると自然と笑みを浮かべてしまう。小鳥は自分の状況がわかっているのだろうか。わかっていてなお、こんなに元気に振舞っているのだろうか。もしかしたら大空へ羽をはためかせるために躍起になっているのかもしれないが、それでも気持ちを失っていないことには違いない。
 なぜだか健太郎は自分のことを言われているような気がしていた。俺は片側だけで頑張ってるんだ。お前はなにをしてる、ってね。そう思ったら苦笑し、うん、そうだなと思えた。
 翼はひとつじゃ飛べない。ひとつでも頑張ればなんとかなる。
 でも翼はふたつでひとつ。ふたつあれば世界が広がる。
 カゴの中の小鳥にありがとうと言って、立ち上がる。心に決めたことがあったのだ。
 
 翌朝の教室。まぶしい朝陽が射しこむ室内では早く来ていた春日井さんと数名の生徒がいた。あのうるさい斉藤もまだ来ていない。とあっては行動しない手はない。
 健太郎は自分の席に手早く荷物を置くと、自然な動きで春日井さんに近づくことができた。心も体も軽くなったようだ。
 彼女が振り返る。笑顔で「おはよ」と言ってくる。それに「おはよ」と返す。話の接ぎ穂を探し、懸命に言葉を重ねる。
 朝の空気の中、また違う空気が健太郎と春日井さんの間では広がっていた。とても心地よい。楽しい、そんな空間。健太郎がいままで欲しかった空だ、と思った。
 いま自分は空をはばたいているのだと。
 内心、ずっと彼女が僕のもう片方の翼になってくれればいいのにと思った。
 先のことはわからないが、でも春日井さんとずっと羽ばたいていきたいと健太郎は強く思った。

 〈おわり〉

****************

 なるべく短めに短めにと思って書きました。自分としてはうまくまとまったかなと思っています。
 今回は主人公の気持ちの流れはわかりやすいかと思います。気のせいだったらご指摘ください。
by 真崎鈴人 2006.06.05 19:49
RE:片翼な気持ち、両翼な気分〈第一回企画裏テーマ小説 テーマ『片方だけの翼』〉
キム兄です。

良いですね。
主人公の気持ちの流れは良く分かります。
起承転結もはっきりしていて分かりやすいですし、自然な感じがします。

ただ、最後に健太郎が春日井さんに話しかける場面はもっとドラマティックにした方が良かったような気がします。
同時に春日井さんのキャラクターが感じられるエピソードがあれば感情移入の度合いもよかったのかなぁ、と思いますが、この枚数でそれを求めるのは酷ですね(笑

真崎さんの文章についてですが、助詞(てをには)が複数重なっていたりします。
読点(、)の位置などを合わせて考えてみると、もっと読みやすい文章ができますよ。
by 木村 勇雄 2006.05.27 12:02 [1]
RE:片翼な気持ち、両翼な気分〈第一回企画裏テーマ小説 テーマ『片方だけの翼』〉
 こんばんは。日原です。
 拝読しました。
 この後の展開が気になるところです。こういうのを読むとそうなんだよなぁ、とか思ってしまいます。
 ただ、難を言えば三人称と一人称が混ざったような文体なのでこう、微妙に淡々とした感じがしてしまうのが少し残念だったように思います。
by 日原武仁 2006.06.01 21:02 [2]
RE:片翼な気持ち、両翼な気分〈第一回企画裏テーマ小説 テーマ『片方だけの翼』〉
ええかっこしい、って久しぶりに聞いたような気がしている直です、どうも。

うん、きれいに纏まっていると思います。書かれているように、心理も違和なく流れていると思います。

でも、良い意味でも悪い意味でも、きれいに纏まりすぎていると思います。淡々と話が流れているような、そんな感じでしょうか。

あと、今回もタイトルが素敵です。見習いたいと思います。

では。
by 2006.06.02 15:09 [3]
RE:片翼な気持ち、両翼な気分〈第一回企画裏テーマ小説 テーマ『片方だけの翼』〉
往復特攻隊隊員の瓜です。
ええと、まず。
直さんじゃないけど、まじゃきのネーミングセンスに一本!です。
なかなかよろしいなと思います。

それと、内容ですが。
良いんじゃないでしょうか。
綺麗にまとまっていて、続きが読みたいなとか思ってしまいました。

んんー。
あと、これはかなり自論だけど…。
改行した方がもっと読みやすいかなと思いました。 
by 瓜畑 明 2006.06.05 19:49 [4]

NO.18  ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
 背後にスイングドアが軋む音を聞きながら、狭い店内をぐるりと見回した。
 くわえ煙草を燻らせながら、ひたすらポーカーに打ち込む髭面の男達。テーブルの傍に立ち、グラスを片手に卓上で繰り広げられる戦争を観戦する痩身の女。その奥のカウンターでは汚れた服装の男が下卑た笑い声を轟かせ、向こう側では草臥れた表情のマスターが黄ばんだ皿を拭きつつ目の前の陽気な男に向けて愛想笑いを浮かべている。
 見上げれば、無意味に高い天井。其処からワイヤーで吊られた傘の下で電球が輝く。その明かりが、店内に渦巻く紫煙の群を部分的に浮かび上がらせていた。
 煙の渦を探るようにして、視線を巡らせた。
 視線が店の一番奥──電球の明かりが申し訳程度に差し込む場所で留まり、そして無表情な面の皮にうっすらと笑みを浮かべた。
 壁際のテーブルに、一人の男がいる。ほとんど黒に近い褐色の肌は、薄暗い闇の中に溶け込み、爛々と輝く相貌だけが不気味に浮かび上がっている。その目は此方へと向けられていた。視線が合うと、その男の目の下に、ジッパーで宵闇を切り裂くようにしてささやかに純白の歯が現れた。笑ったのである。 
 男のもとに歩み寄り、話しかけた。
「いやにご機嫌じゃねえか」
 すると男は返事の代わりに自分のグラスになみなみと酒を注ぎ、それを前に押してよこした。そしてぼそりと一言だけ。
「まあ座れ」
 言われた通りに、男と対面する椅子に腰をかけた。
「で、件のあれはどうなってる?」
「会って早々、いきなりその話か」
 そう言って男はくつくつと笑った。
「まずは飲めよ。話はそれからだ」
 男が注いだ酒をあおり、テーブルに叩き付けるようにしてグラスを置く。まるで水のような酒だった。飲んだ気がしない。
「お前の方から欲しがるとはな」
「あれが無くては困るんでね」
 その言葉を聞いて、男は再び軽く笑った。
「しかし使いすぎは良くねえぞ。夢か現実か、分からなくなっちまうからな」
 忠告に無言で応える。
 しばし時が経ち、堪えきれずに此方から切り出した。
「持ってるんだろ?」
「さてね」
 男は勿体ぶるように首を傾げた。
 睨め付けるわけでもなく、男の目を覗き込む。その双眼には此方を試すような光が灯っていた。
 再びの沈黙。
 背後でしゃがれた笑い声が起こる。続いて怒ったような女の声。至る所からグラスがぶつかり合う音が聞こえてくる。
 騒がしい中にあって、この奥のテーブルだけが見えない壁に隔てられているようだった。
 静寂を破ったのは、男の方だった。
「まあ、良いだろう」
 と言って、男は懐から白い紙袋を取り出した。それをテーブルに置く。
 すかさず奪い取ろうとはやる気を抑え、相手の出方をじっと待つ。
「用法、容量を守ることだ」
 出し抜けにそんなことを言ってきた。
 思わず吹き出しそうになる。
「医者のようなことを言うんだな」
 すると男はわざとらしく驚いた表情を作った。
「医者だからな」
 男は再び笑う。何となく気に障る笑みだった。
「一つ飲んでいけよ。だいぶ“きてる”みたいだからな」
「そうさせてもらう」
 と言って手を伸ばす。おとこは微動だにせず、ただ見守るだけだった。
 袋を開け、中から純白の錠剤を取り出し、口に放り込む。それをグラスに半分ほど残った酒で流し込んだ。
 しばらくは何事もなかった。
 だが突然、目の前の光景が歪む。うっすらとした闇が光を帯び、白亜の世界に変わっていった。
 最後に見たのは男の顔だった。大きく口を歪ませて笑む男の顔。



 冷たそうな色のアルミ製のドアを開けて入ってきたのは、白い患者服を着た若い男だった。
 背中の向こうでドアが閉まっても動こうとせず、ただ周囲を見渡している。さほど広くもない部屋なのだが、男の視線は壁を突き抜けて、その向こう側を眺めているように見えた。
 ほっそりとして力の抜けた顔に、時折いくつかの微々たる色が浮かんでは消える。
 そしてようやく視線は自分の方へと定まった。
 微笑みかけると、男も同じく笑って返してきた。
 男は二、三歩進んで、長机の前で止まる。
「いやにご機嫌じゃねえか」
 顔に似合わない台詞が飛び出してきた。
 そのギャップに笑い出しそうになるが、患者の症状を笑うわけにもいかない。表情をごまかすために、長机の傍らに置いてある水差しからグラスに水を注ぎ、男の方へ寄せる。
「まあお座んなさい」
 椅子を指さし、言う。
 男は素直に従った。
 今回はだいぶ“やりやすそう”だと思う。いつものようにいきなり殴りかかってくる気配はない。
「で、件のあれはどうなってる?」
 その言葉を聞いて安堵した。どうやら治療は巧く進んでいるようだ。
「会って早々にその話ですか」
 自ら治療を欲することに、うれしさが込み上げてきた。しかしそれを抑え、
「まずはお飲みなさい。話はそれからにしましょう」
 男はグラスを乱暴に掴み、酒でも飲むかのようにしてあおると、机に叩き付けた。
 その瞬間、背後の看護士が動こうとするのが分かった。慌てて後ろ手で制止する。発作ではないことは理解していた。
 焦りつつも柔和な顔を作り、男に語りかける。
「君の方から欲しがるとはねえ」
 気づかれないように、嘆息する。
「あれが無くては困るんでね」
 数人掛かりで取り押さえて口にねじ込んでいた入院当初の記憶を引き出し、懐かしむ。
「しかし使いすぎは良くないですよ。幻想か現実か、区別が付かなくなりますからね」
 そう忠告すると、男は押し黙ってしまった。一瞬にして、室内に緊迫した空気が満ちる。男から目を離すことなく、背後に控える看護士を意識した。いつものようになれば、いつものように取り押さえることになるだろう。
 しかし、今回は違うようだった。男は青筋を立てるわけでもなく、いたって平然とした顔で切り出してきた。
「持ってるんだろ?」
「さて、どうでしょうね」
 病状観察のため、一応焦らしてみる。ここで暴れ出すようなら、まだ完治はほど遠い。
 幸運にも、男に動く気配はまったく感じられなかった。それどころか虚脱して呆然としているようにも見受けられる。ここから爆発するケースもこれまでには何度かあった。そうなっては困るので、そろそろ返答することにした。
「まあ、よろしいでしょう」
 懐から薬の入った袋を取り出し、男が手を伸ばせば届く範囲に置く。ここからも観察である。この瞬間に奪い取るようなことがあれば、と思ったが、意外にも男は自制しているようだ。
「用法、容量は守ってくださいね」
 軽い冗談のつもりで言うと、それまで張りつめたような男の表情が崩れた。
「医者のようなことを言うんだな」
 男の言葉に対し、わざと驚いてみせる。
「医者ですからね」
 と言って、微笑みかけた。
 と、男の顔が急に曇った。少々冗談が過ぎたのかもしれない。
 慌てて言葉を継ぐ。
「ここで一錠飲んでいきなさい。だいぶ“きてる”ようですから」
「そうさせてもらう」
 男は目の前に置いた紙袋を落ち着いて掴み、中身を取り出して口に含むと、グラスに残った水で流し込んだ。
 効果はすぐには現れないはずだ。男は俯き加減でじっとしていたが、急に上体がふらつき始めた。背後に控える看護士が急いで駆け寄り、脇腹に腕を回して支えた。
 数分ほどして、男は正気に戻った。
 きょとんとした顔で自分を支える看護士と、こちらを交互に見つめ、そしてこう呟いた。
「ああ、またですか」



 いつからだろうか、と医者は考える。同時にここはどこだろうか、とも。
 目の前のテーブルには五枚のカードが乱雑に並んでいた。両隣と向かい側には汚らしい身なりの男達が座っている。右後ろを向くと、安っぽい赤いドレスを着た女がグラスを片手にテーブルを覗き込んでいるのが見えた。
「おい」
 としゃがれた声に我に戻る。狼狽しつつ、声の主を見ると、カードを扇状に持った男が顎で手元を指していた。
「早くしろよ」
 向かい側の男が急かす。
 医者はすべてが全く理解できていなかった。ただ一つ、このテーブルで行われようとしているのがポーカーである、ということ以外は。
 訳の分からぬまま、とにかくカードを手に持った。
 右側の男が金貨らしき物を積んでテーブルの中央に起き、続いて向かい側の男、そして左側の男も同様にする。流れに任せて医者も同じくした。
 捨てたカードの枚数だけカードが配られ、向かい側の男が舌を打ち、手持ちのカードをテーブルに叩き付けた。
 そうして再び金貨が積み上げられ、医者と二人の男が手の内を公開する。
 右側の男は4のスリーカードだった。左の男はスペードのフラッシュ。
 医者はというと──2のワンペア。
 どっとテーブルが沸いた。
 右側の男はカードを捨てながら呆れたような顔で医者を指さし、左側の男は医者の役を見て爆笑し、中央の金貨を寄せ集めた。
 背後から女が医者に向かって何事かを憤然と喚いてきたが、医者にはその内容は理解できなかった。なにもかにもが遠い出来事のように感じられた。
 その時、奥の方で悲鳴が上がった。呆然としながらも人が集まる方を見ると、見覚えのある男が倒れているのが見えた。
 誰だったろうか、とその顔と記憶とを照合し終えるよりも早く、集まってできた人垣によって視界は遮断されてしまった。

  *  *  *  *  *

スランプっぽいです。
端折りまくったら、意味不明になりました。(意味不明なのはコンセプトなんだけども)
第一回からこんなことでいいのかーっ!
五月も中盤を過ぎてできたのがこれか! なんて怒らないでー!
あわわわわ、次こそは頑張るぞー。

時系列がめちゃくちゃに思えるでしょうけど、幻なんでそんなことは関係無し! との考えの基に書いております。つまるところ「ストーリーよりも雰囲気をどーぞ」ってなことでありますが、雰囲気があるのかどうか……。

ちなみに冒頭の「笑ったのである。」までが最初に書いた部分で、それ以下が今夜、不調ながらも必死こいて書いた部分であります。
by 西尾碧奈 2006.06.05 19:43
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
キム兄です。

良いです。これは良いですよ。
まさに幻です。
表と裏が表裏一体(?)まさにメビウスの輪のようにつながっています。
現実の裏と表を張り合わせることで境目をぼかし、読者に対してどんでん返しを見せる。
面白いです。
冒頭と中盤の話し言葉の相違も味のある演出です。
現実と幻覚が反転したときの読者(私の)の一瞬の戸惑いが心地よく感じられました。

この手の作品では、冒頭と中盤で表現を合わせないといけないんですが、中盤の方で若干漏れがあったり、ちょっと推敲不足かな、と思われる部分が見えました。
グラスを持った女と、ポーカーの一団、この点を上手く辻褄合わせてみられてはいかがでしょう。
それと冒頭で「男」「男」と二人の人物がいるのに表現が同様だったため、少々読みにくい箇所がありました。

その点さえ改善されれば、きれいに出来上がった作品だと思います。
拍手!!
by 木村 勇雄 2006.05.17 22:19 [1]
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
どうも、直です。

よかったです。こういう書き方の小説は久しぶりに読みました。

えと、最初の患者の視点、次の医者の視点まではわかったのですが、最後の医者の視点がよくわかりませんでした。

でも、これは本当にきれいにまとまっていると思います。よかったです。

では。
by 2006.06.01 11:38 [2]
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
 こんばんは。日原です。拝読させて頂きました。
 まさに幻想という感じです。そして病気の感染性が高いためにこうなったのか、それとも全てのことが幻なのか……。そんな妙に現実を感じさせないところが良いのではと思いました。
by 日原武仁 2006.06.01 20:56 [3]
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
読ませていただきました。
瓜はまあ批評が下手なもんでして、感想を書かせていただきます。
んと、まず。
綺麗な文章だったと思います。
つまりがなく、会話文と地文もズレがなくすごいです。
内容はと言うと、なんだかなーって感じでした。
まあ、瓜的に言うと当たり障りがなかったって感じでしょうか。

以上です。
by 瓜畑 明 2006.06.05 19:43 [4]

NO.17  立ち眩み(第一回企画テーマ小説)
 神谷栄二が自分の身体の変調に気付いたのは一年前のことだった。
 彼が椅子から立ち上がろうとしたとき、急な立ち眩みに襲われたのだ。いきなり酩酊状態にでもなってしまったような感覚はその後約一分間続いた。栄二はここ三日間ほど徹夜の残業を続けており、その疲れが一気に来たのだとその時は思った。
 だが、この立ち眩みが月に一回は起こり、二回、三回と増え、週に一回にまでなった時にさすがにおかしいと思い始め、初めて病院へ行った。
 栄二の住む街一番の病院は綺麗であり、規模も大きく設備も充実していた。だが、少し妙なところもあった。ロビーにはいつも様々な年齢の患者がいるのだが……その誰も彼もが妙に無表情なのだ。ここは病院だ。笑顔をふりまいている人はいないだろう。だが、なんというか病を患って体調がおかしい時の陰気な表情と言う訳でもなく――そう、例えるならまるでマネキンがそこに並んでいるような錯覚を感じてしまうのだ。
 そんな患者に囲まれ、薄ら寒いものを感じながら医者の診断を待つこの時間が栄二は本当に嫌だった。
 患者が患者なら医師も医師だった。
 栄二の診察をした医師――高橋と彼は名乗った――はどうにも人間味に欠ける人物だった。顔はどこかのっぺりとしていて、ぼそぼそ話す声が非常に聞き取りにくい。三分後には絶対忘れている顔だな、と、そんなことを考えながら栄二は診察を受けたものだ。
 高橋医師の診断によれば過労……特に眼精疲労が原因とのことだった。栄二の仕事はパソコンを使ったデスクワークが主だ。長年続けた仕事の弊害が一気に表れたのだろう。そう思った彼は療養も兼ねて二週間ほどの休みを取ることにした。幸い、今まで手がけてきたプロジェクトのひとつが終わり、手が空いている時でもあった。
 休日な生活を始めた三日間は非常に良かった。が、四日目ともなるともう飽きが来始めていた。
 そんな外出するでもなく、ただいたずらに部屋の中でごろごろしている栄二の元に一通の手紙が届いた。それは大学の時の女友達から送られてきた結婚披露宴の招待状だった。
「良美が結婚とはねぇ……世も末だな」
 などと軽口を叩きながらリビングに戻った時だ。持病とも言うべきあの酷い立ち眩みが襲ってきたのだ。まずい! と思う間も無く、彼は床に膝をついてしまう。
 思わず、栄二は自分の目を疑ってしまった。いきなり風景にひびが入ったからだ。もっと正確に言うならノイズが走ったと言うべきか。パソコンのディスプレイが雷か何かの影響で乱れた時とそれはよく似ていた。
 瞬間、頭に電気でも流されたように痛んだ。そして不意に思い出す。
 良美は知っている。だが……大学で何をしたかを覚えていないということに。良美の顔や性格、服のセンスやしゃべり方はすぐに思い出せる。では、二人はいつどこで出合ったのだ? また、その時に誰がいた……?
 栄二は気付くと走り出していた。彼は押入れを開けると中身を全てひっくり返す。その中からアルバムを見つけると片っ端から開いていく。
 小学生の自分。中学生の自分。高校生の自分。大学生の自分……
 そこに写っていたのは紛れも無く自分だ。では、その隣りのいるのは誰だ? クラスメート? 俺は彼らと何をして遊んだ? 何をして過ごした?
 様々な疑問が浮かんでくる。だが、彼は何ひとつ答える事ができない。昔のことを忘れてしまった? 違う。俺は初めからこのことを知らないんだ……。じゃ、じゃぁ……俺は――一体誰だ?
「わぁぁーーーっ!」
 栄二は叫び、いても立ってもいられなくなって表へ飛び出した。
「俺は神谷栄二! 昭和五十五年三月二十八日生まれ! A型! 好きなものはカレー! 嫌いなものは爬虫類! 三年前に今の会社に入って――」
 栄二はあらん限りの声を張り上げる。世界に己の存在を知らしめるように。この世の全てに訴えるように。
 しかし、どんなに声高に叫ぼうとも。どんなに求めようとも栄二にはそれだけだった。どんなことをしても栄二は過去を思い出せない。
 すでに栄二の一人語りは終っていた。わずか十分足らずで今ある自分の全てを出し終えてしまっていた。
 だが、それでも栄二は走るのを止めない。止められない。停まってしまったら自分は終ってしまう――そんな根拠の無い恐怖に身を焦がれながら栄二はひたすらに走った。
 意識はすでに朦朧としていた。急激な運動による酸欠あまりに自分がどこにいて、何者なのかを認識することも困難になっていた。
 栄二はついに倒れてしまう。意識よりも肉体がすでに限界だった。
 狭い視界に移るのは灰色の景色。ところどころをノイズが走り、掠れたような壊れた世界。
 栄二は声にならぬ声で最後に呟いた。

 
 アア……オワチッマッタンダ……






「もういい! モニターを切れ!」
 男は不機嫌さを隠そうともせずに部下に命じた。そして傍らの受話器を取ると怒鳴るように言う。
「すぐに高酸素生理水を注入しろと。それから記憶帯アルファ1−2からベータ4までを削除。バージョンを1.7に変更後に再履行」
 用件だけ伝えて乱暴に受話器を置く。
(まったく……。毎回毎回半端モノばかりよこしやがって……!)
 胸中で上層部に毒づくと男は椅子から立ち上がった。
「主任。どちらへ?」
 先程の部下が聞いてくる。
「アレのところだよ。ここまでくると細かい微調整は私がやらないといけなそうだからな」
 見ていたモニターとは別のモニターを顎で示しながら主任と呼ばれた男は忌々しそうに吐き捨てた。
 男が示したモニターに映っていたものは淡く赤い液体に満たされた円柱状のケースだ。その中にはいたるところに針状の電極を刺された人間の脳が浮かんでいる。そして一番下のプレートには形式ナンバーと一緒にこう記されていた。
 

 『神谷栄二』


by 日原武仁 2006.05.28 15:38
RE:立ち眩み(第一回企画テーマ小説)
キム兄です。

良いですね、背景の設定を明示しない手法は、この短編には似合っていると思います。
だいぶ読者に考えさせる作品ですけど……。
その辺のバランスがもうちょっと良ければなぁ、とも思います。
ただ、落ち自体が半ばで読めてしまうので、そこら辺は難しいところですね。
立ち眩みでノイズが入る部分、もうちょっと表現に工夫が欲しいところです。

全体的に読みやすかったですし、先を楽しみにして読めました。
終わり方も余計なところを一切省いていてすっきりとしていましたよ。

傾向的に大好きな作品です。
by 木村 勇雄 2006.05.17 12:01 [1]
RE:立ち眩み(第一回企画テーマ小説)
ああ、怖い。
なんというか、ぞっとしました。
最後の部分とかぞくっときますね。

瓜的に好きな作品ではないのですが(申し訳ない)
テーマがしっかりしていて良い作品だと思いました。
by 瓜畑 明 2006.05.18 19:51 [2]
RE:立ち眩み(第一回企画テーマ小説)
どうも、直です。

結果的になんだったのか、よくわからないような気がします。とはいっても、これでいいような気もしますが。

それにしても、やっぱり上手いですわ。どこが、とはそんなに断言はできないのですが、やっぱり上手さ、を感じます。

ところで、
>アア……オワチッマッタンダ……
のところ。ここがオワッチマッタンダ、ではなくオワチッマッタンダ、にしているところがいいと思いますね。ここ、好きだなー。

正直、あまり言うことがないのです。とても読みやすく上手だと、そう思います。

では。
by 2006.05.28 15:38 [3]

NO.15  幻でも思い出だ
卒業式

今日でこの校舎ともさよならだ
涙が出てくる。悲しいというよりも、むなしいと思った。

「三年間、色々なことがあったな」
先生が言った。
答えるものはいなくて、みんな泣きながらうなずいた。
確かにいろいろなことがあった。いつか忘れるかもしれない。
でも僕は僕とあいつの思い出を忘れたくない。
そんなことを考えていると帽子が飛ばされて舞い上がった。
青い空を見ながら思った。
あの日もこんなに晴れていたな、と。


あの日は夏で、学校に遅刻していた。
あまりまじめではなかった僕は、のんびりと学校に向かって歩いていた。

公園を横切る時に、ベンチに学生服を着た生徒が座っているのを見つけた。
「どうした?」
そう声をかけてみると、意外な答えが帰ってきた
「町に行きたい」
学校は?とは聞く必要はなかった。なぜなら、こんな時間にここにいるのは、さぼりしかいないからだ。
どうせ遅刻だからサボろうと思い、一緒に街にいったが、こいつにはとても驚かされた。

町のあらゆるものに目を輝かせるし、ゲームセンターに行くと、はしゃぎまわっていたからだ。
不審には思ったが、そいつは無邪気に笑っていたのでどうでもいいと思った。

1日、そうして遊んだ後、最初に出会った公園に戻って来た。
もう夕暮れ時で、あたりは赤かった。

そんな中であいつは言った。
「今日に君に会って、とても幸せになった。私は君のことをずっと忘れずにいくが、君は私のことは幻と思って忘れてくれ。」
驚いてそいつを見たが、もう何も残っていなかった。

家に帰って両親に叱られた後、両親にすべてを話した。
「それは幻覚よ。疲れてるなら早く休みなさい」
その後、友達にも言ったが、誰も信じてくれなかった。


あれ以来、真剣に勉強をはじめた。
思い出を馬鹿にされたのと、あいつに誇りたかったからだ。
おかげで、家では合格した、とちやほやされている。

僕はお前が幻だったなんて絶対に信じない。

風に乗って「ありがとう」という言葉を聞いた気がした。




********************
あとがき

初めての投稿です。僕は幽霊は信じません。
でも夢の内容は信じます。そんな僕が書いたものですが、よかったら感想を書いてください。
沢山の感想を待ってます。
by サラス 2006.05.17 22:26
RE:幻でも思い出だ
はい、どうも。
読ませていただきましたよー。

感想ですが、いいと思います。
全体に流れる物悲しい文章。
終り方の良さ。

初めてにしては上物だと思います。
by 瓜畑 明 2006.05.14 01:07 [1]
RE:幻でも思い出だ
ふむふむ。素晴らしいですね。
初めてなのにここまで書けるとは。
これからも頑張ってください(^^)b
by 夕凪 帷 2006.05.14 11:27 [2]
RE:幻でも思い出だ
卒業式にちっとも泣けなかった直です、初めましてですね。よろしくお願いします。

えと、あまりにも情報が少なすぎますね。ベンチに座っていたそいつ、が男なのか、女なのか、分かりませんしね。口調からして、男だと思うのですが、どうでしょう?

それに、そいつが幽霊なのかもよく分かりませんしね。学生服を着ていたということは、中学か高校のときに亡くなったのでしょうか? それならば街やゲームセンターに行った事がないのはおかしいかと。もしかしたら、久しぶりに行ったから目を輝かせていたのかも知れませんが。

とは言っても、もう少し肉付けしていけば良い作品になると思いますよ。

では。
by 2006.05.16 22:16 [3]
RE:幻でも思い出だ
キム兄です。

うーん、テーマにこだわるあまり、少し強引になってしまった感はありますね。
章間の短さも気になりました。

カットバック手法はそれに何かの必然性がない限り、使わないほうが無難に思えます。
なぜなら、読者には前後の関連が分かりにくく、感情移入が難しいためです。
一部、ミステリなどで効果的に使われる事例はありますが、通常は使いがたい手法だといっていいでしょう。

文章の書き方は丁寧ですが、もうちょっと推敲を頑張ったら、誤字脱字が減ってきますよ。

頑張ってください。
by 木村 勇雄 2006.05.17 11:54 [4]
RE:幻でも思い出だ
初めての投稿なのに沢山の感想ありがとうございます。
>キム兄さん
 ありがとうございます。これからはもう少し自然な展開を考えて見ます。
>直さん
 よろしくお願いします。正確な指摘ありがとうございます。これからも頑張ります。
>夕凪さん
 ありがとうございます。これからも頑張ります(^^)w
>瓜畑さん
 ありがとうございます^^これからも精進していきます(^^)b
by サラス 2006.05.17 22:26 [5]

NO.14  【長】翼の向こう側(第一回裏企画テーマ小説)
空は――

――あんなにも遠く

――そして広かった



「ソフィア…」
夕暮れ時。
崖の舳先に立つ彼女にそっと呼びかける。
ソフィアの顔が美しく夕日に照らされている。
「ソフィア、帰ろう」
そっとしておけば…という気持ちを押さえ込み、足を一歩前に出す。
「兄さん?」
「あぁ」
振り返りながらの問いかけに答えて手を差し出す。
「ありがとう」
彼女の小さな手をそっと握ると、ゆっくりと山を下りた。

「呪われ者だ!」
それがソフィアが生まれた時に言われた言葉だった。
「ソフィア、今日はどうだった?」
自分以外喋る相手のいない彼女に話しかける。
「風がね、風が呼んでたんだ」
「そうか」
彼女の言葉が胸をえぐる。
不憫な妹だった。
翼を持つ我ら有翼族において、唯一片方しか翼のないソフィア。
双翼を持たない者は一族から嫌われる。
阻害され、迫害された彼女はいつ頃からかこの崖に来るようになった。

ソフィアの手を引いて家へと帰ると運悪く父さんが待っていた。
しまったと歯噛みするがもう遅い。
「アルフォンソ!またクズの面倒を看てたのか!」
その怒鳴り声にソフィアがヒッと悲鳴をあげる。
「違うよ」
「五月蝿い!」
父さんはズカズカとこちらへやって来ると、私の服の端を握るソフィアを引きずり離
した。
「父さん、やめてくれよ!」
父親はソフィアの頬を殴りつける。
「父さん!」
「黙れ。呪われた者に生き場はないんだ!」
憎悪のこもった拳をまた一つ妹へと打ち込んでいく。

必死の抗議は虚しく殴音とソフィアの謝罪の声で消えてしまう。
ごめんな。
クッ息を詰まらせる。
守ってやれなくてゴメンな。
父の前では何にもしてやれない自分が情けない。
ゴメンな。
本当にゴメンな。
こんなに守ってやりたいと思ってるのに…
肝心な時に助けてやれなくて。
心の中をソフィアへの謝罪で埋め尽くして走り出す。
殴られている妹から離れる為。
弱い自分から逃げる為。
そして、あの場所に向かう為。

カチャン…
ガチャリ…
カンカン…
静かな森に鋼の音が響く。
それは願いの音。
「ソフィア…」
小さく呟いて、再び作業に戻る。
カチン…
「ふぅ…」
額に浮かぶ汗を拭う。
目の前には未だ完成に辿り着かないガラクタがあった。
早く。
早く。
あの日に間に合わせる為に。
切に祈りながら、手を動かす。
静かな森に再び鋼の音が響く。

「兄さん、空を飛ぶってどんな感じなの?」
痣が増えた足をブラブラとさせながらソフィアがポツリと呟く。
「そうだな…」
ソフィアに倣って崖に腰を下ろす。
「気持ちよさそうだよね」
その声は羨ましさからか寂しさからかスッと空に吸い込まれていった。
「どうだろう…な」
慎重に言葉を紡いでいく。
チラリとソフィアの横顔を盗み見ると寂しそうな瞳が紅い空を泳いでいた。
「それぞれだと思う」
「兄さんはどう?」
「…」
静寂。
彼女の答えに自分は答えられなかった。
それは同情でもなく、憐憫でもない。
何と言っていいか分からなかったのだ。
「兄さん?」
もう一度ソフィアがこちらを向いて問いかける。
またも静寂。
しかし幾分たった後、私は答えを口にした。
「私は…ツライよ」
「…んね」
その答えに反応してかソフィアが何か呟いたが、呟きは小さく何も聞こえなかった。

今日は久々に下界に降りる。
我が一族は大体にして森の外に出る事はない。
「主人、ちょっと聞きたいんだが…」
書店に入り、店主に声をかける。
店主はこちらの姿を見て少し驚いた後、慇懃に礼を言った。
「いかがいたしましたか?」
「実はだな…」
そう言って欲しい書物の名を告げる。
「本当によろしいんですね?」
不思議そうな顔をする店主に頷いて本を受け取る。
「しかし…、何故こんな本を?」
未だ納得できていない店主に苦笑しつつ返答する。
「大切な兄妹のプレゼントにね」

3日後、ソフィアの誕生日だった。
「ソフィア、空を飛んでみたいか?」
今日も空を見上げる彼女に問う。
「空?」
不思議そうに聞き返す彼女に頷く。
「あぁ、空だよ」
崖に立つ大木のおかげで涼しい。
「でも…、兄さんはツライって…」
「前に言っただろ、人それぞれだって」
必死でやりたいと言わせようとする。
「でも…、私、飛べないよ…」
寂しそうにソフィアが微笑む。
諦めた笑い。
「ソフィア、飛ばせてやる」
肩を引き寄せてギュッと抱きしめる。
絶対に。
「絶対に空を飛ばせてやるから」
「ありがと」
ソフィアもギュッと腕に力を入れた。

「そうか!こうだったのか」
静かな森に響く鋼。
確固たる意思を持ってカチンカチンと腕を振るう。
「軽く…か」
カチャン…
カツン…
取っては換え、換えては取る。
書かれた通り。
正確に。
そして間違いなく。
「ハァーー、ソフィア」
少し腕を休ませて風にあたる。
目の前には月光に照らされた「願い」があった。
「もうすぐだ」

「ありがとね。兄さん」
空を昇る月を臨み、彼女は一人呟く。
「それと…」
彼女の瞳に映る月が揺れる。
「それと…」
もう一度、空を見上げる。
星が涙をたたえたように、キラリキラリと輝いている。
「ごめんね」
謝罪と共にため込んでいた心が涙と化して頬を伝う。
「ほんとうに…、ごめんなさい」
涙のように、一つ星が流れていった。

カンカンカン…
珍しく昼間の森に音が鳴る。
「後…、どれくらいだっけ」
完成例を眺める。
「よし…。後少しで…、完成…だ」
更に腕を忙しく動かす。
もうすぐ――
もうすぐだ。
嬉しかった。

今日は兄さんが来なかった。
「ま、ちょうど良いんだけどね」
ハハと寂しく笑う。
悲しかった。
「つらくないよ。別に」
寂しかった。
「兄さん…」
一息おいて、深呼吸する。
それは耐える為。
そして落ち着ける為。
「うん」
小さな頷きと共に決意を固める。
「ありがと」
知らず知らずに流れる涙を拭うことなく、暗くなっていく空を眺め続ける。
もう見ることはないといった風に。

「で、きたーー」
万感こみあげる思いで野原に倒れる。
間に合った。
いつの間にやら空は闇が覆っていた。
月光に照らされた「願い」
長かった。
そして、遠かった。
「ソフィア…、飛べるんだ」
嬉しかった。
…と。
「ソフィア!」
思い出し跳ね起きる。
朝からずっとコレをいじっていた所為で妹にかまっていなかった。
翼を羽ばたかせ、空へ舞い上がる。
目指すは崖。
「クソッ、待ってろよ」
一秒でも早く、早く翼を動かす。
甲斐あって崖はすぐに見えた。
そして、人影も。
「ソフィア!」
大声で彼女の名を呼ぶ。
その人影はこちらに気付いて手を振ると、崖から身を投げた。

それは一瞬の驚き。
「バ、バカ!」
驚いている暇はなかった。
「バカヤロウ!!」
妹への初めての悪態をつきながら、落ちていく影を追いかける。
ソフィア――
――ソフィア!
頭を支配するは想い。
想いが悲鳴を上げ始めた翼を叱咤する。
彼女に何があったかは分からない。
ただ一つ。
彼女は死のうとしている。
それだけは事実。
そして。
それだけは、それだけは止めたかった。

景色がゆっくりと落ちていく。
時間がゆっくりと流れているかのような感覚。
もうすぐ。
もうすぐだ。
安らかで静かな。
何に気負うことのない「死」へ。
「疲れた…」
そう呟いて目を閉じる。

頼む。
頼む。
必死に翼を動かす。
ソフィアは少し先を落ちていく。
後少し。
後少しでどんなに手を伸ばしても手の届かないところへ行ってしまう。
それだけは…
「ソ…フィ…」
声は枯れた。
心臓も悲鳴を上げていた。
それでも。
力を出して、ソフィアへと近づく。
後、少し。
後、少し。
「…」
言葉にならない叫び声と共に、腕を、手を、指をあらん限り精いっぱい伸ばす。
ソフィア。
死なないでくれ。
最後の力をふり絞り、ひと掻きする。
手の先に触れるは彼女の腕。
がむしゃらにそれを掴み、こちらへ寄せる。
もう、翼は動かせなかった。
疲れきった瞳で前を見る。
目先にはとがった石があった。
彼女の体を掴み、自分の体を下にする。
後は落ちるに任せて目を閉じる。

ドスッと言う音に目を開く。
衝撃は小さく、地面は柔らかかった。
「なんで…」
茫然と呟き手を地につける。
ピチャリ。
温かい何か。
「な、何?」
信じられなかった。
手を濡らすのは温かい滴。
風が木を揺らし、月光を導き入れる。
照らされたのは赤。
そして、「何か」へも月光は降り注ぐ。
「な・・・んで・・・」
驚き。憂い。後悔。不安。怒り。
どれにも当てはまらない空白の支配。
目の前には岩に腹を刺し貫かれた兄さんがいた。
「兄・・・さん」
恐る恐る名を呼ぶ。
「ソ、フィア・・・」
その呼び声は忘れもしなかった。
いつも自分の名を呼んでくれた人。
「なんで・・・、な・・・」
「よかった・・・」
安堵のため息。
そして兄さんは赤く染まった手で私の頬をなぞる。
「う・・・そ」
お謁がもれる。
「ごめんな・・・」
かすれた、消えそうな声で兄さんが言葉をつむぐ。
「お、おかし・・・」
熱い。
熱い滴が止めどもなく頬を伝っていく。
「ソフィア・・・、誕生日、おめ・・・」
ハッと顔を上げる。
覚えていてくれていたんだ。
私の…。
私の生まれた日を。
「兄さん!兄さん!死なないで!」
占めるは謝罪。
そして祈り。
「ソフィア…」
兄さんが呟いて、懐から手紙を取り出した。
「兄さん…」
受け取って眺める。
血で赤く染まった封筒には一言。
『大切なソフィアへ、おめでとう』
「えっ・・・、そんな・・・」
悲しかった。
こんなにも。
こんなにも思われていたのに・・・。
心が痛くて、熱くて、喋れなかった。
「ソフ・・・ィ・・・」
「うっ・・・、ひっ・・・」
「ソフィア、笑っておくれ」
ハッキリとした兄さんの声。
それが。
それが何を意味するかよく分かっていた。
「ううう。うぐう・・・」
必死で涙を拭う。
「兄さん」
精いっぱいの。
精いっぱいの笑顔でお返しする。
「ありが・・・とう」

よかった。
よかった。
涙が溢れてくる。
間に合って本当に良かった。
ゆっくりと抜けていく力はどうすることも出来なかった。
ごめんな。
最後まで迷惑かけて。
ソフィアの笑顔にしっかりと頷く。
ごめんな。
それと、ありがとな。
ゆっくりと死が包んでいく。
じゃあね――
――ソフィア。

目を閉じた兄さんの頬をそっと撫でる。
目を開けることのない冷たい躯。
「兄さん、本当にごめんね」
心からの謝罪。
「私・・・、もう。泣かないよ」
兄さんへ約束する。
「絶対に・・・でも・・・」
一拍、そして顔を手で覆う。
「今日だけは・・・許してください」
そう呟いて涙声を漏らす。
「ううう、うーー。うううーー。ああーー。ああーーー」
その叫びは謝罪。
そして心からのお礼であり、これからへの約束であった。

兄さんが死んで二日経った。
私は村を出ることにした。
兄さんのいない村はもう居ても意味がなかった。
でも。
一人で出ていくわけじゃない。
兄さんがくれたモノ。
そして、兄さんの「願い」を伴って村を出る。
「よし、行こう」
小さく呟いて黙祷する。
目の前の石は兄さんが死んだ処だ。
兄さんは自分の命まで捨てて私を守ってくれたのだ。
兄さんの思い通りとはいかないまでも、精いっぱい生きていきたい。
「兄さん、行くね」
墓前とも言えるその尖った岩に手をふってそこを後にする。

「よし…」
車体に乗り込む。
兄さんが残してくれた願い。
それは下界で飛行機と呼ばれたものだった。
兄さんが死ぬ直前渡してくれた手紙。
そこには操縦の仕方が書いてある本と、その飛行機の在りかが書いてあった。
椅子に腰かける。
レバーを引くとエンジンという部分が音を立てる。
ドドドドドドドド…
「うう、怖いな…」
爆音のする機体に乗り込み本であった通りハンドルを回す。
機体はゆっくりと方向をかえて、開けた道へと頭を向けた。
「アル、行こうか」
兄さんの形見であり、もう一人の兄さんといえる飛行機に声をかける。
ドドドドドドドド…
反応してくれたのか、アルは爆音を立てて走り出した。
見慣れた景色が足早に過ぎていく。
そして、白い線があった。
「今!」
声と共にハンドルを引く。

アルは見事に空へと舞い上がった。
「に、兄さん!飛んだよ!!」
風が顔に当たって気持ちが良い。
前を見ると空があった。
今まで大嫌いだった空が大きく広がっている。
「あぁ…」


空は――

――あんなにも遠くて

――広かったんだ。


茫然と風を感じる。
「信じられないや」
未だ信じられないままも分かってることは一つ。

「風が、風が呼んでる!」

ハンドルをゆっくりと引く。
大きな空が。
兄さんが見せてくれた青い空が先には広がっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ああ、どうも。
かなり不機嫌になりかけてる瓜です。
折角の作品が「/」によってムチャクチャに!
うがあああああ!
「/」抜きで読んでやってください。

楽しんでいただければ結構です。
by 瓜畑 明 2006.06.19 21:58
RE:翼の向こう側(第一回裏企画テーマ小説)
あれ?
直ってる?
なんで?
ごめんなさい。
不機嫌なおりました。
なんか知らんけど…良かった。
by 瓜畑 明 2006.05.10 23:30 [1]
RE:翼の向こう側(第一回裏企画テーマ小説)
感動作品でした。
凄い、と思いました。
大作物です。
俺も、書いてみたいなと思いました。
by 夕凪 帷 2006.05.11 01:30 [2]
感想など。
 拝読しました。日原武仁です。
 正直もったいないな、と思いました。すごく綺麗なお話なんですけれど、少し淡々としているというか、言葉が足りなく思います。
 どうして呪われた者なのにまだ生きているのか?
 死んでもいいくらいに妹を想っているのに、父親にはどうして立ち向かえないのか?
 どうして妹に本を贈ろうとしたのか?
 この辺りのことがほん少しでも書いてあったのならかなり良かったと思います。
by 日原武仁 2006.05.11 22:53 [3]
感想。
 昨晩書けーと脅迫されたので(うそ)、感想を書きます。
 お話全体は日原さんも言われているように綺麗で、何か感じられるものがありました。
 でもです。これも日原さんが言われているようにもったいないところのおかげでこちら側に伝わりきれなくなっているのです。
 ソ\フィアが親父に暴\力を振るわれているのを兄貴が見過ごす理由とか。ソ\フィアが暴\力を嫌って家を出ない理由とか。説明がなされていないところが見つかります。
 それと文章のひとかたまりが少ないです。一場面が登場したと思ったらもう次の場面に行ってしまい、その繰り返しですので読むのに忙しくなってしまいます。
 特に書いた方がよいと思うのは、視覚要素です。ソ\フィアが中心の話ですが、ソ\フィアの外見が書かれた様子はなかったです。どんな髪なのか、どんな目鼻立ちなのか。お兄さんから見たソ\フィアってどんななんだろうって。
 どんな場所でどんなことをしているのかも少ないので、読んでいて白い何もないところで何かをしている人たちが、頭の中でイメージされていました。

 とまあ、書きましたが僕もできてないことが含まれています。瓜さんは細かいところを直していけばなおよいものが書けると思うので僕はうらやましがっています(笑)
 お互いに精進していきましょう! 
 まじゃきでした。
by 真崎鈴人 2006.05.13 13:22 [4]
RE:翼の向こう側(第一回裏企画テーマ小説)
キム兄です。

瓜さん、これは良い作品ですよ。
盛り上げ方もしっかりしているし、余韻も残ります。
希望ある終わり方は読者自身も明るくなれるし、読んでいて楽しいです。

冒頭のカットバックも作品の雰囲気に合っています。

検討すべき点についてはすでにご自身でお考えのようですから、ここでは触れません。

ただ、この作品についてはこのままでも十分に楽しめる作品になっていると思いますよ。

一点だけ疑問があったんですが。
兄が死んだあと、ソフィアはなんのお咎めもなかったんでしょうか?
あの恐ろしい父親に何かされたんじゃないかと、ちょっと心配でした。
by 木村 勇雄 2006.05.14 00:33 [5]
RE:翼の向こう側(第一回裏企画テーマ小説)
皆様、感想ありがとうございます。
色々反省すべきところがありますね…。

キム兄、褒めていただけて嬉しいです。
泣きます。
うわーーーーーん!

どうも、勉強になりました。
簡素にならない文体文章…ブツブツ。
by 瓜畑 明 2006.05.14 00:50 [6]
RE:翼の向こう側(第一回裏企画テーマ小説)
うぅむ、良かったです。好きですね、こんな話。……ホントに同じようなネタをやらなくて良かったな、と思います。はっはっは、僕が書いたなら確実に自殺してバッドエンドでしょうから。

直です、どうも。

とは言っても、もう皆さんが書いていますね、大体のことは。まぁ、僕は思ったことを書いていきたいと思います。

えと、お兄ちゃん。色々とやれることがあったと思いますけどね。一緒に帰ってくるたびにソフィアが殴られるのなら、時間をずらすとか。

ふと思ったのですが、何となくハセガワケイスケさんの文体に似てますね。僕もしにがみ好きでしたので、よくマネをしたものです。……おそらく意識はされていないと思いますが、ふと思いましたので。

えと、最後のソフィアが飛ぶ時に、なぜか兄さんのことをアルと呼んでますが、一つに統一したほうが良いかと。

でも良かったです。この作品を機会に成長される瓜さんの次回作を期待しております。

では。
by 2006.05.16 22:03 [7]
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