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作品公開掲示板

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COUNT:16768 LAST 2007-03-01 14:51 |
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神谷栄二が自分の身体の変調に気付いたのは一年前のことだった。 彼が椅子から立ち上がろうとしたとき、急な立ち眩みに襲われたのだ。いきなり酩酊状態にでもなってしまったような感覚はその後約一分間続いた。栄二はここ三日間ほど徹夜の残業を続けており、その疲れが一気に来たのだとその時は思った。 だが、この立ち眩みが月に一回は起こり、二回、三回と増え、週に一回にまでなった時にさすがにおかしいと思い始め、初めて病院へ行った。 栄二の住む街一番の病院は綺麗であり、規模も大きく設備も充実していた。だが、少し妙なところもあった。ロビーにはいつも様々な年齢の患者がいるのだが……その誰も彼もが妙に無表情なのだ。ここは病院だ。笑顔をふりまいている人はいないだろう。だが、なんというか病を患って体調がおかしい時の陰気な表情と言う訳でもなく――そう、例えるならまるでマネキンがそこに並んでいるような錯覚を感じてしまうのだ。 そんな患者に囲まれ、薄ら寒いものを感じながら医者の診断を待つこの時間が栄二は本当に嫌だった。 患者が患者なら医師も医師だった。 栄二の診察をした医師――高橋と彼は名乗った――はどうにも人間味に欠ける人物だった。顔はどこかのっぺりとしていて、ぼそぼそ話す声が非常に聞き取りにくい。三分後には絶対忘れている顔だな、と、そんなことを考えながら栄二は診察を受けたものだ。 高橋医師の診断によれば過労……特に眼精疲労が原因とのことだった。栄二の仕事はパソコンを使ったデスクワークが主だ。長年続けた仕事の弊害が一気に表れたのだろう。そう思った彼は療養も兼ねて二週間ほどの休みを取ることにした。幸い、今まで手がけてきたプロジェクトのひとつが終わり、手が空いている時でもあった。 休日な生活を始めた三日間は非常に良かった。が、四日目ともなるともう飽きが来始めていた。 そんな外出するでもなく、ただいたずらに部屋の中でごろごろしている栄二の元に一通の手紙が届いた。それは大学の時の女友達から送られてきた結婚披露宴の招待状だった。 「良美が結婚とはねぇ……世も末だな」 などと軽口を叩きながらリビングに戻った時だ。持病とも言うべきあの酷い立ち眩みが襲ってきたのだ。まずい! と思う間も無く、彼は床に膝をついてしまう。 思わず、栄二は自分の目を疑ってしまった。いきなり風景にひびが入ったからだ。もっと正確に言うならノイズが走ったと言うべきか。パソコンのディスプレイが雷か何かの影響で乱れた時とそれはよく似ていた。 瞬間、頭に電気でも流されたように痛んだ。そして不意に思い出す。 良美は知っている。だが……大学で何をしたかを覚えていないということに。良美の顔や性格、服のセンスやしゃべり方はすぐに思い出せる。では、二人はいつどこで出合ったのだ? また、その時に誰がいた……? 栄二は気付くと走り出していた。彼は押入れを開けると中身を全てひっくり返す。その中からアルバムを見つけると片っ端から開いていく。 小学生の自分。中学生の自分。高校生の自分。大学生の自分…… そこに写っていたのは紛れも無く自分だ。では、その隣りのいるのは誰だ? クラスメート? 俺は彼らと何をして遊んだ? 何をして過ごした? 様々な疑問が浮かんでくる。だが、彼は何ひとつ答える事ができない。昔のことを忘れてしまった? 違う。俺は初めからこのことを知らないんだ……。じゃ、じゃぁ……俺は――一体誰だ? 「わぁぁーーーっ!」 栄二は叫び、いても立ってもいられなくなって表へ飛び出した。 「俺は神谷栄二! 昭和五十五年三月二十八日生まれ! A型! 好きなものはカレー! 嫌いなものは爬虫類! 三年前に今の会社に入って――」 栄二はあらん限りの声を張り上げる。世界に己の存在を知らしめるように。この世の全てに訴えるように。 しかし、どんなに声高に叫ぼうとも。どんなに求めようとも栄二にはそれだけだった。どんなことをしても栄二は過去を思い出せない。 すでに栄二の一人語りは終っていた。わずか十分足らずで今ある自分の全てを出し終えてしまっていた。 だが、それでも栄二は走るのを止めない。止められない。停まってしまったら自分は終ってしまう――そんな根拠の無い恐怖に身を焦がれながら栄二はひたすらに走った。 意識はすでに朦朧としていた。急激な運動による酸欠あまりに自分がどこにいて、何者なのかを認識することも困難になっていた。 栄二はついに倒れてしまう。意識よりも肉体がすでに限界だった。 狭い視界に移るのは灰色の景色。ところどころをノイズが走り、掠れたような壊れた世界。 栄二は声にならぬ声で最後に呟いた。
アア……オワチッマッタンダ……
「もういい! モニターを切れ!」 男は不機嫌さを隠そうともせずに部下に命じた。そして傍らの受話器を取ると怒鳴るように言う。 「すぐに高酸素生理水を注入しろと。それから記憶帯アルファ1−2からベータ4までを削除。バージョンを1.7に変更後に再履行」 用件だけ伝えて乱暴に受話器を置く。 (まったく……。毎回毎回半端モノばかりよこしやがって……!) 胸中で上層部に毒づくと男は椅子から立ち上がった。 「主任。どちらへ?」 先程の部下が聞いてくる。 「アレのところだよ。ここまでくると細かい微調整は私がやらないといけなそうだからな」 見ていたモニターとは別のモニターを顎で示しながら主任と呼ばれた男は忌々しそうに吐き捨てた。 男が示したモニターに映っていたものは淡く赤い液体に満たされた円柱状のケースだ。その中にはいたるところに針状の電極を刺された人間の脳が浮かんでいる。そして一番下のプレートには形式ナンバーと一緒にこう記されていた。
『神谷栄二』
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by 日原武仁 2006.05.28 15:38
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| RE:立ち眩み(第一回企画テーマ小説) |
どうも、直です。
結果的になんだったのか、よくわからないような気がします。とはいっても、これでいいような気もしますが。
それにしても、やっぱり上手いですわ。どこが、とはそんなに断言はできないのですが、やっぱり上手さ、を感じます。
ところで、 >アア……オワチッマッタンダ…… のところ。ここがオワッチマッタンダ、ではなくオワチッマッタンダ、にしているところがいいと思いますね。ここ、好きだなー。
正直、あまり言うことがないのです。とても読みやすく上手だと、そう思います。
では。 |
| by 直 2006.05.28 15:38 [3] |
| RE:立ち眩み(第一回企画テーマ小説) |
ああ、怖い。 なんというか、ぞっとしました。 最後の部分とかぞくっときますね。
瓜的に好きな作品ではないのですが(申し訳ない) テーマがしっかりしていて良い作品だと思いました。 |
| by 瓜畑 明 2006.05.18 19:51 [2] |
| RE:立ち眩み(第一回企画テーマ小説) |
キム兄です。
良いですね、背景の設定を明示しない手法は、この短編には似合っていると思います。 だいぶ読者に考えさせる作品ですけど……。 その辺のバランスがもうちょっと良ければなぁ、とも思います。 ただ、落ち自体が半ばで読めてしまうので、そこら辺は難しいところですね。 立ち眩みでノイズが入る部分、もうちょっと表現に工夫が欲しいところです。
全体的に読みやすかったですし、先を楽しみにして読めました。 終わり方も余計なところを一切省いていてすっきりとしていましたよ。
傾向的に大好きな作品です。 |
| by 木村 勇雄 2006.05.17 12:01 [1] |
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