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LAST 2007-03-01 14:51
短編作品を募集してます。遠慮なくどしどし投稿下さい
ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
 背後にスイングドアが軋む音を聞きながら、狭い店内をぐるりと見回した。
 くわえ煙草を燻らせながら、ひたすらポーカーに打ち込む髭面の男達。テーブルの傍に立ち、グラスを片手に卓上で繰り広げられる戦争を観戦する痩身の女。その奥のカウンターでは汚れた服装の男が下卑た笑い声を轟かせ、向こう側では草臥れた表情のマスターが黄ばんだ皿を拭きつつ目の前の陽気な男に向けて愛想笑いを浮かべている。
 見上げれば、無意味に高い天井。其処からワイヤーで吊られた傘の下で電球が輝く。その明かりが、店内に渦巻く紫煙の群を部分的に浮かび上がらせていた。
 煙の渦を探るようにして、視線を巡らせた。
 視線が店の一番奥──電球の明かりが申し訳程度に差し込む場所で留まり、そして無表情な面の皮にうっすらと笑みを浮かべた。
 壁際のテーブルに、一人の男がいる。ほとんど黒に近い褐色の肌は、薄暗い闇の中に溶け込み、爛々と輝く相貌だけが不気味に浮かび上がっている。その目は此方へと向けられていた。視線が合うと、その男の目の下に、ジッパーで宵闇を切り裂くようにしてささやかに純白の歯が現れた。笑ったのである。 
 男のもとに歩み寄り、話しかけた。
「いやにご機嫌じゃねえか」
 すると男は返事の代わりに自分のグラスになみなみと酒を注ぎ、それを前に押してよこした。そしてぼそりと一言だけ。
「まあ座れ」
 言われた通りに、男と対面する椅子に腰をかけた。
「で、件のあれはどうなってる?」
「会って早々、いきなりその話か」
 そう言って男はくつくつと笑った。
「まずは飲めよ。話はそれからだ」
 男が注いだ酒をあおり、テーブルに叩き付けるようにしてグラスを置く。まるで水のような酒だった。飲んだ気がしない。
「お前の方から欲しがるとはな」
「あれが無くては困るんでね」
 その言葉を聞いて、男は再び軽く笑った。
「しかし使いすぎは良くねえぞ。夢か現実か、分からなくなっちまうからな」
 忠告に無言で応える。
 しばし時が経ち、堪えきれずに此方から切り出した。
「持ってるんだろ?」
「さてね」
 男は勿体ぶるように首を傾げた。
 睨め付けるわけでもなく、男の目を覗き込む。その双眼には此方を試すような光が灯っていた。
 再びの沈黙。
 背後でしゃがれた笑い声が起こる。続いて怒ったような女の声。至る所からグラスがぶつかり合う音が聞こえてくる。
 騒がしい中にあって、この奥のテーブルだけが見えない壁に隔てられているようだった。
 静寂を破ったのは、男の方だった。
「まあ、良いだろう」
 と言って、男は懐から白い紙袋を取り出した。それをテーブルに置く。
 すかさず奪い取ろうとはやる気を抑え、相手の出方をじっと待つ。
「用法、容量を守ることだ」
 出し抜けにそんなことを言ってきた。
 思わず吹き出しそうになる。
「医者のようなことを言うんだな」
 すると男はわざとらしく驚いた表情を作った。
「医者だからな」
 男は再び笑う。何となく気に障る笑みだった。
「一つ飲んでいけよ。だいぶ“きてる”みたいだからな」
「そうさせてもらう」
 と言って手を伸ばす。おとこは微動だにせず、ただ見守るだけだった。
 袋を開け、中から純白の錠剤を取り出し、口に放り込む。それをグラスに半分ほど残った酒で流し込んだ。
 しばらくは何事もなかった。
 だが突然、目の前の光景が歪む。うっすらとした闇が光を帯び、白亜の世界に変わっていった。
 最後に見たのは男の顔だった。大きく口を歪ませて笑む男の顔。



 冷たそうな色のアルミ製のドアを開けて入ってきたのは、白い患者服を着た若い男だった。
 背中の向こうでドアが閉まっても動こうとせず、ただ周囲を見渡している。さほど広くもない部屋なのだが、男の視線は壁を突き抜けて、その向こう側を眺めているように見えた。
 ほっそりとして力の抜けた顔に、時折いくつかの微々たる色が浮かんでは消える。
 そしてようやく視線は自分の方へと定まった。
 微笑みかけると、男も同じく笑って返してきた。
 男は二、三歩進んで、長机の前で止まる。
「いやにご機嫌じゃねえか」
 顔に似合わない台詞が飛び出してきた。
 そのギャップに笑い出しそうになるが、患者の症状を笑うわけにもいかない。表情をごまかすために、長机の傍らに置いてある水差しからグラスに水を注ぎ、男の方へ寄せる。
「まあお座んなさい」
 椅子を指さし、言う。
 男は素直に従った。
 今回はだいぶ“やりやすそう”だと思う。いつものようにいきなり殴りかかってくる気配はない。
「で、件のあれはどうなってる?」
 その言葉を聞いて安堵した。どうやら治療は巧く進んでいるようだ。
「会って早々にその話ですか」
 自ら治療を欲することに、うれしさが込み上げてきた。しかしそれを抑え、
「まずはお飲みなさい。話はそれからにしましょう」
 男はグラスを乱暴に掴み、酒でも飲むかのようにしてあおると、机に叩き付けた。
 その瞬間、背後の看護士が動こうとするのが分かった。慌てて後ろ手で制止する。発作ではないことは理解していた。
 焦りつつも柔和な顔を作り、男に語りかける。
「君の方から欲しがるとはねえ」
 気づかれないように、嘆息する。
「あれが無くては困るんでね」
 数人掛かりで取り押さえて口にねじ込んでいた入院当初の記憶を引き出し、懐かしむ。
「しかし使いすぎは良くないですよ。幻想か現実か、区別が付かなくなりますからね」
 そう忠告すると、男は押し黙ってしまった。一瞬にして、室内に緊迫した空気が満ちる。男から目を離すことなく、背後に控える看護士を意識した。いつものようになれば、いつものように取り押さえることになるだろう。
 しかし、今回は違うようだった。男は青筋を立てるわけでもなく、いたって平然とした顔で切り出してきた。
「持ってるんだろ?」
「さて、どうでしょうね」
 病状観察のため、一応焦らしてみる。ここで暴れ出すようなら、まだ完治はほど遠い。
 幸運にも、男に動く気配はまったく感じられなかった。それどころか虚脱して呆然としているようにも見受けられる。ここから爆発するケースもこれまでには何度かあった。そうなっては困るので、そろそろ返答することにした。
「まあ、よろしいでしょう」
 懐から薬の入った袋を取り出し、男が手を伸ばせば届く範囲に置く。ここからも観察である。この瞬間に奪い取るようなことがあれば、と思ったが、意外にも男は自制しているようだ。
「用法、容量は守ってくださいね」
 軽い冗談のつもりで言うと、それまで張りつめたような男の表情が崩れた。
「医者のようなことを言うんだな」
 男の言葉に対し、わざと驚いてみせる。
「医者ですからね」
 と言って、微笑みかけた。
 と、男の顔が急に曇った。少々冗談が過ぎたのかもしれない。
 慌てて言葉を継ぐ。
「ここで一錠飲んでいきなさい。だいぶ“きてる”ようですから」
「そうさせてもらう」
 男は目の前に置いた紙袋を落ち着いて掴み、中身を取り出して口に含むと、グラスに残った水で流し込んだ。
 効果はすぐには現れないはずだ。男は俯き加減でじっとしていたが、急に上体がふらつき始めた。背後に控える看護士が急いで駆け寄り、脇腹に腕を回して支えた。
 数分ほどして、男は正気に戻った。
 きょとんとした顔で自分を支える看護士と、こちらを交互に見つめ、そしてこう呟いた。
「ああ、またですか」



 いつからだろうか、と医者は考える。同時にここはどこだろうか、とも。
 目の前のテーブルには五枚のカードが乱雑に並んでいた。両隣と向かい側には汚らしい身なりの男達が座っている。右後ろを向くと、安っぽい赤いドレスを着た女がグラスを片手にテーブルを覗き込んでいるのが見えた。
「おい」
 としゃがれた声に我に戻る。狼狽しつつ、声の主を見ると、カードを扇状に持った男が顎で手元を指していた。
「早くしろよ」
 向かい側の男が急かす。
 医者はすべてが全く理解できていなかった。ただ一つ、このテーブルで行われようとしているのがポーカーである、ということ以外は。
 訳の分からぬまま、とにかくカードを手に持った。
 右側の男が金貨らしき物を積んでテーブルの中央に起き、続いて向かい側の男、そして左側の男も同様にする。流れに任せて医者も同じくした。
 捨てたカードの枚数だけカードが配られ、向かい側の男が舌を打ち、手持ちのカードをテーブルに叩き付けた。
 そうして再び金貨が積み上げられ、医者と二人の男が手の内を公開する。
 右側の男は4のスリーカードだった。左の男はスペードのフラッシュ。
 医者はというと──2のワンペア。
 どっとテーブルが沸いた。
 右側の男はカードを捨てながら呆れたような顔で医者を指さし、左側の男は医者の役を見て爆笑し、中央の金貨を寄せ集めた。
 背後から女が医者に向かって何事かを憤然と喚いてきたが、医者にはその内容は理解できなかった。なにもかにもが遠い出来事のように感じられた。
 その時、奥の方で悲鳴が上がった。呆然としながらも人が集まる方を見ると、見覚えのある男が倒れているのが見えた。
 誰だったろうか、とその顔と記憶とを照合し終えるよりも早く、集まってできた人垣によって視界は遮断されてしまった。

  *  *  *  *  *

スランプっぽいです。
端折りまくったら、意味不明になりました。(意味不明なのはコンセプトなんだけども)
第一回からこんなことでいいのかーっ!
五月も中盤を過ぎてできたのがこれか! なんて怒らないでー!
あわわわわ、次こそは頑張るぞー。

時系列がめちゃくちゃに思えるでしょうけど、幻なんでそんなことは関係無し! との考えの基に書いております。つまるところ「ストーリーよりも雰囲気をどーぞ」ってなことでありますが、雰囲気があるのかどうか……。

ちなみに冒頭の「笑ったのである。」までが最初に書いた部分で、それ以下が今夜、不調ながらも必死こいて書いた部分であります。
by 西尾碧奈 2006.06.05 19:43

RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
読ませていただきました。
瓜はまあ批評が下手なもんでして、感想を書かせていただきます。
んと、まず。
綺麗な文章だったと思います。
つまりがなく、会話文と地文もズレがなくすごいです。
内容はと言うと、なんだかなーって感じでした。
まあ、瓜的に言うと当たり障りがなかったって感じでしょうか。

以上です。
by 瓜畑 明 2006.06.05 19:43 [4]
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
 こんばんは。日原です。拝読させて頂きました。
 まさに幻想という感じです。そして病気の感染性が高いためにこうなったのか、それとも全てのことが幻なのか……。そんな妙に現実を感じさせないところが良いのではと思いました。
by 日原武仁 2006.06.01 20:56 [3]
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
どうも、直です。

よかったです。こういう書き方の小説は久しぶりに読みました。

えと、最初の患者の視点、次の医者の視点まではわかったのですが、最後の医者の視点がよくわかりませんでした。

でも、これは本当にきれいにまとまっていると思います。よかったです。

では。
by 2006.06.01 11:38 [2]
RE:ハードボイルド・シンドロームとその治療の過程(第一回企画テーマ小説)
キム兄です。

良いです。これは良いですよ。
まさに幻です。
表と裏が表裏一体(?)まさにメビウスの輪のようにつながっています。
現実の裏と表を張り合わせることで境目をぼかし、読者に対してどんでん返しを見せる。
面白いです。
冒頭と中盤の話し言葉の相違も味のある演出です。
現実と幻覚が反転したときの読者(私の)の一瞬の戸惑いが心地よく感じられました。

この手の作品では、冒頭と中盤で表現を合わせないといけないんですが、中盤の方で若干漏れがあったり、ちょっと推敲不足かな、と思われる部分が見えました。
グラスを持った女と、ポーカーの一団、この点を上手く辻褄合わせてみられてはいかがでしょう。
それと冒頭で「男」「男」と二人の人物がいるのに表現が同様だったため、少々読みにくい箇所がありました。

その点さえ改善されれば、きれいに出来上がった作品だと思います。
拍手!!
by 木村 勇雄 2006.05.17 22:19 [1]
No. PASS


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