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LAST 2007-03-01 14:51
短編作品を募集してます。遠慮なくどしどし投稿下さい
【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編(回顧編)>
「フェリスってさ、よくラズノと居るよねー」
ちょうど昼のランチ時。
学園の中庭で一緒に弁当を広げていたリューナ・マトルクスが唐突にそう言った。
「そうかな?」
なぜか、その返答は誤解を生んだらしい。
「またまたー、照れちゃって」
なんて返事をキラキラと好奇心に輝く碧眼と共に返された。
その瞳が綺麗で、少しうらやましいなと思いつつ。
「でも……、あんまり会ってないけど?」
と、自分的にもっともなことを言う。
「でもねー。ほら、教会で……」
リューナはそう言うと手を口にあてて、ウフフフフといやらしく笑いだした。
なるほど。
それで納得。
「あぁーー、教会か」
そう言って、記憶を手繰り寄せる。
そうか。
確かによく教会でラズノとは会うなと思い出す。
「やっぱり、密会なんだ。ウヒャーー」
と、隣で悲鳴をあげるリューナをおいといて回想に耽る。
そうだったのだ。
あそこは思い出の場所だった。
だからこそ、ラズノと良く会うのだ。
一年という年月は危機感を薄めさせ、大切なモノを増やしていく。
そう。
あの教会は自分にとっての『喜び』と『謝罪』シンボル。
そして。
ラズノにとって、『哀しみ』の記憶。
そうだ。
昔を…と言っても一年前ほどだが、振り返るのは久しぶりな気がした。
故意に思い出さないようにしていた気もするが。
哀しい始まりの記憶が脳裏に映し出される。


   ―†―†―†―


――彼女と会ったのは月の綺麗な夜だった


彼と出会ったのは月の綺麗な夜でした――





☆――清き聖夜に哀しみの歌を――☆





「はっ、はっ、はっ」
激しい息遣いとガサリガサリという音。
フェリス・ソプシーは逃げていた。
茶色の長髪を乱れさせ、息を荒くさせながら森の中を一心に走っていた。
ガザリガザリ…
自分のとは違う足音。
自分を追って来る者の足音。
「クソッ…、クソッ…」
悪態を付き付き、足を早める。
「お嬢様、いい加減に諦めなされ」
後方から聞こえてくる声。
自分を追いかけに来た声。
後ろを振り返り、追っ手を確認する。
映るは木々。
そして闇。
後方には誰もいない。
「お嬢様、『闇隠れ』をお忘れで?」
嘲弄する声。
バカめと言い返せず、歯がみする。
『闇隠れ』
それは吸血鬼種に伝わる闇を操る術。
闇に紛れ、姿を隠す術。
「クソッ」
正体の見えない追跡者に悪態を付く。
『闇隠れ』が出来るならとうにやっている。
悲しいかな。
逃げるのに精いっぱいで術を唱えるほどの余裕も体力もないのだ。
「帰れ!」
「お嬢様が付いて来てくださるなら」
闇から聞こえる声は丁寧に、不可承諾な要求を返してくる。
「うるさい!あんな処に帰ってたまるか!」
「あんな処など」
注意するような声音。
イライラする。
「クソ親父の処なんて」
憎しみを込めてギリリと歯を鳴らす。
父親との思い出を思い出し、歯を食い縛る。
一つも。
一つも良いことがなかった。
父の目は子供を、私を見ていなかった。
私の持つ才能を、力だけをずっと見ていた。
そう。
父親は私を『道具』としてしか見ていなかったのだ。
「クソ親父め、私の事なんかこれっぽっちも思っていないくせに…」
「勘違いですよ、お嬢様」
声がフフフと笑ってそう告げる。
「何が!どこが勘違い!?」
激昂。
血が燃えるように体内を駆けめぐる。
ザッと立ちどまる。
「クソ親父が私の事を思っていた?」
後方を向き、「思っていた」に力を入れて問う。
足を止めたことは後悔に値するが、結局は一緒だろうと気持ちを切り替える。
結局捕まるかもしれないなら、一か八か抵抗して勝機を得ようということだ。
「ええ、それはもう大切に」
「姿を現しなさい」
視線の先の闇に向かって凛とした声で告げる。
クダラナイ。
クソ親父を含めその周りは「大切」の意味が分かっていないらしい。
「納得していただけまして?」
声音から判断して追っ手は少なそうだ。
ゆっくり息を吸い吐きして呼吸を落ち着ける。
「そんなワケないでしょ」
あっさりと告げる。
そう、これは宣戦布告。
「と言うことは抵抗でもするおつもりで?」
相手は理解したらしい。
帰ってきたのは丁寧だが挑戦的な声音。
未だ姿を現さない追っ手に身構える。
「早く姿を現しなさい」
もう一度凛と告げる。
正体の見えない敵と戦うなんて犬死にするだけだ。
「ほう、でわ」
その声音は短くそう言うと、その姿を現した。
風にはためく黒いマント。
全身を覆う黒装束。
血の気のない真っ白な顔。
そして。
チロチロと邪悪に光る紅の瞳。
「お嬢様、ごきげんよう」
闇から姿を現したその男は優雅に一礼をした。
「……『真紅の影』自ら、お出まし?」
「ええ、ご主人様のご命令ですから」
現れたその男。
最悪だった。
冷や汗が一滴、いやな感じで頬を伝っていく。
できれば関わりたくないヤツが自ら出向いてきたのだ。
ナドゥール・カルタシス。
『真紅の影』の異名を持つ、父の側近だ。
「そう、ごきげんよう。ナドゥール」
感情を抑えて返答。
高ぶる感情は戦闘に不向きだ。
それに「恐れ」を相手に悟られるも腹が立つ。
「で、抵抗を?」
「あなた一人かしら?」
白い顔がグニャリと歪む。
ナドゥールは笑っていた。
おかしそうに、さも嬉しいと言ったように。
「さあ、どうでしょう?」
バカにしている。
腐れ親父の子供と言うだけで敬い、道具としての能力だけしか見ていない瞳。
そして今は弱者を見下した冷たい瞳。
ギリッと相手を睨みつける。
「答えないのね」
「お嬢様こそ、私の『で、抵抗を?』に答えていませんが」
「くだらない」
嫌悪感を込めて吐き捨てる。
ナドゥールはピクリとも顔を変えない。
「もし、お帰りになさるならお教えしますよ」
グニャリと曲げたままの顔で告げる。
「却下」
キッパリと告げる。
その途端にナドゥールの顔が変わった。
グニャリとしていた表情が釣り上がっていく。
そして圧倒的な鬼気。
首元に突き付けられる殺気。
予想していたが、恐ろしい。
「そうですか、それは…」
「何かしら?」
ゴクリと唾を飲み込み、何でも良いから声を出す。
何もしなかったらナドゥールの発する殺気に負けそうなのだ。
止めどなく流れる冷や汗が絶対的な恐怖を体現する。
「少し眠って頂く必要があるようですね」
その言葉とともにナドゥールは手を突き出した。


   ―†―†―†―


清潔感漂う白い色に包まれた室内。
艶のある茶色の、間隔ごとに置かれた長いす。
石膏でつくられた人型。
様々な色のステンドグラスで彩られた窓。
神聖な雰囲気のこの場所は、カトリック系の学校内に設立された小さいながらも立派な教会。
その教会の長いすに坐り、本を読む少年が一人。
その少年、ラズノ・ホルクリンはこの教会が好きだった。
ただ今時刻は夜の9時。
ちょうど月光がステンドグラスを通り抜け、色とりどりの荘厳な光を教会内に降り注ぐ時刻。
この時刻がラズノは一番だと思っている。
ペラリ……、ペラリ……
本を捲る音が教会に響く。
それから何ページほど読んだ時だろうか。
「ラズノ、今日も来ていたか」
ガチャリと音をさせて、一人の老翁が懺悔室から出てきた。
「こんばんわ、オートさん」
本を閉じ、顔を上げる。
その老翁、オート・モールはこの教会の牧師である。
そして、ラズノが教会が好きな理由の一つでもある。
「まったく、変わった子だよ」
そう言ってオートは微笑み、ラズノに近づくとクシャリと頭を撫でた。
それが嬉しくて、恥ずかしくって。
「お、オートさん!子供じゃないんだから!」
そう言って手を払いのける。
「そうだったな。悪い悪い」
オートさんは大げさに驚いたふりをしてから、笑ってもう一度クシャリと撫でた。
「オートさん、今日も歌うんだよな?」
オートさんの撫でが終わってから聞いてみる。
この教会の好きな理由の最後の一つ。
それはオートさんの讃美歌である。
「あぁ、待ってなさい」
オートはうれしい返事を返すと、歌本を探し始めた。
オートの讃美歌は9時半に始まる。
低く、重厚で、そして荘厳で。
明るくて、幸せな気持ちになれる讃美歌。
「よし、そろそろだね」
オートが時計を見た。
時刻はもちろん、9時30分。
「うん」
オートは小さく頷くと、教台に上がった。
二人だけの教会に聖歌が響く。


   ―†―†―†―


「お嬢様、もう終わりで?」
フェリスは倒れていた。
「ックソ…」
圧倒的だった。
地面の冷たさを感じながら戦いを顧みる。
一瞬の呟き。
そして闇の牙。
ナドゥール・カルタシスはやはり強かった。
あたりを見回すとそこにあったモノがない。
木々がない、地面がない。
彼が放った闇がそれらをえぐりとって行った。
否。
飲み込んだのだ。
「ナドゥール…、やってくれるじゃない」
冷たく見下ろす父の側近。
その言葉に反応してか彼が口を開く。
「お嬢様も良く頑張られたようですが…」
ナドゥールがいったん言葉をきる。
確かに善戦はした。
わが身を貫こうとする闇の牙を弾き返した。
飲み込もうとする闇から逃れた。
時には反撃した。
しかし負けた。
「弱い。果てしなく弱い」
ナドゥールの声が闇に響く。
圧倒的。
ナドゥールの言葉に歯がみする。
「フム、興ざめだ」
ナドゥールの呟き。
お嬢様と呼んでいた時とは正反対の見放した声音。
吸血鬼としての、暗殺者としての呟き。
悔しさに身を震わせる。
「では、お嬢様」
スイッチが変わったようにナドゥールがこちらを見た。
ガサリと音を立てて、ナドゥールがこちらへと歩を進める。
「そろそろ一緒にお帰りいただ…」
「嫌だ!!」
叫んだ。
体は戦いで痛めつけられ、すぐには動きそうにない。
でも、叫んだ。
それは抵抗。
どんなになっても抵抗するという気持ち。
当たり前だがナドゥールの歩みは止まらない。
後、20歩、19歩、18歩と終わりが近づいてくる。
「いい加減にいたしましょう」
それは勧告。
私にとっての『逃亡』、ナドゥールにとっての『児戯』の終わりを告げる言葉。
「い、嫌だ!」
足をバタバタさせ遠ざかろうとする。
終わりたくない。
あんな処に戻りたくなくて逃げ出したのだ。
ナドゥールは何も言わない。
代わりに歩音が回答を告げる。
諦めろと。
終わりだと。
「嫌だぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!」
叫び。
そして祈り。

後、6歩。

終わる。
ガムシャラだった。
逃げたい。
それだけ。
もがいていた。

後、5歩。

【・・・・・・・・・】
知らず知らずに唱えていた。
祈っていた。
「遠くへ逃げたい」と。
人語ではない、我らの言葉。
逃れるための祈り。
闇を渡る術。
『闇逃れ』
出来るワケなくて、でも、すがっていた。
つらい時、いつも自分の部屋で唱えていて、一度も成功しなかった術。
いつも落ちこませるだけだった術。
【・・・・・・・・・】
でも、唱えていた。
どんな事でも。
何でも良いからすがっていた。
逃げたくて、逃げたくて。

後、4歩。

「受け入れろ。下らん抵抗は見苦しい」
黙っていたナドゥールが口を開いた。
さっきよりも冷えきった目でこちらを見つめる。
【・・・・・・・・・】
無視し、唱える。
「逃げれるとでも思っているのか」
ナドゥールは笑っていた。
「この絶対的状態でもまだあがくか」
笑い声は大きくなる。
割れるような呵呵大笑。

後、3歩。

もう足を動かすことなく唱えていた。
正確に言えば、足を動かすのももどかしかったのだ。
ただ、唱えていた。
『光のある処へ』と。
『安心できる処へ』と。
【・・・・・・・・・】
ナドゥールは無言。
ただ、笑っていた。

後、2歩。

オワル。
その一言が頭が支配していた。
【・・・・・・・・・】
声が枯れてきた。
知らず知らず涙を流していた。
【・・・・・・・・・】
イヤダ。
オワリタクナイ。
モドリタクナイ。
【・・・・・・・・・】

後、一歩。

もう限界だった。
声が出ない。
【・・・】
「クハハハハハハハ!」
耳をつんざく笑い声が聞こえていた。
祈りは届かない。
そして終わる。
もう。
いや、また繰り返す。
悪循環の日常。
嫌悪の日々。
「ゆっくり眠りたまえ」
そうナドゥールが言った。
もう終わりだと目をつぶった。


……終わって良いのか?

暗闇の中、不意に誰かが問うた。
その問いに諦めたんだと返す。

……それは本当か?

その問いに答えられなかった。
悔いはあるからだ。

……では何故、諦める?

悔いを見抜いたのか。
声はさっきより厳しかった。
もう、終わってるからだと答える。

……逃げたくないのか?

逃げたい。
本音だった。
いや、それが悔い。
逃げられないんだという諦め。

……逃げたいか?

もう一度、声が問いかける。
正直な気持ち。
逃げたい!
そうハッキリと告げた。
諦め切れなかった。
逃げたい。
それが願い。

……じゃあ、諦めるな。

そう声が言った。


目を開けていた。
【・・・・・・・・・】
そして唱えていた。
目の前には闇の牙。
ども、それを怖れてはいなかった。
ただ、心から言葉を紡いでいた。

グワリ

突然だった。
世界が揺れた。
揺れたと言うべきだろうか。
歪んでいた。
「む!?」
驚きの声が聞こえた…気がした。
【・・・・・・・・・】

グワリ

唱え続ける。
次に感じるのは体が溶けていく感触。
いや、飲み込まれていくと言うべきか。
「何!?馬鹿な!」
牙が迫っていた。
【・・・・・・・・・】

グワリ

三度目の衝撃と共に私は気を失った。
最後に聞こえたのは「バカな!」と言う驚きの声。
吸い込まれていく。
闇の中へ。


―†―†―†―


――the more valuable one .
尊い御方よ。

――Good luck to self etc.
我等は祈る。


屋根へと響く賛美歌にラズノは聞き入っていた。
静かでいて、ジンワリと心に染み渡る歌声。
思わず口ずさんでしまう。
オートさんは微笑みながら一文字一文字言葉を紡いでいく。
歌っていく。


――it saves -- have .
救われんとして。

――be saved .
助からんとして。


「あ……ぁ」
感嘆の声を上げるのももどかしくて、でも声を上げてしまう。


――The more valuable one.
尊い御方。

――Before [ dear ].
愛したまえ。

――Good luck to self etc.
我等は祈る。

――And I will render.
そして尽くそう。


最後の一説。
そして歌が終る。
そう、思った時だった。



グワシャリ!



音がした。
破壊音。
砕け散る音。
音がした方を振り向く。
大きな塊が落下していた。
そして、キラキラと光る小さな何かも降ってきた。
その何かに気付く。
それが恐ろしくて、眼を見開いて走り出す。
「オートさん、危ない!!!!」
キラキラと光るものはガラスの破片。
ステンドグラスが割れていた。
そして、ガラスの藻屑が教台に立つオートさんを襲おうとしていた。
教台まで後、五、六歩の時。
オートさんが歌を止め、上を向いた。
「逃げて!!!!」
叫ぶ。
数秒。
それでガラスが突き刺さる。
嫌だ。
「逃げて!!!!」
オートさんが眼を見開いた。
そして。
その塊を受けようと手を伸ばす。
「オートさん!!!」
「ラズノ!!来るなあああああああああ!!」
そしてオートは叫んだ。
その叫びに一瞬の躊躇。
そして。
……遅かった。


グシャリ……


ガラスの大群がオートを飲み込んだ。
「お、オートさん!!!!!!!!!!!」
ガラスの藻屑に駆け寄る。
色とりどりの破片がオートを、ラズノの好きなオートを襲っていた。
ガラスを掻きだす。
掻きだす。
どがったガラスが身を切っていく。
「ラ…ズノ…」
微かに声が聞こえた。
「オートさん!」
呼びかける。
「ラズノ…、手を貸しなさい」
掠れ掠れの声に応えて、手を差し出す。
差し出した手をネトリとした何かが掴んだ。
「ウッ!!」
それがオートの手だと気付いてゾッとする。
すると、その手が小さな腕を掴ませた。
「ラ、ズノ…。女の…子だ、引っ…張ってお…やり」
「でも!」
「いいから」
その声は断固足るものだった。
「……っ、解りました」
頷いて、オートが突き出した手を引っ張る。
ガシャリガシャリと音をさせて現れたのは灰衣の少女。
ちょうど同じ年頃だろうか。
引っ張り上げ、長いすに寝かせる。
すぐに戻りオートを何もない場所へと動かす。
「オートさん!」
その体は血まみれ。
ガラスがあちこちを突き刺していた。
「ラ…ズノ」
「オートさん!だ、誰かを呼んでくる!!」
立ち上がって、走り出そうとする。
「ま、待ち…なさ…」
それをオートは止めた。
「な、何で!?」
「私は、もう…、無理…だ」
思わずこぶしを握る。
「違うよ!」
「違わない」
ハッキリとした拒絶。
それに愕然として、ペタリと足を床につける。
「ラズノ…、歌っておくれ。神への賛歌を。そして哀歌を」
最後にと言ったようにオートはハッキリと告げた。
しばし、沈黙。
駆けだして助けを呼びたかった。
オートさんが死ぬなんて信じたくなかった。
「は、はや……」
息も絶え絶えの懇願にしぶしぶ折れる。
「………解……った…よ」
オートは微笑むと、血まみれの歌本を手渡した。
いつの間にか涙が頬を伝っていた。
息を吸い込む。
歌うのに、涙はいらない。
落ち着け。
落ち着け。
二度、深呼吸をして本を開いた。
凄惨なる血の海。
荘厳なるガラスの破片による月光反射。
さっきまでとは雰囲気がガラリと変わった教会に哀しみの歌が響く。


――the more valuable one .
尊い御方よ。

――Good luck to self etc.
我等は祈る。

――it saves -- have .
救われんとして。

――be saved .
助からんとして。


それは祈り。
助けてほしい。
嘘であってほしい。


――The more valuable one.
尊い御方。

――Before [ dear ].
愛したまえ。


「……!、ナドゥールは!?」
キラキラと輝くこの場で少女が目をさました。
その声に複雑な思いを抱く。
助かって嬉しいという気持ち。
助けなければオートさんは死なないのにという気持ち。
渦巻いていた。


――Good luck to self etc.
我等は祈る。


「君、無事…だったか」
黙っていたオートが口を開いた。
しゃべってはダメだと言いたくて、言えなかった。
「お、おじさん!大丈夫!?」
少女が駆けよる。
「あ、あぁ」
オートが頷いた。


――And I will render.
そして尽くそう。


「そ、そんな……」
少女は愕然と眼を見開いた。
「私が…」
「気に…止まんで良い」
少女は泣いていた。
ひたすら泣いていた。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
そう何度も連呼して泣いていた。
それにハッとさせられる。
本当に泣いていた。
心から泣いていた。
その涙を見て、ラズノは悔い改めた。
もう彼女を憎んではいなかった。
「い…いんだよ」
オートがラズノの気持ちを代弁するように呟いた。
もう喋るのもしんどそうだ。
「それよりも歌ってお呉れ」
最後にオートはそう言った。
少女がこちらを見る。
頷いた。
オートさんが言えなかった最後のフレーズ。
歌おう。
一緒に。
今なら君を許せるだろう。


――Then, wrong will also be allowed.
そうすれば悪も許されるだろう。


二つの声。
そして小さなかすれた声が一つ、割れた窓から差し込む月光が降り注ぐ教会に響いた。
終わった。
そしてラズノは泣いていた。
「あ…りがとう、ラズ…ノ」
小さなか細い声が聞こえた。


―†―†―†―


「フェリス!フェリス!聞いてる!?」
大きな呼びかけにハッと顔を上げる。
回想に耽りすぎたらしい。
「リューナ?」
「もうすぐ、授業始まるじゃない!」
その言葉通り、昼休みの終わりを告げる鐘がなっていた。
「ホントだ」
そう言って、弁当をいそいでしまう。
「早く、早く」
「ま、待って」
立ち上がり走り出す。
「っとに、もう」
怒った顔をするリューナを追いかける。
「そういえばさ」
追いかけながら、先を行くリューノに声をかける。
「ん?」
「私が教会に行くのは『忘れない』為だから。ラズノは関係ないよ」
リューノは半眼でこっちを見た。
「いまさら……。でも、それだけじゃないでしょ」
「それだけって?」
はて、と首を傾げる。
「忘れない為だけに教会に行ってるワケじゃないでしょ?」
「そりゃあ、ラズノがいるから喋ったりはする…けど?」
「でしょう」
「まあ、喋ったりするよ」
「ほら」
リューノは金色の髪をクルリとさせてこっちを向く。
「それはラズノの事を気に入ってるのよ」
その答えに笑って返す。
「でも、別に意味深な話なんてしないしされてないよ?」
リューノがハーっとため息を付く。
「フェリスは鈍いなー」
「な、なにが?」
「フェリス。フェリスはラズノと話してて楽しい?」
「へ?」
リューノの問いかけに聞き返す。
「だから、楽しいか?って聞いたの」
「う、うん。楽しいよ。ラズノといると」
その返事を聞いてリューナが笑った。
いやらしそうに。
そして、うらやましそうに。
「それって……。それがラズノのこと好きってことじゃないの?」
ポツリと。
と言っても、しっかりと耳に聞こえる声でリューナが呟いた。
その返事に顔が真っ赤になる。
「ち、ち、ちがーーう!って言ってるでしょ!!」
「フェリスがラズノに恋し……」
「うるさーーーーーーーーーい!」
リューノの声を遮ろうと大声を上げる。


授業の開始を告げるチャイムと共に、楽しげなハシャギ声が中庭に広がっていった。
by 瓜畑 明 2006.07.15 16:45

RE:【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
 拝読しました。
 こんばんは。日原武仁です。二次創作と言うよりはシェアードワールド、て感じでしょうか?
 雰囲気もよく、元の作品のイメージを壊すこともなく、面白いと思いました。ただ、少しばかり単調な感じがしつつ、修飾が多いというか。フィルスが内面を語りすぎると言うか。詩的に書きすぎているような気がします。それ自体はいいことなんでしょうが……うぅむ、上手く言えずにすいません。
by 日原武仁 2006.07.05 23:10 [6]
RE:【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
励みにしていただいて嬉しいです。

まあ、そんな大したことは私も言えないんですけどねww

by 木村勇雄 2006.07.03 02:25 [5]
オレー
フランス勝ちました。
マジで嬉しいです、はい。
ども、瓜です。

木村さん、感想ありがとうございます。
木村さんの感想はいつも瓜の励みになるとですよ。
ところどころに散りばめられた賛辞が瓜を舞い上がらせるわけです。

言葉の使い回しが多すぎたらしいようで。
改善する点ですね。
どうもです。
by 瓜畑 明 2006.07.03 00:33 [4]
RE:【長】清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
 こういうのってコラボレーションって言うんでしょうか。

 リレー小説とも違う、私にとっては新しい試みで、一見すると二次小説にも見えますが、それともまた違う。
 良い企画だと思います。

 さて、元の小説である壱さんの作品が一本しかないため、作品の背景というのはずいぶん限定されています。
 それなのにこの膨らませ方はさすがです。
 瓜さんはシナリオライターにも向いているのかもしれません。

 アクション部分が多く、その割りにキャラクターの補完も忘れないところがにくいです。
 やや持って回った言葉遣いが多いかな、とも感じました。
 現在と過去の対比は面白いですね。
 綺麗な形になっています。

 話自体は……設定が追加されているような気がしますが、ここら辺は壱さん大丈夫なんでしょうか?
 親父殿がフェリスの才能に期待をかけているとか、ラズノとの出会いとか……。
by 木村勇雄 2006.07.02 21:41 [3]
RE:清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
ども、瓜です。
直さん、注釈ありがとうございました。

現在は改善版第一次です。

>ガラスに関してですが。
破片と言っても、その大きさもマチマチですし。
落下速度と、その破片の大きさ、打ち所 etc。
そういった物により死に至ると曲解していただければいいかなと。
by 瓜畑 明 2006.06.16 23:43 [2]
RE:清き聖夜に哀しみの歌を <第二回企画テーマ小説>兼<村上壱作「禁断恋愛」番外編>
英語の歌詞は本当に合っているのか、と訳してみようかと思いましたが、無理でした(苦手教科英語)。
どうも、直です。

いきなり最初のところで「そうかな?」を二回打っちゃってますね。たぶん前の方がいらないんじゃないかと思います。
あと、最後のところ、
>「私が教会に行くのは『忘れない』の為だから。ラズノは関係ないよ」
ですが、ここも、何だか変な感じになっちゃってます。『忘れない』のあとの、「の」はいらないと思いますよ。

というか、ガラスの破片を被ったくらいで人は死ぬんでしょうかね。よくわかりませんが、どうなんでしょう。

とはいえ、面白く読めました。壱さんの時には読めなかった、闘いみたいなものが読めて、良かったです。
では。
by 2006.06.16 21:57 [1]
No. PASS


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