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作品公開掲示板

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LAST 2007-03-01 14:51
短編作品を募集してます。遠慮なくどしどし投稿下さい
ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
 お母さんに連れられて、僕は近所のマルケーに来ていた。
 ピーマンと大根の値段を見て目を丸くしているお母さんを残して、僕はショッピングセンター内の探索に乗り出したんだ。
 僕だってもう小学生になったんだし、お母さんと一緒じゃ恥ずかしいもんね。
 大根、タマネギ、ピーマンのコーナーから、ケチャップ、マヨネーズ、もんじゃ焼きの粉の売り場に移る。蜂蜜の瓶が美味しそうに並んでいたけど、これをカートの中に入れるには職人の業が必要だ。それよりも無難に十円チョコを一つだけ堂々と放り込んだ方が後々のことも考えて正解に近いと思う。
 そう考えた僕はもう居ても立ってもいられずにお菓子コーナーへと向かった。その前にカップラーメンの列が僕を迎え入れてくれたけど、これはお父さんが一緒のときじゃないと不可能に近い。
 たかだか普段九十円の大根が百五十円に値上がりしただけで財布を落としたみたいな顔をするお母さんが、一つ百二十円のカップラーメンなんて無理だよ。
 そんなことを考えながらお菓子売り場に到着、するとアナウンスが聞こえた。
「ただいまより、五時のタイムサービスを開始します」
 やばい、急いで逃げないと。
 だけどもう遅かった。おばちゃんのうねりはカートの軋みと一緒にトドの群れのように襲い掛かってくる。目指すはカップラーメン売り場の先にある鮮魚売り場だ。お母さんが今日はサンマが安いって言ってたもの。今が旬だからって言ってたけど僕は骨とあの苦い内臓が嫌いだから別に買えなくてもいいんだけど。
「いたた、いたいっ」
 僕に当たってるって、当たってるって言ってるのに!
 四つんばいになりながらお菓子売り場の奥に退避する。このままシェルターに閉じこもっていないと、今度はタイムサービス終了の群れにつぶされてしまう。
「まったく、おばちゃんってなんであんなに周りが見えてないんだろうね」
 別に誰に言ったわけでもなかった。ただ見えない誰かでも良い、僕の愚痴を聞いて欲しかったんだ。
「ホントにね。たぶん脂肪で目が潰れてるんだよ」
 誰かが僕よりもひどいことを言った。容赦がない。
「君、だぁれ?」
「わたし? アヤ。あなたは?」
「僕、トモ」
「あはは」
「えへへ」
 なんだか分からないけど笑ってしまった。アヤちゃんも親から離れて、お菓子売り場に探索に来ていたそうだ。
「うまか棒の納豆味は?」
「ちょっと納得できない」
「じゃあ、ねるねるねってのサイダー味は?」
「あれ自体お菓子じゃないと思う」
「じゃあどんな味なら美味しいと思うのよ」
「味じゃないんだよ、やっぱり歯ごたえ、これに限るね」
「例えば?」
「ガチンコせんべい、これなんかハンマーで割らないと食べられないくらい硬いんだよ。それに岩石ボーロ。唾じゃ溶けない頑固さがいいね」
「馬鹿じゃない?」
 彼女はそう言って笑った。僕も笑った。
「実はボタボタ焼きが好きなんだ」
 正直に僕は告白した。彼女は細くしていた目を、口を大きく開いて歓声を上げた。
「本当? わたしもだよ」
 両の手を取って飛び跳ねる。その笑顔はなんだかとってもまん丸で、僕は嬉しくなってしまった。
「しょうゆ味、最高だよね」
「あの歯応えもたまらないのよね」
 そう言って、転げまわった。頭の中がアヤちゃんで一杯になった。
 ぎゅっと抱きしめたい気持ち。これって何て言うんだろう。くすぐられて笑って、相手もくすぐりたくなるような気持ちだ。
「アヤちゃん」
 僕がその気持ちを伝えようとしたときだった。
「綾香、もうそろそろ行くよ」
 知らない男の人が声をかけてきた。
「あ、うん。これ買っていい?」
「良いよ、カゴに入れて」
 アヤちゃんが入れたのはボタボタ焼きだった。
「お父さん?」
「うん」
 アヤちゃんはお父さんと顔を見合わせてもう一度笑った。
「お母さんは?」
「あ、お母さんはいないの」
「そ、そう……」
 なんだか、それ以上は聞いちゃいけないような気がした。
 僕はアヤちゃんたちがレジを通り、マルケーを出るまで付き添った。いつの間にか太陽が沈んできていて、アヤちゃんたちの顔を真っ赤にする。
「また、会えるかな?」
「また、会えるよ」
 僕の顔も、真っ赤になっていたんだと思う。
 お父さんと二人、夕暮れ時の長い坂を上っていく。二人が太陽に飲み込まれていくみたいで胸がぎゅっとなった。さっきの気持ちとは違う、寂しい気持ち。
「こんなところにいたの。お母さん探し回ったんだからね」
 後ろからゴツンと殴られた。振り向くとお母さんが口をへの字にして怒っている。
 でも僕は、痛くないのに泣きたくなって、それがばれるのが恥ずかしくて、もっと他の、寂しい気持ちもあって、お母さんに抱きついてしまった。
「なんなの? そんなに痛かった?」
 精一杯首を横に振った。お母さんは何も聞かずに頭を撫でてくれた。
 買い物袋からはボタボタ焼きが見えていた。
 だから、僕は笑ったんだ。
by 木村勇雄 2006.07.26 22:25

RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
 拝読しました。こんばんは。日原武仁です。
 初恋、いいですね。
 日原が言うのも僭越ではありますが、非常に木村さんらしい話だと思いました。
 ただ、面白くはあるんですが……ちょっとお子様達が大人すぎると言うか、こまっしゃくれてて子供らしいんですけれど、らしくないと言うか。物語的には良いんですけれど、大人から見た子供とでも言うか……。そういう面でなんとなく違和感を感じてしまいました。
by 日原武仁 2006.07.26 22:25 [4]
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
ゆったりとしてノスタルジィな作品ですね。フフ、こんなに甘酸っぱくして……。

子供達の語彙が豊富過ぎるのがちと気になりますが、こまっしゃくれ感を出すにはこれくらい必要かしら?
木村さんの文体なら、三人称にした方が良かったかも?
いや、そうしたらノスタル爺が死んじゃうか。むぅ。
by 路傍の 2006.07.04 00:17 [3]
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
 感想どうもありがとうです。

 私も瓜さんの感想に励まされています!

 私らしさ、ですか。
 確かにこういった作品を書くのは好きですね。
 ちょっと急いで書いたので、もうちょっと工夫が凝らせたのかな、とも思うし、これでいいのかもな、とも思うし。
 ちょっと複雑ですww
by 木村 勇雄 2006.07.04 00:04 [2]
RE:ショッピングセンターを出て夕暮れ時の長い坂道で(第一回三題話「ショッピングセンター」「夕暮れ時」「長い坂道」)
これは良いですね。
木村さんらしさが出てます。
キム兄の作品は終わりがいつも良いと思うのですよ。

なんだか、とても暖かくて。
幸せな気持ちになるお話でした。
by 瓜畑 明 2006.07.03 19:58 [1]
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