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作品公開掲示板

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LAST 2007-03-01 14:51
短編作品を募集してます。遠慮なくどしどし投稿下さい
ジャンクワールド
「ありがとうございましたぁー」
 弾むように軽やかなクラシックが流れる中、手を振りながら出て行く客の背中に頭を下げて見送ると若槻美亜(わかつき みあ)は軽く息をついた。
 シュートカットで目鼻立ちのくっきりした顔は愛らしく、小柄なこともあってよく高校生に間違われることもある彼女は“カフェ・ガルガンチュア”の看板ウェイトレスな二十六歳である。
「お疲れ様でした、美亜さん」
 テーブルから食器を運びながら秋菜冬司(あきな とうじ)は美亜に声をかけた。
 長身に締まった体躯、銀縁の眼鏡に怜悧な容貌という、どこか悪の秘密結社の美形幹部でもやっているんじゃないか、と思わせる二十歳のウェイターに美亜は微笑んだ。
「秋菜くんもお疲れ様。これでとりあえずは一休みだね。今のうちにお昼食べちゃってよ」
「はい。ではそうさせてもらいます」
 言って冬司は厨房へと消えていった。
 時刻は昼を少し過ぎた頃合だ。二十人も入れば一杯という店内に客は一人もいない。若葉台学院という学園都市にあり、客層のほとんどを学生が占めるため、授業中にあたる今のような時間ではさして珍しい光景でもない。かと言って、朝方や夕方に客でごった返すという事態も稀であるのだが。
「美亜? お前も昼飯食っちまえよ」
 カウンターからの声に美亜は振り返る。
 どこか眠そうな、けれど妙に鋭い目付きをした青年が手にパスタを持ち、唇の端に煙草を咥えて立っていた。名前は高地栄樹(たかち えいき)。美亜と同い年の幼馴染みであり、この喫茶店の店長である。
「あー、栄くんまた煙草吸ってるー。料理人に煙草を吸う人はいない、て美食倶楽部の人も言ってたよー」
 腰に手を当て、頬を膨らませて美亜は言う。注意された栄樹は苦笑を浮かべ、
「悪ぃ。こいつがないとどうも口が寂しくてよ」
「煙草を吸う方はよくそうおっしゃいます」
 冬司がサンドイッチの皿を片手に厨房から出てきた。
「ですから禁煙方法のひとつに煙草が吸いたくなったらキスをすると言うのがありますので……ささ、どうぞ」
「……どうぞって何がだよ」
 半眼で栄樹は冬司を見やる。どこか凄みのある視線にさらされても冬司は動じることなく、
「僕のことでしたらお構いなく。ささ、どうぞ」
「だからどうぞってなぁ……」
「あ、でもそれは良いアイディアだよ!」
 何か言おうとした栄樹を遮ったのは美亜だ。
「ボクはいつでもオッケーだよ。ほら、んー……」
 いつの間にかカウンターまで来ていた美亜は目を閉じ、顎を上げるように栄樹に向かって唇を突き出す。
「アホ」
 栄樹は短く言うと近くのトレイで美亜の額を叩いた。そして棚から灰皿を出すと煙草をもみ消す。
「バカ言ってねぇで二人ともさっさと食っちまえよ」
 呆れたように言うと栄樹は厨房へと戻っていった。
「……痛ててて。怒られちゃった……」
 額をさすりながら美亜は小さく笑う。
「店長は意外にノリが悪いですね」
 サンドイッチの最後のひとつを口に運びながら悪びれずに冬司は言う。
「栄くんはああ見えても照れ屋さんだからね。どうしても周りの人を意識しちゃうんだよ」
「なるほど。だとすれば二人だけのときはものすごいと?」
 人差し指を立てながら冬司は眼鏡を光らせる。
「うん、そう。ものすっごく甘えん坊さんになるんだよー。この前お買い物に行った時にねぇ……」
 目をキラキラさせながら話し出す美亜の顔が不意に固まった。
 怪訝な顔をする冬司に美亜はぎこちない笑みを顔に張り付かせ、
「……あー、うん。この話はまた後日ということで……」
 それだけ言うと油の切れたロボットのようにして厨房へと入っていった。
「…………?」
 彼女の突然の奇行に首を軽く捻る冬司。と、その時だ。
「冬司、ちょっといいか?」
 声に振り向けば白く清潔な調理用の服装に身を包んだ伊藤静一(いとう せいいち)の姿があった。
 柔和に整った、人の良さが滲み出るような笑顔をいつも浮かべている彼なのだが、今は少しばかり緊張したような面持ちだった。
「構わないが。どうした、静一?」
 静一は手にした皿を冬司の前に置き、
「ちょっと試しにスイカでプティングを作ってみてさ。試食してもらえないか?」
 見やれば、そこには淡い赤色をしたプティングがある。添えられたスプーンを取り、おもむろに口へと運ぶ。
「……どうだ?」
 息を詰めた顔で静一が訊いてくる。冬司は味わうように咀嚼し、飲み込んでから口を開いた。
「悪くはない。だが……少しばかりひねりというか。もうひとつ足りない気がするな」
「そうなんだよなぁ。どうも味がぼやけると言うかピンとこないんだよな……」
 欠点には気付いていたらしく、将来のパテシエは腕を組んで原因を探るように唸り出す。
「焦ることはないだろう。急いで新作を作る必要もないのだからな」
「そうなんだけど……ん?」
 静一は不意に言葉を切ると耳を澄ました。さっきまで流れていたシューベルトの大二重奏曲が消え入るように終わり、別の曲が流れ出す。どこかもの哀しい出だしで始まるそれは、ワーグナー作曲のニュルンベルグのマイスタージンガーだ。
「お呼びのようだ」
「だな」
 冬司は嘆息するように言い、静一が頷く。
「店長。ちょっと出かけてきます」
 厨房に向けて静一は叫ぶ。そこから栄樹と美亜が顔を出し、
「おう。行ってこい」
「がんばってね」
 二人に軽く頭を下げ、冬司と静一はスタッフルームに入っていった。


 スタッフルームの更衣室を抜け、その奥の扉を指紋と網膜認証でロックを解除して中に滑り込む。地下へと通じるエレベーターは音も無く下降し、ほどなくして目的地に二人を運んだ。
 自動ドアを抜けたそこは近未来的な空間だった。巨大なモニターや様々な機械があるそこは、特撮ヒーロー番組に出てくるような秘密基地そのものだ。
「やっと来たわね」
 巨大モニターの前で仁王立ちしていた少女が軽い憤慨を滲ませながら二人を睥睨した。
「やっと、て……一分くらいしか経ってないと思うが」
「甘いわよ! その一分が命取りになるかもしれないのよ!」
 腕時計を見ながら言う冬司に少女は指を突きつける。
 彼女の名前は茅原千早(かやはら ちはや)。二年前にマサチューセッツ工科大学を卒業し、今年から若葉台学院全ての大学で講義を持つことになった十九歳の助教授である。
「で、今回の敵はこれよ」
 叫んだことによって気分がすっきりしたのか、千早は手元のコンソールを操作し、映像を背後のモニターに映し出す。
 現れたのはどこかの公園で行われている野外ライブの模様だった。百人ほどの観客は全員立ち上がり、ギターの演奏に合わせて手を振り上げながら歓声を送っていた。
「どこもおかしな風には見えないけど……?」
 モニターを眺めながら静一は呟く。それに千早は軽く頷き、
「確かにここからではおかしなところはないわ。じゃ、これはどうかしら?」
 声と同時に映像が切り替わる。ステージを映していた画面が観客を正面から捉えたものに変わった。
「これは……!」
 冬司の顔が驚愕で強張った。
 観客全員が苦悶を浮かべているのだ。どうやら彼らは自分の意思とは関係なく、ギターの演奏に合わせて無理矢理に踊らされているようだった。
「ある種の催眠音波による群集操作。有効範囲は半径百メートル。擬似装甲装置は演奏者のギターよ」
 千早は静かに伝えた。
 “装甲(マテリアル)”という能力がある。意志の力で自分の周りの粒子を固定し、望む形に具現する力のことだ。彼らは“装甲者(マテリアリスト)”と呼ばれ、最低ランクでも戦車並みの戦闘力を持つ。
 この能力を誰にでも付加し、行使することが出来るようにしたのが擬似装甲装置である。これは警備員のために開発されたものであるため、誰もが簡単に手に入れられる代物ではない。だがここ最近、違法なコピー品を販売している組織があるらしく、異常なほどのスピードで学院内に広まりつつあった。
 当然、取り締まるための組織も編成されたのだが、ここである問題が生じた。擬似装甲装置に関する犯罪に“装甲者”を使うことは出来ない、ということだ。装置を使う人間はあくまでも一般人であり、それに装甲者を使うのは行き過ぎであるという判断が下されたのだ。
 そのため、同じ装置を使う一般人が犯罪の鎮圧にあたることになったのは自然な流れではあっただろう。
「了解した。では行ってきます。先生」
 冬司は会釈すると千早に背を向けた。
「音楽を悪用するなんて許せないな」 
 静かな怒りを燃やし、静一も後に続く。
「いってらっさい。それとここでは司令と呼べ!」
 叫びながら千早は二人を見送った。

 
 対擬似装甲犯罪私設処理部隊・ジャンク。
 通称――機甲特警メタルジャンク。
 それが、彼らである。
by 日原武仁 2006.07.23 16:08

RE:ジャンクワールド
 こんにちは。日原武仁です。

>西向く侍さん
 日原ワールド……なんて素敵な言葉でしょう。どうもありがとうございます。
 作品の世界観に関しては正直、そんなに考えている訳ではありません。ただ、日原の作品は全て同じ世界の別の時間軸の物語のため(例えば、お気付きだと思いますが“ジャンクワールド”は“オレの騎士様 ボクの王様”の約十年後くらいが舞台です)必然的に自分の中で積み重なっていくもの+思い付きです。

>ジャック・オン
 くっ! ここを突っ込まれるとは想定外にして予想外です。確かにイメージ的なモチーフではあります。最初の設定では「ジャンク・オン!」が変身のキーワードでした。さすがにそこまで露骨なのは……と思い直しましたが。
 余談ですけれど日原はこれのおもちゃをまだ四体とも持っています。そして目下の所DVD-BOXを買おうかどうか思案中……
by 日原武仁 2006.07.23 16:08 [4]
RE:ジャンクワールド
ずっと気になってて、ふと思い出しました。

彼らはやはり「ジャックオン!」のかけ声で変身するんですか?w

意味が分からなかったり、違ってたら気にしないでくださいw
by 西向く侍 2006.07.23 13:20 [3]
RE:ジャンクワールド
ども、西向くです。
読みました!

日原ワールド全快ですね(^^)
「ファントムペイン」や「僕の騎士〜」もそうですが、日原さんは世界観をつくるのが巧いですねぇ。うらやましいです(><)
だいたい作品にとりかかる前に、どれくらい世界観決めてらっしゃいますか?
自分なんかホトンドなにも決めずに書いてて、行き当たりばったりなんですけど……

店長とウェイトレスさんが後半出てこなくなっちゃったのが残念無念。
あとは、構\成上しかたのないことだとは思いますが、最後の部分が説明的になりすぎてる気がしました。
by 西向く侍 2006.07.22 13:39 [2]
RE:ジャンクワールド
 こんばんは。日原武仁です。
 某所で「音楽」をテーマに書いた作品です。最も大きな欠点は音楽がテーマになっていないという作品ですが、どうかご容赦を。
by 日原武仁 2006.07.11 21:34 [1]
No. PASS


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