■ 肉の壁 ■

[あとがき]




「あぁぁ……」



私は自分の身を襲う感覚に、力の抜けるような声を出した。

肉を切り裂き、骨を突き破ったその剣は、血まみれになって私の身体を貫通していた。

幸い、女の象徴の部分と関係のない部分に命中していた。

何もかも捨てる覚悟をした私だが、最後に女としての部分だけは、守り抜きたかった。

もちろん、それさえもあの人を守るためならば捨て去れる覚悟はあるのだが。



「っ…」



私は、手に持っていた杖で相手の腕を一蹴した。

相手が手を離したので、剣は私の胸に突き刺さったまま、ブラブラとゆれた。

傷口を確認してみる。

先ほどは胸の上辺りかと思っていたが、正確には肩に近い部分だ。

肺も無事なのか呼吸にも問題はない。


その動きに傷口に血がにじみ、それがしたに垂れてくる。

じくっ、と傷口が濡れ滑る。

胸元に流れる血の熱い感覚。

傷口からの断続的な痛覚。

だけど、痛くはない。

むしろ、身体が熱くて宙に浮きそうな気分だ。



「セリス様は…!?」



「無事……」


横を向いた時、セリスの顔が見えた。

先ほど私が咄嗟に突き飛ばしたおかげで無傷だった。



「んぶっ…?」



安堵の息をつこうとした時、大きな衝撃を受けた。

遠くから跳んできた手槍が私の腹を串刺しにしていた。

じゅぷっと血液の気持ち悪い音を立てる。

ふっ、と私の身体が揺れた。

倒れる…?



「ふゥっ…!」



とっさに足を広げて力を込めたおかげで倒れこむ事はなかった。

傷口が脳に痛覚信号を全開に送りつける。

衝撃で呼吸ができない。

もしかしたら横隔膜の辺りをやられたのかも知れない。

私は、手を腹に這わせる。



「ん…くふ」



どうやら、呼吸器系統は大丈夫らしい。

さっきの呼吸不全は、衝撃によるものだったのだろう。

手槍は、ちょうど右わき腹のあたりに命中していた。

この様子では、腸の一部がひどい損傷を受けているだろう。

他の臓器も損害を受けているかもしれない。


腰につけていたナイフを取り出し、身体の外に突き出ている手槍を切断する。

これで動きが制限される事はない。

ジワジワと血はにじみ、徐々に力が入らなくなるだろうが、しばらくは大丈夫だろう。

同時に、胸につきささっていた剣は、そのまま力を込めてさらに突き込めた。


「あふっ……」


妙に甲高い声を出しながら、私は念のため手槍が刺さる傷口を確認した。

どうやら特に問題は無さそうだ。

この程度の傷なら大丈夫。


「これで…問題は、ないわ。」


何事もなかったかのように私は、前を見やる。

守るべき主、セリス様を狙う兵士はまだまだ居る。


自分から剣を体内へと押し込んだ私を見て、目の前の兵士は、戦慄を覚えたようだ。

私がゆっくりと微笑みかけると、顔を引きつらせて逃げていった。


その兵士だけではない。

敵も味方も、私の姿を見て、おびえているようだ。

セリス様も、私を恐怖の意思のこもった眼差しで見つめている。


ずっと以前に、命を捨てるようなこんな真似は止められていたが、

私は一向にやめず、むしろ嬉々としてセリス様の身代わりの肉盾となった。


それは、セリス様を思っての行動であると同時に、私を愛してくれないセリス様へのあてつけでもあった。

そしてセリス様をうばっていったユリアに対するそれでもある。


身を挺してセリス様を守るたびに、私はぐちゃぐちゃに傷つけられる。

手がもげ、脚の肉はえぐれ、腹から内臓がはみ出て、綺麗な顔立ちは血でわからなくなった事もある。

ユリアは、そんな私の様を見て罪悪感を感じているみたいだった。

ユリアが傷つけば傷つくほど私は満足感を覚えた。

それはただセリス様に嫌われるだけだというのに私はこの行為をやめることが出来なかった。


はじめは制止していたセリス様や元仲間たちも、最近では、私を恐れるような眼で遠巻きに眺めるだけだ。

私のこの異常な行動は、多少だがセリス軍にとって役には立っているので、他の人間も私を止める事はない。


「さあ、どうしたの!?セリス様を殺したいんでしょ?」


「それなら、まず、私を殺してごらんなさいな!」


戦場に、震える私の声が響く。

私の様と声に、セリス軍の女性達はおびえ、男達は目をそむける。

敵は、恐怖に足がすくむ。


私は敵に対し反撃などはしない。

一方的に攻撃されるままだ。

だが、私の決意が敵は怖いらしい。

死を恐れず、むしろ望むようなこの私が。



「んはぁ…」



ガクンと私の身体が揺れて左腕に鈍い感覚が走った。

ドサッ、と何かが足元に落ちる。

見れば左腕が切り落とされていた。

切断面からは、血が洪水のように噴き出す。



「んふう……。いい攻撃よ。」



右腕で落ちた左腕を拾い上げてその腕で私を斬った兵士を指差す。

兵士は、まだピクピクと動いている私の左腕から眼を背ける。



「リィ〜ラァイブ〜」



ゆっくりと、まるで唄でも歌うようにその短い呪文を唱えた。

切り口に押し当てた左腕が、じゅぷじゅぷっという音を立てて見る見る内に接合していく。

前の攻撃で刺さった剣も傷口から零れ落ち、手槍も体外へ落ちる。



「はぁぁ……ああ……気持ちいい…」



うっとりと傷が癒される感覚に身をゆだねる。

リライブによって治癒されていく私の体のその様は他の者にとって正視に堪えないらしい。

うごめく肉と煮える血が肉体の上を蹂躙しているように見えるらしい。

やがて傷口は、みるみる小さくなり、失われた血液は補充される。



「……さあ、誰か私を殺してよね」



すっかり小さくはなった物の、跡がのこった傷口を左手で弄りながら私は言った。

手についていた血を舐めあげて、敵たちを挑発した。


勇気のある兵士達が私の身体に群がった。

私の身体に剣が六本ほど突き刺さる。

左胸上、左わき腹、右腕、右足、そして下腹部に二本。


あら?子宮がつぶれちゃったかな?

指でくちゅくちゅと弄り回すと、子宮の残骸が体外へと飛び出てきた。

大腸の細切れのおまけつきだ。



「ああ゛女の子じゃなくなっちゃったわ!」



私は、大声で叫んだ後、愉快に思えて声を張り上げて笑ってみた。

遠くでユリアがうずくまって吐いていた。

美しい彼女の口から汚い吐瀉物が撒き散らされている様はどこか痛快だ。

だけど、そんなユリアを心配してセリス様はユリアの背中をさすっていた。

セリス様はこんな状態になっている私よりもユリアが心配なのね。



「あら……?」



こうして見ていると妻のユリアのつわりを心配する夫セリス。って感じに見える。

……悔しい。

私がよそ見をしている間に勇気ある兵士達は、次の攻撃を繰り出した。

手槍が私の右肩を粉砕して、右足のふとももに命中した。

最後に突撃してきた兵士が槍を私の左胸を突き刺した。

心臓がぐちゅっと音を立てて串刺しにされた。

それでもビクビクと鼓動を続ける心臓は偉いと思った。

今気づいたがビクビクと動いているのは心臓だけではない。

私の身体もいたる部分が痙攣を起こしている。



「ぁ……はぁふっ……」



息が口から抜け、それとともに全身の筋肉が弛緩していく。

ユリアの悲鳴と、すすり泣きが聞こえたような気がする。

あはは、いい気味……よ。

そこで私は絶頂を迎えた。

リライブの声がまた戦場にこだまする。

私の名はラナ。

いつまでもセリス様を愛するただの無力な女……。




終わり







[あとがき]



久々のFE聖戦です。

どうだったでしょうか?

以前書きなぐっていた文章を一時間ほどで書き上げたものです。

エロはなし。ホラー?ダーク?を目指してみました。

根底にあるのは、得られぬ愛。

愛を得る事が出来ないって言う物を題材にする事が私はすきなんで…。


感想をよろしく!では〜〜〜。

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