[第十七話〜幻想の天国〜]
お姫様は、横たわる王子様の口に軽く、接吻をした。
王子様の口から、毒の林檎の欠片が落ち、王子様は目を覚ます。
「ありがとう。君のおかげで助かった。…素子姫、僕と結婚してください。」
王子は、お姫様の手を取り、甲に軽く接吻をした。
そして、愛おしさの溢れんばかりの表情で、お姫様を見つめる。
「はい…。わかりました、浦島王子。」
素子は、顔を赤らめ、俯いてそう言った。
「……」
恥ずかしい。
素子は、眠りから覚めると、一番にそう思った。
何て、童話ちっくな夢を見たのだろう。
…私がお姫様で、浦島が王子様・・・?
昔聞いた白雪姫のおぼろげな記憶が、つい先日の出来事に触発されて夢の中で交じり合ったのだろうか
。
ただ、素子が見た夢は、白雪姫のストーリーとは違い、お姫様が、王子様を助けていた。
そう、現実に素子は、この手で浦島を救ったのだ。
成瀬川なるという毒の林檎から。
素子は、横目で寝息を立て、眠っている浦島を見やった。
スース―と寝息を立てるその幼げな横顔をみて、やはり、昨日の出来事が夢でなかった事を実感する。
「可愛い寝顔だな…」
女性の母性本能をこれでもかと擽るその横顔見て、素子は、ゆっくりと自らの顔を寄せた。
「…ちゅッ。」
素子はその柔らかな唇を浦島の唇に重ね当てた。
夢で見たようにゆっくりと、情熱を込めて
「私から、あなたへの…目覚めのキス。」
そういって素子が唇を離す。
「ん…んん。」
浦島が薄目をあけて、辺りを見回す。
「あれ…?ここは…?」
「…浦島、おはよう。」
素子は、現在自分が持ちうる最高の笑顔で浦島に微笑みかけた。
浦島が自らの近くにいるという事実を、改めて確認し、素子は最高に幸せな気分になる。
しかも、邪魔者はもういない。
ここにいるのは、景太郎と素子だけだ。
「え…、あ、おはよう…。え、と…俺は…っ…?」
その溢れんばかりに笑顔に動揺しながら、浦島は言葉を続けようとした浦島は、思わず後頭部を押えた。
ジンジンと響くように頭が痛い。
「無理はしなくていい…。あの女によって嗅がされた薬品が残っているからかもしれないからな。」
「え…うん…。」
素子は、頭を押える浦島の体を支えるように、自らの体を押しつけた。
まだ、記憶が混乱しているのか、ぼんやりと返事を返した浦島は、素子に押し付けられた柔らかな感触に夢心地だ。
二つのやわらかい感触が心地いい……
「……ええッ!?」
二つのやわらかい感触が、むにむにと直接伝わってきたことに浦島が気づいた。
布越しではなく、胸の柔らかさは直接伝わってきていた。
気をつければ、体温も直接に伝わってきていることが分かる。
……な、何で素子ちゃんは、裸なんだ!?
「こ、ここれは一体!?」
素子が裸だと気づいてパニックに陥る景太郎の背中に、素子は手を廻してきゅっと力を込めた。
「あ、あうッ……」
二つのふくらみは、さらに押し当てられ、たまらない感触を景太郎に与えた。
同時に、長く美しい黒髪が、景太郎の素肌をくすぐり、甘い香りを鼻腔に運んできた。
その甘い香りを肺一杯に吸い込んだ景太郎は、頭がおかしくなりそうになる。
胸の感触、髪の感触、素子ちゃんの甘い匂い……。
思わずうずきだす股間のモノを必死に押さえ込もうとするが。興奮は止まらない。
「も、素子ちゃん……あの……」
股間の勃起を気取られる前に、何とか素子を離れさせ理性を取り戻そうと景太郎はするが、
そんな事情を知ってか知らずか素子は、そんな景太郎のちっぽけの理性にとどめを刺す。
「なあ、浦島…」
ふっ…と耳のそばであまったるい声をかけたのだ。
ビクッ!と身体を震わせる景太郎。
これで理性を吹き飛ばされた景太郎は、どう行動してよいのかわからなくなり、固まってしまった。
「あ、あう…。」
「私は…浦島、お前が好きだ。」
固まる浦島の身体を抱き直して、素子は、恥ずかしげにつぶやいた。
素子の告白に、景太郎は、ますます混乱した。
「こんな、私は嫌いか…?」
素子は、景太郎の眼をこれ以上ないというぐらい意地らしい表情で見つめながらそういった。
悲しみをたたえる瞳は、軽く潤んでいて非常に艶っぽい。
「そ、そんな、嫌いなんかじゃ…」
「そうか……。」
嫌いではない。という言葉を聞き、素子は、三度きゅっと景太郎を抱きしめた。
そして、耳元で言葉を続ける。
「では、好きか?」
「う、うん…」
「成瀬川なるよりも…?」
「……それは…その…」
「そうか……」
悲しみの色が混じった声で素子は、言う。
景太郎は、自分の言葉が素子を傷つけたのでは、と思い少し後悔した。
景太郎の背中に這っている腕に力が入る。
「今は……今は、まだ、お前が成瀬川なるのことが好きでも……」
「いつかきっと、私はお前のその気持ちを変えてやる。私の事が好きで、好きで、たまらなくなるほどお前を愛してやる。」
「素子ちゃん……」
けなげなその言葉に、景太郎は、少し感動した。
けなげにそういいつつも、景太郎を抱きしめる素子の体は震えているのだ。
景太郎は、気丈に振る舞ってけなげな事をいう素子の事が、愛しくなる。
「愛して、愛して…愛し尽くして……」
「……浦島……こんな私は嫌か?」
「そ、そんな事ないよ!」
「そうか…。ありがとう。」
「んむっ…!」
素子は浦島に唇を重ねた。
舌を絡めあう情熱的なキス。
驚いた景太郎だが、そのまま瞳を閉じて、キスに専念した。
「ん…んむ…んふ……。」
素子は、唇を離した。
「さあ、私を試してくれ。」
[あとがき]
メロひな第五集といっても前半だけですが。
景太郎と甘い時間をすごす素子です。
-->back