悲惨な現在と薔薇色の未来


僕は空を仰ぎ見た。

――晴れ渡る一面の青空。風は冷たく、僕の頬をなでる。

すがすがしい日和――本来ならば、そうかもしれない。

だが一端目を空から地面に下ろせば、そこは暗く陰鬱な世界へと変わる。

一面の廃墟、といっても差し支えはないであろう。数日前に受けた爆撃によって、ほとんどの建物が壊されていた。



思い出すだけで身震いしてしまう。

・・・あれは、とても恐ろしいものであった・・・





真昼、突然警報音が響き渡った。

僕は慌てて街の中にいくつかあるシェルターのうち、今いるところから最も近い所に逃げ込んだ。

人々も慌てて飛び込んでくる。

長い距離を走ってきたので、中に入ってきた時僕は少し息が上がっていた。だがそこまで暑い日ではなかったので、幸いにもほとんど汗はかかなかった。

シェルターの中で人々はざわざわと話をしていた。


また奴らが侵入してきたのか?

今回もまた誤報じゃないだろうな?

国の軍隊は一体何をしているんだ?

早く警報を聞かないで生活できる日は来ないものか・・・


などなど。現在への不満が口に出ていた。



今現在、僕の住む国は隣国と戦争をしている。

きっかけは何であったか、僕は知らない。周りも知らないだろう。僕たちのような一般人は、そんな情報を聞ける機会などなかった。

唯勝手に誰かが争いごとを始めて、その被害を僕らが受けているだけだ。

僕たちは普段は普通の生活を送っている。だが時々――例えば今のように、誰かの争いのとばっちりを受けなければいけない。



全く、いい加減にしろよ本当に・・・

僕は誰もがと同じように、ため息をつきながらそう思う。

・・・そういえば、最近警報音の鳴る回数が増えて着ているような気がする。

しかし、その中で実際に隣国の軍隊らしき影が見えたのは一度きりだ。

・・・だから一応避難はしたものの、はっきり言うと僕たちは今回も誤報だと思っていた。


暫く時間が経った。

中には、今回も誤報だった、と思い外に出て行く人もでてきた。

僕もそうしようかと思ったのだが、まぁ急ぐ事はない、警報が解除されるまでどうせ仕事は休みなんだ。そう思うと立ち上がるのをやめて、一眠りでもするか、と考えを改めた。

結局、僕は中にとどまる事にした。背を壁に預け、目を閉じる。




その時、突然の轟音。

地面が大きく揺れた。周りで悲鳴が上がる。

地震か・・・一瞬そう思ったのだが、そうではない、という事がすぐに分かった。

機械の音がしたのだ。――空を飛び、爆弾を落としていく機械の音が・・・




暫く轟音と地の揺れは収まらなかった。

・・・もしかしたら、僕が感じているほど長時間の出来事ではなかったのかもしれない。だが、本当に気の遠くなるほど長く、僕には感じられた。

恐かった。

シェルターは簡単には壊れない特殊な鉱物によって作られている。だから爆撃で破壊される心配はなかった。

だが・・・

僕は頭を抱えて耳に何も音が入ってこないようにしながら――結局無駄な事であるが――なるべく小さくなるように、身をかがめた。


やがて音はやみ、更にそれから暫く時間がたつと、人々は外の様子を見に出て行きはじめる。

僕もゆっくりではあるが、歩き出した。

怖い。





その光景を見た僕たちは絶句した。僕が子供の時からずっと暮らしてきたこの街が、なくなっていた。

・・・正確には、あった。だがその姿は最早僕の記憶にあるものとはかけ離れていた。

建物は崩れ、木々は焼け焦げていた・・・

人が倒れていた。・・・その姿を僕は直視する事が出来なかった。

辺りには砂煙が立ちこめ、視界が悪い。



だが、一つだけ認識できたことがある。

二度と取り戻せない事が起った、という事だけは・・・






僕は再び空を見上げた。

大きく息を一つ。

そして僕は目線を戻すとゆっくりと歩き出した。

青空の下、一区画だけがやけに熱気を帯びていた。僕はそこへ向かう。




すさまじい熱気だった。

何日ぶりにこのような熱気を感じたのか・・・少し僕は感動していた。凄く久しぶりのことと思えてしまった。

人々が輪になってひとりの男を取り囲んでいた。

その男が叫ぶ。

「このような状況を作り出したのは誰だ!」

おおー、と群集は声をあげる。

「国がすべての原因だ!」

再び群集は声をあげる。

中には、「そうだ!国が悪いんだ!」と叫ぶ人もいた。

それに賛同して声をあげる人もいる。だんだんと賛同の声は大きくなっていった。

「勝手に戦争を始めたあいつらがいけないんだ!」

「そうだ!俺たちの生活をどうしてくれるんだ!」

「あいつらの事を赦してたまるか!!」

一気に群集のテンションが上がってくる。

周りが熱を帯びてきた。その中にいる僕も、何となく熱を帯び始めた気がする・・・

「これは、すごい・・・」僕は心のそこからそう思った、「皆が、一つになっている」

いつの間にか、周りにいる人々の表情に決意とも取れる感情が生まれて着ていることに気づいた。・・・いや、その中にいる僕もだろう。




気づいたら僕は群集の中で叫んでいた。

僕たちは瓦礫の中から鉄など使えそうなものを探し出すと、進み始めた。

「行くぞ、国の中心へ!」

真ん中で誰かが叫んでいる。

「この状況を打破するために我々は中心へ向かう!」

「この状況を打開した後に見えるのは、光だ!」

「俺たちがやっていることは間違いじゃない!」

「私たちの行く先には、明るい未来が待っているんだ!」

誰もがその言葉を信じ、集団の中へ入っていく。

僕たちは街を抜けて、街と街を繋ぐ大きな道へと出た。



さあ行こう。僕たちのために。



悲惨な現実と薔薇色の未来。

僕らの進む先には、間違いなく栄光がある――


20060720
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