ふわっと


ふわっと。

なんとも可愛らしい名前ではないか。

だが、その可愛らしい名前を冠したそれは、現代の最新技術を総動員させて作られた、知識の結晶ともいえるロボットであった。

その力は強大で、人などたちまちにその力の前に倒れる…

…はずだ。



「みょー」

立ち尽くす研究者たち。

彼らの視線は目の前の物体に注がれている。

手と足を持つそれは、例のロボットであった。超小型ミサイルを大量に詰め込む他に、様々なものを搭載したロボット。

…が、鳴いている。…いや、これは本当に鳴き声なのか…

「みょー」

また鳴いた。

「…機械の動く音ではない。…音楽出す機械をを搭載してはいない」

「…では一体何だと言うんだ」

困り果てる研究者たち。

そんな間にもこの出来たばかりのロボットは鳴く。「みょー」



「…失敗作か?」

ふと一人がそう洩らした。誰もすぐそれに反論できない。

「そもそも〈ふわっと〉という名称にしたのが間違いだったのではないか」

「いや、名前と現実のギャップというものは重要ではないか」

「…そうか?」

議論は本題から離れて行く…と、一人がぽつりと呟いた。

「現実とのギャップならこれも激しいな…」

途端に活気付く研究者たち。そうだそうだと言い始める。

「みょー」

「これもそうだと肯定しているぞ」もはやわけが分からないことになってきた。

「でも機能を確認しないで我々がああだこうた言ってもはじまらない。実験をしましょう」

「そうだな。よし、準備にかかろう。〈ふわっと〉、お前の力を見せるんだ」

「みょー」

その時、ふわっとの様子が変わった。突如として体を震わせ、指を開き始めたのだ。

そして、次の瞬間ふわっとはその体内に搭載していたミサイルを辺りに向けて発射しはじめる。

「なっ…」

驚愕する研究者たちにも、ミサイルは飛んでくる。

辺りが大きく揺れた。

「あっ…!言葉だ!こいつは人間の言葉をりかいするっ…」

「〈お前の力を見せるんだ〉…か…っ…だが…」

「だが俺は今やれと言ったわけではないっ」

「どこかの精密機械が悪かった…んだろうっ」

「その前にこいつを止めろ」



「ふわっと、とまれ!」



その言葉を合図に、ふわっとは動きを止めた。何ごともなかったかのように。

ほっとして、腰を落とす研究者たち。幸いにも皆生きているようだった。

一人が今まで長い間研究をしていた、少し愛着がある部屋の惨状を見回し、大きく溜め息をついた。

「最初から、やり直しですねぇ…」

その横で、ふわっとはやはり鳴いていた。



「みょー」



20060921
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