嫌な風だ――裕之は顔を上げ、空を見やる。
ここは聖都ホーリィクロスの入り口。ここは二つの大陸のうち西側にある大陸を治める王国の都である。そしてまた、裕之たち<忍一族>の住まう集落があるのもこの大陸である。
「裕・・・?」立ち止まった彼に気がついて、先を歩いていた隼人が振り返り尋ねた。
「・・・すみません、僕は・・・ここには入れません」
人間は、僕たちを排除しようとするから――そう、続ける事はやめた。隼人たちを悲しませてしまう気がしたから・・・
隼人は潤、信を見やる。
「別に、裕の好きなようにやらせてやればいいよ。ちゃんと戻ってくるんだろ、裕?」
ぽんぽん、と裕之の頭を叩きながら信は笑いながら返した。
裕之が小さく頷くと、「またあとで」と言いながら三人は聖都の門をくぐっていった。
一人残った裕之は、三人を見送ったあとすぐさま身を翻すと駆け出していった。
聖都の街を抜けた一番奥に、巨大な城が建っている。そして城の城壁の背後には、鬱蒼とした巨大な森が広がっていた。
そこに裕之は身を滑らせる。
日のあまり差し込まない森の中は薄暗く、少し湿っぽいにおいがする。
だが、今日はその外に別のものも裕之には感じ取られていた。何か嫌な気配。
ここに来る前に、「最近聖都に魔物が現れている」という話を聞いていた。それがあって隼人はここに来る事を決めたのだが、その魔物がここにいるのではないか、という気がしたのだ。
息を潜め、自分の気配を殺し、足音を立てずに森を進んでいく裕之。彼の耳に音が飛び込んできた。
草を踏みしめる音、叫び声、そして何かを打ち合っている音・・・・・
彼はそちらに足を向けた。腰の脇差に手を掛ける。
そして、一閃。
背後から現れた獣の容をした魔物を斬る。
「さようなら」彼がそう呟きながら崩れ落ちる魔物の身体に手を触れると、それは灰と化し風に巻かれて飛んでいった。
やはり魔物がここには跋扈しているようだ・・・彼は地面を蹴り飛び出した。
そこには数匹の魔物に苦戦する人間たちの姿があった。
人間は王国の兵士たちであろう。胸に揃いの紋章を記してある鎧を身につけている。
その場に突然飛び出してきた人影に驚いたのか、彼らははっと息を飲んでいた。だが魔物たちが裕之に飛び掛るのを見ると、敵ではないと認識したようで敵意を向けてくる事はなくなった。
「お前は・・・」魔物たちの中心にいた、人間に近い容をした魔物が裕之の姿を認め、呟いた。「話に聞いていたが、こんなところに現れるとはな」
言うと、裕之に向けて炎を吹いた。
灼熱の炎が一直線に彼に向かってとんでくる。だが彼は口元を緩めると、脇差を持たない右手で簡単な印を組み、こぶしを握るとその手を開いた。そこから噴き出したのは冷気。それは炎に纏わりつき、やがてそれを消してしまった。
両脇から飛び出してくる翼を広げた魔物を後ろに飛びずさってかわし、彼は小さく、だが強く言った。
「去れ」
「馬鹿が、お前の指図なんて聞くわけがなかろう。ここでお前を殺し、我が主にその首を差し上げようか!」
叫びながら、今度はその魔物が裕之に飛び掛る。
彼はすっと右に動くと、そのまま向かってきた魔物に回し蹴りを放つ。「僕をなめるな、低級魔の分際で」そのまま、飛ばされ地に落ちたその魔物の腹を踏みつけた。
彼の魔物を見下ろすその冷たい目は、その魔物を震え上がらせた。
その恐怖を感じ取ったのか、彼は足をどけ、別の方向に目を向けた。足元で這うように魔物が彼から距離を取っていった。だがそれに全く興味を示さず、彼は木々の先を向いていた。そこには兵士が集まっており、異様な雰囲気があったのだ。
ゆっくりとした足取りでそこに向かうと、その中心には一人の青年がいた。周りの兵士とは全く違う雰囲気をかもし出しているその青年は、裕之に気がつくと、微笑を浮かべた。
「助かりました、どうもありがとうございます」彼はそう言いながら裕之に近付こうとしたが、その前に兵士が立ちふさがった。裕之はびくりと身体を振るわせる。まずい、この兵士は自分が人間ではない事に気づいている・・・
数歩後ずさりする。隼人のためにも自分のためにも、そして<忍一族>のためにもここで問題は起こしたくなかった。
そのような彼らの頭上に巨大な気配を感じたのはその時であった。
「ワズン・・・」思わず、その名を声に出す。
頭上高くに佇む人間の容をした魔物は、<魔王の片腕>とも称される魔物、ワズンであった。その存在に人間たちも、気がついたようだ。その巨大な存在感に思わず息を飲んでいる。
ワズンは裕之だけを見つめていた。
だが、その姿はすぐに掻き消える。そしてそれと同時にまた現れる様々な魔物。地中から、木々の間から、空から・・・十数匹の魔物が姿を現し彼らに襲い掛かる。
「王、かがんで下さい、危ないです!」誰かがそのような声をあげた。空から魔物が青年を狙っている。
魔物が大きな翼をたたみ、急降下をはじめた。腕を伸ばす。一直線に青年に向かっている。
裕之は走り、懐から小刀を取り出しそれを投げつけながら青年を抱え大きく前方に跳んだ。「失礼っ」小刀は魔物の喉を貫き、魔物は絶叫しながら地に落ちた。それを見たほかの魔物たちは、恐れをなして消えていった。
「ありがとう」青年が裕之の腕の中で言った。
「い、いえ・・・」微笑む青年の顔を見ながら、裕之は慌ててそう答える。その笑顔は穢れを知らない清らかなもののように思えた。
・・・と、裕之の肩に手が置かれた。その手には力がこもっていた。
「ガイア、やめてください。助けてくださったのに、何をするのですか」
「ですが・・・王、この者は」
そっと青年・・・王の身体を降ろすと、裕之は後ずさる。
「僕は、あなたとは相容れない存在だから・・・」
「そう、汚らわしい一族などに心を向けてはなりません」
「ですが、助けてくださったのですからきちんとお礼をしなければなりません」王はそう言って聞かない。
だが、ガイアと呼ばれた男は王を押さえその場にとどめようとする。そして他の兵士たちが裕之を取り囲んだ。
何故ですか、と王はガイアに詰め寄る。きっと彼はあまりにも清らかな世界に住んでいるから、外の世界の事が分からないのだろう・・・そう思いながら彼は俯いた。
ガイアは王に手を添えながら、数人の兵士を引き連れて無理やり彼を城の方に向かわせた。成る程、ガイアという男はなかなかの力を持った人物であるらしい。
「さて・・・どうしようか」残された裕之は周りを見回し腰に手をやりながら呟く。周りは敵のみ。ここで騒ぎを起こせばまずい状況になるであろう事は容易に想像できた。
魔物は去ったとはいえ、まだ嫌な空気が当たりに漂っている。それにワズンも現れた。まだここから去ってはいけない、まだ何かが起るだろう・・・そのような思いが裕之の心の底で湧き起こっていた。
・・・そうだったら、別に逃げなくてもいいか、どうせ信様が話をすぐに聞きつけてやってくるだろうし・・・。そう結論に達すると、彼は表情を緩めて、身体の力を抜いた。「大丈夫、別に噛み付いたりはしない」
鉄格子を挟んで向かい合う裕之とガイア。
「何故逃げなかった?」単刀直入に聞いてくる。
「まだ何かが起りそうだった。まだ、嫌な風は止んではいない」
「・・・やはり、そうか」腕を組み、唸るようにガイアは声を出した。「私もそれを感じている」
「でも何故魔物たちはここに来るのか。・・・その顔を見る限り、心当りはありそうだ」じっと相手の顔を見据えながら、裕之は少し意地悪っぽく聞いてみる。が、
「・・・全く無い、というわけではないがお前には関係のないことだ」
と、一蹴されてしまった。だがこれは予想していた事だ、別に何とも思わない。
代わりに、不思議に思ったことを尋ねる。一方的に質問されるだけでは面白くない。
「何故僕に会いに来たの? さっきはあれほど敵意をむき出しにしていたのに・・・」
すると、彼は何とも微妙な表情を浮かべた。うまく言葉に出来ないもどかしさを感じているような・・・
少し考えた後、彼は言った。
「私の持っていた<忍一族>のイメージとお前とが全く違う。彼らは我々に敵対する存在であって・・・」
「それは人間が僕たちに先に攻撃を仕掛けてきたからだ」言いよどむガイアに裕之は強く反発する。「元はといえばそちらが攻撃を仕掛けてきたから、僕たちは自分自身を守るために動いた。それだけだ」
その裕之の言葉にガイアは、彼の持っていた雄雄しく、自らに誇りを持ち、強い<忍一族>のイメージと同じものを感じ取った。こいつはただ優しいだけの青年ではないぞ、そう思った。
だがそれは顔に出さず、彼は、
「もしもの場合は、手伝って欲しい」
とだけ言うとくるりと踵を返して歩き出してしまった。
その背中に裕之は声をかける。「そうあっさりと信用していいの」
答えることなくガイアの姿は彼の目から消えていった。残された彼はくすりと笑いながらその場に腰を下ろした。眼を閉じ、大きく息を吐く。「あんな風に頭のやわらかい人間があっちにいれば、もしかしたら・・・」
それから二日が経った。その間、裕之はじっと身を潜め、その時を待っていた。
そしてその時はやってきた。眼を見開き、腰をあげる。
その眼には鋭い光が宿っていた。
王の周りを剣や槍を持ったきらびやかな衣服を纏った男たちが取り囲んでいた。
「何をなさるのですかっ・・・」焦りを帯びた彼の声が広間に響く。
だが男たちは何も答えず虚ろな目を彼に向けるのみであった。
彼の周りで彼を守ろうとしている兵士は手を出せずにいた。それはその男たちがつい先日まで高官を務めていたそれなりに力を持った人物たちであったからだ。下手に手を出せばうるさいことになるだろう・・・その思いが彼らを押しとどめる事に繋がっていた。
その中に飛び込んできた一羽の炎の鳥。火の粉を撒き散らしながら広間の天井を駆け抜けた。
同時に大きく高い扉が開かれ、大剣を握り締めた男が乱入してくる。
「ガイア!構うことはない!」王はそう叫び、周りの兵士たちにも同じ指示を出した。「切り捨てろ!」
そういいながら彼は向かってきた男の攻撃を避けながら、その剣を奪って振るった。彼の足元に火の鳥が舞い降りる。・・・とその鳥は、ぽんと音を立てて人間の姿に変わった。
現れたその姿、黒装束に身を包んだ長身の青年を見て王の顔が緩んだ。その青年、裕之は入り乱れる人々の間を縫って確実に敵の腹に拳を叩き込み、倒していった。
そして、全ての敵を倒したあと、懐から小刀を取り出すと、
「さっさと帰ればよかったのに」
呟きながら天井の中央、一番高いところを見上げた。天井にへばりつきながらこちらに目を向けていたのは前に裕之にぼろぼろにされたあの魔物であった。
「うるさい!」お前の所為でどれほどの恥をかいたと思うか、という感じで、彼は非常に怒っているようだった。
その魔物は叫ぶと身体を大きく震わせた。姿がゆっくりと変わっていく。人間のような姿から、ごつごつした黒っぽい肌で翼を持つ、大きな爪と鋭い歯が目立つ姿に変わった。これがこの魔物の本来の姿であった。
その魔物を見上げ、ガイアは憎憎しげに言う。「お前が職を奪われ王に反感を持ったこの方々をけしかけたのだろう」
宙に浮いていなければ今ここで叩き切ってやるのに、という思いが溢れているガイアの横で、裕之は今この王を取り囲む厄介な問題を理解し始めていた。
つまり、少し前に何かしらの人事異動があって何人かの有力者が権力の座から下ろされたのだろう、それを受け入れない有力者たちが何かしらの行動を起こす・・・それ幸いと魔物が手を出してきた・・・という状況なのだろう。
ガイアの希望を叶えようか、と裕之は印を組んで、それを解き放った。指から蜘蛛の糸のような細い糸のようなものが煌き伸びていく。それは幾度となく枝分かれをし、網の目のような体系を組み伸びてゆく。
邪魔だ、と腕を振るう魔物であったがその糸のようなものはすぐさま再び繋がり、魔物を絡みとっていく。
そして、それを思いっきりの力でもって引いた。どん、という音を立てて大きな魔物の身体が床に落ちた。それを見たガイアは駆け出す。大剣を振りかざし、斬りつけた。
魔物に絡めた糸のようなものを解き放ちながら裕之自身もガイアに駆け寄る。
もがき苦しむ魔物に屈みながら手を差し伸べる裕之。「・・・逃げるのならば早く逃げろ」
「・・・っ・・・誰がっ・・・逃げるかぁあ!」
長く鋭い爪を近付いた裕之の喉に突き刺そうと残された力を込めて腕をふるった。
だがその腕は彼の喉に触れる前に、ガイアによって斬りおとされた。そして寂しそうに顔を歪めた裕之が、その魔物の腹に掌を叩きつけた。
「全ての生きるものの憎しみの心が、再びお前を産み落とす事の無いように――」
呟くと、その魔物の肉体がさらさらと崩れ始めた。灰となって崩れていく魔物を見ながら、彼はさよなら、と心の中で続けた。
立ち上がった裕之の肩にガイアの手が置かれた。振り返ると、
「助かった」と、初めて笑顔を見せた。
王も彼らの元に寄ってきた。「ありがとうございます。これでこの者たちを処分できます」
だが裕之は顔を緩めてはいなかった。
「まだだ。・・・まだ、終わってはいない。・・・ワズン!」
その名を叫んだ。
「跪き、侘びろ。そして我らの主へ忠誠の言葉を言え」
彼らの前に突然現れたその魔物は、裕之にそう言い放った。
駆け出そうとするガイアを裕之が止めた。相手が悪すぎる。
「何故ここに・・・」
「お前を我らの主の下へ連れて行く」
そう言ってワズンは大きく両手をひろげた。
途端にあたりに満ち溢れる圧力。文字通りの重圧を感じ、その場に立っていた誰もがその場に倒れた。
その中で、裕之だけは何とかその場にとどまる。両手を膝にあて、何とか立っていようとしている。
「僕は・・・決めたんだ・・・僕は、自分の道を自分で切り開くんだ。だから僕は隼人様についていくことにしたんだ!」
そう言ってきっと目を見開き、裕之は駆けた。ワズンに向かって。
両手で印を組み、手を合わせてそれを開いた。それはワズンの放つ重力を押し返す、光の壁であった。
「隼人様・・・? 彼は、一体・・・?」
巨大な重力から開放されて立ち上がったガイアは思わず声に出した。
ぶつかり合うワズンと裕之の力であるが、ワズンの方がはるかに押していた。それを見た王が、動く。
指先に力を込める。炎が飛びだした。
小さな弱い炎であったが、それは一直線に飛びワズンの顔面を捉える。
「私は何も出来ない只の飾りではない!」
一瞬、ワズンの力が弱まった。それをみて、裕之が一気に押す。
彼の腕がワズンに迫った。
だが、それまでだった。再び強められたワズンの力に勝てる術は彼にはなかった。腕をつかまれ、その場に押し付けられる。
「王よ、何故この男を助ける?この男はお前たちの敵ではないのか?」
「失脚した私服を肥やす事しか考えない馬鹿どもが動く事は分かっていた。そのごたごたに魔物が絡んでくる事も可能性としては考えていた。だから十分の用意はしていたが、<忍一族>の力、利用出来るなら利用する。それだけだ」
その答えに、ワズンは成る程現実的な考えを持つ奴だ、と感心をし、裕之は内心で自分の事は道具としか考えていないのか、と落胆した。
「でも」
王は続ける。その顔には笑みが浮かんでいた。
「私は彼を見て、彼の友人になりたいな、と思ったんだ」
びくり、と裕之の身体が震えた。
ワズンは足元に転がるそのような裕之を見下ろし、それから王に目を戻した。
「山崎。侘びろ、そして我らの主への忠誠の言葉を言え」
そして、王を指差し、
「さもなくば、ここにいる人間が傷つく」
(このままお前を野放しにしておくと、必ず我らが主の前に立ちはだかるだろう。そのために今、危険の芽を摘まなければならない)
あえて強硬な姿勢をワズンは崩さない。彼は言ったこと間違いなく実行する、という事は聞いていた。
自分の事を認めてくれたこの王を、失ってはならない――その思いが、裕之の心を痛める。僕は隼人様について行きたいんだ・・・だけれども・・・
悔しかった。この状況を打開できる力がないことを、彼は悔やんだ。
・・・そして・・・
「僕は・・・アイレス様に歯向かったことを反省し・・・」
拳をぎゅっと握り締めながら、言う。ワズンが小さく頷いた。そう、それでいいんだ。
「これからは・・・アイレス様の忠実なる臣下として・・・」
「だめですっ・・・あなたは・・・!」叫びながら駆け出す王。
「仕える事を、誓い・・・」
「何を言っている、裕?」
扉が急に開き、よく知っている声が耳に届いた。
誰もがその声の方向へ顔を向ける。
ワズンが苦笑した。そしてすぐさま飛びずさる。
彼を追うように刀を持った人物は駆ける。刀を振り上げ、一気に振り下ろすが、その刀はワズンに届く事はなく、またそのワズン本人が姿をふっと消した。
彼はふう、と一つ吐息をついて刀を鞘に収めると、裕之を振り返って微笑んだ。
「一体どうして君はここにいるのかな?私たちはちゃんと謁見許可をもらって来たのだけれども・・・?」
「その・・・話せば長くなる事情があったんです。ですが、助かりました。ありがとうございます、隼人様」
床に腰を下ろしたまま、俯き、少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら裕之は言った。まだ少し今の状況を把握しきれていなかったが、助かった、ということだけは分かった。
そんな彼に手が差し伸べされる。その手は、王のものだった。
一瞬躊躇った後、その手を取り彼は立ち上がる。
「よかった、あなたが無事で」
ガイアも彼に近寄り、彼に微笑を向ける。
「そうそう、私はまだあなたの名前を聞いていなかったんです。私はカイム。この国を治める王。あなたは?」
「山崎裕之と申します。今までの数々のご無礼、申し訳ありません・・・」
「いいんです。こちらこそ、あなたに申し訳ないことをしてしまいました。お侘びしなければ」
「構いません」と首を横に振る裕之の肩に、隼人がそっと手を置いた。
「魔物が現れた、と聞いてきたが、裕が全部解決してくれたんだね」
その声は、裕之の心にこそばゆくって嬉しい感覚を与えた。
「隼人様・・・」
その手の上に自分の手を置き、背を隼人にあずけた。
「いつでも遊びにいらして下さい。お待ちしています」
裕之の手を取りカイムは微笑みながら言った。
「そして・・・よかったら、友達になって欲しい。僕は近い年の友達がいなくって・・・裕之くんがいてくれたら」
「僕でよければ、いつでも」
しっかりと、二人は手を握り合った。
「お帰り、二人とも」
「俺たちが待ちぼうけを喰らっている間に面白い事があったらしいな、ずるいぞ」
隼人と共に戻ってきた裕之を見やりながら信がぼやいた。どうやら、カイムに謁見する許可を得たのは隼人だけであり、信と潤は待っていたようだ。
にっこりと微笑を浮かべ、裕之は大きく頷いた。
「はいっ」
その表情は、彼らが今までに見たことがないような晴れやかなもので、いつもは何かと裕之にちょっかいを出す信がちょっかいをかけるのを躊躇ってしまうほどのものであった。
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