なぞなぞ


「あなたが泣くと彼が泣き、

 あなたが笑えば彼も笑う、

 彼は誰かとたずねれば、

 それを知るのはあなただけ。」




 彼女は歌うように言う。

 僕はそれが何を意味しているのか分からず、それを聞くといつも不安な気持ちになる。彼女がどこか別の場所に行ってしまうんじゃないかって。

 ……だが彼女はいつも笑って僕に「大好きだよ」と言うのだ。


 ──本当に?


 その言葉がいつも口まで出かかる……けれども何とか押しとどめる。彼女を疑いたくない。




 今日も彼女は歌うように言う。

 僕はそのことを忘れようと目を閉じて別のことを考える……

 ……と、耳元で彼女の声。

「キミはこれを聞くといつも嫌そうな顔をする」

 どきりとした。「してないよ」そう慌てて答えるが、

「私はキミの癖、分かるんだよ。何年の付き合いだと思ってるの?」

「……癖?」

「そ。嫌な時、いつもそう眉間にちょっとだけしわを寄せながら目を閉じるの」

「……そっか。君には何でもお見通しかぁー……」

「私がさ、何の事言ってるか分かる?」

 あの言葉の事か。「……分からない」

「それって拒絶してるから考えてないんでしょ」

 図星だ。

 返す言葉も無い俺に、彼女は笑いながら部屋の片隅を指差した。

 そこにあるのは……

「棚?」

「ぷっ……」僕のその答えに彼女は吹き出す。……僕は彼女の指し示したものを言ったはずなんだが……

「違うよ。その上、壁に掛かっている……」

「──鏡?」


 彼女は僕を鏡の前まで連れて行く。



「キミが笑えば彼も笑い──」

 僕が表情を変えると鏡に映る彼の表情も変わる。

「キミは誰かとたずねれば、それを知るのは」

「僕だけってこと?」

「そ。分かった?」



「分かったけどさ、鏡の中の僕を知っているのが僕だけってのは寂しいな。

……キミと一緒に、映っていたいよ」

おわり

200071120

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