海苔
「プレゼント、何がいいかな」
突然、姉が言った。
僕は一瞬何のことだか分からずきょとんとする。
…と、姉がいきなりこちらに目をやり、少し驚いたように、
「…聞いた…のね」
強張った表情で呟いた。
僕はちょっと身を引きながら、頷く。
「…聞いていい?いつの間に入ってきたの?」
そう、僕は今さっき、ここ、リビングに入ってきたばかり。
そんな矢先に僕は姉のその言葉を聞いてしまった。
僕がなんて言い訳をしようかと考えている内に、彼女は「まあいい」といった感じで僕への質問を変えた。
「一緒に考えなさい」
「…え…でも僕、姉さんの彼氏のこと知らないよ」
「……」
少し口ごもってから彼女は言う。
「じゃあ、あなたが女性からプレゼントもらうとしたら何がいい?」
難しい質問に僕は顔をしかめる。
僕は女性からプレゼントなどもらったことがないし、想像もしたことがない
。 うーん、と僕が考えている横で、彼女は「まだ?」という感じで視線を送ってくる。
そうだなあ…
僕の頭の中に浮かんだものは…
「海苔」
「は?」
姉はそれを聞いて固まった。
「い、いや、ほら、確か昨日海苔が全部無くなっちゃったじゃない…」
僕がどぎまぎしながらそう付け加えると、彼女は大きな溜め息をついた。
「あなたに聞いた私が馬鹿だった…」
そう呟きながら彼女はリビングを出ようとして、 ふと立ち止まり、くるりとこちらを向く。
そしてびしり、と僕に向けて人差し指を立てると、
「このことは他言無用」
とだけ言うと、ばたりと扉を閉めて行ってしまった。
「…」
僕はすぐに目線を冷蔵庫に向ける。
中を開き、がさごそ。お菓子を発見し、こっそりぱくりと食べる。
それから、台所の戸を開き、がさごそ。
「ほら、どこにも海苔無いじゃないか」
翌日、夜。
僕が自室でぼーっとしていると、突然扉がばたーん、と大きな音を立てて開かれた。
何なんだ、とそちらを向く僕。
その先には…姉がいた。
「…」
そういえば、今日の朝、彼女は着飾っていた。
きっと、彼氏と会ったのだろう。
しかし、彼女の表情は…
「ど、どうしたの…?」
嫌な予感を感じつつ、おずおずと僕は尋ねた。
「…あの人、私にこんなのくれた」
そう言いながら彼女は僕に袋を投げ付けてくる。
それを開くと、中には…
「…海苔…」
そう、袋詰めされた海苔が入っていた。
「…実家、海苔養殖してるんだって」
「……えと……」
反応に困る僕。
すると突然彼女は声を大きくして、
「そしてこんなに綺麗なネックレスくれた〜んだ〜♪」
そう言いながら僕に首から提げられているネックレスを見せびらかす彼女。
そして、足取り軽やかに自分の部屋へと行ってしまった。
海苔を残して。
「これ、どうすればいいの、姉さん…?」
終われ!
(20051227)