考えては、ならない




それを見ると人は死ぬという




千博はこの町に引っ越して来たばかり、住んでいた都会の事が忘れられずにいつも寂しそうにひとりぼっちな男の子。

そんな彼をクラスメイトは最初は物珍しそうに見ていたけれども、少し経てばそれも終わり、今では彼を一応は仲間に加えている。



ある日、一人の男の子が言った。



「この町にはな、凄いものが住んでいるんだ。それは見た奴を殺す、すっげえお化けだ。千博、気をつけろよ」



その言葉に回りの男の子が大きく頷いた。

その顔はどれも真剣そのもの。聞いた時はすぐさま嘘だろう、と思っていたものの、千博は皆の空気に驚き、大きく頷いたのであった。

しかしそのお化けはどういうものであるのだろうか、彼の心の中にはその疑問がすぐに浮かんだ。

彼はその日の学校からの帰り道、その子とばかり考えた。

でも、考えても分かる筈は無いし、それ以来だれもその事を口にしなかったので、彼はあれは嘘だった、と思い始めた。

そして、それと同時に彼は物語を作り始めた。



それは、一人の美しい少女の物語。



少女が産まれたのは昔、百年以上前のことだった。

彼女はとても美しく、見る者全てを魅了した。

その噂は広まり、近くの大きな町の大きな商家が動く。

少女の両親は最早体が弱く、ろくに仕事もできなくなっていた。

そこに願ってもない縁談、少女も両親を思ってそれを承諾する。

やがて少女は娘となり、商家へと嫁いだ。

彼女の美しさはすぐに評判となり、その評判はさらに広まっていった。



平和な日々はしかし僅か数年で脆くも滅びる。

豊かな商家に押し入る盗賊。

彼らは家の財産と共に彼女をさらって行く。



火をつけられ燃え盛る我が家を見て、彼女は泣いた。

それ以来、彼女は狂ってしまう。

彼女は叫びながら盗賊の下から逃げ出すと、大好きな故郷へと戻る。

しかしそこには最早彼女の居場所は無く、彼女は山へと消えていった。





それ以来だれも彼女の姿を見ない。

人々は言う。

彼女は今もこの山に住んでいて、恨みを晴らそうとしてお化けになって生きている、と…





彼の物語が完成したのはある日の学校からの帰り道。

自分の物語の出来に満足した彼は上機嫌だった。

いつものように学校近くの住宅街を通り抜け、山の入口の神社の前を通り我が家へ向かおうとする。



その時、彼は神社の脇に見たことのない道を見た。

「あれ…?ここにこんな道が…」

彼は立ち止まりその道をみる。

学校が終わってすぐに帰って来ているからまだおやつ前。これなら夕飯には間に 合う。

そして彼は一歩を踏み出した。

やはり見たことのない道。彼は足下に注意しながら進んだ。

十分くらい進んだ時だろうか、彼の目の前に家が現れた。

小さな一軒の家。

木造で、人気はない。

大きく息を吸う、そして彼は木戸に手をかけた。



「いらっしゃい」



その時、中から声が聞こえた。

一瞬、手を止めてから、彼は戸をガラッと開いた。

その先にいたのは美しい女性。

それは彼が考えていた少女の物語の中の娘そのものであった。



「はじめまして」

微かな声。しかしその女性の声は透き通っていてきれいだった。

戸を閉めて、彼は彼女に近付いて行く。

「あなたは…」

彼女はほほ笑んだ。

「私は貴方が考える物語の娘。

私は恨みを晴らしたい娘。

でも彼らはもういない。

それでは私はどうすればいいの?

私が消えるためにはどうしたらいいの?

答えは簡単。

物語を作った貴方がいなくなるばいいのよ」


そう言いながら彼女は彼の腕を掴んだ。

「やめろよっ…何なんだよそれッ…俺はただ見た奴を殺すお化けの話を聞いただけ…」

彼がそう言う最中にも彼女は彼に近付いてくる。

彼女はやはりほほ笑んでいた。

「そう、私は見た者を殺すお化け。

私の出て来る物語を作った人をここに誘って、殺すの。

さあ、私と一緒に行きましょう…」

彼は彼女に押し倒され、彼女は彼の首に手をかける。

やがて彼は消え、彼女も姿を消した。

その日以来、彼の姿を見た者はいない。




だって私の姿をみてしまったから

さあいらっしゃい

私がこの世からあなたを消してあげるから







(20051218)

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