その先には、

山を登り、目の前が開けた。

その先にあったのは、別の世界だった。



うさぎは喋り、犬はなぜか2足歩行。

猫は犬よりも大きく、リスは猫の背に乗っている。

突然声がした。

「こんにちは、人間」

「こ…、こんにちは、うさぎさん」

なんで人間、と呼び捨ててくるんだよ。そう思わず言いたくなるが、おさえる。落ち着け、自分。

「人間が来るなんて珍しいな。捕獲するかな」

はぁ?何言ってるんだこのうさぎ。そうこう思っているうちにそのうさぎは何処からともなくナイフを取り出した。

…ちょっと待ってくれ!本気で焦る。

「ははは、冗談だよ人間。いつも人間がやっている事を真似しただけだ」

そう言って、うさぎはまた笑う。…シャレになってないよ。まだ冷や汗がでている。

「あのー…ここは何処ですか?」

最初から疑問に思っていたことを聞いてみる。怖いので割と丁寧に聞いてみた。

するとうさぎは、

「ここは何処だと言われても分からない。気付いたらここにいたんだからな。…おい人間、人間は頭がいいんだろ、考えて教えろ」

ただそう答えるのみだ。

「そもそもお前はどうやって来たんだよ」

「…ええと…気付いたらここにいた」

「なんだ、じゃあお前も仲間か、人間」

っていうか何でそんなに馴々しいんだ、こいつ。それよりもどうしたら戻れるんだ。

なぜここに来たかよりもどうしたら帰られるかを考えた方がいい気がするな。よし、まずは辺りを見てみよう。

きょろきょろ。

辺りは一面草原だ。近くに川が流れ、遠くに森や山が見える。雲は少し見られるが、だいたい青空だ。

…って待て。今さっき頂上に着いた筈だぞ。頂上は何処に行ったんだ?

「訳がわからない!」

そう叫ぶしかなかった。本当にここはどうなっているんだ?だがうさぎは冷たかった。

「人間だけでなくこっちも訳が分かっていないんだよ。一緒に考えるぞ、これから」





  ニュースが流れた。

  本日午後一時頃、〜山の頂上付近の崖から男性が転落しました。

  崖の下に男性のものと見られる荷物がありましたが男性は行方不明です。

  今地元の警察と消防が捜索活動を続けています。





「皆帰られない。最初は変化に驚いていたけれど、すぐに慣れた。人間もすぐに慣れる、まあ気長に謎を解いていこう」

「これってさ、鰻とか泥鰌とかを取る罠みたいなものかな。入れるけど出られないってもの」

「そんな罠のことは知らないが、入れるけど出られない、は今のところ正解だな、人間」

どうせ戻っても面白いことはないんだ、生きがいなんて持っていないし。きっとこっちの方が面白いよ。そう自分に言い聞かせて、さっきからずっとうさぎに言いたかったことを口にした。




「僕、人間って呼ばれるより景って名前で呼んでもらいたいな」



20060827
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