天使
僕は人に不幸を与える。
行っておくが、僕は神でも悪魔でもない。僕は天使だ。
それにも関らず、僕は人に不幸を与えてしまう。
「お前、悪魔じゃないの?」よくそう笑われる。
・・・僕の両親は立派な天使だ。僕は小さい頃から天使の教育を受けてきた。
・・・でも。僕は立派な天使にはなれそうにもない。
ふわり、誰も見ていないところに僕は降り立った。
ここは人間界。僕の仕事場所だ。
ビルの陰から僕は道へと出る。
そして、街に溢れるサラリーマンの姿をした僕は、街を歩き始めた。
・・・向こうから一人の男性がやってくる。
僕はその人物を凝視した。
その瞬間、その男は何もない通りの上ですっ転んだ。
どしん、と大きな音がした。
男は強く尻を打ち付けてしまったらしく、腰をさすって痛そうに立ち上がった。
・・・はぁ、僕は男に見られないようにこっそりとため息をつく。またやってしまった。
どうしても、僕は人に不幸を与えてしまう。
思い返して見ると、この前肩をぶつけてしまった女性はその場に座り込んでしまった。貧血を起こしてしまったらしい。
僕の目の前を通り過ぎた少年は鼻血を出し、少女は蜂に刺され病院に運ばれた。
このような僕の無様な姿を見て友人たちは苦笑する。
「がんばれよ」「この次は大丈夫さ」なんて僕の肩を叩きながら言う。
その度に僕は肩を落とす。
知っているんだ、彼らが影で僕の事をなんて言っているのかを。
・・・僕のお陰でどれだけミスっても目立たない、皆、足手まといの奴ばかり見ている・・・ってね。
だけれども、神様はそんな僕をやさしく慰めてくれる。
その言葉には皮肉も哀れみもない。・・・ありがたかった。
僕を見捨てることなく地上に遣わしてくださる敬愛する神様のために、僕は何とか人に幸福を与えようとする・・・
・・・けれども・・・
僕はその日もまた失敗をして、とぼとぼと肩を落としながら家に帰った。
誰にも見られないように、夜遅くに僕は帰ってくる。
もう嫌だ、そう思いながらベッドに倒れこむ。
・・・その時、ドアを叩く音がした。
こんな夜遅くに何なんだ、少し不機嫌になりながら僕はドアを開いた。
そこに立っていたのは・・・
「神様・・・」
思わず、僕は声をあげてしまった。
そう、そこに立っていたのは神様であったのだ。
神様は、「ちょっといいかな」と言う。勿論僕は頷いて、何もない部屋に神様を招き入れる。
・・・一体何があったのか。嫌な予感がする。もしかして、僕の事を叱りに来たのだろうか、それとも・・・
扉を後ろ手で閉め、二人きりになる。
そして神様は仰った。
「・・・君の力は、」
やっぱり僕の事だ。今度こそ怒られる・・・
「すばらしいよ」
「・・・・・・・・・・え?」
思わず僕は素っ頓狂な声をあげてしまった。
何を言っているんだ、と思わず口走りそうになる。
「君は不幸を与えた、と思い続けているようだけれどもね、長い目で見ればその不幸は不幸ではないのだよ」
「・・・と、いうと・・・?」
「すぐ先か、何年も先かは人それぞれだけれども、君が関った人は皆、幸福になる」
僕は驚いた。
「君はその場で逃げてしまうから分からないんだ。そのあと、君の関った人がどうなったか、知らないだろう」
はい、と俯きながら僕は答える。・・・そうだ。僕は逃げていた。
神様は僕の肩に手をやり、
「君はすばらしい天使だ。何も人の目を気にする事はないんだよ」
言うと、立ち上がって帰っていってしまった。
・・・僕は、暫く呆然としていた。
暫くしてから、僕は大きく息をついた。
・・・そうなのか・・・
自分でも口元に笑みが浮かんでくるのが分かった。
何を恐がっていたんだ。
自分には自信がなかっただけなんだ。
大丈夫。
僕はやっていける。
昨日出あった人の元にまた行ってみよう。
・・・明日が楽しみだ。
20060618
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