矢
「まったく、君は一体何をしているのかい?」
彼は言う。
言われた相手、彼女はつまらなさそうに一瞬眉をひそめ、
「なにもやっていないわよ」
ぶっきらぼうに、そう返した。
彼はそれを見て、少しムッとする。
なんだ、その態度は、と言いたげな様子である。
そのような空気が分かったのか、彼女の表情はますます険しくなる。
二人は互いに顔を見合わせながらにらみ合う。
まさに一触即発、といえる雰囲気であった。
「あーあ」 少年は肩を落とし、溜め息をついた。
手に持つ弓に目を落とし、また大きな溜め息をつく。
また失敗してしまった、これで何度目だろうか…
彼はがっくりと肩を落とし、その場にしゃがんだ。
彼は天使。愛の矢でもって恋を成就させる存在である。
だが彼はまだ修行途中であった。
何度矢を放ってもうまくいかない。
友人には笑われ、年下には追い抜かれて行く…
そして今日もこの様である。
「なんで僕は天使になったんだろ」
そのような弱気な言葉が口から零れてくる。
もう、泣きたかった。
そして、逃げ出したかった。
天使でも、失敗はあります。
恋が実らなかったから、といって全て天使のせいにしてはなりません。
天使だって、悩んでいるのですから。
…了…