ちーちゃんとぼく
じりじりじりじり・・・
太陽の光が地面にそそぐ。
夏。
明日から夏休み。
ちーちゃんとぼくは小学校のジャングルジムの上にいる。
夕日が、まぶしいね。
そろそろ帰ろうか。
そんな話をした。
そして、
「ちーちゃん」
ぼくはそう呼びかけた。
「こーくん?」
ちーちゃんはぼくの方にふりむく。
その唇に、ぼくはキスした。
ちーちゃんとぼくは幼なじみだった。
ずっと、これからも、一緒にいるんだ。
ちーちゃんは顔を真っ赤にした。
ぼくの胸もどきどき、と高鳴る。
「こーくん」
そうぼくの名前を呼ぶと、ちーちゃんは顔を歪めた。
そして、ジャングルジムの上から降りると、走り去ってしまった。
__悪いことなの、キスって?
ぼくは半ば呆然としながらちーちゃんの後姿を見送った。
校庭には、ぼく、ひとり。
誰にも言えない。
ちーちゃんにキスした、なんて。
夏休みに入ったけれど、ぼくの心は沈んでいた。
ちーちゃんのところに行けなくなってしまった。
なんて言えばいいのかな、どうすればいいのかな・・・
分からないよ・・・
ぼくの心の中に漠然とした不安がおこっていた。
時が過ぎるのは早いもの。
もう、夏休みが終わってしまう。
皆はもっと遊びたい、って言って夏休みの終わりを悲しんでいる。
でもぼくは、どうすればいいのか分からなくって、夏休みの終わりを悲しむ。
でも、ちーちゃんに会えば大丈夫って思ってる。
ちーちゃんは賢いから、きっとぼくのこと分かってくれる。
そう信じていた。
でもちーちゃんは学校には来なかった。
ぼくの隣のちーちゃんの席は、なくなっていた。
転校したんだって。
ぼくがちーちゃんにキスした日に。
あの日、ちーちゃんはぼくにお別れをしようと思っていたんだね。
ちーちゃん、ごめんね。
ちーちゃん、ごめんね・・・
なんで涙が止まらないんだろう。
どうしたの、って皆がぼくに尋ねてくる。
でも、誰にも言えない。
ちーちゃんにキスした、なんて。
<了>
(20050916)