夢のつづき
あれ。
私は内心で声を上げる。
電車の中、私が乗って数駅たった頃、ある女性が乗ってきた。
…その人を、私は知っている…ような気がした。
何年前だろう。
中学受験の塾で仲良くなった女の子がいた。
その女性は、あの女の子…のような気がした。
もちろん他人の空似かもしれないし、彼女であるとしても、彼女が私の事を覚えている保証もない。
でも、彼女だったらいいな、って私は思った。
それと同時に、私はあの頃のこそばゆい感情を思い出していた。
初めて彼女に出会ったのは私が小学校五年生だった冬。
中学受験に向けての勉強をはじめるには少し遅い始動であった。
その塾は小さくて、生徒はひと学年十人弱という規模であった。男女比は同じくらい、だから皆仲良く、休み時間には笑いが絶えなかった。
私達は皆、仲良しだった。
仲良しだった。
でも、本当は、少し違った。
私はひとりの女の子の事が気になって仕方がなかった。
今思えば、好き、とは少し違った、何とも言えない感情だった。
少し恥ずかしくって、気持ちよくって、でもなんだかこそばゆいような…うまく口では説明できない不思議な感覚だった。
でも受験が終われば皆別々の学校へ行くようになった。
元々同じ塾に通っているけれども小学校は違ったので、彼女とは塾で会ったきり、それ以降は会ってはいない。
もう何年も。
…もう、私の中で彼女は過去の友人、というものでしかなかった。
今目の端にいる女性は本当に彼女なのだろうか?
そう考えるだけで私の胸はわくわくする。
ああ、私に少しだけ勇気があれば。そう、強く思った。でももし違ったら、と思うと何もできない。
…そうこうするうちに、私は目的の駅に着いてしまった。
私はなんとも惨めな、そしてくやしい気分になりながら電車を降りた。振り向くことなく歩き出す。
発車ベルが鳴り、ドアが閉まる音がする。私は階段に向かってあるいている。
…と、肩が叩かれた。
振り返ると、そこには…彼女がいた。私は驚きのばかりその場で立ち尽くした。
彼女は少し頬を赤らめながら、言った。
「あの…もしかして、あなたは…」
20060908
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