再会の詠唱(アリア)
奇跡から約2ヶ月。
何人かの少女が笑顔を取り戻してから2ヶ月。
季節は春になった(しかし、ここはまだ雪が降る可能性があるので油断は出来ない)。
今日は始業式、祐一たちは今日から3年生である。
ちなみに、あゆと真琴は1年生、栞は2年生。舞と佐祐理は大学生になった。
「祐一、同じクラスだよっ。香里も同じ」
隣でクラス表を見ていた名雪が嬉しそうに言う。
ちなみに、こいつは『春になると寝起きがよくなる』という謎な体質なので、今朝は余裕を持って登校できた。
「そっか」
俺は特に嬉しいということは無かったが一応同意しておく。
「でも、北川くんは離れちゃったよ」
北川、可哀相に。あとで17秒間だけ冥福を祈ってやろう(死んでないけど)。
「まあ、そういうこともあるだろ。さて、そろそろ教室に行くぞ」
「うん、そうだね」
そして俺と名雪は教室に行く。
教室にいって適当な席(祐一は窓際の一番後ろ、名雪はその前)に荷物を置いて体育館に向かう。
当然、始業式に出席するためだ。
始業式なんて退屈だ、と思っていたら校長の話が意外に面白かった。
むう、こういう校長もいるのか……。
始業式が終わって、現在教室で担任待ち。
名雪の隣の席は香里で、俺の隣はなぜかひとつだけ空席だった。欠席だろうか?
ちなみに、今日は授業は無い。……それでいいのか、進学校。
とりあえずやることも無いので机に伏せる。と、担任が入ってきた。
「どうも。今年担任の近藤だ。一年間よろしくな」
どうやら、今年の担任は石橋ではないようだ。
「とりあえず、特に言うことは無い。今更言わなくても解っているだろうしな」
……それでいいのか、高校教師。
「だが、転校生が来たぞ。ちなみに女性、ついでに美人だ」
途端、男子生徒が騒ぎ出す。……五月蠅い。
「静かにしろ。それでは、入って」
ドアの開く音がする。そして、足音。
お塩とが泊まったとき男子生徒がさらに騒ぎ出す。どうやら本当に美人だったようだ。
「自己紹介、いってくれ」
担任が転校生に自己紹介を促す。
「柚木さやかです。趣味は……」
「柚木さやか!?」
転校生の声と名前を聴いた瞬間、俺は思わず立ち上がりながらそう言っていた。
そして、その時点で今まで未確認だった転校生の姿を確認する。
それは、間違いなく俺の知っている柚木さやかで、紅茶色の長い髪も鳶色の瞳も端整な顔立ちも変わっていなかった。
別れてから2年経っているのでその分しっかり成長はしていたけど。
「さやか……」
久し振りに再会した相手の名前を呟く俺。
「祐一!」
「って、さやか、ちょっとま……」
俺が制止の言葉をかける寸前に俺に駆け寄ってきて思いっきり抱きついてくるさやか。
そして、思わず抱き返す俺。
ちなみに、この瞬間今教室にいるということは俺の頭から抜けていった。
「祐一、久し振りだね」
「ああ。久し振りだな」
抱き合ったままそんな話をする俺とさやか。
「なんだ、相沢の知り合いか」
その声で我にかえる俺。それでも、抱き合った手は離さないけど。
「はい、そうです」
「それなら学校を案内してやってくれ。柚木の席は空いていた相沢の隣だ。では、本日はこれで解散」
言って教室から出て行く先生。……さっきも思ったけど、それでいいのか高校教師。
「さて、さやか。そういうわけで学校を案内するから一旦離れてくれないか」
「うん、仕方ないよね」
名残惜しそうに離れるさやか。
「じゃ、いくか」
「うん」
さやかをつれて学校の案内に行こうとした……ら、クラスの連中に囲まれていた。
「……一体俺が何をしたというのだ?」
思わず呟いてしまった。
「祐一〜、その子は一体誰なんだお〜」
「相沢君、説明してもらえるかしら?」
先頭に立っていた名雪と香里が言う。
……なんか、殺気を感じるのですが。
「あ、そういえば自己紹介してなかったね」
そんな雰囲気も何処吹く風、マイペースにさやかが言う。
まあ、確かにやってなかったけど。と言うか、俺が止めたんだが。
「じゃ、自己紹介言っておきますか」
名雪と香里が何か言おうとしたけど、その前にさやかが話し始める。
「名前はさっきも言ったけど柚木さやか。
好きなことは歌うこと。煙草を吸う人が少し苦手。一応理系。
一年間という短い間ですが、よろしくお願いします」
ごく普通の自己紹介だ。さやかのことだからもっと面白くするかとも思ったが。
……でも、俺も自己紹介は普通だったか。
「それで、相沢君と柚木さんはどんな関係なの?」
「祐一、キリキリ吐くんだお〜」
さやかの自己紹介の直後、殺気込みで問い詰めてくる香里と名雪。
「どういう関係って……元彼女……だな」
「……そうだね、祐一はモトカレになるんだね」
言いながら少し暗い顔になる俺たち。
「さて、他に質問はあるか?」
「今から祐一に学校案内してもらうんだから、細かい質問はまた今度ね」
気分を変えて言ってみたが、ちょっと無理しているっぽかった。
だからかどうかは知らないけど、クラスメイトからは特に質問が無かった。
「よし。さやか、行くぞ」
「うん、了解」
そして、俺はさやかの学校案内に出発した。
学校案内自体は特に何かがあるわけでもなく終わった。
音楽好きのさやかが音楽室の設備を見て喜んでいたくらいだ。
一通り案内し終わった後、俺とさやかは屋上にきていた。
「風が気持ちいいね」
「そうだな。今日はいい風が吹いてるな」
それから暫くお互い無言になる。
そのとき俺はさやかに出逢ったときのことを思い出していた。
俺がさやかと出逢ったのは中学の卒業旅行のとき。
同じツアーでお互い一人旅だった俺とさやかは、(旅行会社の都合もあって)一緒に行動する機会が多かった。
俺たちはすぐに意気投合した。
ずっと一緒にいるうちにさやかのことを好きになってしまい、衝動的に告白。
多少ゴタゴタはあったけど、最終日だけは恋人同士として過ごした。
しかし、お互い高校入学前。遠距離恋愛の事は考えず、住所も電話番号も訊かずに別れた。
(別れた後かなり後悔したのは本当の話)
もう逢えないと思っていても、俺はさやかのことを2年間ずっと忘れられなかった。
だから、当然さっき再会できたときは嬉しかった。
……さやかのほうはどう思っているのか解らないけど。
「……ねえ、祐一」
どれだけの時間そうしていたか、不意にさやかが話し掛けてきた。
「どうした?」
「……祐一は、まだあのリング持ってる?」
と、そんなことを訊かれた。
リング……旅行の途中で買ったペアリング。
ペアリングらしく2つ合わせると『Destiny』なんて文字が読めたりする。
それを俺たちはお互いのものを交換して持って帰った。
恋人ができたら捨ててもらう、とか決めたけど、今思うと不可能だったかもしれない。
「ああ、持ってるよ」
さやかのことを忘れられなかった俺が持っていないはずが無かった。
「そう……なんだ……」
「……さやかは?」
「えっ?」
「さやかは、まだ持ってるのか?」
「……うん、まだ持ってるよ」
「そっか……」
また二人とも無言になる。
「なあ」「あの」
……同時だった。
「どうした、さやか?」
「……祐一から言ってよ」
このまま続けると埒があかなさそうだった。
「仕方ない。ここはジャンケンで決めますか」
「OK。勝ったほうが先に言うんだよ」
「「ジャンケンぽん」」
俺グー、さやかパー。さやかの勝ち。
「うー……。仕方ないか、ちょっと待ってね」
さやかは暫く躊躇ったが、決心したように話し出した。
「祐一は、まだあのリング持ってるんだよね」
「ああ」
「……祐一は今は彼女いないの?」
「いないよ。今と言うか、ずっとフリーだけどな」
さやかとの一日だけは例外だけど。
「じゃあ……わたし、また、祐一の彼女になってもいーですか!?」
「いいに決まってんだろ!」
言いながら思いっきりさやかを抱き締める。
そして、そのままさやかと短いキスを交わす。
「もう……絶対放さないからな……」
「うん。二度と離さないでね……」
言って、俺とさやかはもう一度、今度は長いキスを交わした。
作者(以下作)「管理人初のオリキャラヒロインSS、『再会の詠唱(アリア)』でした」
衛「後書きアシスタントの衛です。読んでいただいてありがとうございました」
作「ありがとうございました」
衛「ところで、タイトルはどういう意味なの?」
作「あまり意味は無いです。ただ、音楽関係をタイトルにつけたくて、アリアが一番ピッタリだったから」
衛「ふ〜ん。じゃあ、オリキャラさんはどういう人なの?」
作「『明るくて、マイペースで、歌(音楽)が好き』というのを前提に考えたキャラ」
衛「成功しているかは微妙なところだね」
作「言わないで……。ちなみに、ONEの柚木詩子の従妹という設定があります」
衛「そうなの?」
作「そう。ヒロインのイメージの半分以上は詩子さんだし」
衛「似たもの従姉妹にしたんだね」
作「そういうことで。ちょっとだけ詳しいプロフィールは下に書いておきます」
衛「参考にしてください」
作「それでは、後書きという名のフォローコーナーはこの辺で」
衛「読むのにかかった時間分くらいは楽しんでいただければ幸いです」
作「それでは、また次のSSで会いましょう」
柚木 さやか(Yuzuki Sayaka)
3月13日生まれ B型rh- 身長157cm スリーサイズ83/55/80
好きなもの:歌や音楽、レモンティー
嫌いなもの:タバコを吸う人が苦手
イメージCV:鳥居花音(ちょっと嘘
容姿端麗。紅茶色の長い髪が特徴。
歌うことが好き。歌唱力はかなりのもの。
性格はかなりマイペース。
柚木詩子の従妹。茜とも面識がある。
(2003年4月25日掲載)
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