恋心
晴れた日の放課後、音夢は屋上で歌を歌っていた。途中までは順調に歌っていたのだが、
「『大好きなこの気持ちも いつか変わる日が来るの？ 何かの本で読んだよ
だけど信じたくはないよ』」
と、そこまで歌ったところで、音夢は不意に歌うのを止めてしまう。
「あれ？ どうして止めちゃうの？」
不意に歌うのを止めた音夢に、何時の間にか屋上にきていたことりが声をかける。
「え？ あ、白河さん……」
そこの言葉に、ことりは少し頬を膨らませながら言う。
「だから、違うよ」
「え、な、何がですか？」
ことりの思わぬ反応に少し慌てる音夢。
「憶えてないの？ 『白河』じゃなくて、『ことり』って呼んでいいって言いましたよ」
「あ、ごめんなさい。まだ慣れてなくて、つい」
この二人、自他共に認める親友同士になったのだが、音夢のほうはどうやらまだ慣れてないらしい。
「それで、し……ことりはいつここに来たんですか？」
「『伝えられなくて過ごした季節も』の辺りを歌ってるときだよ」
「それなら声をかけてくれればよかったのに」
やや憮然としながら言う音夢。
「でも、せっかく歌ってるのを邪魔する事は無いと思ったから。それに、上手だったし」
ことりのその言葉に音夢は顔を真赤にしながら言った。
「そんなこと無いですよ。それに、ことりの方が上手です」
「あはは、褒めてくれてありがとう。ねえ、今度一緒に歌わない？」
「……考えておきます」
顔を真赤にしたまま小声で答える音夢。
「今の、yozucaさんの『ダ・カーポ 〜第２ボタンの誓い〜』だよね」
「はい、そうです」
「いい歌だと思うけど、この歌嫌い？」
「そ、そんなことないですよ」
ことりの質問に少しあわてて答える音夢。
「じゃあ、もう一回訊くけど、どうして途中で歌うのを止めちゃったの？」
「……この歌詞を聴くと、どうしても不安になるんです」
「不安？ 自分の気持ちと重なっちゃった？」
「そうです。今の私の気持ちも変わるのかな、とか気になり始めると止まらなくなって……」
話しながらだんだん俯きがちになる音夢。
「そっか……」
「歌の主人公は迷わなかったみたいですが、私は迷ってしまって……」
「考えてるとだんだん不安になっていったんだね」
「はい。歌ってみても晴れないんです」
その言葉に、ことりはそうなの、と言って暫く考えているようだった。
「ねえ、音夢。恋愛経験の無い私でもいいならアドバイスでいいなら、聴く？」
「……お願いします」
暫く考えたが、ことりの言葉を聞くことにする音夢。
そして、ことりが話し始める。
「変わらないものが無いなら、確かめ合えばいいんじゃないかな？」
「確かめ合う……」
ことりの言葉を確認するように繰り返す音夢。
「そう。不安にならないひとつの方法にはなるよ。それに……」
そこでことりは一旦言葉を止めた。
単に続きを言うのに照れが入っただけだが。
「それに？」
「それに、永遠の愛……永遠に変わらないなんてつまらないと思うよ」
「つまらない？」
音夢が首をかしげる。
「うん。せっかく好きになったんだから、前よりももっともっと好きになりたいよね」
「もっと好きになる……」
「そう。それも、変わるってことだと思うよ」
「……そうですね。確かに、いいほうに変わることもありますね」
そう言った音夢の顔は綺麗な笑顔だった。
「どう？ 私の言葉、役に立ったかな？」
「はい。色々ありがとうございました。おかげでスッキリしました」
「どういたしまして。私でいいならいつでも相談していいよ」
「はい。では、風紀委員のお仕事があるのでそろそろ行きますね」
そう言って、出入口に向かう音夢。
「音夢、素敵な恋ほど障害も多いものだけど、頑張ってね」
「はい、頑張ります」
最後にそう答えて出入口から校舎に入っていく音夢。
音夢が行った後、屋上で一人になることり。
「あーあ。私も、恋人さんが欲しいなー」
そう言いながら空を見上げる。
「特別格好良くなくても、頭脳明晰でなくてもいいから、優しくて私だけを見てくれる人、何処かにいないかなー」
ことりが呟いた言葉は、何処までも青く澄んだ空に吸い込まれていった。
恋心でした。
今回はSSが短いので後書きに衛の出番は無し。下手すると本編より長くなりそうだし。
今回は初のサーカス系SSです。
出来れば「音夢は歌が上手なのだろうか？」とか「この二人はどうやって親友になったのだろうか？」とか
「音夢が不安になったりするだろうか？」などは気にしないでいただけるとありがたいです。
最初は確か音夢と純一で書く予定だったのに、何時の間にか音夢とことりになっていたのは多分作者の声優の趣味でしょう。
しかし、この２人の話方ってかなり難しい……。
実は、このSSは作者が初めてクロスオーバーせずに書いたSSだったりします。
……科白は引用が多い気がしますが、気にしてはいけません。
それでは、この辺で。
読むのにかかった時間分くらいは楽しんでくれれば幸いです……。
（2003年１月21日掲載）
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