*Attention   少年を攻めることに抵抗はありませんか?






























   今日が過ぎて今日が来る






 裸の足が夜風に冷たい。おれはじりじり躊躇っていた。ぺたぺた歩きながら思うことでもないけど、こうやって歩くことを。

 主が許可しない限り人が訪ねることはない。夜這いする人を除けば、特にこの時間なんかは絶対に。それはここでの暗黙のルールといってもいいだろう。で、夜這いしてまで人間関係を崩壊したい人なんてここにはいないから、実質安全といったらものすごく安全な部屋。
 その保障された安全さゆえに向かっている、沖田さんの自室。

「うー……

 呼ばれたからといって向かってしまう自分に踏ん切りがつかない。
 この時間、ここに来るのは今日が初めてのことじゃない。だからこそ、想像が先走ってしまう。
 これではまるで、自ら望んでいるように、思えてしまう。錯覚してしまう。
 おれは沖田さんに呼ばれたから来ただけ。仕方なく来ただけ。

……っ」

 自分で自分を騙している背徳感に胸がきつくなる。
 ぺた。立ち止まってごくりと唾を飲み込んで、数回深呼吸。
 部屋の前でこうしているのを誰かに見つかってもまずいから、中に小さく声をかける。
 返事はなかった。もう一度呼びかけて、やっぱり返答はなかったから失礼しますと一言、障子を開けた。
 誰もいなかった。
 ちょっと拍子抜けして、ちょっと安心して、ちょっと残念に、思って。
 おれはするりと部屋に入って待つことにする。

 敷かれたひとり分の布団。当たり前だ、ここはひとり部屋なのだから。
 ちょこんと布団を前に正座して、ちく、たく、秒針が動くのを夜の中聞いていた。

『今日、部屋においで』

 夕刻、告げられた声を再生してぶるりと震えて―――熱くなる。

 戸惑いがなかったわけじゃない。初めの頃より薄まったとはいえ今でもこの関係に迷いが、ないわけじゃない。
 でも触れた掌から伝わってきたのが、気紛れの遊び心じゃなくて本気の想いだったから。
 流されてる、と世間ではいうのかもしれない。おれの意志はどこにあるのか訊かれたら即答できない。

 かたん。

(来た……

 そっと近づいてくる人物の足音にぎゅっとこぶしを握って目を瞑る。
 何かを隣に置いた風があった。それでも目を開けて確かめる勇気が出なくて、ずっと縮こまっていたら、ふわっと石鹸のいい匂いが鼻腔をかすめ。

「ったー!?」

 かぷ、ではない。がじ、だ。
 寝巻きから覗いていたのだろううなじと肩への繋ぎ目を目一杯噛まれ、乗ってきた体重を緩和するために正座が崩れる。のし、更に歯と上半身の力が加えられて、おれは肘を曲げないよう畳を掌で押して耐えた。
 絶対歯型残るっ。絶対っ。
 痛さの中にぬめりが入り込む。舐められてる、と理解したと同時に歯が少し浮いて、違う角度でまた噛まれた。生理的な涙でぼやける目の前の布団を見て、何で布団を前にこんなことしてるのかちょっとおかしく思った。

 おれがふたり分の体重を支えているから、上の沖田さんは自由に動ける。掌がゆっくり腰から回ってきて、布越しに脇腹を撫でられた。ひくん、と震えたところにするりと寝巻きの隙間から手が侵入してくる。こつこつとあばら骨を撫でられながら昇ってくる指、いきつく先が読めてしまって、喉がこくりと鳴った。噛む場所がまたズレる。

「ね、沖田さん……

 何でそんなところいじるの。
 指が触れるギリギリのところで小さく問えば、んー、とようやく首筋から歯が離れた。しかし入れ替わりのように、沖田さんの右手は、おれの左胸に触れてしまった。つ、と撫でられて妙なくすぐったさが広がる。

……女はともかく、なんで男の子にもついてるんだろうねェ?」
「ん、んん……
「本当に飾りじゃん? 存在理由を考えたらやっぱり、開発されるためだけのものよねェ」
「か、開発って……
「気持ちよくなるためだけの器官ってコト」
「や、やだぁ、あ」

 ホラ、だいぶ慣れてきたもんね? 耳に吹き込まれておれはがくがくする腕が折れないよう必死に耐えた。沖田さんの指は容赦なく動く。ゆるゆると円を描いて、近づいたと思ったら離れて、離れたと思ったら近づいて、頂点を押しつぶしてやわくつねる。回数を重ねる程、くすぐったさというかむずがゆさは増していって、おれの息は荒くなっていく。
 せめてもの強がりに、鼻にかからないよう不機嫌を装って抗議した。

「なんでこんな、うまいんです……っ」
「いやん褒められちゃった」

 褒めてない褒めてない、断じて褒めてないっ。
 首を振りたくても出来なくておれのツッコミは永久に闇の中。
 ふふっ、と上機嫌な沖田さんはもぞりと動いて、おれの背中に胸を押し付ける。柔らかな弾力がおれの男としての性を刺激して、かぁっと熱くなった。それを感じたらしい沖田さんはまた小さく笑って、首筋へ唇を寄せた。
 舌は這わない。唇だけだ。
 けれど他人にそんなことされるなんて日常じゃ経験しようがない。するすると唇が首の根元からゆっくり昇っていく、ものすごい焦らし方におれは泣きたくなってくる。髪を掠めて、沖田さんの唇はおれの右耳に到達する。

「ふ……!?」

 最初の首筋のように容赦ない噛み方ではない。二度、三度。耳朶を甘く噛んで、そっと舌が耳の淵を舐め上げていく。ぞぞっ、耳という至近距離だからか、脳への到達が速い、もどしさは全身に広がって力を奪っていった。

「あ、ん、んん……みみ……っ」
「ん?」
「あんまり……さわんない、で……っ」
「んん?」
「なんか……へん……!」
……。そういえば耳って今まで素通りだったかも」
「や、…………!」

 押し殺そうにも声が生まれてしまう。心からの懇願は逆に沖田さんの動きを活発にさせ、おれはとうとう腕を折った。

「限界?」

 ばふ、布団に顔からダイブし、おれは大きく呼吸を繰り返す。一緒になだれ込んだ沖田さんは、指を胸から離して耳に移動させてゆるくなぞりながら問いかけた。

……みみ、ヤぁ、です……っ」
「うーん、ごめんね、今まで気付かなくて。そっかー耳イイのねー」

 はも。はもはも。やめてって言ってるのに沖田さんは唇で耳を噛んでくる。首から下は未だ畳の上で、顔とそう、右手だけが布団に載っている。畳を掻くより、布団を握り締めたほうが跡は残らない。ここは沖田さんの部屋。上と下、同じ匂いがする。

「なんか今日は……耳オンリーでいいかなぁ」
「ええ……? ひぁっ」
「くすぐったい? 気持ちいい?」
「わ、わかんな……
「じゃあわかるようになるまで」
「そん、な」
「ほらこっちおいで」

 ごろん、と肩を掴まれて半回転。見事布団の上で重なり合って、おれは沖田さんをじっと見上げる。その向こうには豆電球も消された電灯と、木目の認識できない天井板。輪郭ぐらいしか捉えられなくても充分わかる、楽しそうな沖田さんの顔が近づいて、ふっと耳朶を唇で挟まれた。吐息が近くてくらくらする、反対の耳に沖田さんの左手が迫った。

「ふやぁっ……
「どう?」
「も、おきたさん、みみ、やだぁ……っ」

 ちろりと右耳の穴に舌が侵入する。くちゅっとダイレクトに音が響いて脳のどこかを刺激した。逃げたくても逃げられない、耳裏を遊ぶ左手で頭を押さえられ、浮く腰の両端を足で挟みこまれて、何から何まで沖田さんの思うがままだった。耳の形通りに舌でなぞられていく。

 もどかしい痺れ。甘いさざなみ。そこから溶けて、おれがいなくなりそう。
 手に触れる布団生地を掻き、強く握り締めた。

「や……だぁ……
「どうして嫌なの?」
「ん、んん……そんなの、わかんな……
「気持ち良いからよ、永倉」

 きもちいい。きもち、いい?

「ここのときも教えたでしょ。嫌がらないで素直に受け止めよう?」

 こりっ、と乳首を摘まれておれは背を反らせて甲高く鳴いた。

「わかる?」
……っ、ふ……

 そう、これは快感だ。女の人から受ける、性的な快感。
 乳首で感じるなんて思わなかったと同じぐらいの、いやもっとそれ以上の衝撃だ。耳がこんなに感じるなんて知らなかった。
 ぼろっと落ちた生理的な涙を吸われて、おれは近くにいる沖田さんへ視線を向ける。もうやめてと。もう限界なんだと。伝えたくて。

……おきたさ……
「うん?」
……っ」

 余裕に満ちた表情。おれの好きな砂色がさらっと頬に当たってそれだけで感覚が快感に摩り替わっていく。

「どうした? どうして欲しいの?」

 この人SだよホントS……
 心の内でじたばた泣き喚いて、おれはぎゅっと口を結ぶ。

 さすがにそこまで言わせる気はないのか、沖田さんはすっと唇を近づけた。反射的に目を瞑る。そういえばこれが今日最初のキスだ、幾度か角度を変えて唇が開きそうになったところで、沖田さんの右手が股間に触れた。
 びくりと一気に緊張が駆け抜ける。
 確かに欲しかった。触って欲しかった。
 でもそれを素直に願えるほどの度胸はなかった。ましてや女の人にお願いするなんてと、いらぬプライドが邪魔をする、緊張から内腿同士がきつく寄った。
 そんなおれを考慮してのこの部屋の暗さだというのもわかっている。夜目が利く沖田さんにとって、部屋の明るさはあまり関係ない。ただおれが少しでも、深く溺れるように。自分勝手で優しい人。

 右耳を指で遊ばれるまま、あく、と口同士が開かれる。少々フリーズ気味のおれの口内に舌が侵入して、ちろちろと歯茎を舐めていく。堪らずもっと口が開いて、舌同士が触れた。
 芯がなくなる。
 追われて追いつかれて舐められて吸われて。脳の中心から背筋までぞっと電流が走っていく。どうしよう、おれ、どうしよう。

 やわやわと円を描く程度だった右手が、本格的に寝巻きを割って侵入してくる。夜の空気に肌が一瞬粟だってそれさえ刺激となってしまう。

「耳だけはダメかぁやっぱり」

 そこで残念そうな声出すのやめてほしい。
 ずる、と取り出された自身をおれが見ることは出来ない。そんな余裕ないし、見なくてもおれが一番わかってる。見たら最後立ち直れない気もするし、だって女の人にここまで育てられたなんて、そんな、もう。
 沖田さんの右の五指がゆるく纏わりついて、緩慢に動き出す。これはまだあたしも勉強中だから下手でごめんね。そっと耳元で囁かれてもあまりおれには聞こえてない。五指の動きと吐息に持っていかれてる。

 ぐち、と鳴らす水はおれが生み出したもの。どこにいこうとしているのか、先がわからなくて怖い。でも進んで先を見てみたい、矛盾がぐるぐるおれを追い立てる。
 次第に水音が耳につくようになって、音に犯されている気分になる。
 永倉。熱く鼓膜に吹き込まれて舌が伸びる。自分の声さえ、フィルター越しに聞こえるような遠い世界。
 ごそりと影が蠢いて、一瞬身体が軽くなった。

「見えてる? 聞こえてる?」
…………

 音声として意志表示が出来ないから首を縦に動かした。多分、ものすごく呆けた顔をしているんだと思う。でも快楽の前ではそんなの構っていられない。

 ぺりっと不似合いな音が夜を裂いた。そして触れ、覆われていく人工的な冷たさ。萎えるどころかまた新たな刺激として感じてしまう自分にうんざりした。もうお年頃ってことにしちゃって下さい、恥ずかしいとかいってられないから。

 選んだのはふたりで。薬局の広告覗き込んで、なんだかんだ言い合ったけど使ってみないとよくわかんないから順に試していこうとまとまった。おれは終始俯いていた気もするけど。
 その翌日、広告の品を買いに行ったのはおれ。こういう買い物は男より女の人のほうが恥ずかしいだろうなと思ったから名乗りを上げたものの、恥ずかしさに年齢というものを考慮していなかった。ついでに買って来たら使ってあげると言伝された、こちらもセール対象だった温感ローションも一緒に籠に放ってレジに向かったおれってば随分と勇者。
 買った品物は、安全な沖田さんの部屋で来たる日までどこかに眠っていたはず。

「ひ……

 それが今、起きたというわけだ。とろっと粘着質な液体が掛けられ、右手で塗りつけられていく。薄いゴムの上からでもあまり冷たさは感じない。温感、温感ってどうやって作り出したんだろう。根元のほうまでぐちゃぐちゃにされて、思考回路がうまく接続されない。
 やはり直接愛撫されているわけじゃないから受け入れ態勢には早い、というか足りないらしい。潤滑油を使うぐらいだったらおれに触らせてくれてもいいのに、思ってると沖田さんが腰を浮かせた。

 実はここから先は本当に未知の世界だ。初めてのときは全身撫でられてたような、次は胸を中心に沖田さん曰く開発されたような、次はってアレ、もしかして今日はまだ三回目か。もっともっと、肌を重ねたと思ってた。じっくりじっとり、しつこいぐらいに触れ合っていたせいだろうか。前二回はひたすら終わりの見えないペッティング。そしては今日は。今日は?

……おいで、永倉」

 変な日本語。
 来るのはどっちかというと上に乗ってる沖田さんなんだけどね。
 べたついてない左手がおれの右手に重なった。どちらが先に望んだのだろう、指が絡まりきつくきつく、握り締めた。

……っ!」

 沈んでいく感触に、おれは背と喉を反らせた。





***




 目が覚める。
 予め沖田さんがセットしておいた目覚まし時計によって。
 ただし、起きるのはセットした沖田さんじゃなくて、この部屋の住人じゃないおれ。
 少々乱暴に音を止めて、ぐぐと小さく伸びをする。すると必然的に、抱き枕か何かのようにおれに抱きついていた沖田さんも揺り動かされて、薄く紫苑色が開かれた。

「ん……おはよ……
「おはようございます、一時間後にセットし直しておきますよ」
「ん……了解……

 もぞ、もぞ。そろそろ布団から出るのも辛くなってくる季節だ。沖田さんは腕だけ布団から出したおれを抱き直しながら頷く。狭いひとり分の布団の中、居場所を探すように足がおれの太腿に巻きついて静まる、結果やわらかく拘束された。
 ……起き上がれないんですけど、もしもし? 何のために起床時間前に目覚まし鳴らしたんですか。

「大丈夫……痛いところとかない……?」

 不明瞭に訊いてくる声は半分夢の中だ。でも、夢の中にいるのにおれの身体を気遣ってくれるのは純粋に嬉しかった。腰から背にかけて撫でている手は、本当に優しい。

……痛く、ないです……

 というか本来なら、おれが気遣うべきなんじゃないかな。多分痛さや辛さは、女の人のほうが強いと思う。でも主導権は沖田さんにあったわけだしいいのかな。あれ。

「うん……ならよかった……

 ふにゃあ、と。無防備に笑って沖田さんは完全に目を閉じる。おれをゆるく抱きしめたまま。
 ちょっと困って視線を巡らせれば、昨夜この部屋に来たときはなかった、水の張った桶と手拭いを見つけた。おそらくそれを用意して部屋を空けていたのだろう、使い道はまあその、後処理的な。おれ記憶定かじゃないけど。
 どこまでも後手に回ってしまう。少しぐらいおれが優位に立てることってないんだろうか。他人の前で服を脱ぐ回数は同じだといった、じゃあこれは年の差からくる余裕なのか単におれの勉強不足なのかはたまた、天性の上下関係なのか。もし後者だとしたらおれの勝ち目は皆無ということになる。

 むむ、と伏せられた睫毛を見やる。あまり明るくないからはっきり色まではわからない、でも髪色と同じ色素で、スルリと長いことはわかる。
 どうしよう、ちょっとキスしたいかも。したら怒られるかな。
 勝手にどきどきしていると、おれの背中に回っていた腕が、のそっと上がって頭を抱いた。くしゃっと髪が沖田さんの掌に押さえられ、引き寄せられる。キスとも呼べない軽さで額に唇が触れた。目の前は白い喉、その下は鎖骨。寝惚けているのかわざとなのか、判断が難しくて拒絶できない。おれの鎖骨あたりに柔らかな弾力を感じて、ひーと目を瞑って耐えた。

「そういえばさァ……
「はい……?」

 起きてたのか。いや完全には起きてないな、声の質からして。
 居心地悪く、いや悪くはないけど建前上悪く、返事するのを言い訳になんとか離れようともぞもぞ試みる。

「何で気持ちいいのに苦しそうな顔になるんだろう、人間って……
「知りません……っ!」

 怒りというか羞恥心から来る勢いに任せ、腕を解いて起き上がる。すぐに寒いと返って来たから、急いで細い肩まで布団をかけ直す。そのまま沖田さんはすーっと眠りへ戻っていった。

 はあ。朝から大きく溜息を零して気持ちを落ち着ける。
 やっぱり使ったあとのある桶を持って、気恥ずかしさに目を背けつつそっと立ち上がる。
 これを片付けて部屋に戻って、うん、少し眠れるかな。障子を細く開けて、まだ明らんでない空を見て考える。

「では失礼します、またあとで」
「永倉ぁ……
「はい?」

 寝惚け九割、恐らく沖田さん自身も聞き取れないぐらい小さく呟いた言葉を、昨晩開発に勤しまれた耳が聞き取ってしまって、カァッ、とおれは赤面した。

 この人だから、躊躇いながらもおれは、この部屋に来てしまうのだ。なんやかんやで、いうことを聞いてしまうのだ。呼ばれるのを心待ちに、してしまうのだ。
 ただしひっそりと。ただしこっそりと。
 性欲処理に利用してるんじゃない、されてるんじゃない、ただちょっと、変わった恋をしただけ。
 変わった恋の仕方を、してるだけ。

 二度寝、できるかな。なんか目なんて覚めてしまった気がする。

 今日が過ぎてやってくるのは明日じゃない。
 今日が昨日になって、今日が来る。
 おれもすきですよ。舌の上で転がして、新しい朝の廊下、おれはぺたぺた急ぎ足で歩を進めた。







2007/10/04

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