*Attention 生クリームプレイはお好きですか?
「……何コレどんな嫌がらせ? ああ、これが敵襲だったら確実に殺られてたってゆー、そんな発破かけた親切心?」
「やーん土方さんヒワーイ」
「君はもう少し人の話を聞くスキルを磨こう、うん」
頭から被せた白を指で掬いとりながらクスクス笑う、上機嫌も上機嫌な女にほとほと疲れて溜息を吐く。
指で掬える程度の硬さはあるが、自力で立つのは難しいやわらかさ。ぼたぼた落ちる生クリームが実に可哀想で、もっと言うなら大真面目に紙仕事していた俺はもっと可哀想で泣けてくる。
ボゥルまるごとひとつ分。唇についたのを舐め取ればきちんと甘く、砂糖もふんだんに入れたことが知れた。
「何? この仕打ち」
「今日誕生日だから」
「……五月じゃないぞ」
「そうですよ」
「……七月でもないぞ?」
「何です、七月って。ああ、あたしのか」
「何月かわかってんのか」
「十一月ですよ」
あっカレンダーめくってないし。壁にかけられた先月のままのカレンダーを見て言うと、俺を放ってすたすた寄ってベリッと剥がした。
現れた新しい月の、数えて今日はふたつめ。
「……で、誰の誕生日なんだ。そいつの名前と俺の関連性、そして俺がクリームまみれになる必要性を論理的に説明しろ」
「えぇ? 甘いの好きだろ土方コノヤロー」
にんまり見下しながらしゃがんで来る。破った十月のカレンダーが畳に落ちたと同時、緩慢に首筋を落ちているクリームを掬ってはいと差し出してきた。
「舐めて」
そうやって嬉しそうな顔をする。
躊躇もどこから躊躇したものか悩む俺に、一対の紫苑色が早くと急かす。
断れるはずもない。
「……」
おずおず近づけて唇を開く。
「……」
何でこんなことに。
「……ふふ」
なっているのだろう。
手も使いたいところだがあいにく、触れていい許可は口だけにしか下りてない。
男の指じゃない、明らかに女の指を間違って壊さないよう、丁寧にクリームを舐め取った。
「よくできました」
ちゅるりと指が抜き取られ、代わりに塞いでくるのは女の唇。
今しがた俺の舐めていた指が耳の後ろで円を描く、生クリームという潤滑油が髪に絡んで肌に纏わりつきぞっとした。肌の薄いところは神経に触れやすい。それをまるで見えているかのようになぞってゆく動きと、口の中でクリームと一緒に舐められる粘膜に脳内が白く塗り替えられていく。
誰か助けて。
「……あのよ……」
「はい?」
「……誰かの誕生日って、嘘じゃねェの……?」
真ッ昼間から俺をクリームまみれにして襲いたいだけの。
手馴れた手つきでスカーフを解いていく女に問えば、言外の疑いは伝わったらしい、こめかみについた甘味を舌で掬いながらくつくつ笑う。
「嘘じゃありませんよ。とても身近な人の誕生日です」
「だから誰の……、う」
急に変に固まって動かなくなった俺の様子に気付いて、ん? と砂色の髪がさらりと傾がれた。
「背中……入った……うー……」
「おやおや」
スカーフも捨てて上着に手をかける、それに身じろげば背中の上をクリームが変な動きで滑っていく。伸ばしても縮めても一度入って来てしまったものは出て行かない、そうこうしているうちにベストも寛げられてしまった。
「さってと」
捨て置かれた黒の上着へ押し倒される。背中につぶされたクリームが気持ち悪い、そんな俺の骨盤に座ってそのまま俺の優位に、にまりと笑みを深くさせた。
「いただきます」
いただかないで下さい。
とは言えずに遠まわしに説得を試みる。
「……あーのさ……今昼間なんだけど……」
「だーいじょォぶ、仮眠中の札垂らしておきましたし」
なんて用意周到な。
落ちずにボゥルの内壁についていたクリームを新たに指に載せ、そろりと肌蹴させた脇腹を撫でていく。本気でヤるつもりだ、ああもう隊服どころじゃない、畳とかどうするよ。現実的なところで内心嘆いたら、余所事なんて上等ですね、吹いて女が頬に手をかけ目線を重ねた。
「……クリーニング屋になんて言おうか悩んだだけだよ……」
「テロに遭ったって言えばいいじゃないですか。パイ投げテロ」
「新しすぎる……!」
どんだけはた迷惑なテロですかコノヤロー。普通に食え普通に、もったいない。
「今はあたしだけを考えてればいいんですよ、土方さん」
どんな関係になっても口調だけは崩さないから更に厄介なのだ。
また口を口で塞がれて、唾液だけじゃない、クリームの溶ける音に目を瞑る。
"Happy Birthday…"
離れた舌が首筋に寄ってまた舐める、肩口に沈めて口ずさまれる聴き慣れたメロディー。
一体誰の誕生日だというのか。きっと知ることもないのだろう、誰かさんを呪いながら白い昼間に深く溺れていく。
to Me!
2007/11/02
BGM:愛内里菜『A.I.R』