*Attention 積極的な女性はお好きですか?
ガラリと古びてきているガラス戸を開けると、先客がいた。
「……げ」
「奇遇ですね」
最近あたしを見るとき多くなった、げっそりとした表情をまた作る。未だ乾ききっていない、濡れて滑りやすくなっている床をぺたぺた歩き近づくと、何でいンのと訊かれた。ひとっ風呂浴びにと答えると、もう入ったんじゃないかと呟かれたから、首を振って否定した。
椅子をずりずり隣に引き摺って座る。さっきから訊きたいことを言おうと口を開くと、皆まで言うなと遮られた。
「たまには洗わないと腐る」
「腐るんですか」
「腐ると困る」
まあ確かに。あたしはなんとなく納得する。
濡れた銀髪の中から生える金色の角。髪がしっとりしているせいで今までより長く見えた。よく見れば、桶を持つ指の先の爪も尖っている。常に隠しているのでは垢も溜まりやすいのだろうか。洗っているのだからそうなんだろう、誰もかも使い終わったあとの浴場でひとり頷いた。
ばしゃんと泡の乗った背中にお湯をかける。半裸を見るのは初めてじゃないが、風呂場で濡れた全裸を見るのは初めてだ。疲れた横顔があたしの何かを刺激して、にじり寄る。
「人間にも、欲情するんですか」
「するよ」
予想外に速いお返事にちょっとびっくりする。全然こっちを見ようとしない鬼ににやりと笑い、更に近づく。
「……下の毛も白い」
「いい年頃の女が下品だぞ」
このままでは引かないと諦めたのか。
ぐいと逆に引き寄せられ、唇を重ねられた。さすがというか鬼のくせにというか。促され僅かに開けた唇の間から割って侵入してくる舌、歯茎をねぶられ舌を吸われる。思わず引き気味になったあたしの腰を抱いて、更に口の中を蹂躙される。濡れた素肌と乾いた素肌、当たって温度の違いにぞっとした。
キチリと尖らせたままの爪が腕に刺さる。血の出る気配はないが、少々、皮は剥かれたかもしれない。
ゆっくり離れる。最後に唇を舐められ、この鬼の性格を垣間見た気がした。
しばらくはお互い話さなかった。こちとら座っているのもちょっと辛いのに、へらりと余裕ぶっている男にカチンと来る。しかし、息を整えるために自然下がっていた目線の先、捕らえたものに口元が上がった。
「……たってる」
「十余年しか生きていない娘っこが何を自慢気に」
「さっきと言ってること違ーう」
鬼だからか男だからか土方さんだからか。今のことなどもう忘れたように、「さっさと洗え」と命令してくる鬼が行ってしまうのがひどく惜しくなって、あたしはねだる。
「洗って」
振り返る銀の鬼。
ぱしりと瞬いた拍子、前髪から雫がひとつ床を打った。