*Attention 鬼畜永倉はお好きですか?
ぜぇ、と荒く息が吐かれる。
「牙」
中途半端に本性を晒したままの鬼の姿に呟く。
それは自分のものではない。だから噛まれようが汚されようが特に嫌悪感は働かない。働くのはそこまでオレに敵対心を剥き出しにしつつ、何もできない異種に対する優越感だ。長年使っている証に潰れてきた枕へ歯を立てる鬼を見下ろし、オレはゆっくり腰を動かした。
「……ッ」
「鬼も痛さって感じるんですか?」
答えはない。あっても聞こえない、話せない。
額と、後ろ手に組ませた手首を縛る縄には、鬼封じの札が貼ってある。手に入れたときは効くのかどうか半信半疑だったけれど、それなりに効力を発していた。角、牙、爪、目の色。それら鬼の本性を現しつつ、攻撃できるだけの体力と声を封じる程度には。ねちゃりと水音を立てると、肩越しに赤い片目が睨みつけてくる。
動けない身体で抵抗し、それでも身体は貪欲に快楽を追う。人間のそれより伸びて尖る牙は白く、上下合わさることなく吐息を逃がす。
白と冠する名のとおり、日に当たっているのに黒くならないうなじに舌を這わせて、齧りつく。乱れた襟元から覗く背骨をいくつか舐めると、嫌がってあたまを振り銀髪が揺れた。
日常で見ていた“副長”の姿のあまりもの違いにぐらぐら煮える。ながくら。ひゅうひゅう空気だけが漏れる口がオレの名を模した。攻撃心に燃える、濡れた赤目が男の征服欲を刺激する。
何が鬼だ。寿命や怪力では負けるだろう、しかし弱点を自ら喋る妖怪など、オレの敵ではない。
そして味方でもない。
人間同士の同職での上下関係かと思っていた、なのに上司は人間ではないという。天人さまさまの組織にいながらおかしな思考だとも思えたけれど、どうしても解せない部分もある。妖怪などに、命令されていた自分が許せるか?
「何か言いたいですか? いいですよ、言って下さい、抵抗して下さい?」
自分でもつまらないプライドだと認識している。
吹いて腰をゆるゆる動かすと、内壁が収縮して、オレを持っていこうとする。大半を封じているというのに馬鹿力が。引きずり込まれないように気を入れ直す。オレをここまで夢中にさせるのは、反抗意識のそれだけではないのかもしれない。口の端がクッと上がる。
札を剥がし、もしくは剥がされても、この鬼はオレを殺せないだろう。拾ってくれたという局長の近藤さんが、真選組の二番隊隊長を必要とする限り。そしてこの鬼が、人間に好意を抱いている限り。それを利用しているオレは何て賢く、愚かなんだろう。わかっているからこそ、オレは止まらない。
一度ギリギリまで浅く引き、そして勢い良く奥まで叩きつける。
ばり。
枕が小さく穿たれた音がした。