年上カノジョと5つのお題
1.割り勘ブロック今日も失敗
最後の一口を飲み終わる背景は江戸の町。つまり沖田さんは窓際でおれは店内側。場所は優位、今日こそやってやると、カップの底がソーサーに触れる直前に伸ばした右手はしかし、空を掴んだ。
「あ」
「そろそろ出るか」
空いていた左手に伝票を持ってスタスタと沖田さんは歩き出し、おれはじたばたと席を立つ。せめて会計に間に合えと財布を取り出すも、沖田さんは伝票と共に自分の食べたナポリタン分きっちり受け皿に置いて既に店の外。割り勘でさえない個々の支払い、何この冷め切った夫婦みたいな関係。
「おいしかったわね」
「そうですね……」
項垂れるおれと反比例して沖田さんは楽しそうだから、まァいっかと、今回も妥協してしまうたまのオフの、ファミレスでの昼食。
2007/12/19(314字)
2.カワイイじゃなくてカックよくありたいものなんです
「……越したいの?」
「はい」
断言すると、沖田さんはうーんと唸った。そして頬を寄せていたつむじに、顎を載せる。
「それはそれで面白いかもしれないけどォ」
「痛い痛い」
「やっぱりこの身長差がナイスだと思うわ」
「あ、顎でぐりぐりするのやめて下さい、痛い……!」
必死な訴えに沖田さんは応じ、また頬を寄せて息を吐いた。
「ああ……この抱き心地……下手な抱き枕より癒されるってものよ……」
「男としてそれはそれで悲しいんですけど……」
「だからね、無理して毎朝牛乳飲まなくていいわよ」
「聞いてますか……」
でも本当はわかっている。
例え沖田さんを見下ろせる身長になったとしても、おれたちの位置関係は変わらないんだって。
2007/12/19(300字)
3.目下の敵
「悩み事ー?」
「わ!」
唸るおれに、沖田さんがひょいと声をかけてくる。
「……お小遣い帳……つけてんの?」
「そりゃ、まあ」
律儀な子、吹いて沖田さんはでも旦那にしたら便利そうよね、と背中越しに呟いた。……旦那。
「……女の一般論よ」
舞い上がるおれに冷たくあしらう沖田さんにも負けない。だって一応、沖田さんを「女」として自覚させられるほど、おれには「男」の価値があるってことだ。
「決めた」
がっと立ち上がって、おれはいそいそと出掛ける準備をする。
「……どこ行くの」
「秘密です」
ちょっとつまらなそうな顔されても今日はごめんなさい。
あまり豪華にはならないだろうけど。気持ちが大事ってことで、25日のプレゼントを買いに行くため外套を羽織った。
2007/12/23(318字)
4.メール一つに一喜一憂 永倉と二番隊隊士
仰々しく姿勢を正した瞬間にケータイが震えて、おれは隊長の威厳の体面など放り出して慌しくポケットをまさぐった。
一番上のノーマル受信ボックスは局長・副長・その他お偉方、以下、十の振り分けボックスは簡潔に一番隊から十番隊まで。そして今、メールが入ったボックスは『一番隊』。平じゃありませんように、そわそわ開いた先は隊長の名前で、一気に跳ね上がったテンションのまま読破した。
「ちょ、何やってンすか隊長!」
「おれ降ります!」
「これバスじゃなくて電車ッス!」
「いやバスでも普通窓から降りないから!」
京行きの電車内で二番隊がもがきにもがく。
お願い、黙って出張に出たおれを帰らせて。『浮気始めました』、怒ってるというかハート五つ分寂しがってる恋人様へ、謝りに。
2007/12/18(326字)
5.振り回してるの、さぁどっち?
「何よぅ重いって言うわけェ?」
「誰もそんなこと言ってませんし思ってません。だけど自分の足で歩いて下さいって言ってるんです」
何故か今日は悪酔い状態のうわばみ女性。何があったんですと二桁目の問いかけをしながら、よろよろ廊下を歩く。
「お前には一生わからない問題よぅ……」
その問題の原因は性別か年齢かそれとも性格、人間性、さあどれに値する。おれは思案するも、肩に寄る重心が向こうにいきそうになって慌てて引き寄せた。
「……永倉」
引き寄せたら引き寄せ過ぎた。紫苑色にはおれだけが映ってて、砂色の髪がおれの頬にかかる。言葉を紡ごうと唇を動かしたけど結局、何も言わずに沖田さんは首を振る。
おれにずしりとわざと凭れ掛かって、お前にはわからないわよとまた呟いた。
2007/12/23(324字)