襟元からのぞく 永倉と沖田土方
「刺されてますよ」
そこ、とタイをしていない襟元を指差しながら寝起きの副長に告げる。
仕事続きで寝不足なんだろうか。隈を両目下にこしらえた副長はぼんやりおれに振り返り、おれの指先を見て首元の一センチぐらい赤くなった円を触る。そしていきなりカッと目を見開き、バッと掌でそこ周辺を押さえた。
「蚊取り線香、炊きましょうか」
ぬっと現れた沖田さんに副長がびくりと肩を強張らせる。心なしか顔が赤い。
視線を誰にも合わせず、ああ、と呟きを虚空に零して、首元を押さえる手はそのままに、いそいそ廊下を歩く猫背を見送る。何故かにまにま笑う沖田さんが、「虫がつくと困るもんね」と踵を返した。
蚊に刺される数でも賭けていたんだろうか。
それ以降に見た副長は、暑いだろうにきっちりタイをつけていた。
2009/07/11