Nov.07.11 by 管理人
「あと、俺の後がまだがな……」と、消え入りそうな声で田村が言った。部長職も左遷となれば、人事は誰かを出さねばならない。いったい誰が来るというのだろうか。といった表情が出ていたのだろうか。田村はにやっと乾いた笑いで、「営三の桑原だよ」と、言いながらこちらに向き直った。 桑原、この会社にも桑原の姓は何人かいるだろうが、営業三課の桑原といえば一人しかいない。当たり前である。当たり前であるが、血の気が滝のように引くのを下泉は感じた。 いわく、人間最終兵器。言いえて妙である。営業部でも異端扱いされていると聞くが、まさか企画に来るとは思ってもみなかった。会社は大量リストラの怨念を抑えるために、企画部を人柱として供えるつもりなのか。 田村が笑っていた。これ以上ないくらいに悲観した後の乾いた笑みだけが室内に残響した。 一斉解雇通告後、下泉は誰もいない部屋でぼんやりと座っていた。今日は日曜日や休日ではない。れっきとした平日であり、勤務時間中であり、したがって仕事をしている時間である。 窓から差し込む太陽光が、室内を浮き世離れしたように見える。並んだ机、積まれた書類、こうして眺めていると、企画部の部屋は、広かったのだと改めて思う。 がちゃりと扉のノブが回され、香坂が部屋へと入ってきた。
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