「ふぅ〜こんなもんかな?」


親父に言いつけられた仕事がひと段落つき、ふと人の気配を感じて振り向くと……
カインがオレん家の前でボォ〜と突っ立っていた。



「おっ?カインじゃねーか!?いらっしゃい!」
「やあ…ロデル」


カインの周りを見ると、あいつの姿が無い。


「?どうしたんだカイン?…おまえ一人か?」
「え…?ああ。そうだよ……」


うそっ!?
何処へ行くのもカインと一緒だった、あいつが??


オレ…
あいつがカインと一緒に来るの……
結構、楽しみにしてたんだけどな。



「へぇ…珍しいな!あいつが一緒じゃないなんて?」
「…うん…そう…かな?」
「カイン?」
「………………」



……何かあったのか?


カインはそれきり黙り込み俯いてしまった。


「う〜〜〜〜〜ん……」
「……?ロデル?」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん……」
「どうしたの?……ロデル??」


唸り出したオレを心配してカインが覗き込んできた。


「よしっ!!」
「うわっ!?」


オレの声に驚いたカインが飛び退いた。
コイツ…結構、動きが早いのな。
王子って…もっとトロいんじゃねえの?


「ま、いっか!行こーぜ!」
「えっ……ロデル?」
「出掛けんだよ!ゆっくり街ん中、見た事ねえだろ?」
「あ……。そう……だけど。……でも……」
「良いから良いから!行こーぜ!オレが案内してやるんだし。大丈夫だろ?」


暫く考え込んでいたカインが顔を上げた。


「……そう……だね。……行ってみようか」
「良しっ!親父ぃ〜っ!ちょっと出掛けてくる!カイン行こーぜ!」
「ああ!」


……やっと笑いやがった。

 



カインは、この国の王子だ。

そんな王子がオレの所に来る事も不思議だけど。
コイツは全然、王子らしくない。

……とは言っても。
オレも王子ってのが、どんなもんかなんて全然知らないけどな。


でも変ってるってのは分かるぜ?
貴族みたいに偉そうにしてないし!
普通に喋るしな。

コイツもそうだけど………あいつも変ってる。

この国の王女なのに。

オレなんかの所に来るもんな。


……なんで今日、来なかったんだ……?



カインに元気が無いのも。

……あいつが側に居ないからじゃねぇの?



あ〜あ、しょーがねぇーな!
オレが気晴らしに付き合ってやるから!
元気出せよカイン?



オレはカインの腕を引っ張って街の中に飛び出した。





「初めてだろ〜?こんなとこまで来るのはさ?」
「そう言えば…。そうだね」


そりゃそうか。
王子だもんな。

視察ってやつでもなきゃ、こんなとこ来ねえよな?



「あっ…」
「?なんだよカイン?」
「…あの店。……凄い人だね?」



カインが目を留めたのは一軒の雑貨屋だった。

そこは最近、出来た店で。
特に若い女の客が多い。


「……何を売っているんだろう?」
「あれか?あの店は女が喜びそうな装飾品とか小物を売ってるんだ」
「……装…飾…?…指……輪……」
「へっ?」
「あ……!指輪も売って…いるのかな?」



カインは自分の指を見ながら呟いた。


「指輪?ああ。売ってると思うぜ」
「……そう…か……」
「なんだよカイン?おまえ……指輪なんかすんのか?」
「えっ?」


……やっぱ王子なんだな。
オレ達とは違う……か。



「あの店さ。女物しか置いて無いと思うぜ?」
「……あっ!?ちっ、違うんだロデル!僕のじゃないっ!あ……」
「あ?」


そこまで言うとカインは眉間に皺を寄せた。


「……僕……のじゃないんだ。あ……姉上に……どうかと思って……」
「え?……え〜と……あいつにか?」
「う、うん。……駄目かな?」



……いや駄目かどうかは分かんねーけど……



あいつって……王女だよな?

だったら。

こんな店とかのじゃなくてさ。
もっと高級な指輪とか。

……してんじゃねぇの……?




「……う〜ん……」
「ロデル?」


そこでオレは思い出してみた。

あいつの指を。

白くて細い。

柔らかそうな……あの指を…………





「……そういや、あいつ。指輪してねぇーんじゃ……?」
「……いや。……してるよ」
「へっ?」


驚いて振り向くと。
カインの辛そうな顔が目に飛び込んできた。


「先週だったっけ?おまえら二人でオレん家に来たよな?」
「……ああ、そうだったね」
「あいつ……指輪なんかしてなかったぜ?」
「……この間…から。……してるんだ……指輪…」
「…………カイン?」



……なんで?

自分の姉ちゃんが。

指輪したくらいで?

そんな……

……泣きそうな顔してんだよ?





「おいっ!」
「!な……に?」
「買いに行くぞ」
「え……?」
「指輪だよっ!指輪っ!!」
「!!ロデルっ!?」



オレはまたカインの腕を引っ張り女共の巣となっている雑貨屋に向かった。



「あいつに似合いそうなの選んでやれよ?オレも付き合ってやるっ!」
「ロデル……!ありがとう……」



カインは嬉しそうに笑うと。
オレと同じように駆け足で店に向かった。



あいつに似合う指輪……か。

……見つかると良いなカイン?




……でもさ。

なんであいつ……

指輪なんて嵌めだしたんだ?


「誰かに……貰ったとか……?」



オレの独り言に。
ピクリとカインが動きを止めた。


……もしかして。

そうなのか?



「……ヴィンセントに。貰った……そうだよ」
「えーーーーっ?!あの強面のオッサンにかっ!?」



うそだろーっ?!
信じられねぇーよっ!!

騎士団長…だったっけ?
あの無愛想なオッサン……が?

王女のあいつに?
……指輪??



「それって……」
「………………」



やっと笑ったカインの顔が。
どんどん曇っていく……



あ〜〜〜〜余計な事、言っちまった!!
オレってば最悪じゃん!



「……良いんじゃねぇの」
「ロデル?」
「別にさ。おまえが…姉ちゃんのあいつに。……指輪あげてもさ?」
「……ロデル……」



オレがニヤリと笑うと。

カインも笑い出した。


「そうだね……ロデル。僕の姉上なんだから……!」


そう言うと何かを吹っ切ったように。

カインは嬉しそうに指輪を選び出した。




そうさ!

あいつだって!

おまえから貰ったら喜ぶぜ?

仲の良い弟の。

おまえから貰うんだからな!



指輪を見ていたカインの手が。
一つのケースの前で動きを止めた。

見ると何の飾りも無い、輪っかだけの指輪だった。



……結婚…指輪…ってヤツ?

アレに…似てるよな?






「ロデル。僕……これにするよ」
「え?良いのか?他にも小さいけど石の付いてるのもあるぜ?」
「いや!……これが良い。これが良いんだ……」
「?」


カインは指輪を持つと……
窓から差し込む陽に翳した。


「……姉上に……似合いそうだ」


ポツリと呟く。
カインの声に吊られて。

オレもあいつが……
その指輪をしている所を想像した。



細くて白いあいつの指。

柔らかそうな、あいつの指に。

その指輪が嵌っている所を……




「……良い……かも」
「……だよね?」



オレの小さな呟きに。
直ぐに反応するカイン。


「よしっ!じゃあ綺麗に包んでもらおうぜ!」
「そうだね!」



あいつの話と指輪の事で、はしゃいだオレは。

カインが最後に言った。

言葉の意味まで……分からなかったんだ……。




「姉上……待ってて?……姉上の……。姉上の指に嵌める指輪は。……僕のだけで。
一つだけで…良いんだ……」





 

 




・・・ヤバイ・・・
ロデルだと暗い話にならない・・・(汗)
そして・・・オチは何処?

アンケートの小話に票を入れて頂いたのにコレとは・・・なんてこったい(ガックシ)

 

 

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