望
「……見つけた」
ポツリと呟いた声を聞いた時……
恐怖と言う旋律が。
私の背中を駆け抜けた…………。
姫とジーク殿が国を出られてから国王であられるカイン様は変られた。
あの……姫と共に武術を学びに参られていた頃の面影は。
今のカイン様には無い……。
……それよりも。
私には畏怖さえ感じるようになってしまった。
この何処まで続くのかと思われる……果ての無い闇を背負われて…………。
あの即位式の日。
カイン様は国王になられた。
それはもう。
亡き国王にも劣らぬぐらいに。
……それなのに。
即位式の夜。
国王になられたカイン様は狂ったように王宮中を探し回られた。
姫を探す為に。
そして。
姫の残された手紙を……握り締めながら……。
その夜。
同時にジーク殿が王宮から姿を消された。
姫の手紙には。
ジーク殿と共に歩んで行くのだと。
そう記されておいでだったという……。
カイン様は変られた。
何がどうと言う訳ではない。
内面、奥深く……
カイン様の柔らかい部分が……
壊れてしまったかのように…………。
それは多分。
姫が傍においでになられていた頃に培われたもの。
記憶を失くしてしまわれてからは。
赤子のように戻ってしまわれたカイン様。
そのカイン様を。
甲斐甲斐しく世話をし、尽くしてきたのは姫、唯お一人。
カイン様に。
色々な想いや感情を植えつけていったのも姫だった……。
喜び、怒り、悲しみ……そして。
絶望を。
姉君であられると共に亡き王妃、母君をも思わせる慈悲深い愛情でカイン様を包み支えてお
いでだったのに……。
それが……あの日。
カイン様の手から。
全て……すり抜けて行ってしまわれた……。
……追い求められても。
仕方が無い事なのかもしれない……。
……あの暖かい日々を。
……………………。
「ヴィンセント!」
「!!」
「姉上を……迎えに行くぞ!」
「!……はっ」
姫……
申し訳ございません。
私達が至らないばかりに……カイン様を……お止め出来ませんでした。
貴女とジーク殿を連れ戻す為に。
……私達は……今……
「行くぞ!」
「はっ」
馬を駆られ。
真っ直ぐ……
……姫
貴女の元に駆けて行くカイン様は。
なんと生き生きとした表情を、されておられるのか?
だが。
私には見えてしまった……。
カイン様の……
瞳の奥にある……暗い影を……。
昔。
私が瞳に宿した影を。
カイン様も、また……。
……私と同じ道を……歩まれるのか……?
あの……
暗く。
果てしない。
悲しみに縁取られた道を…………。
「姉上……やっと見つけた。駄目じゃないか。俺の傍を離れるなって言ったろ?」
「カイン様?」
馬に鞭を入れながら。
カイン様は。
まるで姫がそこにいるかのように。
語られた……
「俺は姉上を守る為に強くなったのに……。その姉上が俺の傍からいなくなったら駄目じゃ
ないか」
「………………」
「俺と姉上は二人で一人なんだ。だから。これからも……ずっと一緒だ」
「……カイ……ン…様……」
姫!
貴女はカイン様のお傍を離れるべきでは無かった!
どんな事情があろうとも!
例え……
例えジーク殿と。
恋仲であったとしても…………!!
「ヴィンセントはジークを頼む!姉上は俺が!……俺だけの姉上なんだから!」
「カイン様……」
ジーク殿を捕らえた後。
カイン様は、どうなさるおつもりなのか?
考えたく無い事だが……
私にはカイン様の、お考えが手に取るように分かってしまう……。
親しい者に。
まして愛していた者に裏切られた者の気持ちは。
……痛いほどに……。
それと同じように。
憎しみという気持ちさえも…………。
……姫には。
辛い選択が待っているだろう。
ジーク殿と。
国を出られた時でさえ辛い選択だったろうが……。
今度は。
カイン様に。
選択を迫られるだろう……。
ジーク殿と別れるか?
それとも……
シーク殿の。
命の灯火を……消してしまうか……?
二つに……一つだ…………。
「姉上ーーーーっ!!!」
俺から。
姉上を奪う奴は許さない!
……例え。
例え、相手が。
ジークだったとしても……な。
そしてそれが。
姉上を悲しませる結果になったとしても……
……俺は。
俺は唯、姉上に。
傍に居て欲しいだけなんだ……。
……そうだ。
俺にとって。
姉上だけが……
それだけが。
唯、一つの。
……俺の望みなのだから…………。
暗い話で、ごめんなさい〜(汗)
右のイラスト「俺カイン」を描いていたら思いついちゃって・・・。
ジークEDはカインスキーな管理人にとって凄く辛かったです(涙)
姉上命!のカインなら追いかけちゃうんじゃないかな〜と勝手に妄想。
なんか掬いようの無い話になってしまった・・・・・(沈)