風邪を引いた?不知火くん(土井垣さんばーじょん)





「なっ…」なにをする。…土井垣は無理やり布団に引っ張りこまれた。「おいっ」
 不知火の手が妙に熱い。『熱があるんじゃないか?』土井垣が慌てて額に手をやろうとしたとき、不知火が頬ずりしてきた。さっきアイスを食べたばかりの口元は冷たかったが、顔全体は火のように熱い。
 指先が器用にシャツをたくし上げると、裸の腹のあたりをすべるように胸まで上がっていった。やはり熱い手。
「おい、不知火!」
 お前、熱があるのでは…。体温に気をとられた土井垣は、不知火の動きに無防備だった。指先が胸の上を這いまわったときも、まだ冷たい口唇が耳たぶを挟んだときも、不知火の容態ばかり気にしていた。『熱か?それとも…』伝わってくる心臓の鼓動が、早鐘を打つようであった。
「大丈夫か?」
 首筋にまとわりつく不知火の顔を引き離すように、話しかける。
 ぼんやりと、見かえす眼。酒に酔ったような目つき。顔にかかる吐息が、奇妙に熱い。
「……」なにか言おうと土井垣が口を開けたとき、不知火が口唇を押し当ててきた。
『ばかもん!』言い返そうとしたが塞がれていて言葉にならない。まだ甘い味の残る熱い舌先が、口の中を動き回る。敏感な部分を探られ、声が漏れそうになる。
 どこで覚えたんだ、こんなキス。はっきり言って上手い。土井垣はうろたえた。
「ばかやろ、…病人のくせに!」口唇を引き離した時、息が切れていた。
「うるさいぜ。マザコン野郎が」だらしなく微笑む不知火の口元が見える。
 相変わらずの酔ったような目つきは、土井垣を見ているようで、心ここにあらずのようだった。
「不知火…」今日の不知火は、何かしらおかしい。
 ふと、試合前の会話を思い出す。子供時代の病気のエピソードに、微笑みながらも、どこか寂しそうな、悔しそうな顔。俺が話題に加わった時、明らかに苛立たしそうな様子になった。
『寮生活って楽なもんですね。メシは用意してくれるんですから。俺、中1の頃から父子家庭だったから、毎日が1人暮しのようなものだったんですよ』
 入団したての頃の、そんな会話に気がついて慌てて話題を引っ込めたのだが。その日は、他の人間の前ではにこやかだったくせに、俺に対しては不機嫌になってしまった不知火。
『不知火…』なんだか、胸がいっぱいになってしまう。
また、口唇が覆い被さってきたが、土井垣はなすがままである。
 気を抜くと、巧みなキスにいつのまにか乗せられてしまっていた。
 おずおずと舌を絡めると、不知火が満足そうにうめく。
鎖骨の当りをさまよっていた熱い指先が、もっと敏感なところを探しに下へ降りていく。小さくて見つけにくかったが、探り当てた。
 繊細な、執拗な動き。ちりちりと焦らされるような。
『…もうやめてくれ、不知火』俺より2歳も年下なのに、一体いつの間にこんなことを覚えたんだ…土井垣は、自分がだんだん夢中になっていくのに怯えた。
 服がきつい。堪らなくなって、ベルトに手をかける。不知火の口唇は首筋を通り胸のあたりに辿り着くと、今は指が弄んでいるのと反対側のほうを軽く噛んでいた。土井垣がベルトをゆるめ、やっとボタンを外しファスナを下そうとしたところで、不知火が手をつかんで邪魔をした。
 悪戯が出来ないように両手首を耳の横で固定したまま、土井垣の口唇を貪る。お互いの体に熱く硬いものが当るのを、不知火も、土井垣も感じた。
 不知火は貪り続ける。両手の自由の利かない土井垣は、仕方なしに体を擦りつけた。
 触れ合うと、不知火が小さくうめいた。手首の戒めが解かれ、ズボンに手がかかる。土井垣も、不知火の腰に手を伸ばした。2人ともすっかり、夢中になってしまっている。
 お互いの体がじっとり汗ばんでいるのを感じた。貪っていた口唇が、喉元を通り、胸でしばらく留まった後、もっと下のほうへ移動していった。下腹のあたりに不知火の鼻が当るのを感じたとき…『?』
 額が熱い。物凄く。この熱さは…異常だ。
 土井垣は慌てて上半身を起こした。両腿に挟まれ下腹に顔を埋めていた不知火が、ぼんやりと顔を上げる。
「お前…病気だ!!」
 不知火は土井垣の顔に視点を当てようとしたが…フラフラと定まらない。体が揺れているのに、気づかないようだ。
 やっぱり風邪が伝染ってたんだ。熱があったのに…夢中になってしまうなんて、なんたることだ。土井垣はすまない気持ちでいっぱいになって、不知火を抱きしめた。
「…おい、大丈夫か!」
 揺れていた視点がようやく定まり、不知火は我に返ったような顔つきになった。
「…………」何がおこっているのか分かっていないらしい。
 重症だ。土井垣は青くなった。セクシーな気分などいっぺんに吹き飛んでしまう。
「ひどい熱だ。病院…」
 不知火がぼんやりと眺めるなか、土井垣は慌てふためいていた。




 処置が終り、左腕に点滴の管をつけたまま眠り続ける不知火を、ベッドのかたわらの椅子に腰をおろした土井垣が、不安げな眼差しで見つめている。
 ずっとおかしい、おかしいと思っていたのに、…すまない、守。普段病院など行きつけていない土井垣にとっては、点滴ひとつ取っても大事のように思えた。
 前髪のパラパラかかる額に、手を当ててみる。だいぶ下がったが、まだ熱は高いようだ。…土井垣は、溜息をついた。
 ふと、不知火が身動きをした。点滴の管がよじれる。布団が乱れたので直した後、気になって立ちあがると、点滴の液が管を流れ落ちていく様子を、しばし眺める。
 座ろうとうつむいた時、不知火の顔がこちらを向いているのに気づいた。
 目が覚めたのか。土井垣はほっとした。
「さっきお前が身動きしたら急に落ちなくなってさ…大丈夫、元に戻った」
 土井垣は腰を下すと横たわる不知火の高さに顔を近付けた。まだぼんやりしているようだ。何が起こったのかまるでわからないような顔をしている。
「やっぱり風邪だったみたいだ…球団に連絡しておくよ。伝染ったんだな、きっと」
 不知火が、じっと見つめている。こんな病人相手に自分がしてしまったことを思いだし、ひどく恥ずかしくなった土井垣は思わず顔をしかめた。不知火が自分をどう思っているのか不安になったが、わざと何気ないふうを装う。
「で、次は俺が伝染るわけだ…看病してくれるよな、不知火。…俺にはサーティーワンのを買って来てくれ」
 不知火は、まだぼんやりと土井垣を見ている。守から仕掛けてきたことだが…土井垣は思った。俺も乗ってしまった。こいつが病気でなかったら、たぶんあのまま…。そう思うと、自分も発熱しそうな気がして来た。
「まったくあんな…ディープなキスをしやがって」やっとそれだけ言うと、恥ずかしそうにそっぽを向く。

 不知火が何事がつぶやいたが、喉が痛むらしく、土井垣には聞き取れなかった。




お終い♪





 不知火くんの預かり知らぬことです。(笑)




 

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