メジャーリーグ中継をやっているわけでもないのに、この男が深夜ぼんやりとTVを見ているのは珍しいことだった。
シーズン途中、遠征先のホテル。
今日は移動日だったから、対ダイエー戦は明後日。そんな“特別”な夜は、当然自宅マンションから忍んでくるやつがいるわけで。
しかしベッドで枕の山に身体を持たせかけTVを見ているのは、見たところ土井垣将ただ一人のように見える。少し暑い日だったがクーラーを使うと体に影響するのがわかっているので、薄手の白い半そでシャツ一枚で、下半身は……シーツに隠れているので何を身につけているのか判明しない。
旅先で心地よく眠りに落ちる術は心得ていたから、ニュースなど見てさっさと眠りに就くつもりだった。しかし今、普段なら時間の無駄だと見向きもしない深夜のバラエティー番組を、彼はぼんやりと眺めている。
TVは先ほどから盛んにあざとい笑い声を上げているが、彼はにこりともしない。目は画面に向けられてはいるものの、その瞳はうつろで。ベッドに横たわっているだけなのにもかかわらず、顔は火照り、息も上がっている。
何故か腰のあたりのシーツが握りこぶし大に盛り上がり、先ほどから上下に動いているのだけれど。
しかし土井垣の両手は力なく、シーツの上に投げ出されていて。
腹の下辺りのシーツが持ち上がったまま動かなくなり、盛り上がった頂上が静かに揺れた。
布地の下で何かがうごめいている。土井垣はぴくりと顎をのけぞらせ、短く息を吐いた。声を上げそうになるのを耐えるように、両手の指先がシーツに食い込む。
『おい、もうぬるぬるだぜ』
シーツの下からくぐもった声が聞こえてきた。眉間にしわを寄せたまま息を止めている土井垣のとは違う誰かの低い声。見ればシーツには、投げ出された脚の形をかたどった盛り上がりの隣に、頭まで潜り込んでいる誰かの形がもう一つ。
薄い眉をひそめたまま、土井垣はこぶし大に盛り上がった布地と声の主を苛立たしげに睨みつけると、リモコンを手にとり何事もないかのようにチャンネルを切り替えた。
『意地を張るのもたいがいにしな』
またシーツの下から、からかうような声がしたが土井垣は無視してチャンネルを替える動作を続けた。こぶし大の布地は相変わらずうごめき、さっきよりも激しく上下に動いたが、土井垣は気を紛らわすコツを身に付けたのか眉根は寄せたままであるものの、不機嫌そうにTV画面を見つめ、目にうつろな帳が落ちそうになると、慌ててチャンネルを切り替える動作を繰り返す。
「ばかやろ、さっさと寝ろ」
画面に向かって土井垣がぼそりとつぶやくと、上下運動がふいに止んだ。
シーツの下で何かが動く。土井垣の下半身にのしかかるように布が持ち上がり、腹の下あたりが頭の形に盛り上がった。
土井垣のリモコンを持っていないほうの手に力が入り、口からは苦しげな吐息が漏れる。
シーツの下から、たっぷり水気を含んだものを頬張っているような音が聞こえた。リズムにあわせ、布地が頭の形になって上下に動く。
音が高まるにつれ、熱に浮かされたような目つきをしながらも忙しなくチャンネルを切り替えていた土井垣の右手から、リモコンが落ちた。変わりにシーツを握り締める。
一度胸に顔がつきそうになるほど首を曲げた後で、今度は顎をのけぞらせた。歯を食いしばると嫌がるように、枕に押し付けた頭を左右に振る。
「ばかやろう!」
吐き出すように言葉が漏れた。
しかしあざ笑うかのように口の中でものを転がす音はどんどん騒がしくなり、土井垣は腹の辺りの盛り上がりを押しのけようと両手を動かしたが、吸い付いたように離れない。
「やめろっ、いい加減にしろ!」
土井垣は頭の形に盛り上がったシーツを叩いた。
「俺は眠いんだ、やめろと言ってるだろ!」
音が少し静かになり、眉をひそめていた土井垣がため息をつく間もなく、今度は毛深い右手がシーツの下から伸びてきて、Tシャツの薄い生地越しに腹の筋肉のつき具合を楽しむかのように這い上がると、胸の辺りを探る。
やがて何かを探り当てたのか爪の先で弄び始めた。高校時代に比べずいぶん色づき、大きくなったような気がして土井垣が気にしているそれを。
「くっ……あぁっ」
何も触れていないほうまで硬く尖り、布地越しに存在を主張しはじめた。
執拗な指先から逃れようと土井垣が身体をずり上げたので、自然に脚が曲がり腰が浮く。
「ぐっ……」
不快な表情が浮かんだものの、それはほんの一瞬。慣れた左の指先は内部を器用にまさぐって。
「明日は……練習があるんだぞっ。そっちは駄目だ!」
目蓋を半開きに荒い息を吐きながら、それでも土井垣は抗っていた。
シーツの下で、唇から何かの外れるような音がした。
『指一本ぐらいなら大丈夫だろ?二本のほうがいいか?』
やめんか!土井垣が怒ったような声をあげ、シーツを引き剥がそうとする前に、頬張る音は一段と高くなった。
シーツの上下運動にあわせて吸い上げるような音がする。土井垣の眉間のしわはさらに深くなったが、怒りが増したためではないようだ。
唇から漏れたのは罵声ではなく、喘ぎ声。押しのけようとしていた両手は、逆に押し付けようと動き、腰をさらに持ち上げようと足がシーツを抉った。
「…………それ……いい」
どんどん高くなっていく声にあわせるように、吸い上げる音とシーツの動きは激しくなっていく。
土井垣はうめき声とともに、シーツの頭のように丸く盛り上がった部分を自分の下腹の辺りに両手でしっかり押さえつけた。枕に後頭部を押し付け、身体を強張らせている。TVでは誰かが笑っていたが、彼の耳には何も聞こえていないようだ。
眉間に寄ったしわは表情を苦しげなものにしていたが、だらしなく緩んだ口元は笑っているようにも見える。裏返った声は普段なら恥ずかしくてたまらないだろうが、今はあられもなく漏れ出ていて。
「もう、……でる……あぁっ」
シーツの下で押さえつけられている頭が逃れようと動いたが、夢中になっている土井垣にはわからない。
三度目の短いうめき声の後で、やっとシーツがまくれ上がり誰かの頭が現れたが、土井垣はまだ声を上げ続けていた。
現れた顔が、枕に持たれたまま横たわる土井垣を見上げた。喉仏がごくりと動く。嚥下したらしい。
「お前、濃いな」
唇の横を垂れる白濁したものを、先の尖った赤い舌がちろりとなめた。
「シーズン中だからって、ちっとは抜けよ」
太い眉毛に、モミアゲに、あちこちに飛び散っている。
「俺に顔シャなんかしやがって」
鼻の頭に白いものをつけたまま、犬飼小次郎は満ち足りた吐息を漏らしている唇に顔を近づけた。
「今度は俺の番だぜ土井垣。……おい?……寝るなって、おい!」
俺はこれからどうすりゃいいんだよ……取り残された小次郎は土井垣の身体を揺さぶったが、すっかり満足した彼は安らかな眠りに墜落中なのであった。
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この後兄さんどうされたんでしょうかねぇ。 ギャ〇ン・ライ〇ル先生タイトルパクッて御免なさい。 |