大きくて、筋張った手。 手のひらは俺と変わらないのに、指の長さが全然違う。 細い指、というよりは骨の太い関節のがっしりした…それでいてしなやかで柔軟な指。 「やっぱり爪切りの付属品のヤスリじゃイマイチですね。でも土井垣さん、爪ヤスリなんか持ってないですよね、女の子じゃあるまいし」
爪切りだの耳掻きだの入ってる物入れをひっくり返すと、爪ヤスリが一本。 「あれ?さては、…女の子の忘れ物ですか?」 笑って、そうだ、と答える。不知火は少し、驚いたようだ(なんで驚くのだろう?)。 忘れ物であることは正しい。残念ながら女の子では、ないが。 『使いたい時に使えないと気持ちが悪くてよ』と言っていた。 今の不知火みたいに。 「指先に違和感があると、なんか不安なんです。…爪の手入れは怠りませんよ。ええ?はい…もう…中学ぐらいから、左手で爪切り使ったことなんかないですね。…はい、ずっと爪ヤスリで…ピッチャー以外はこんなこと、しないんでしょう?」
あいつと同じだ。ただヤツは、右手で使ったことはない、なのだが。 豪胆なあいつに、そんな繊細なところがあるのが不思議だった。 『ピッチャーの常識だぜ』 …渚や里中は、平気で爪切りを使っていたような気がする。 しなやかな長い指先。あいつの指よりも、長い。なるほど多彩な変化球を持つはずだ。
リトルでキャッチャーを任された時は、当初、正直いって不満だった。その頃のキャッチャーのイメージと言えば…ちょうど山田みたいな感じ、だったからな。肩が強いからっておだてられたが、キャッチャーは重労働で、ほんとに嫌になったもんだった。 でも今はキャッチャーでよかったと思っている。俺の指ではお前みたいなフォークは絶対無理だ。 …あいつでも無理だろうな。 あいつの指。左の人指し指と中指なんか、皮が硬くなっていて…右手とは別人の指のようだ。だからすぐわかる。どっちの手で、触られているのか。 不知火の指は。
…………………。
「土井垣さん、なに赤くなってるんですか?」
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