少年の目線の先には、惨劇が広がっていた。
胸に金色の剣を刺し、ドス黒い血を流して、絶命している中年の男。
全身を血で染め、大粒の涙を流しながらガタガタと震えている少女。
少年は手を血で赤く染めた少女に近づいて後ろからそっと抱きしめた。そして、付け加えるようにこう言った。
「後片付けは、俺がやるから」
少年は少女を抱きしめた手をそっと離して、金色の剣が刺さった男に近づく。
そしてそのまま剣の柄に手をかけてぐっと力を入れ、
「貴方は生きてはいけない人間だったんだ」
と言い残し、剣を引き抜いた。
刹那、男の胸の傷から漆黒の粒子が噴出した。粒子はまるで雪の様に空を舞い、
地面に落ちる。その時、不意に二つの粒子がくっつき、
少しばかり大きな粒子に変化するそれに続き、他の落ちた粒子もくっつき、
一回り大きい粒子になっていく。
「これでいいんだ。これで……」
少年は徐々に大きくなっていく粒子を見て呟いた。
そして、数秒後には目の前の粒子は直径2メートルはある巨大な玉になっていた。
玉は宙を飛び、粒子を出すのを止めた男の身体に圧し掛かる。
圧し掛かられた男の身体はまるで潰れたトマトの様にグチャグチャになり、消えた。
ふぅと息を吐いて、未だに震えている少女の方を向く少年。そして、こう言った。
「大丈夫だ……もう、これは人を襲わない」
次の瞬間、金色の剣はまるで意思を持ったように少年の手を離れ、宙に浮いた。
縦横無尽に飛ぶ剣を見て少女は少し笑みを浮かべる。
笑顔といっても微笑んだだけだったが、少年は同じ様に微笑んで、
「やっと笑ってくれたな。やっぱり、お前には笑顔が似合うよ」
と言った。
少女は先ほどよりも明るい笑顔を浮かべ、ゆっくりと立ち上がり、少しずつ歩き出した。その足取りは少しぎこちないものの、やっとの事で少年の目の前まで来た。目の前といっても身長差があるため、
少女の目線は少年の胸に向けられる。そしてそのまま、少年の胸に倒れこんだ。
「ありがとう……お兄ちゃん」
そして、力尽きるように眠りについた。
少年は眠りについた少女の身体を優しく地面に置いて、
その視線を未だに宙を舞い続ける剣に向けた。
そして、両手を大きく横に広げて、こう呟いた。
「来い……光よ」
刹那、剣は切っ先を少年の胸に向け、一直線に飛んできた。
そして金色の剣は少年の左胸に刺さり、貫き、その姿を消した。
少年はまるで激流の様に血が流れる左胸に手を当てた。
手から溢れる血が床に落ちるたびに少年の視界はぼやけていく。
刹那、少年の身体は糸の切れた人形の様に膝から倒れた。
そんな光景を窓から、血の様に赤い真紅の血がその光景を覗いていた。
そして、数年の月日が経った。