どれだけ、言いたくても言えなかったのだろう…。
“いかないで”
言えたなら、こんなことにはならなかった。
少なくても、そう思える。
たった一つの言葉なのに、何故言えなかったのだろうか。
一番、言いたかった言葉なのに…。
〜イカナイデ…〜
「また、随分と離れたなぁ…」
「仕方ないだろ。上からの命だ」
くしゃくしゃと髪を掻きながら言う青年に、冷めた声でロイは言った。
「中央と東方。そう簡単に行き来も出来なくなる…。ロイは、それでいいのか?」
指令書を見ながら言う相手に、苦笑する。
「仕方ないと言っているだろ、マース。上からの命令に私達は逆らえない…」
その通りのことを言われ、さすがのマースも言葉に詰まる。
「まぁ、中央に来たときは寄ってくれ。いいだろ、ロイ」
「ああ…」
そう言い、お互いに歩き出した。
“行かないで”なんて、言ってはいけないと思った。
きっと、彼も思っていただろうから…。
一本の電話。
その電話を取る前、酷く胸騒ぎがした。
「ヒューズ…?」
彼は、電話口で事切れていた。
「ヒューズっ、ヒューズっ…」
どんなに名を呼んでも、彼の声は聞こえない。
「マース…」
その場に崩れ落ちた。
“逝かないで”欲しかった。
何のために自分は…。
「止められなかった…」
彼を。彼の行動を。
こうなる前に、止めれたはずだったのに…。
そして、今度は…。
「ハボック…っ」
地面に横たわる人物の名を呼ぶ。
「どいつもこいつも…」
頭に浮かぶは、マースの姿。
「私より先に逝くな…っ!」
言えた言葉。
でも、それは…。
もしかすると、手遅れだったかもしれない。
運命の行く末は、まだ分からない。
−END−