大切だから、失えないものだ。
ならば、何故、失わなければならない…?
教えてくれ、誰か…。
〜lost wing...〜
カラン、とグラスの中の氷が音をたてた。
「私は、間違っているのか…?」
酒場のカウンター。
前までなら、隣りに彼が居た。
「ヒューズ…」
名前を口にする。
「私は、お前が居なければ、どうしようもないというのに…」
呟くように言った言葉は、店内のBGMにかき消された。
「お前は私を置いて逝ったんだ…」
ホムンクルス。
奴らが彼を殺した。
そのことに辿り着いたとき、だった。
「置いていけ、か…」
そんなこと出来るわけもない。
置いていくと言ったが…。
傷口が痛む。
病室に戻れば、遠くを見ているハボックの姿。
そんな彼に近づき、軽く頬にキスをした。
「大佐っ!」
驚き、此方を見る彼の唇を、自分の唇でふさぐ。
「これ以上、失いたくないんだ。お前だけは、私の傍に居てくれ…」
その台詞に、相手は困ったように微笑んだ。
外は、静かに雨が降り出していた…。
−END−