大長編「ドラえもん」全作レビュー1 「のび太の恐竜」



藤子F不二雄の残した最大の功績はなにか。
ひとつこれといわれるとおいそれとは決められないわけだが、好きなだけ選んでいいと言われたら、日本映画史上屈指の名シリーズとして語られるべき「大長編ドラえもん」は間違いなくセレクションに入ると思う。そのクオリティの高さは大勢の人が指摘している通りだが、中でも、かの真保裕一を感動させアニメーターの世界へと引きずり込んだエピソードには戦慄すら覚える。

僕は大のFフリークなわけですが、インターネットでのF氏の語られ方を見てみると、異色短編か「ドラえもん」の考察がほとんどを占めて、大長編に関する考察はあまり行われていないのではないかと思います。マクリーンやバグリイ、船戸といった冒険小説の読者と大長編の読者が被らないせいもあるのでしょうが、SF冒険物としての骨子について語られたレビューは皆無に近い状態です。
そこで隙間産業的狙いもありますが、ここらでひとつ、この唯一無二のシリーズに対して納得が行くまで考えてみようというのが本レビューの趣旨。なお、F先生が直接執筆したという「のび太のねじ巻き都市冒険記」までを行う予定です。なお、基本的にネタバレで話を進めていきますので、未読の方はご注意ください。



さて、前置きはこれくらいにして第1作の「のび太の恐竜」ですが、この作品では後に作り上げられる、大長編ドラえもんの完成度、面白さはまだ提示されていません。敵役の恐竜ハンターのスケールの小ささ、助かったのが偶然である(キビダンゴを食べさせたティラノサウルスがたまたま恐竜ハンターに捕まっていて助けてくれる)というしょぼさも含め、全体的に出来が悪い。積極的に評価できる作品ではないと思います。
中でも最大の欠点は、矛盾が多すぎる、作品内リアリティが完全に損なわれているという点です。

この作品において、ドラえもんたちは、「タケコプターのバッテリーがあがらないように地球を半周しなければいけない」という命題が与えられます。タイムマシンは壊れ、どこでもドアなどの空間移動系のアイテムは、「白亜紀の地図がインプットされていない」という理由で却下される。この制約をどのように突破していくのか、その過程こそが冒険物の面白さになり、事実「のび太の恐竜」という作品はそこに面白さを求めながら物語が進んでいきます。計画が破綻したあとの展開も手馴れたもので、「ドラえもん」で長編という最初の試みにしてF氏の練達した手さばきを見ることができます。

話は変わりますが、ドラえもんはほとんど万能なロボットなわけです。最高のアイテムは「もしもボックス」といわれますが、「もしもボックス」を使えば、ほとんど願いがかなう。「のび太が世界一の金持ちの世界にいきたい」と言えば、のび太はその瞬間にビル・ゲイツをも凌ぐ大富豪になれるわけです。

大長編ドラえもんのような冒険物を作る場合、そうであってはまずいわけです。ドラえもんの道具を無制限に使えるような状態では、冒険自体が成立しなくなる。話を作るためには、何らかの形でドラえもんの道具使用を制限しなければならない。
そういう意味で、移動手段をタケコプターに限定し、しかも一日4時間だけという縛りを加えたF先生は、「ドラえもん」を冒険物にする際の問題点を把握していたといえるでしょう。しかし、それを徹底することをしなかった。「タケコプターしか使えない」理由は、「タイムマシンが壊れたから」。ところが、タイムマシンはタイムふろしきを使えば直せてしまうわけです。実際、物語の序盤にタイムふろしきが登場し、ピー助が生まれるというシーンがありました。

同様に、終盤に登場するラジコン粘土を使えば、タケコプターなんか使う必要はなかったのではないか。大雑把に見た中でも、このような問題点により、作品内リアリティが崩壊してしまっている。必死になってドラえもんたちが冒険をしている理由は、ドラえもんたちがそれに気づかない阿呆だからという結論が出てしまう。
最初から最後まで出ない道具は「ない」ものとして扱う、という暗黙の了解すら、「のび太の恐竜」は破壊してしまっています。そうした壊れている点をも上回る面白さがあればいいのですが、冒険物としての機知も爽快感も、「のび太の恐竜」では得られないと思います。ドラえもんたちの行動も行き当たりばったりですが、F先生の展開自体もも行き当たりばったりといった印象を受けます。
のちの作品に面白いものが多いせいで余計に駄作に見えるのかもしれませんが、以上のような理由により、僕はこの作品はあまり好きではありません。第1作が「宇宙開拓史」ならば、F先生はやっぱ本物のバケモノだということになったのでしょうが……。いや、本物のバケモノですけどね(笑)

2003年3月7日



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