大長編「ドラえもん」全作レビュー2 「のび太の宇宙開拓史」



「のび太の恐竜」がまだ児戯の面影を残した作品であるとするならば、この「のび太の宇宙開拓史」はそうした側面が完全に払拭された、完成度の高い大人の作品であると言えるかもしれません。

「宇宙開拓史」の素晴らしい点は、畳の下という身近な場所に、コーヤコーヤ星へのワープゾーンを配したという点でしょう。これはドラえもんが最初、机の引き出しから登場した面白さと同じですが、遠い宇宙へのワープゾーンというロマンチックさでそれを超えていると思います。

しかし、「宇宙開拓史」の最も素晴らしい点は、そうしたロマンチシズムではなく、縦横無尽に張り巡らされた伏線にあると僕は思います。とにかく凄い。推理小説もかくやというくらいの伏線の嵐、嵐。

幾つかあるのですが、代表的なものをあげると、まずタイムふろしきの扱いです。序盤、ロップル君の宇宙船を直すために登場するタイムふろしきですが、この小道具が最後の最後に至ってある重要な役割を果たすことになる。序盤、終盤のどっちのイベントが欠けていても、タイムふろしきのエピソードはあまり面白くはなかったでしょう。両方を提出することで両方のエピソードを引き立たせる。うーむ、職人芸。

そしてなりよりも、序盤からいがみ合うのび太とジャイアン(&スネ夫)というのも、終盤への見事な伏線になっています。ジャイアンがのび太を助けに行く動機もしっかり理由付けされている上、ジャイアンがブルトレイン(あのでかい宇宙船)を撃墜する手法も中盤のコーヤコーヤ星での野球シーンにおいて提示されていますし。

F先生の凄いところは、伏線を無機的な「伏線のための伏線」にせずに、物語の演出上重要な役目を果たすための生きた伏線、有機的な伏線にしているところでしょう。ミステリを読み込んでいる僕のような人間でなければ、伏線の存在にすら気づかずに楽しませられてしまう、という可能性もあります。事実、子供の時分の僕はそういった難しいことを何も考えずに、全てを読み解いた今と同じレベルで面白がっていましたし。この辺の呼吸というか、漫画の巧さはF先生ならではのものだと思います。

ラスボスのギラーミンのキャラクターづけ、そしてその強敵を正々堂々とのび太が打ち倒すくだりはまるで黒澤映画のよう。「ドラえもん」映画の中には、最後のボスをタイムパトロールが退治したり、後付けとしか思えない道具を取り出して勝ったりという興ざめの作品もいくつかあるのですが、決闘という真っ向勝負で勝利をした、しかもその結末を無茶苦茶だと感じさせなかった(全編に渡ってのび太の射撃の腕前の伏線が張られていたため)という点において、このクライマックスは出色の出来であると思います。

物語の無機的な部分と有機的な部分がともにしっかりと作られた素晴らしい作品であり、F氏の実力が遺憾なく発揮された傑作であると言えます。先程も言いましたが、畳の下のワープゾーンや、ガルタイトというSF的な発想も素晴らしいですし、結末の刹なさも胸に残ります。大長編ドラえもんの中でも最高峰に位置する作品と言って構わないでしょう。


2003年3月8日



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