大長編「ドラえもん」全作レビュー4 「のび太の海底鬼岩城」
「ナイテルノ? シズカサン。」以上。
というわけにもいかないので、以下蛇足をば。
「大長編ドラえもん」の特徴は、舞台が何らかの形で現実にリンクしている点だと前回で述べました。
その特徴は、第3作「のび太の大魔境」から始まっています。
「大魔境」においてF先生は「ヘビー・スモーカーズ・フォレスト」という架空の舞台を設定し、現実とフィクションのリンクを図ったわけですが、この傾向は「海底鬼岩城」で更にグレードアップしています。
ヘビー・スモーカーズ・フォレストがF先生の創作であったのに対し、「海底鬼岩城」の舞台であるバミューダ・トライアングルの魔の伝説というのは創作ではないからです。バミューダの三角形には、実際に船が消えたり、飛行機が消えたりといった逸話が幾つも残っています。
実際に存在する伝説に新しい解釈を加え、なおかつ物語の舞台にしてしまう。「大魔境」よりも現実とのリンクは一段深まっており、F先生の本領発揮といったところでしょうか。
「鬼岩城」は「大長編」の中でも珍しく、クライマックスがしっかりしている作品です。
とにかくこのシリーズは投げやりな結末、とってつけたような結末が多い。
結末の直前で魔王の不死身の理由がわかったり(「魔界大冒険」)、タイムパトロールが突入して全部解決してしまったり(「のび太の日本誕生」)、もうちょっと最後まで考えてから書けよ! と思わされることはしばしば。そこが最大の弱点であり、また私のような信者にとってはご愛嬌といったところなのですが。
そんな中、この「海底鬼岩城」の結末は完全に成功しています。
序盤から憎たらしく使えないバギーの姿を描くとともに、優しい静香の姿も描く。人間嫌いのバギーは次第に静香に心を開いていき、ドラえもんたちが倒れ絶体絶命になった時、彼を勇敢な行動に駆り立てる。それが感動の結末に繋がるわけです。
とにかく、この結末の充実ぶりは大長編の中でも「宇宙開拓史」、「鉄人兵団」と並んで最高のものだと思います。伏線の張り方は決してスマートとはいえないですし、海底人の描き方も決して斬新なものではない。物語の意外性も特にない。
「鬼岩城」を支えているのは、直球ど真ん中のプロットであり、どこまでもストレートなその物語です。
F先生は基本的に技巧派であり、それゆえこのような作品を書くとあちこちにぎこちなさが見え隠れこそしますが、それでも傑作に仕上がっているのが天才たるゆえんでしょうか。
2003年9月6日
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