大長編「ドラえもん」全作レビュー5 「のび太の魔界大冒険」



子供のころ大好きだったお話。ただ今ではあまり好きではなかったりします。
本稿ではその差異に着目しながら話を進めていこうかと思います。


子供のころ大好きだった理由は簡単で、このドラゴンクエストのような世界観に胸がときめいたからであると思う。
科学が廃れ、魔法が発達した世界。迫り来る「魔王の星」。破滅の時から地球を助けるため、ドラえもんたちは魔王の星へ乗り込む……というプロットはそのままRPGに出来そうです。
当時ゲームのことを考えるとそれだけでワクワクするほど大好きで、RPGなんて名前を見るだけで嬉しくなってしまった馬鹿餓鬼にとってこの設定で胸が躍らないはずはありません。私も一読、「魔界大冒険」の虜になりました。

また、「魔界大冒険」の特徴(というほどのものでもないけど)として、魔法にランクわけがなされている、というものがあります。
どの魔法は何年生で覚えるかといったランクわけ、悪魔が被ってる帽子の星の色で使える魔法の質が決まるというランクわけ。この辺の細かい事柄にRPGの「レベル」の要素を垣間見、ますますわくわくしたものでした。


ではなぜ現在になってあまり好きではなくなってしまったのか。
それは、一重にクライマックスにあります。
魔王を倒すには「銀の矢を魔王の心臓に打ち込まなければならない」のだが、その心臓は実は宇宙のかなたに浮かんでいる……という事実が最後に明らかになります。
ですが、このことが明らかになるのは本当に最後の最後で、それまで伏線らしい伏線も存在しない。読者としては唐突に答えが目の前に出てきた印象を受け、恐ろしく後付けに感じる。これが気に食わない。
「大長編」の弱点は度々出てくる「後付け結末」ですが、この作品は「宇宙小戦争」などと並び、その最たるものであると思います。

私の推測としては、恐らくクライマックスまで手が回らなかったのでしょう。

例えば、序盤、「ゴミ捨て場になぜかのび太とドラえもんの石像が捨てられていた」というエピソードが出てくる。そして、満月の晩、石像が勝手に動き、部屋の中に入ってくる……。
このシーンは今読んでも非常に怖い。しかも、このシーンに実に合理的な説明が加えられる辺りはお見事。通常短編の「ドラえもんだらけ」のような、時空間を行き交う与太話の面白さがあります。

要は、この腰砕けのクライマックス以外はほとんど完璧なお話なのです。
非常に考え抜かれているし、この考え抜かれた部分こそ、F先生が書きたかった部分なのでしょう。残念ながら、彼はクライマックス以外の部分に熱を注いだ。ゆえに、いつも最後まで読み進めると脱力してしまう。そういう意味ではもったいない作品であったと思います。一本、たった一本、「宇宙のかなたに心臓が浮かんでいる」という伏線が張ってあれば……。


結末は非常に綺麗ですし、出来杉君の講釈が魔法の世界と現実の世界のリンクを生んでいる。
真ん中に大きな穴が空いている綺麗な壷、といったらいいでしょうか。返す返すももったいない作品。


2003年9月10日



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