「死者からの伝言」
(VS 中森明菜)
タイトルにもあるように、バリバリのダイイング・メッセージものの作品。
ダイイング・メッセージ――死者からの伝言――という題材はミステリの世界では使い古された題材なのですが、この作品はその新機軸というか、新たなバリエーションの発見に成功していると思います。
詳しくは本編を見ていただくとして、私が一番嬉しく思ったのは、「なぜ被害者はボールペンを握っていたのに、メッセージを書き記さなかったのか?」という魅力的な謎の提出。これはエラリー・クイーンですよ。
「凶器はたくさんあったのに、なぜ犯人は凶器にマンドリンを使ったのか?」(「Yの悲劇」)
というあの世界。クイーンといえば「Xの悲劇」をはじめ、生涯にわたってダイイング・メッセージを取り上げていた作家ですし、三谷の頭にはクイーンへのオマージュという意識があったことは間違いないと思います。
肝心のトリックは大ネタというわけではなく、「言われてみるとそうだなあ」といったレベルのものですが充分に考え抜かれていて面白い。人間心理に長けてる作家でないとこれは思いつかないでしょう。その辺が三谷らしくて嬉しいです。
ただ、最大の難点があって、中途のサスペンスが非常に中だるみしている点。
「古畑任三郎」にはほとんど古畑と犯人しか登場しない作品というのがいくつかあるのですが、得てしてそういう作品は冗漫になっている。要らないシーンがないという点は素晴らしいと思うのですが、伏線が不自然に張られているシーンが多くて前後のつながりが悪く、結果的に散漫な印象を与えるんだと思います。この回で言えば、中森明菜がいきなり「なにか料理でもを作りますよ」とか言い始めるシーンが不自然の極み。もう一回り伏線を張るか(例えば古畑が凄く空腹であるという設定でもいい)、あるいは謎をひとつ減らすかしてスマートにすればもうちょっとまとまりがついたかと思います。
ちょっと隙間の空いたジグソーパズルのような作品でしょうか。
とはいえ、個々のピースは素晴らしく、トリックも面白いですし、犯人の造形も心打たれるものがありました。終盤の古畑の台詞にはグッと来た。いいこというなあ……。
2003年7月11日
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