「殺しのファックス」(VS 笑福亭鶴瓶)
第1巻のド頭に入ってる「VS 笑福亭鶴瓶」ですが、なんといっても出だしが巧い。鶴瓶が誘拐されたと見せかけて妻を殺すお話ですが、いきなり殺人シーン。そんで次のカットは、犯人からの要求を待つ警察一同のシーン。つまり、犯罪の始まりになった「誘拐の通報」のシーンがないのだ。
また、鶴瓶の動機になっている浮気相手が5分くらいしか登場しないのもいい。あとはほとんどが鶴瓶と古畑の丁々発止のやり取り。この辺のスマートさは、三谷が常々「尊敬している」と公言している、ワイルダーのスタイリッシュさにつながっていると思う。
決め手になるのは、名作「VS 明石屋さんま」の時と同じく、言葉によるちょっとした矛盾なのだが、あちらの複線が非常にさりげない形で張ってあったのに対し、こちらのトリックはいささか露骨。というのも、自動ファクスで脅迫状が送られてきて、そのとき犯人(鶴瓶)は警察の監視下にあるというトリックなんだけれど、そのファクスの内容が非常に稚拙なのだ。「お前、こんな内容送るなよ!」と言わされるものばかりで、ミステリとしてのできはさほどよくない。結末も読めた(だって最後の方で最重要な複線が出てくるんだもん。今泉がバームクーヘンを出すシーンはもっと頭の方に挟んでおかないと)。
出色なのは、なんといっても鶴瓶でしょう。
私前からこの男に対して嫌悪感を持っていたんだけど、その理由がわかった。この人、常に目が座ってるんだよね。コロッケと同じで、内心何を考えてるかわからない、犯罪者っぽい怖さがある。だから本能的に私は嫌悪感を覚えるし、そのおかげで古畑が鶴瓶をやりこめる際にカタルシスが発生する。名犯人役といえるだろう。でも、鶴瓶陥落のシーンはもっとシリアスにとってほしかった。スラップスティック調の音楽が流れていてちょっと興ざめ。
2003年7月10日
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