最もダークなハッピーエンド――「ダンサー・イン・ザ・ダーク」




全てを判った上で、
「この映画大ッ嫌い!」
とかならまだいいんですけど、この映画を見て「気分悪い」とか、「主人公が可哀想」とか、「主人公がエゴイスト」とかいってる人とは、正直言ってお友達になれそうにないですね。映画のことが全く判っていない上に、そもそも私とは正反対のタイプの人間でしょう。というわけで、賛否両論、大激論を巻き起こした「ダンサー・イン・ザ・ダーク」。



この物語は、母親の子供に対する愛の物語です。
と同時に、セルマの贖罪と救済の物語でもあります。

目に障害を持ったセルマ。
彼女は、「赤ん坊をこの手に抱きたかった」という理由で、障害が遺伝するとわかっているにも関わらず子供を生みます。そして、その予想通り、息子は生まれながらにして目に障害を負うことになります。このままでは、失明してしまう。
セルマはその罪の贖罪のために、働いてお金をため、息子に手術を受けさせようとします。そしてそのお金を、隣人の男(名前忘れた)に盗まれなければ、幸せな家庭を築けたはずでした。この映画は、そのたった一つの犯罪で一気に様相が変わっていきます。幸せな家庭を築くはずのセルマは、逮捕され、死刑囚に。

そして、セルマは死刑を前に、ひとつの選択を迫られる。

生か。それとも、息子の視力か。

選択を迫られ、セルマはためらわず、息子の視力を選びます。自ら生んだ子のために。そして、自分の罪の贖罪のために。この姿は、エゴイストとは正反対であると思うのは私だけではないはずです。



結末。
視力を失い、闇しか見えなくなったセルマを、死の恐怖が襲います。
恐怖が発狂へと変わる瞬間……セルマにひとつの物が渡されます。それは、愛する息子の分厚い眼鏡でした。手術は成功したのです。

そのことを知ったセルマからは、一気に死の恐怖は取り除かれます。彼女は贖罪を果たし、救済されたのです。実際、この瞬間の彼女はメチャメチャ幸せだったはずです。それまで彼女を縛っていた罪が解け、息子の未来が開けたことに対し、人生最高の瞬間を味わっていたはずです。だから、「最後の歌」を息子に託し、「最後から2番目の歌」を歌ったのでしょう。

要するに、この物語はセルマの贖罪と救済の物語なわけです。表面に映っている事象だけを見て、「悲劇だ」、「残酷だ」、「救いがない」といっている人間は、テーマと全く正反対のものを心に描いてしまっているわけです。映画のことを全くわかっていないと最初に述べたのは、そういう理由です。そういう意味では、リトマス試験紙のような映画と言ってもいいかもしれません。

独特のカメラワークも非常に完成度が高く、格調高いストーリーを鮮やかに演出しています。もうこんな映画は、二度と出てこないでしょう。トリアー監督も、これを超える映画はいつか撮るかもしれませんが、このような映画は多分取れないはずです。そう思わせる過剰なまでの攻撃性を、この映画からは感じることができます。
なんにせよ、全員必見の映画です。というか、見てもいないのにここまで読んでしまった貴方……本当にもったいないことをしたと思います。



■追記1
主人公エゴイスト派の言い分として、投獄されたセルマに、男(名前忘れた)がこんなことを言うシーンを上げる人がいます。

男「なぜ失明するとわかっていたような子供を生んだんだ」
セルマ「赤ん坊をこの手に抱いてみたかったから」

なるほど、確かにここだけ切り取ると凄いエゴイストのようですが、もちろん違います。セルマは息子の視力を治すためだけに働いていたのですし、そもそも男がこんなことを聞いたのは、
「子供を生まなければ、君は死ななくてすんだのに!!」
という意図があったからです。ここでも、言葉の裏を読めるか読めないかで、解釈が全く正反対になってしまう。非常にデリケートな作品なんだなあ、と改めて思います。


■追記2
カメラワークについてですが、私はビデオで見たのですが、全然気になりませんでした。ただ、劇場の大スクリーンで見た人はかなりウザったかったと思います。あと、安易な感動モノと勘違いして、恋人と見にいっちゃった人もご愁傷様です。その後の食事は非常に重苦しいものになったでしょう。

そういう意味では、家で一人、色々考えながらしんみり見るタイプの映画ですね。上記のような方は、もう一度レンタルしてみてみてはどうでしょうか。


■追記3
ミュージカルの部分についてですが、あれはセルマの現実逃避です。
彼女にとってのリアルというものは、どんどん視力が失われていく。しかし、息子を助けるために、嫌でも働かなくてはいけない……そうした、辛いものだったはずです。夢と希望のミュージカルが大好きだったのもそういう理由でしょうし、ミュージカルのシーンの中で、いがみ合ってた人間も一緒に笑顔で踊りだす光景が何度も繰り返されるのも、そういった理由によるものでしょう。
現実を嫌い、時に夢想の世界に逃げつつも、最後に見事に贖罪を果たしたセルマ。私は彼女を尊敬します。




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