アンドリュー・スタントン 『ファインディング・ニモ』
☆☆☆☆☆


 これは面白かった。以下大絶賛レビューになりますので、未見の人は私の煽りにつられて見に行きましょう。


 どこから語るべきか迷うわけですが、全体論から行くと徹底的に物語の文法が抑えられています。どういうことかは各論で書きますが、一点たりとも外している点がない。「人間にさらわれた息子を尋ねて三千里」なんて、何も真新しいところのない使い古されたシチュエーションであるにも関わらず、徹底的に丁寧に作られているため最後まで食い入ってみることが出来る。久々にこういう正統派の作品を見た思いです。


 まずキャラクター設定が非常にしっかりしています。例えばマーリン。ダイバーに捕まり、広い世界のどこに行ったかもわからぬ息子を探すという途方もない旅を強いられるわけですが、その理由付けがお見事。母親と子供たち(卵)を守れなかったというトラウマだけでも充分なのですが、そのトラウマのせいで一人息子のニモを過保護にしてしまい、結果的に反感を買ってニモを危険に晒してしまった……という二重の動機が与えられていて、何度も死の危険に晒されながらも旅を続ける姿に説得力を与えています。

 ニモに対しても、「水槽から逃げ出さないと殺される」という切実な問題プラス、「父親を心配に晒してしまった」という自責の念が設定されており、逃亡することに関するモチベーションが一層高まっている。これらは他のキャラクターに関しても同様で、メインキャラクターのほとんどが何らかのトラウマを抱えており、それが物語に深みを与えている。チョイ役に関してはキャラクターの物語よりも、そのキャラクター性をピックアップすることで、味のある脇役にしている(例えば「エサ?」や「アワワワ……」など)。

 この両者の線引きが明確な上、双方ともに上記の方法を徹底しているので、大小様々な歯車が隙間なく噛み合っている印象を受けました。この辺メチャメチャ巧いです。


 次に、ストーリーが本当にお見事。基本的には「マーリンのロードムービー」と、「ニモのデッドリミットサスペンス」のパラレル構造で、両者のセンテンスが交互に映されることで物語が進行していくわけですが、一番感心したのは各センテンスにおける「ルールの設定」が徹底されていることでした。

 どういうことかというと、各センテンスに設定されている「クリア条件」と「死亡条件」、「各キャラクタのパラメータ」と言った要素が非常に明確に設定されているんですよね。その結果、「カードの切り合い」がしっかりと行われ、ゲームが動いている。

 例えばマーリンが鮫に追いかけられるところでは、パワーやスピードでは鮫が勝り、マーリンは「体が小さい」という利点を生かす形で逃げに回ることになります。これが互いの特性を生かした「カードの切り合い」ね。クラゲのシーンでは「触手に触れたら駄目」というルールが、濾過装置のシーンでは「濾過装置の歯に触れずに小石を挟む」というルールが設定されています。

 このように明確に「クリア条件」、「死亡条件」が提示されているので、その中でキャラクターを動かすだけでサスペンスが生まれるわけです。殺傷能力の持たない小魚でサスペンスを作るには、「何か大きなものから逃げる」という手法を取るのが一番楽なのですが、そういった安易に流れず、面白いサスペンスを提供することに成功したのは素晴らしいと思いました。


 CGアニメーションならではの海・魚の描写、映画自体のテンポのよさ、随所に散りばめられたユーモア(これは各キャラクターが立ちまくっていることが大きな要因)などなど、褒めるところは山のようにありますが、これくらいにしておきましょうかね。個人的にはここ1、2年で見た映画の中でもベストの出来。出てくるキャラクターが全員愛らしく、誰も死なないぬるい世界観ながらも、ここまで迫力のあるサスペンスを作り、ここまで深みのあるドラマを仕上げてしまったというのは、残虐描写を持って深刻さや深遠なメッセージを提供したと勘違いしている創作家に対する強烈なパンチになるのではないかと。皆が異端を志向するがゆえ、「正統」が誰もいなくなってしまった今の邦画界にとって、最も必要なのがこういった強烈な「正統作品」だと思った。お子さんから老人まで、一人鑑賞からデートまで、あらゆる年代、あらゆるシチュエーションに適合する一般性を持った映画です。お勧め。


2004年1月20日



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