佐藤多佳子 「しゃべれどもしゃべれども」
☆☆☆☆☆



これは猛烈にレコメンドしたい。本当に、本当に面白い傑作である。

どもり症に悩むテニスコーチ、思っていることとは反対の行動をとってしまう女性、東京に越してきて関西弁をいじめの種にされている小学生、現役のころは孤高の強打者として恐れられたものの引退してからは鳴かず飛ばずの野球解説者、といった一癖も二癖もある人物たちが、自分の「喋り」を直したいという希望を持って若い落語家の下に落語を習いに来る、というもの。

この小説の最大の長所は、全ての人物が唸るほどに緻密に書き込まれていることにある。
私が考える「人物描写が巧い」の最上級は、「作中の人物とリアルで会いたい」だと思うのだが、この作品はその領域に達している。作者は児童文学出身と聞くが、森絵都もしかり、この畑にいる作家は人物描写が異常に巧い。

「しゃべれどもしゃべれども」の登場人物は、皆「喋ること」に何らかの苦を抱えて生きているわけですが、これは私たちも一緒である。例えば、「他人に心の底を探られるのが怖いゆえ、思っていることと逆のことをつい言ってしまう」十河という女性。これは私だ。そう考えながら読んでいると、どの人物も私に見えてくる。

コミュニケーションに関する悩みは誰しもが持ち、多かれ少なかれ苦しんでいる。それは喋ることを職業にしている落語家も同じだ。そういった悩みを丁寧に切り取り、魅力的な人物に被せて物語は進んでいく。
落語を習うことで何かの解決になるのか? 一同は自問しながらも落語教室に通うわけだが、最後に至っても何の解決もしない。どもりが治るわけでも、悪癖が消えるわけでもない。

でも、そんな自分でもいいじゃないか、と最後には頷きたくなるような、そんな小説。
それは決して後ろ向きな妥協ではなく、前向きな自己肯定である。落ち込んだらこの小説を読んで、「彼ら」の元気を分けてもらうことにしよう。宝物が、またひとつ増えた。


2003年10月8日


■追記
つまらない作品の欠点を挙げていくのは簡単だけど、面白い作品をほめるのは難しいですね。ていうか向いてないや俺。情けない男でごめんよ(桑田圭祐)。



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