伊坂幸太郎 「オーデュポンの祈り」
☆☆☆☆★


なんだこの小説は。
今まで数え切れないくらいの小説を読んできたけど、こんな手触りの小説を読んだのは初めてだった(強いて言うなら奥泉光の『葦と百合』辺りか?)。


主人公が外界から完全に隔てられた島に行き、そこで喋る案山子と出会う。
案山子は島の中で起きたことを全て把握しており、皆から敬愛されている。しかし、ある日案山子の「死体」が見つかって……というお話。


プロットを説明するだけでもなんとも珍妙。
チンパンジーの殺害事件を書いたエリザベス・フェラーズの『猿来たりなば』を思い出す人もいるかと思いますが、読んでみると全く違う。

『猿』は、「なぜチンパンジーが殺されたのか?」を徹頭徹尾ロジカルに追求することで斬新な効果をあげた作品です。
『オーデュポン』にも同様のシークエンスは存在するものの、『猿』のように最初から最後まで謎解き一点のみで進行するわけではありません。「桜」なる殺し屋が登場する。島の外では主人公の元彼女があわや……というシーンも存在する。

純文学っぽい箇所、ミステリの箇所、冒険小説の箇所、ハードボイルド、これらが渾然一体となって存在していて、まさにジャンルミックス小説と呼ぶに相応しい。SFとミステリをくっつけただけでジャンルミックスの冠が被せられる中、ジューサーにしっかりとかけられていて元の味がわからない『オーデュポン』は本物のミックスジュースと言えるでしょう。


また、『オーデュポン』は物語の輪を執拗に閉じようと試みている小説でもあります。

全ての要素が計算しつくされて配置されており、ドミノ倒しのように物語が進んでいく。要するに伏線が縦横無尽に張り巡らされている、ってことなんだけれど、物語の流れの中で自然に張られているので、某刑事ドラマのような「サプライズのために無理やり張られた伏線」はひとつも存在しない。
伏線の消化もしっかり物語に組み込まれており、この受け渡しは熟練したジャズバンドによるセッションを聞いているかのよう。終わったあとには綺麗なパズルのように全てのピースがあるべき場所に収まっており、余白やコマの余りはひとつもない。

このように全ての要素を物語の中に収めることで、伊坂は「萩島」というファンタジーを完璧に構築しています。
小説は映像化の部分を読者の想像力に委ねるため、ファンタジーをやるには映画や漫画に比べて不利だと思っていたのですが、伊坂は「別世界」のディティルではなく骨組みを見せることで「萩島」を構築してしまった。
私はファンタジーはあまり読まないのでこの手のやり口が常套手段なのかの判断はつかないのですが、この見事なやり方によって『オーデュポン』は真の傑作になったのだと思います。俺も行きてーもん、萩島。


とにかく全編に渡り刺激的な小説でした。しかしこれが処女作とは、とんでもない作家が出てきたもんだよ。今後、数限りないフォロワーが登場し、散っていく姿すら浮かんだからね(笑)。総員必読の作品。


2003年12月18日



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